6-17 エピローグ
【カイル】
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さて、まずは……
「うわっと……アメリア、おかえり——」
戻るなり、急にアメリアが抱きついて来た。毎回流れが一緒な気もするけど、時間もないし話を進めよう。
「ただいまです。うぅ……」
「よしよし、ティアは?」
「おお……おお……妾を、覚えてくれているなんて、天にも昇るようじゃ!」
剣の方から声がする。
「おかえり、忘れるわけないよ。さて——」
全部は見ていないけど、確かに今回は、二人ともよく頑張ったと思うよ。仕方ないので頭を撫で続ける。そして、精神体で連れて来た……さっきから耳元でずっと怒りの収まらない『桃瀬紅葉』と久しぶりに声を聞いた『クレメンティア』に伝える。
「ティアと桃瀬紅葉さん。君たちは今すぐこの三体の……何だこれは——」
僕は、目の前の三体の依代を見て唖然とした……
《一体目》僕の作ったノーマルタイプ。本当は子供を作ろうとしたのだが。いい加減に成長しないとと思い、桃瀬紅葉をベースに……というか、まんまの依代を作った。部屋の外に持って行って確認済みだが、僕のコミュ症は発動しない。もちろん、魂後は不確定だ。
ここまではいいんだ……知っていたし、だけど、ヒアとエルに任せた残り二体はなんだ?
《二体目》ヒアの作った依代は……人間にツノが生えて妖精の羽が生えて……手が四本……ヒア曰く「かっこよすぎでしょ?」じゃないよ……生命舐めてんのか?
私の理想を詰め込みましたとか、命でやんなよ……天然を超えて人類が最後に行き着いた、みたいになってるし。
しかし、時間もないし……も、もしもがあるかも知れない。終わってからヒアにはお仕置きだ。
《三体目》エルが作った依代は……ちゃんと頭も顔も体も普通だった。だからか、ヒアの作った依代を見た後だと、まともに見えてしまう。しかし、おばあちゃんだ……いや、構わないよ? でも、いざ生まれ変われるのに、なりたいか? エル曰く(色々やったらこうなった)だそうだが、何をどうすると結果、こうなるんだ?
最後に「てへ」……てへって言えば、なんでも許されると思ってるのかこのエルフは……
もういい、もしもが……あるのか知らないが時間もない。僕は、とりあえずティアと桃瀬紅葉に聞いてみることにした。
「二人とも、えっと……三つから選んで……」
一人は化け物か老婆か……僕は悪くないよね?
【桃瀬紅葉】
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な、なんじゃここは……腹に衝撃が走ったと思った次の瞬間、妾は見覚えのない部屋で目覚めた。すぐさま、「なんじゃここはー!」っとアメリアの師匠に、怒鳴り散らそうとしたら声が出ず、身体を見てみると透けていた。
心の中で叫びまくっていたら、なにやら聞き覚えのある声が聞こえてきた……そのおかげか、冷静になり急に視野が開けた。視界に入ったのは、アメリアが師匠に抱きついておった光景だった。
年相応の心温まる場面じゃった。
それは、まぁよい。この時点で、アメリアの師匠の言っていた事が、少なくとも嘘ではないと確定したわけだが……まさか、まさか、選べと言われた身体が……これは冗談か? 何かの試練か?
(た、試されておるのだろうか……)
少なくとも、ティアはアメリアの友じゃ、妾も助けてもらった。声は聞こえぬが確かに存在を感じない事もない……つまり、形式上、妾の選択出来る身体は実質二択……
(お、終わりじゃ——)
妖怪か老婆か……妾はこれでも、戦うのは好きじゃ。流石に老婆では戦えん……なら妖怪か? せ、せっかくアメリアがあんなに必死に鬼から救ってくれたというのに。
これじゃ、申し訳ないが鬼の方がましじゃ……
「え? 大丈夫じゃないかな。」
「出来るが、もう戻れぬぞ? 本当に良いのか?」
「だってさ、僕はティアが決めたなら構わないよ」
アメリアの師匠と、でかい髭の生えた大男が話している。何やらティアが依代を決めたらしい、妾も覚悟を決めるか……
時間がないのか、ちょうどアメリアの師匠が話しかけてきた。
(桃瀬紅葉さんは決めた?)
