5-14 空想上の世界8
【魔王】
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この世界に私たちを閉じ込めた元凶を使って全てを曝け出すかのように、私とカイル様の話し合いは続いた……
カイル様は私との会話中も熱心に色々とこの世界の理を理解しようとしているようだけど、話を聞く限りでは、『魔王』も『勇者』も完成された積み木の塔と同じだと仰った。
積み木というのは、作り始めは色々と作り変えることが出来るが一度完成してしまえば一つパーツを外すだけでも粉々になってしまう。
例え外せたとしても、一つではそこに違うのを嵌め込むには足りないと、それだけ、私たちは繊細な存在らしい。
もっと、ブロックとか、なんならプラモデルとかだったらなど、不思議な言葉も出て来たが私にはそこまでは理解できなかった。
他の物で代用は? との私の案も、形式が古いので他を持って来ても容量が合わない……私には難しい言葉だったので、積み木で例えてくれた、それによると同じ形の違う色の積み木が見つからないらしい。
やはり難しい問題で、私にはヒントになる様な言葉も見つからず見守る事しか出来なかった。
あのカイル様が焦っているのを見れて嬉しいのか受信機の笑顔が絶えない。
(頭に来ますね)
(あの子は昔からこういう事が好きなのですよ)
(やっぱり、知っているの?)
(ケセド様と別れる前に使えそうな情報は貰っておきました)
貴方も中々やるのね……でも、今はイスカを楽しませておくのは妙案ね。
自ら受信機になって喜んでいるんですもの。
「『本当にごめん、僕の力不足だよ』って言ってるよ。ぷぷ」
あからさまに煽って来ますね。
私は受信機を無視して玉座に座るカイル様の手を掴む。
「いいのですよ。カイル様、私は今とても幸せです」
死期が近いせいか、心は自由だと感じ始めていた。精神まで『魔王』にならずにすんでよかったと本当に思う、私が耐えればみんなが救われる。
最後まで諦めるつもりもないですが、できるだけ心残りはなくしておきたい。
「な、何をする気だ! カイル——」
イスカが突然大声を張り上げた。
バチッバチバチ
カイル様を握った私の手に電気の様な痺れを感じ、反射的に手を離す。
「な、なにごとです!」
いきなりの出来事で、訳が分からず私は不安をそのまま口にするしかなかった。
「……はは、ざまぁないね! こいつ、魔王を自分に移そうとしやがった」
私はイスカの言葉を受け、カイル様の顔を見て怒鳴った。
「ふ、ふざけないでください! 私はそんな事望んでません! 二度と、しないで……下さい……」
両手を顔で覆い、突っ伏す。
「はぁ……もしかしたら君ならやって退けるかと焦ったよ。だけど無理だったね、この魔道具は君にとって相当に相性が悪いらしい」
イスカの声が聞こえてくるがそのまま言葉は逆の耳から出ていった……
(ふふ……時間もないというのに、なんとも人間らしいわね)
【カイル】
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焦りすぎて、無理矢理『魔王』の権限を奪おうとしたが無理だった……全員が生き残る可能性がほぼないに等しい今の状態で唯一魔王が死なない方法は権限を奪って僕が魔王になる方法だった。
閉じ込められるが、死ぬよりはましと思ったし時間さえあればいつかは抜け出せるとも思っての事だったけど、結果は無理だった。
引き抜こうとした時に崩れそうになって、躊躇って戻してしまった……緊張に負けたのは最上神様以来だよ。
もうアルテルは同じ状況を作ってくれないだろうなぁ、多分説明しても絶対にやらせてくれないだろうし、今回のが最初で最後のチャンスだったね……相談もなしに勝手なことして怒らせてしまったのが紛れもない証拠だった。
このシステムが古すぎるんだよ。
アルテルには積み木の塔と分かりやすいかは、わからないがそう伝えた。けど、実際はもっと分かりやすくいうとミニチュアの塔のパーツの組み替えだ。
細か過ぎるし変えづらい……
これでも、同じ条件で、エル、アン、ケセド、そしてヒアを実験台……はダメか? 踏み台はもっとダメか? とにかく成功させた。
ヒアに至っては不死鳥に昇華させるイベントに組み込めた程だ、我ながら凄い上手くいった。
一応、勇者が今何をしているかはすでに魔道具の殆どを網羅している僕には丸わかりだ。
それなのに……勇者と魔王だけが僕の力ではどうしようもない。
最後の権限を奪うという発想も、ここまでやって来たからこその手段だった。
アメリアたちは今レベル上げに夢中だ、これはこちらとしてもありがたい状況だ。
最悪の状況だけは防げる可能性も出てくる。
今のままじゃ駄目だ僕の発想を変えていかないと……固定概念を消し去れ。
(て、サタン。少しは役に立ってよ)
(お前たちがどうなろうと俺は知らんな)
(はぁ、僕もいい加減怒るよ?)
