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元社畜神様はコミュ症すぎて異世界でも逃げ出したい  作者: 片白
6章 怨念編

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0-9 妖怪とおばあちゃん



【カイル】

──────────


 余りにも酷かったので、お仕置きとして二人を自分の作った依代に、精神だけを移して反省を促した。魂を移した訳ではないので、戻そうと思えばいつでも戻せる。今の状態は僕が使っていた『アバター』と同じ状況だ。


 ヒアは最初こそ謝っていたが、もう今の四本腕の妖怪を寧ろ楽しんでいる……見た目は元は『桃瀬紅葉』を模して作ったので女性型。服装も白と赤を基調とした着物、髪は長髪の黒髪、腕が四本、内二本は脇の下から生えて背中には妖精の羽。


 化け物だが、普段小さい妖精なので、大人サイズの身体を手に入れた今、アメリアや桃瀬に絡んでいた。


「貴方たち、なっちゃいないわね! 次は私と勝負する?」


 桃瀬とアメリアが模擬戦をしていたのでやりたくなったらしい。何があっても自己責任だが、ボロ負け確定なので、ある程度は力を貸してあげよう。


「ヒア、せっかくだ。やるならこの剣四本使って。」


 アメリアがティアの中に入っている間、僕は色々な事をしていた。依代を作る、力を外で止める技術、ドワーフ王の秘密を暴く、部屋の秘密を暴く、魔道具の秘密を暴く。


 それはもう、身のある時間だった。そして、極め付けは鍛治だ。頭だけ働かせて、両手が文字通り手持ち無沙汰だったので、鍛治をご教授願えないか聞いてみたら「今から刀を打つから勝手に盗め」と、言われたので盗んだ。


 そして、出来上がった四本をヒアに投げた——


「え、え、え……」


 カラン、ガシャン、バシャン……綺麗に全部地面落ちる。ヒアには投げた刀を掴むのは無理だったらしい。恥ずかしがることもなく、落ちた刀を拾う。


 そして、多分、言うだろうなぁーと誰もが思っただろう台詞を吐く。


「ふふふ、私には四本の刀がある! もしかしたら、二人がかりでも勝てる気がする!」


 馬鹿だ……二人相手にしたら瞬殺だよ。なのにヒアは凄いやる気で、アメリアも桃瀬も苦笑いしながらも、やるからには本気みたいだ。


 仕方ないか……さっきからもう一人が弱々しくつっついて来るので、三人にシールドを張って、あっちはとりあえず放置しよう。


「エル、どうしたの?」


 もちろん、お仕置きしたもう一人の、おばあちゃん姿のエルだ。実年齢92歳、腰はくの字に曲がり、杖も無く立っているのも辛そうだったので、椅子を持ってきてあげた。


 こっちは、ヒアとは違い時間が経てば経つほど辛そうだ。いずれ戻れるんだから、楽しむのもありだと思うけど……流石に良い罰になってるね。


「カ……イル……よ、私は、もう長くない……アメリアに何か残してやりたいけど何がいい?」


 まさかの、就活が始まっていた……ビックリした。体に意思が引っ張られてるのだろうか? 戻して欲しいとか言われるのかと思ったら、受け入れ始めてるよ。


「そうだね、特に何も持ってないんだから、精霊でもあげたら?」


 とりあえず、話に合わせてみる。


「むり……この歳のせいか、精霊を感じられない……」


 なるほど、多分人間だからだね。体が変わると特性も変わっちゃうのか。エルの唯一の利点さえ無くなっちゃったんだね……


「なら、孫に何も残せないね」


 気の毒だけど、現実は無慈悲だ。エルの両目から大量の涙が溢れ出る……エルが泣いているのを初めてみた。


「私は、なんて薄情なんだろ……今までの私は何を……一体何をしていたんだ……」


 椅子に座りながら両手で顔を覆い、人生を振り返っているが、本当、何をしていたんだろうね。エルの過去は僕にもわからないよ。


 確か、エルフの国からアメリアの国に移ったんだっけ? 財産とかあるのかな? でも、結局はアメリア王族だしね。お金残しても喜ばなそう。


 とりあえず、僕には何もできないみたいだし、一旦ヒアたちを見てみよう。



——うわ……


「あはははーー!? 私は無敵ね! 二人の攻撃なんて全く効かないよ!」


 僕のシールドで守られている事も知らないヒアは、それを自分の力かの様に思っているらしい。アメリアと桃瀬も、ヒアに何の攻撃も効かないから攻撃が加熱して凄い事になってる。


