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元社畜神様はコミュ症すぎて異世界でも逃げ出したい  作者: 片白
5章 エルの故郷編

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5-15 空想上の世界9



魔王アルテル

──────────


 とうとう私の城まで来てしまいましたね。

 諦めたくはないけど、時間もありません……


 魔王の権限を奪おうとした時からカイル様と話す事もなくなってしまいました。

 もう少しお話がしたかった……カイル様に近づく脚が震えるのがわかる。

(伝えるべきですよ)


 あー、うるさいです。

 タイミングがあるんですよ……

(もう、そんな時間もないですよ)


 確かに下が騒がしくなって来た。

 最後でも勇気が入りますね……思いっきり深呼吸してみた。


「すぅーーー……はぁーーーー」


 また、余計な事をされる訳にはいかないので、触れずにカイル様の耳の側まで口を近づけて一言伝えた。


「……大好きでした」


「こ、こいつこの土壇場で告白しやがった!」


 ……さすがにこれは頭が来ますね。

(ええ、私も今のは怒りが込み上がってきました)


 足に力を入れて受信機イスカを蹴った。


バコッ


「痛っ! 何すんだよ!」


「自分で考えなさい」


 人質を蹴れた事にびっくりしたが、頭に来てるのでもう一度蹴る。


バコッ!


「お、覚えとけよ、お前はもう終わりだ! もうカイルの言葉も教えてあげない」


 くっ……子供みたいな事を。

 ある意味返事が聞けなくて良かったのかも知れない……もし聞いてしまうと覚悟が揺らぐ恐れもあります。

 (ふふ、そうだったら確かに死にたくなくなりますものね)


 相変わらずツアドは心の一つ奥を読んでくれて……(こうやって話すのも最後ですね。来ますよ——)


バンッ


 開かれた扉の向こうから久しぶりの妹と仲間たちが現れた。


 さぁ、最後の戦いを始めましょう。

 覚悟を決めて『勇者』に向き合った。


「勇者アメリアよ、ようこそ我が城へ」


 久しぶりの妹にどこか違和感を感じた……がすぐにその違和感に気づく事となる。


「魔王、この世界に破滅をもたらす元凶よ。私が来たからにはそれもここまでだ」


 ……なるほど、もう自我も勇者に染まってしまったのですね。

 (分かるのですか?)

 (あたりまえでしょ、これでもあの子の姉なの)


 後ろの仲間たちは……大丈夫そうね。

 なら私は最後まで魔王になりましょう。

 気持ちを少し緩めて、内なる魔王に口をまかせる。


「勇者よ。ここまで辿り着いたお前の勇気に免じて褒美を与える。我の配下になれば、世界の半分をお前にやるぞ?」


 我ながら凄いセリフね。

(確かに……)


『いいえ』


 即答ね……はいを選んだらどうなっていたの?

(選び直しでは?)


「そうか、残念だ……後悔する事になるぞ!」


 一歩前に出て、勇者を迎えた。


「来い! 魔王ーーーー!!」

 

——暗転して音楽が変わる。

(これは何? そのまま戦いが始まるのではないの?)

(そ、そのようですね、これは私も予想外です)


 これは、上手く行くのでしょうか……カイル様?


【魔王アルテルが現れた】


……何か文字が出て来て、私は動けないんですが。


ピロリロ


【アメリアの攻撃】


バコバコッ


【魔王アルテルに367のダメージを与えた】


 あの……無条件で喰らうの?


【アンの攻撃】


 悲痛な表情……アン、辛い思いをさせてごめんなさい。

(やはり、抗えないみたいですね)

ザシュ


【魔王アルテルに76のダメージを与えた】


 え……勇者の攻撃強すぎでは?

 覚悟は決めたけど、まさかこうなるとは誰が予想したのか、私は勇者たちの攻撃が一通り終わるまで待つしかなかった。



 

 さて、私の番だけど、初めてすぎて何をすればいいのかわからない……とりあえずアメリアを殴ったら戻るかも知れないと淡い期待を持って攻撃。


【魔王アルテルの攻撃、アルテルに74のダメージを与えた】


 どうなの? 強いの?