(……結局それか、どちらにしても無理だな、ここに入る前なら何とかなったかも知れないが)
(どういう事?)
(あ? 入る前ならお前だって分かるだろ)
(そりゃ、発動前に潰せば……あぁ、なるほど、巻き戻せばいいのか)
(おい、それが出来るならもう何でもありだぞ?)
(出来ないよ。可能性の一つさ、逆転の発想。意味はないけど、出来たら覆せる)
なるほどね……巻き戻しか。
セーブとロードで最悪を回避……あまり意味はないが、これも使えれば最悪だけは回避できそうだね。
やっぱり諦めるのは早そうだ。
(サタンも、少しは役立つね)
(……良かったな)
【賢者】
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(アメリア……)
「勇者は魔王を倒す装置でしかない」はカイルの言葉だ。私が仲間になった時はここまでじゃなかった。アン、ケセドとシナリオが進むごとにどんどんアメリアから姉の記憶が消えていった。
そもそも、私たちが元の世界の話をしない限りアメリアはレベル上げの話ししかほぼしない……これについてケセドに聞いたら、本人の問題では? とも言っていたが、きっと違う『勇者』がそうさせているんだ。
私も色々考えたが、もうわからない……当初カイルに言われた通り四人揃ったら魔王の事を伝えてと言われていたが、ケセドは違う情報をカイルからもらっていたようで止められた。
何故もう一度、私に接触しないのかと思ったが仲間になった時点で勇者と紐付けられるらしく何度か試したがもう会話は出来ないらしい。
それにしては、アンからは全く情報がなかったのはおかしかった気もしたが、ケセドが重要な情報を持っていたから良しとしよう。
すでに、アメリアとティア以外には共有してある。この手段は私とケセドはもう理解はしていたがアンだけは最後まで抵抗があった……なんとか説得をしたが納得のいく話ではない。
避けられない未来で一番の最悪だけは回避しないといけない……頼みの綱のカイルからの言葉を持った最後の仲間ヒアからの話は、不死鳥の役割をそのままヒアに移すというものだった。
元々ヒアは妖精の国の王女の役割を妖精族と一緒に持ってこの世界に来ていた。
その話を自慢げに話すヒアはだらだら聞いてた私たちに怒りだし。
「カイル様の命令で王女を捨てて来てあげたんだから敬って!」
と、あまりの発言に、たまにカイルが投げたくなる理由が分かった程だ。
私たちはこの物語の道中そこにも訪れるはずだったが、そこを全部無視させ破綻させずにシナリオの流れを無理矢理ではあるが、勇者パーティと自然に出会いそして同行させるという荒技をやってのけた。
(ここまで出来るカイルでも勇者と魔王は無理……)
アルテルとは、ギルドマスター時代にもあまり会ったことがない、カイルとの旅立ちの日、久しぶりに再開したほどだから思い入れはほぼないが、アメリアの姉だし、見殺しにはしたくないのは、正直な気持ちだがどちらを取るかと言ったらもちろんアメリアを取る……気持ちには嘘はつけない。
それでも、最後までは貴方のお姉さんを助ける為に私も頑張る。
それまで少しでも、冒険を楽しんでもらえる為に。
「はい、美味しいよ」
その辺の雲を掴みアメリアにあげる。
「え……ありがとう」
甘いものは正義だ。
【勇者】
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準備は整った!