「ねぇ、もも! 本気で行くよ!」


「無論じゃ!」


 二人の斬撃が更に威力を増す。が、ヒアには傷一つ付かない、それに興奮するヒアは更に調子に乗り二人を罵倒する。


「雑魚ね! そんな攻撃じゃ、私に傷を付けるのは無理!」


 後先考えずに罵りながら、四本の腕で力一杯に刀を振っているが、全く当たらない事は気にならないのかな? 二人はヒアの攻撃を避ける事すらしないで刀と剣で捌いてるね……まぁ、二人にもシールド張ってるので例え当たっても何ともないけどさ。


 しかし、凄いなぁ、腕が四本の意味が全くないなんて……飛びもしないし、何の為の羽なのかわからないね。


 正直、ヒアに力を与えると碌な事にならないのは分かったよ。


「私は最強の力を手に入れた! この力があればこの世界は私のものよ!」


 ……どうしよう、なんかここまで来ると、どこまで調子に乗るのか見てみたい……世界を征服する気だよ。


「ヒア! ……師匠に怒られるよ!」


「カイル様がなんぼのもんよ! この力があればカイル様もけちょんけちょんに出来る!」


 けちょんけちょんって……どこで覚えたのか。それを聞いたアメリアがあからさまにキレ出した。


「おい!」


「ひぃ……な、何よ。アンタなんか、こ、怖くないわよ」


 さて、こちらはもうちょっと放置でも良さそうだ、次を期待しよう。



 エルは——え……動かない……


 ……って、あぁ、なんだ寝てるだけか。

 一瞬焦ったよ……エルのお仕置きなのに僕の方が精神的に参ってしまいそうだ。


 まぁ、おばあちゃんだしね……疲れも溜まっていたんだろうね。もうなんだか、僕の精神も疲れてきたし、戻してあげようか。


「エル、起きて」

 

 僕は軽く、エルの肩を揺らす。


「……んあ、ご飯?」


「そうだね、ご飯にしようか。その前に戻してあげるね」


「もど……戻ったら心を改める。歳を取ってみてわかった。いかに自分が我儘だったのかを」


 おー、なぜか違う方向に反省してる……エルの我儘で困った事なかったと思うけど、本人がそう言うなら僕は特に何も言わないよ。


「そっか、なら反省したって事で——」


パチンッ

 指がなると共に、椅子の上で座っていたおばあちゃんが力無く項垂れ、端で寝ているエルが目を覚ます。


(おばあちゃんは、不思議空間に回収しておこう)


「おは」


 いつもの言葉数が少なくなったエルは、僕を見つめながら、挨拶だけしておばあちゃんの座っていた椅子に腰をかけた。


(すごい体験だった。戻ったら身体が楽すぎて逆に恐ろしい)


(そりゃ、人間の体は老いるみたいだからね)


(うん、甘くみてた。今度ケテルの肩を叩いてあげようと思う)


(ケテル?)


(あれ、知らない? 十一賢の一番偉そうなおじいちゃん)


(へぇ、そんな年齢なんだね)

(知らない、けど、見た目がおじいちゃん)


(そ、そうなんだ、きっと喜ぶよ)

(うん、ありがとう。で……あれは何?)


 と言って指を刺す方向を見ると、結界の中で三人が暴れていた……きっとドワーフ王が張ったんだね。


「ふはははは、力がみなぎるぞー!」


 みなぎらないよ……シールド以外与えてないし、身体も特に……まあ、少しは強いみたいだけど、みなぎるほどでもない。


「ヒア! 師匠に謝りなさい!」


「ばーか! 謝るもんか、カイルなんて一捻りだもん」


 とうとう、管理者の僕を呼び捨てにし始めた。体が人間? かは怪しいけど、これは不味いね。このまま行くと『最上神様』にまで飛び火しそうだ。


——僕は結界をこじ開けて中に入り、ヒアと対峙する。


「ヒア……反省がなってないようだから、僕が相手になるよ」


「し、師匠……ごめんなさい」


 アメリアが謝ってくるが、気にしないでほしい。どう考えても調子に乗ったヒアが悪い。


「桃瀬さんもごめんね。後は任せて」


 僕の顔を見て、なぜが冷や汗気味の桃瀬紅葉はそっと刀をしまい、アメリアと一緒に結界のギリギリまで下がる。


「か、カイル様!? な、なんですか?」


「なんですか、じゃないよ。おいで」


 さて、実験だ、ヒアのシールドは張ったままで行こう。多少怖くても、こんなに時間掛けたのに反省が足りないヒアが悪い。


「こ、怖くないもん。ヒアにはカイル様のこうげ——」


 喋りながら威勢よく向かってきたので、その場でデコピンする。すると、見えない衝撃波が飛んで行き、ヒアの身体にぶつかる前にシールドで跳ねて結界にぶつかる。


(へぇ、このくらいじゃ僕のシールドは大丈夫みたいだね)