(わ、わかりません。数値化されているので勇者の攻撃力よりは弱いかと……)


 あれ? もう一度私の攻撃だ。うーん、色々ある魔法なのか、技なのかのリストと睨めっこする……『熱い息』とかやってみようか。


【魔王アルテルは熱い息を吐いた。全体に60のダメージを与えた】


 ちょ……物理攻撃より全然強い。

 こればっかり使えば勝てるかも?

(どうなんでしょう……貴方の旦那様を見るにそんな簡単な事にはならないと思いますが)


 ツアドの言葉は正しかった。次の勇者側のターンではエルトゥア様が全体回復を使い、ケセド様が謎のバリアーを張りアメリアとアンはいつも通り攻撃をする……私の前の攻撃が無駄になった。


 ずるくない? 少し理不尽を感じ、私の負けず嫌いが目を覚ます。

 

 最後は負けるのかもしれないが簡単には負けたくはない。

 時間を稼げばもしかしたらがあるかも知れない。私はまだ諦めない。


【熱い息を吐いた。全体に20のダメージを与えた】


 おのれ勇者め! さっきのケセド様のバリアーか……私はリストを出して効果のわからない一覧を舐め回す。わからない……もういい、最後の欄のこの長ったらしい名前のやつを使おう。


【魔王アルテルは暗黒獄炎龍帝を放った。全体に200のダメージを与えた】


 なんて読むのか全く分からなかったけど、凄いんじゃない? 

 私が勝手に話し始めた。


「さすが勇者だ、この技でも倒れぬとはな。我の真の姿を見せてやろう」


 え、私の姿変わっちゃうの? せめてこの姿で死なせてよ……

(違う意味で悲しいですね……)


【魔王アルテルの姿が変わっていく】


 ……私変わった?

(いいえ。これは、私のせいかも知れませんね)


 それじゃ、姿はこのままなのね。ありがとうツアド。

(こちらこそ、最後にお役に立てて良かった)


「グハハハ、この姿を見たものはお前たちが最初で最後だ!」


 なぜか、姿が変わってないのが申し訳なく思うくらいに音楽が更にカッコよくなったわね。


 勇者たちは、いつものように回復と攻撃をバランスよくこなしていく。

 何をしても回復され、徐々に私の体力は無くなっていった。

 

 本当に終わりが近づいて来たみたいね。

 途中で何もしなければと思ったが、出来ないのは最初からわかっていた……何故か戦闘をちゃんとこなさないと駄目だと訴えかけられているように、行動を起こしてしまう。


 カイル様も駄目だったようだ。

 想いを伝えられて悔いはない……でも、まだ私には最後を選ばなければならない。


【魔王アルテルは身を守った】


【アメリアの攻撃。224のダメージを与えた】


 ふふ、耐えられました。これで私たちの勝ちです。


 声すら出せない……


【ケセドは魔王アルテルに飛びかかり『ジ・ザス』を唱えた。675のダメージを与えた】


 最後に損な役回りをさせてごめんなさい……ケセド様。消え行く意識の中最後に見えた勇者の喜ぶ顔がただただ悲しかった。


【魔王アルテルを倒した】


——暗転して行く。



【カイル】

──────────


 上手く事は運んだのにこんなに後味の悪いことはない……


「おのれ……勇者め……私の、世界ガアァァァァァァ」


 そう叫びながら、魔王アルテルは消滅していった。


【魔王の消滅により世界に平和が訪れました。おめでとうございます】


 世界から嬉しくもない賛辞の言葉が告げられ、盛大な音楽と共に崩壊がゆっくり始まった。


「やった! ははは……ざまあみろ、ぼくは魔道具と共に消えるけど満足だ」


 イスカは僕の目の前まで来て喜んでいたので頭を鷲掴みにした。


「な、お前……動けるようになったのか」


 魔王が消滅した為に僕も呪縛から解放された。こいつは、許せないよね……とりあえずお前はこのまま魔道具と一緒に消滅なんてさせないよ。


(ちょっとサタン。こいつ押さえといて)