(こ、この四本腕の妖怪を……)
(え? 本気?)
(本気もなにも……老婆では戦えぬし、仕方あるまい)
(確かに、戦いたいなら四本腕がいいか、わかったよ)
(おい——割って入るぞ! お前たちの噛み合わなさは覗いていて嫌と言うほど理解した)
急にもう一人入って来た……この声は大男だ。噛み合わない……確かに妾もそう思う。そう思うが今更、会話に入って来たところで……他に選択などないじゃろ。
(桃瀬紅葉よ、理解しているか? この依代が残っておるのだぞ?)
と、大男が妾そっくりの依代の前に立ち勧めてきた。
(……なんじゃと? 残っておるのか……本当に妾が使っても良いのか?)
(良いに決まっている。仮に四本腕を選びたいならもう何も言わんがな)
(それは、ないのじゃ……)
(なんだ、そうなの? あー、びっくりしたよ。ヒアと感性が同じなのかと……)
(カイル殿……お前には感謝はしているが、好きにはなれん)
大男との会話で、師匠の名前がカイルというのを知る……しかし、この男の説明の足らなさは致命的じゃな。危うく四本腕になるところじゃった……恐ろしや。
(そんなのどうでもいいよ。時間ないから入れるよ。桃瀬紅葉さん、本当にこの依代でいい?)
(お願いします)
妾の言葉を聞いて、カイル殿と言われたアメリアの師匠は妾を鷲掴みにして、依代に突っ込んだ——
【アメリア】
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「ティア! 本当にいいの?」
「いいのじゃよ、妾はお主たちを気に入っておる」
「それなら、尚更——」
ティアは元の剣のままでいる事を選んだ。わたしは、もちろんティアが何であろうと変わる事はない。でも、人に戻れるのに……
(私の作った奴は?)
エルがおばあちゃんを勧めてくる……わざとだとしても、この状況だと本気で友達辞めたくなる。
(エルよ、妾は剣で良い)
大人の交わし方だ。
(ねぇ、私の——)
(無理じゃ)
ヒアには即答……なのね。
剣を選んだのを残念に思いながら、でも、ティアが選んだならもう何も言わないと覚悟を決める。ふと、師匠の方を見ると何やらドワーフ王と話している。
——そして、驚くべき事が起こった。
「え? ティア?」
「なんじゃ?」
あれ? 剣から声がした……って事は、誰? 動き出したももそっくりの身体が、私の方に歩いて来て話しかけてきた。
「アメリア……また逢えたのぅ」
私はあまりの喜びに飛びついていた——
「ももーーーー!? なんで?」
「お主の師匠のおかげじゃよ」
まさかの師匠! わたしは今日ほど、師匠について来て良かったと思った事は……いっぱいあるけど、ありません!
「もう、会えないと……うぅ」
「そうじゃな……妾もじゃ」
もしかして、これからずっと一緒? でも、ティアも居るし……そうなると、少し経験したけど、二人一緒に『なんじゃ』攻撃は正直辛い。
「もも、これからどうするの?」
とりあえず聞いてみた。そもそも、こっちの世界は向こうよりだいぶ違う……馴染むまで必要なら力を貸したい。
「それなのじゃが、ここはどこじゃ?」
「ほう、お主ここがどこか知らぬのに来たのか?」
なんで、ティアが話をするの? どっちが話しているのか、きっと分からなくなる……
「その剣……お主がティアか? 初めて話すのぅ」
「そうじゃな、ただ、妾は知っておったぞ」
「ふむ、剣に意思があるとは何とも面白い」
まだ、何となく分かる……そういえば、二人は元は同一人物なのは、知らないのか。きっとこのまま知らない方が良いのかも知れないね。
「素晴らしいじゃろ?」
「妾にはよくわからぬ、刀の方が良いからのぅ」
「何じゃと!」
……同じ思考で喧嘩し始めたよ。こんな事ってあるんだね……あぁ——凄い罵り合いが始まった。
これ、誰が止めるの?