「僕の攻撃が無傷なんて、さすがヒアだね」


 とりあえず、褒めてみたら……案の定調子に乗ってきた。


「び、びっくりしたけど、やっぱりカイル様の攻撃にも無傷! どこからでもいらっしゃーい!」


 ……微笑ましい。力って精神をこんなにも変えちゃうんだね。アメリアとか、桃瀬は大丈夫なのに、その違いは努力とかかな?


——どこからでも、って自分の言葉を忘れないでね。ちょっと色々試したかったから丁度いい。



 まずは、ヒアの四番目の腕を貰おう。不思議空間をヒアの左脇腹から出ている腕の中央に出す。


 ——すると、空間が出た場所から、腕の先が飲み込まれた。なるほど危ない……特に指定してなかったけど、質量が少ない方を飲み込むのかもしれない。まだ実験段階だから体の方を飲み込まなくて良かった。


パチン

 音と共に、空間が閉じて綺麗にヒアの四本目の腕が消えた。


(おー成功した)


 しかも、腕がなくなった事に気がついていない……これはどっちだ?


「ヒア、腕一本ないよ?」


「え? ——いだーーーーぃ! 痛い、痛い、痛い」

 ……まじ? 気がついてなかったから痛くなかったの? そんな事あるのかな……


「ヒア、本当に痛いの?」


「痛い、痛い……え? ……い、痛くなかった……え、えへへ」


 よ、よかったね。ん? これは面白いかも。


「ヒア、消えた腕動かしてみて」


 僕のお願いに、戦っていたのも忘れて必死に動かしてくれる——なるほど。不思議空間を僕の横に出してヒアの腕を出してみると、ぶんぶん刀を振っている。


「な、なにそれ……私の力?」


「うん、そうだね。でも、これはもう出来ないよ」 


 と言って腕を戻してあげる。さて、実験からまさかの面白い使い方が見つかった。不思議空間に自分の腕を入れて、ヒアの顔の横に出す。


「パーンチ!」


ドゴッ


「いだっ! な、何これ……」


 おー、やっぱり出来た。これは面白い、こうなったら色々試そう——今度は僕の下に空間を出して、自分が入る。全部入る前に、ヒアの頭の2メートルくらい上に出す。


「キーック!」


ドゴーン


「ぐへっ……何で私に痛みが……」


 結構何でも出来そうだ。ちなみに、ヒアにダメージが通るのは僕の匙加減でしかない。ちょっとずつ力を入れて、僕のシールドの軽減率を測っていただけだ。


「さて、僕の方はもう良いけど、どうする?」


 十分実験と検証もできて、不思議空間の新しい使い方も増えたし満足だ。


「な、まだ……ま、負けてないし!」


 勝ち負けなんだね、ならとどめを刺そう、ヒアは妖怪に入れても、反省するどころか、増長するだけなのが分かった。怪我の心配をしてシールド張っても調子に乗るだけだし。


 もういいか。


「仕方ない、とどめ刺すね」


 僕はゆっくりとヒアに近づき、お腹に一発食らわせた。


「え……な、待って、ご、ごめんなさい……いやあぁぁぁぁぁ」


ドゴンッ

 (嫌な断末魔だ……)





——その後、エルは反省したらしいが、元々言葉数が少ないのでよく分からなかった。ヒアは妖精の姿に戻ったら、僕のフードの中に戻らずにアメリアの所に行くが、案の定、叩かれて渋々エルの頭にご厄介になっていた。


 なんだか、無駄な騒動だったなぁと思う反面、僕は新しい力の使い方を覚えられて満足だ。僕の不思議空間は今の所、見える範囲なら体や身体の一部を移動出来るみたい、これは色々使えそうだね。


「二人とも、どうだった?」


「もういい」


「ごめんなさい……」


 うん、結果よければ全てよしだね。


(因みにさ、サタン、四本腕の体使う?)


(……いるか!)

(そっか、似合うと思うのになぁ……)






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