(あ? ふざけるな——)


 知らない、無視だ。最初から物体ではないのは分かっていたので、制限から解放された今、所詮はデータに過ぎないイスカの形を変えることは容易だった。


 サタンと同じ様に小さく丸めて左目に押し込んだ。

 (仲良くなんてしなくて良いからね)


 さて、もうこの世界は終わりだ……最悪の状態は回避できたけど、アルテルは無理だった。

 みんなの方に向かうと、こっちはこっちでケセドが瀕死だった。


 僕はアルテルを失った悲しみからなのかわからないが、コミュ症の症状が出ていない事に気づかずに自然と話をしはじめる。


「ケセド。無理を頼んでごめんね……そして、ありがとう」


 そう言って、ケセドの傷を癒す。

 ケセドが最後に使った『ジ・ザス』は自爆魔法だ、アメリアとアルテルを助けるうえでデータを漁り模索している中で見つけた僧侶の覚える唯一高いダメージを与えられる魔法。


 色々計算してみたけど、この魔法がアメリアのダメージソースを上回り更に防御を無視してダメージを与えられる唯一の手段だった。アメリアがもしアルテルだと分かっていれば止めを刺す人を選ぶ為に話し合う事もできたかも知れない、が、そう上手くは行かなかった。


 しかも、最後はアルテルの事を忘れ自我までなくなっていたので選択の余地は無くなった。


 アメリアに姉を殺させない……これだけは本当に良かったがそれを他人に押し付けてしまった。


 もちろん、今はこのクソみたいな魔道具から解放され意識を失っているアメリアが起きたら罪は全部僕が被ろうと思う。

 いくらでも恨んでくれていい……結局は僕の力不足だ。


「みんな、やっとこの世界ともお別れだよ」


 周りが崩れだしていく。いつも、はしゃいでいるヒアでさえ、静かに僕の頭の上に来て動かなくなっている。


 本当に最悪な魔道具だった……アルテルの存在も消し去るとかどうしようもないじゃないか!


ダンッ

 崩れゆく壁を叩き割る。


 はぁ……感情ってこういう時に出すものなのに、どうしても押さえてしまう。

 思いっきり、泣ければいいのにね。


バリバリ……バリバリ、パリンッ

 魔道具が役目を終えたかの様に世界に壊れたような音が鳴り響いた。


——森の匂いや柔らかな風を感じる。

 

 一瞬のうちに世界は懐かしい景色を取り戻し僕たちはあの時の村に居た。

 ほんの短い時間呆けていると、アンが一番最初に彼女を見つけた。


「アルテル様!」


 アルテルが地面に横たわっていた。

 身体が存在してくれた事に安堵する。


 アルテルに駆け寄り起こそうと必死になるアンを見ながら思う。


 そっか、命がなくなると先に現実に戻れるんだね……もしかしたらと思い僕はすぐに生きているか確認したけど『死亡』と出ていた。


 命は失ったら戻らないのが世界の理だ、それをやれるのは『最上神様』だけ。

 僕がそこを破る訳にはいかない……ただ一つ閃いた。

 僕の命をあげるのはどうなんだろう。


 こんな僕の命を貰って生き返っても嬉しくないかも知れないがそれに明確なルールは存在しない……はず。


 すぐに、アルテルの遺体の近くに行き泣いているアンの肩に手を置いた。


「アルテルが生きている方が嬉しい?」


 僕の言葉にアンが殺気をもって僕を見ながら言った。


「当たり前じゃないですか!」


 そうだよね。ごめん……そっか、ならやってみる価値はあるね。


「任せて、アルテルは戻って来れるさ」


 僕の言葉に今度は怒りは消え目を丸くするアン。

 僕はアルテルの胸に手を置き、集中する——


 さて、命を流し込むのは相当難しいぞ……

 覚悟を決めたその時、誰かの声が聞こえて来た。


(それもいいかも知れませんが、もう少し待ってもらっても良いでしょうか、アルテルの旦那様)