わたしでも、ティアとここまでの喧嘩は出来ない、同レベルって事ね…………同一だった。
呆れ始めたわたしの横から、堪えたような呻き声が聞こえ始めた。その余りの凄さに二人の喧嘩も止まるかと思ったが、止まる事はなかった。
「ゔぉ……ぐぅ……ううぅ……」
「やるか? 受けて立つぞ!」
「おおー! くるが良い」
「ぐおおおぉぉぉーーーーぐぅぅ」
よく見ると、号泣していたのはドワーフ王……この状況で何で泣けるの? わたしも最初は嬉しくて泣きそうになったけど、流石にもう泣ける状況じゃない。
師匠に助けを求めようと思ったが、あっちはあっちで……
——カオスだった……この状況に拍車を掛ける師匠……
「カイル様……元に戻してください……ごめんなさい」
「カイル……これはない」
多分、ヒアとエルなんだろう。二人が四本腕の怪物とおばあちゃんになって動いていた。
ずっと気にはなっていた、ティアの為に作られた依代……ももが選んだ依代はわかる。
でも、他の二つは意味がわからなかった。ティアが結局、依代を選ばなかったので忘れていたけど、師匠の言葉で理解できた。
「二人は自分の作った依代に入って少し反省して」
なるほど……二人は反省した方が良い、わたしもそう思う。でも、今それをすると状況の収集が……つかないのは、師匠も分かるはずなのになんでだろう。
どうしよう……無理だ。
当然の様に、わたしは諦めた。
【カイル】
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終わったなぁ。ティアの異変から始まったドワーフ国への旅だったけど、結果だけみれば元の鞘に剣が……文字通り戻ったね!
僕の目の前で起きているこの状況が何とも微笑ましいよ。
ヒアとエル、今は妖怪と老婆。現在僕に謝り続ける二人は当分この状況を噛み締めて、自分たちが一体何をしたのかを次回に繋げてくれると嬉しい。僕ならその状況をまず楽しむんだけど、二人は余裕がないみたいで残念だ。
ティアと桃瀬紅葉。二人は元、同一人物なだけあって楽しそうでなりよりだ。ただ、剣と人でどうやって戦うのか、わかっているのかな? ……このままだと、アメリアにとばっちりが行きそうな未来しかないけど、それを含めても微笑ましく思う。
ドワーフ王。泣いてるね、号泣だよ。理由はなんとなく想像がつく、ここまで無条件で僕たちに協力してくれた理由がそこにあるなら辻褄が合うしね。ただ、泣きすぎ……今までのイメージが崩れる程泣いてる。それを誰も触れないのも凄い。
アメリア。今回の成長は本当に凄いと思う、アメリア自身は分かってないんだろうけど、君のやった事は歴史の改変だ。アメリアの介入でティアは本当の呪いから解放された。そこまでは僕にもできない事はないのかも知れない。でも、桃瀬紅葉……本来、剣にならずに人として生きたかも知れない可能性の歴史、これは僕には無理だ。
やる意味がない。前も似たような話をしたが、僕たちは人の成長を個では見ない……それをするくらいなら全体の世界を見る。ドワーフ王もここに焦点を合わせて来たのだろう、だからこその僕の介入を拒んだ。
結果を見て理解すると、なるほどと納得してしまう。それと同時に僕もまだまだだと成長を感じる事が出来て嬉しい。
(ああ、ダメだな……)
——僕は結局この状況をどうしても一歩引いて見ている。どこまでも行っても第三者だ。それはこれからも変わらないだろう……でも、僕の中で変わりつつあるのも分かる。
(なぜなら、こんなに愛おしく思うんだ)
(……失うのを悲しく感じるほどに)
(お前の思考、危険だぞ?)
あれ? サタンが僕を心配してくれてる。
(聞こえてたのか……分かってる。でも心配してくれるとはサタンも変わった?)
(お前がどう思おうと構わない。だが、俺たち悪魔にもお前の様になった奴がいる)
(へぇ、それで?)
(ああ、そいつらの末路は悲惨だったぞ)
(だろうね……)
(理解しているならいい。だが、とばっちりはごめんだ)
心配症だね。大丈夫だと思うけどなぁ……失いそうな思いはした。だからこその魔道具の解明だしね。
さて、次の目的も決まっている。ドワーフ王もさすがに教えてくれるでしょ。
あの、『第四階層』の事を。
6章完
今回で100日連続100投稿、丁度いい節目になりました。
いかがでしたか。
面白かったら評価よろしくお願いします(´ー`)




