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元社畜神様はコミュ症すぎて異世界でも逃げ出したい  作者: 片白
6章 怨念編

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0-8 桃瀬紅葉



桃瀬紅葉ももせくれは

──────────


 全くもって剣の癖にティアは頑固じゃのう……妾と同じ言葉を話す、アメリアの友の名が『クレメンティア』と言うらしい。長いのでティアで良いと言われた。なので妾も桃で良いと言った。


 さて、ティアによると、この世界は妾がいた世界より随分先の未来と言う世界らしい。歴史の先の先……妾には何とも理解が出来ないが、今現在いるこの工房? だけでも、妾がいた世界とは異なるのが分かる。


 そして、一番の問題は、もうあの時代には戻れないという事だ……突然の事ではあったが、アメリアの師匠からの話ではどちらにしてもあの世界に居れば、妾の存在は消えていたらしい。それが真実なのなら、何も問題はないとも思った。




 それにしても驚いた。あの時の子供が今まで生きていてしかも『ドワーフの王』になっているとはな。しかも、金槌叩いてでかくなるなど、陰陽師にも出来ないのでは? 話を聞いていなければこれこそまやかしの類だと思ってしまう。


 いや、今でも若干信じきれぬのだがな……


「のう、妾の居た国はどうなったのか分かるか?」


 元に戻ったドワーフの王が、これも話してくれた。世界自体は同じらしいが、もうあの時の全ては存在していないらしい。


(ティアの言葉通りではあったが、まさか存在すらしていないとはな……)


 不思議なものだ、目を瞑ると直ぐに都の光景が浮かぶ……あの景色がもうこの世に無いとはな。


 もう一つ気になる事を……


「なぜ、妾だけこちらの世界に連れて来たのじゃ?」


 ドワーフ王はゆっくりとした口調で話してくれた。アメリアが『ティア』を連れ戻す為に過去に潜っていた、その経緯で過去に出会った妾を見つけ、どうしてもまた会いたいと我儘でこちらに連れて来て欲しいとカイル殿……アメリアの師匠に頼んだと。


(確かに、辻褄は合ってはいるが……)


 腑に落ちぬ事は多々ある……何せ、過去と言うことは誰かの記憶になる。この場合はティアの記憶の中だと想像はつく、それを聞いたら「そうだ」と答えてくれた。


 となると剣を連れ戻す為にアメリアはティアの記憶に入った事に……しかしアメリアは最初の時に剣を持ち、二度目に退魔の術式……


「アメリア、源頼光様の話は……まさか……」


 酷すぎる、申し訳なさそうにアメリアが答えてくれたが殆ど嘘だったらしい。と言う事は、三度目に持っていた妾の刀と同じ刀がティア? ティアの持ち主が妾になるのか? 


(あー頭がおかしくなりそうじゃ!)


「ティアよ、お主は一体、誰じゃ!」


「見たままの剣じゃが?」


「そうじゃない、あの世界はティアの記憶なのじゃろ? ならお主は実際何処におったのじゃ?」


「ほう、そこに辿り着くとは凄いのぅ、妾は封印されていたのじゃよ、お主の刀にな——」


 驚く事を説明された。鬼の中に封じられたティアを妾が斬り、刀に宿ってしまった。アメリアがやって来て、ティアの魂を持つ鬼を探せど見つからず、妾の刀に宿る事を知る。写し刀を作り交換してもらおうとしたら、あんな騒動になり、結局は妾の刀をアメリアが手にして『クレメンティア』になったと。


「そう言う事じゃったのか……」


 確かに、真を問うても命と同等の刀を渡す事はあるまい……結果的に良かったのかもな。


 その時、ドワーフ王が一本の刀を妾に寄越した。ずっと意識を妾に向けていると思ったらこういう事じゃったのか。と、何となしに受け取って刀を鞘から抜いてみて、また驚いた。