(……誰よ)


(自己紹介が遅れました。アルテルのお友達のツアドと申します)


 こんな時でも、冷静に分析してしまうのはなんだかなぁとは思うけど。

 これで一つ謎は解けた、アルテルはこのお友達のツアドと会話していたのか。


(そのお友達がなんで止めるのさ、アルテルが生き返るかも知れないのに)


(ふふ、聞いていた貴方はもっと冷静だと思ったのですが、ここまで周りが見えなくなるとはアルテルもきっと喜びますよ)


 全く要領を得ない……周りが見えた事はあんまりないが、この手のことは得意な僕を捕まえてなんだってんだ。


(今はそんな事に付き合うつもりはないよ? はっきり言ってよ)


(ふふ、こんな時は焦らしたくなりますが、ヒントを一つ、私はアルテルと繋がっております)


(君は優しいのかな……答えだよね。え……でも死んでるよ?)


 我ながら恐ろしい事を言っている自覚はあるんだけど、本当にそうなのだから仕方がない。


(私もそう思ってました。そして、疑問が浮かびアルテルの過去の記憶を除かせていただきました。カイル様、貴方のおかげでアルテル様は助かります)


 もう! わかんないよ……僕のおかげ?


(だから……)

(時間です。魔道具という物は結構時間が掛かる物なんですね。)


——ツアドがそう言うと、アルテルの首に掛かったペンダントが光り輝き持ち主を包み込んだ。


「こ、これは、本当に……アルテル様が生き返るのですか?」


 後ろで見守っていたアンが泣きながら驚く。


「き、奇跡」


「これは、本当に……奇跡ね」


「生き返るの? カイル様さっすがー!」


 エル、ケセド、ヒアがそれぞれ、驚く。

 もちろん内心で僕も驚いていた……まさかのか、忘れていたよ。あの時の小さいオッサンの言葉は本当だったんだ。


 光がアルテルに流れていき全て吸い込まれていった。

 そして、奇跡は起こった——


 アルテルの指先に命が宿り微かに動く、その後……瞼がゆっくり開き目だけが僕を捉え、口が音を出した。


「ん……か、カイル様?」


 本当に生き返った……声を出そうとしたその時、後ろのアンが叫んだ。


「アルテル様!!!」


 そのまま、アンが突進して来て僕を吹っ飛ばす。


ドバンッ


「ゲフッ——」

 あまりの衝撃に地面に転がる。

 嬉しいのは分かるし……分かるよ。


 でも……いや、許すよ。

 転がって最終的に仰向けになっている僕は少しだけ現状を悲しく思ったが横目でアンを見ると。

 

 いつも冷静な彼女の顔は涙でぐちゃぐちゃだった……これは怒れないね。頭の上のヒアももらい泣きで号泣してるし。

 よく、あの衝撃で頭の上に居られるよ。


 エルもよく見ると泣いてる……ケセドは安心してるね。そうだ、本当に良かったよ。


 僕は立ち上がってケセドのところに向かい話しかけた。


「ケセド、君には返せない借りができたよ」


 一瞬、僕の言葉に戸惑いをみせたが、ケセドはすぐに向き直した。


「いえ、元はといえば私がアルテル様を巻き込んでしまったので、貸し借りはなしで……ね」


 大人ですね……アルテルが生き返って安心したのか『大人』と考えた自分の言葉に身体が急に震え出す。


「カイル、どうしたの?」


 ケセドに肩を触らせて僕は意識を失った。

 




ほんのひととき、カイルのコミュ症にも奇跡が起きていました。

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