目標の全員55レベル以上を達成した。
60が本当は良かったが、全員に止められた。
同じところを行ったり来たりが苦痛だったらしい、なぜだろう……強くなれるのは楽しいと思うのだが、戦っている時が一番余計な事を考えずに済むのに。
わたしが76、エルが64、アンが68、ケセドが55これが最終結果だ。
職業によって必要な経験値も違うらしいが、強くなれるならその辺はまぁどうでもいい。
「やっと終わったの?」
ヒアももちろんついて来ているが、殆どわたしとアンとケセドが、頑張って道中はエルとヒアはその辺を食べていた。
わたしもビックリしたよ? 洞窟が甘かったり、川がシュワシュワしてたり、ヒアに乗って空に浮かぶ雲を食べられた時なんかは夢の様だった。
でも、それも本当にもう終わり。
「やっとこの世界の敵。魔王を倒しに行けるね」
わたしの言葉でみんなの表情が曇る、なぜなんだろ……その為に今まで頑張って来たのに。
わたしの事を心配してか事あるごとにアルテルとかいう知らない人の名前を聞いてくる。
アンなんかは、その人がわたしの姉だと言う……わたしに姉は居ない、ずっと一人っ子だ。そして成人して、勇者に選ばれて、魔王を倒す為に……
(うん、そうだ)
魔王を倒せば全て終わるんだ。
頭の上のヒアに伝えると、すぐに大きな鳥になりわたしたちを背に載せ上空に飛び立つ。
そのまま、アンの道案内で魔王城に翼を向けた。
「この早さならすぐに着きそうね」
「そろそろじゃが、本当に姉上の事は……」
「ティア! その話はもういい。わたしに姉は居ない」
「そ、そうか……これはもう、カイル様頼みじゃな」
もう最後なのに、いつまでもいつまでも同じ事を、集中しないと勝てるものも勝てない。
そんなわたしの想いが伝わったのかヒアちゃんのスピードが上がる。
風の音だけが耳に刺さる、遠くの景色が黒く染まり始めた。
「あれが、魔王城?」
「そうだと思います」
アンが不安げに答えてくれた。
ヒアのスピードが速いせいかどんどん暗闇が迫って来た、空から見るとよく分かる。
それは、全てのひかりを飲み込んだかの様に周りを気高い山に囲まれた場所だった。
山に囲まれた大地は紫色に変色して来る者の命を奪わんとする悍ましさだった。
その中央に存在するのが魔王城。
「やっと辿り着いた!」
すぐにでも、向かおうとした意気込みを削ぐかの様にその周りに建造された、今にも動き出しそうな石像の目が上空を飛ぶわたしたちを見つけたかの様に射抜く。
「うわっ……石像の目、今動いたよね?」
わたしの驚きにアンが答えた。
「動きましたね……」
エルは一言だけ「こわっ」と言った。
今にも動き出しそうな石像だけど、あれは動くのかな? 不気味すぎる、さすが魔王の城。
ヒヤも少し怯えたのか速度をゆっくり落としながら降下していく。
段々と魔王城の全貌が見えて来た。それと同時に石像の目もわたしたちを追ってくるが、それよりも……城下町に驚いた。
「ふ、普通に生活していない?」
「子供達もいますね」
「あたりまえではありますね……魔王はこの民たちの王なのでしょう」
わ、わたしは……勇者で、ここには魔王を倒しに……なのに、これはどういう事?
頭に痛みが走り痛みを堪える為に頭を抑える。
「アメリア様!」
アンの声が聞こえるが、色んな想いが脳裏を駆け巡る。
外見は魔王が住むに相応しい世界だったのに……中身はわたしたちと同じ様に平和な街……
身体に力が入らない……震える。
「ちょっと、どうしたの?」
ケセドがわたしに気づいて、心配してくる……けど、わたしにもわからない。
この世界はなんなんだ、途端に気持ち悪くなる……早く魔王を倒して出たい。
「大丈夫です。早く魔王を倒しましょう」
ヒアが城下の入り口前に降り立つ。
改めて見ても異質だ、外は地獄、中は天国……魔王の城も特に見た目は恐ろしくないが、このギャップのせいで今までで一番不気味に映る。
街はわたしたちが入って来ても特に何か起こるわけではなく、人間の城下の様に迎えてくれた。街の人たちも姿は人のそれではないが、人間に見向きもなく人形の様に一定の動きを繰り返していた。
通常なら話しかけてみるのだが……そんな気も起こらずにそのまま魔王城を目指す。
頭の痛みが酷くなり続けるが誰にも悟られない様に振る舞う。わたしは勇者……と頭で思うと少し和らぐ事に気づいた。
わたしは勇者……わたしは勇者……
辿り着いた悪の象徴、魔王城は余りにもお菓子すぎた……全体がクッキーで形作られ、そこかしこにフルーツで彩も鮮やかだ。細かいディテールは飴細工で加工され、扉はチョコだった。
苛立ちが表に溢れて言葉となる。
「せめてお菓子でもいいから悪っぽくしてよ!」
ダメだ……頭がまた……勇者……わたしは勇者だ。
城の前にいた兵士がわたしの叫びを聞いてなのか突然話しかけて来た。
「この城には魔王様がおられる、覚悟が出来たのなら入るが良い」
戦闘もなしか……もういい。
この時には他の仲間の声も聞こえず、わたしが動いているのか分からなくなっていた。
わたしはずっと勇者だと頭の中で呟き続けていた。
「魔王よ。この勇者アメリアがお前を倒す!」
押す前に扉が開きだした。
夢の中にいる様な感じだ……勝手にわたしが前に脚を踏み出す。
——音と共に暗転する。
不気味な音楽が鳴り響き、やっと魔王の城らしいと思った瞬間、わたしの記憶はここで途切れる事となった。