「こ、これは妾の……」


 アメリアの写しを作った時に影打ちとしてもう一本作っていたとの事だった。


 抜いて見て思うが、妾の刀より出来が良く、影打ちとは名ばかりの、見た目だけ似た名刀と呼ぶに相応しい出来だった……。


「よ、良いのか?」


「ああ、桃瀬様にいつか俺の打った刀を使って……うぅ」


 また泣き出した……威厳も何もなかった。せっかくの渋味も台無しじゃな……まぁ、有り難く使わせてもらおう。

 二、三度振ってみるがしっくりくる……振るたびに輝く退魔術……


「こ、これはお主が?」


 この術式はなんじゃ……織り込まれた複雑怪奇な紋様。(ま、負けた……あの子供がこれほどの退魔師に)


 時とは恐ろしいものじゃ……退魔師は元が無いと出来ない筈なのだが、これも時代なのか。


(この刀を……)


 刀を見ている妾の気持ちを察したのか、アメリアから面白い提案を持ちかけられた。


「ねぇ、もも。せっかくだから手合わせしない?」


 確かに、願ってもいない、いい案じゃ。刀の具合も見たかったし、相手として不足なし。


「構わぬよ——」


 


 妾とアメリアが広い工房の隅で構え合う。妾は抜刀の構え、アメリアは前に妾に斬られた時と同じように左手が前の構え……


 間合いは、アメリアに何度か見られているから忘れて無いとは思うが、先ずは復習として試すか。


「良いか?」


 妾の言葉に、頷くアメリアの頭が合図となり、突然目の前に迫る——


 アメリアは剣を妾の抜刀の軌道に合わせて突っ込んで来た。その為、何処に抜いても弾かれる恐れが過り、抜きどころ見失い構えたまま横に飛ぶ——


(おのれ……一瞬迷ってしまっ——)


 さらに、妾が思考を巡らせる間を遮るかの様に、飛んだ先を見越し追って来た。なら、こちらも迎え討つのみ——抜刀を諦め、刀を少し抜きアメリアの剣を迎え討つ、ガキンッ。


 競り合いながら抜ききる。刃が重なりやっと、時が緩やかになった。


「やるのぅ」


「やるからには、勝たせてもらう」


 細腕なのに鍔迫り合いも同等か、なら、少し面白いものを見せてやろう。意図的に妾は力を抜き、そのままつばでアメリアの手を狙う。


 バキッと音が鳴ったが……向こうも負けてはなかった、妾の右足に痛みが走る——


 (ぐっ、やる)妾の動きに合わせて、足で蹴られた様だ。


 アメリアが左手、妾が右足と痛み分けになる。間合いが広がった為に、お互い痛みを確認する余裕が出来た。


(どちらが優勢か、妾の方が不利か? 足を踏ん張ると痛みが走る……何度もは無理じゃな)


 攻守ともに脚をやられると、途端に不利になるが、諦めるにはまだ早い。


(もう一つ面白いものを見せてやろう)


 出し惜しみなどせずに、妾はまた抜刀の構えに戻り、そして正座をした——


 その動作を見て、驚くアメリアに一言放つ。


「終わりではないぞ、何処からでも来るがよい」


 一見無防備な格好ではあるが、脚が上手く使えぬ以上、これも歴とした構え。的を低く絞らせる事により、相手の動きも読みやすくなる。

 模擬戦くらいでしか使えぬが、面白いじゃろ?


 アメリアは少し戸惑い、妾の周りを回り始める。それに合わせて膝を使い妾も回る、この状況、妾はただ待つだけ(根比べじゃな……)


 アメリアは一周ゆっくり回り、速度を急激に上げ妾の背後から一気に突っ込んで来た。当然の定石、想定していたが、想定の上を行く速さに顔だけが先にアメリアを追い、目の端でアメリアの攻撃の動作を確認する。


 アメリアは片手で斬るのではなく、突いて来た——妾は両足で飛び上から目掛けて刀を抜刀する、「ずるっ!」っとアメリアの言葉が聞こえ、そこにドワーフ王が投げた金槌が飛んで来て、妾の攻撃は弾かれた。


 妾は痛みのない方の足で着地し、アメリアは勢いよく頭から滑って行った。元々止めるつもりじゃったが、ドワーフ王が止める為に投げた金槌が、見えたので振り抜いた。よく、金槌だけで弾けるものだと感心しながら、刀を鞘に収める。


「妾の勝ちじゃな」


 悔しがるアメリアだったが、中々やる。後ろからの突きは確かに、良い案だ。速さに更に最短で届く突き、妾の抜刀の速さを上回る為にか……脚が本当に動かなければ危なかったかもしれんな。


 しかし、手合わせとは言ったがお互い殺しに来ている時点で身にはなったが、試し斬りには中々に危ない刀じゃった……妾の意図を良く読んでくれるが、初めて使ったのに馴染みすぎじゃ……危うく刀の方に意識を持っていかれるところじゃったわ。


 アメリアは起き上がり、悔しがり終わったのか、質問攻めになる。「脚の痛みは嘘だったのね」「座る構えはなに?」「どうすれば良かった?」など、負けた後だというのに、覇気は衰えず次に繋ぐ道まで探るとは、強くなる筈じゃよ。


 その気迫に負けて、滞在中に少し手解きでもしてやろうと思った。きっと直ぐに妾を超えていくだろうが妾も負けん——



 一通り話終わると、アメリアは妾に一つの提案を持ちかけてきた。


「もし、行くあてに困ったら私の国においでよ」


 騎士団と言う謎の団体に推薦してくれるらしい、が、妾は「少し、知らぬ世界を見てみたい」と、断った。驚くアメリアと、何故か話を聞いていたドワーフ王だったが、どちらも快く送り出してくれるみたいだ。


(すまぬな、言われるまま従うのは、確かに楽かも知れぬ。が、己の足でこの世界を見てみたい……)


 一度は諦めた人生、新天地でやり直すには良いのかも知れぬしな。





——そして、旅立ちの日


 前の日に、皆がお別れ会というものをしてくれて盛大に盛り上がった。ドワーフ王は部屋から出るのはなかなか難しいらしい。なので、終わった後で二次会なるものを開いた。


 初めて食べる物ばかりだったし、酒がとにかく美味かった……中々に楽しかった。忘れる事はない経験をさせてもらった。



「忘れ物は?」


 心配してかアメリアとティアが外まで見送りに来てくれた。妾のいる場所はドワーフ国らしい、この世界の簡単な情報を教えてもらい、近くの都を教えてもらったが、妾はあてもなく進むつもりだった。


「何度も言うな、忘れたとて問題ないのじゃよ」


「確かにのぅ、その都度、欲しくなったら現地で手に入れればいい」


「その通りじゃな!」


 良い事を言うではないか。喧嘩ばかりしていたが、最後にはティアとも仲直りできて良かった。


「次の街にたどり着いたら、まずは、ギルドでちゃんと登録してね。要領は鬼……妖怪退治みたいな物だからすぐに慣れると思うよ」


 最後まで母上みたいな事を……ギルドか、説明を聞いてある程度は理解した。力を振るえるのなら、妾にも問題なくてよかった。


「分かっておるよ、最悪、この世界には動物もおる様だし死にはせんよ。もし、世界を回った後で良いならお主の国、寄らせてもらうぞ」


 背を向け歩き出すと、背中にアメリアが抱きついて来る。今度は子供か、忙しい奴じゃ。


「絶対だよ。今度はちゃんと……また会おうね」


「元気でな」


 二人の言葉が身に沁みる、そしてアメリアの力が抜け、解放されて妾は振り返り最後の言葉をかけた。



「そうじゃな。また会おう」



 先ずは何処に向かおうか、道すがらで良いが……アメリアの国の方角聞いておけば良かった。どうせなら、最後にアメリアの国に行きたい。


(この道じゃ無い事を祈ろう——)


 この世界を知るために長い道のりを歩き出す。今度はただ自分の為だけに。






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