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元社畜神様はコミュ症すぎて異世界でも逃げ出したい  作者: 片白
6章 怨念編

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6-16 解放



 【ドワーフ王】

──────────


 全てがここまでうまく運ぶとはな——

 頬が濡れている事に気づく……涙などいつぶりだろうか。


 ぐっ……ありがとう、ありがとう……このまま、アメリアたちを戻すべきなのだが、桃瀬ももせ様……貴方の姿をまた見られて嬉しくなり、閉じれなくなってしまった。


(すまない、もう少しだけ——)


 アメリアは何の説明もないまま、友の為に完璧な結果をもたらしてくれた……初めて会った時には正直、微塵も感じなかったが、クレメンティアを戻すくらいなら、今のままでも十分だと思って力を貸した。


 説明をしなかったのは単純だ、結果を固定させない為。つまり俺の我儘でしかない、桃瀬様が鬼になるのはどう抗っても必然。そこからはもう、俺が知っていた歴史とは違ってしまっていた。


 俺の知らない方向に進む物語に何とか追いつかせようと、アメリアに幾つか試練を課したが、甘くみていた……そのどれも超えていくとは。


 それでも、ギリギリだった。運……いや、本当の人間の強さと言うべきか? 素晴らしい最後だった。


(桃瀬様の長い旅の終着点は、今日という日だったのですね——)


 一人の女性を思い浮かべる。今まで記憶の片隅に封印していた……人ならず者。


 『ビブリナ』様、貴方は今、この結果を見ていますか? 桃瀬紅葉様は贖罪を果たせましたよ……ただ、二つに分かれてしまい、俺はどうしても、この物語を終わりに出来なくなってしまいました……金槌を叩けばこの物語は終わり、アメリアが元の桃瀬様と戻ってくる。


 ガタガタと震える手がそれをさせてはくれない、何故なら……今、俺の前に映る幸せな光景は、俺たちがぶち壊した桃瀬様の——


(本来の姿ではありませんか……)


 人として本土に渡り、笑顔で恐る恐るでも人との関わりをまた初めてらっしゃる……(くそ……涙で見えん)、何故、何故二人に別れた……俺にもう一度奪わせるのか!


 これ程までに世界は俺を赦してはくれぬのか……(くそ、くそ、くそ)



「ねえ、そろそろアメリアを返してよ」


 その時、俺の気持ちを知ってか知らずか、のんびりした声でカイル殿が話しかけて来た。

 この部屋に彼が入った時から、既に異常な存在だとは気付いていた……例えるならアリの中にライオンが居る。存在自体が異質な人物、いくら威厳を振り撒いても効果もない存在。


 『桃太郎』がいい例だ……


 ずっと、どう扱うべきか分からない存在だったので、俺は彼の『クレメンティア』への干渉を拒んだ。彼はすぐに諦めたかの様に下がってくれて、今まで大人しくしていてくれたが。


 その特異点が仲間を戻せと言ってきた……ここまでなのか、と諦めようとした時。彼はクレメンティアを徐ろに触れて一言、言った。


「なるほど、身体を複数作って正解だったね」


「な、何を言っている?」


「え? 二人のティアを解放するんでしょ?」


 ……頭がおかしくなりそうだった。俺が戻せる魂はこの剣の意志である、元の桃瀬様だけだ。この記憶の世界で産まれたもう一人の『桃瀬紅葉』は違う……俺は見ていた。一人になれるタイミングで、元の桃瀬様は袂を分つ事をお選びになった事を。


 理由は本人にしか分からない、俺が見えるのは魂だけで心の内ではない。魂が二人に分かれた、その結果が全てだった——


 この部屋に居る俺にすら出来ない事をこの男はあっけらかんと、「解放するんでしょ?」だと……


「や、やれるのか?」


「……その為の依代じゃないの?」


「——いや、そう言うわけ……いや、出来るならやってくれ」


 何故かは分からないが一瞬『ビブリナ』様が過った……姿のせいかと思ったが、本当にそれだけなのか? だが、それもすぐにわかるだろう……カイル殿は今度は剣に手を突っ込み、何かを始めた。


「アメリアと片方のティアは任せていいんだよね?」


「ああ、当然だ」



【カイル】

──────────


 どう見ても、もう終わっているはずなのに、一向に動かないドワーフ王に痺れを切らして聞いて見たけど、なるほどね。


 僕には想像はつかなかったけど、まさかティアの魂が二つに分かれるとか、中々に面白い状況に……それで依代が必要だったのかと思った。


 僕が幾つか作るのも想定済みとか、どこまで先が見えているのか……あの言葉数でよく思い通りに誘導出来たものだよ。


 今回も何も出来なかったし、最後くらいは報いないとね。ただ、今回は中に入らないと出来ない……そして、問題はもう一人のティアはアメリアたちから離れ過ぎている。片方を引っ張ったら他は僕には出来ない、ドワーフ王に合わせる必要もある。一度も試してないから、ぶっつけ本番になるけど、王もやる気みたいだし大丈夫かな?



——さて、入ろう。


 今回は精神体ではなく、身体ごと入っていく。ヒアはエルに一応任せてある。が、二人はティアの身体の細かいところをあーだこーだと直している為、僕がこれからする事なんて気にも止めてない。


 楽しそうで何よりだった。

 

 さて、まずはもう一人のティアがどちらを選ぶか聞かないとね。


「王様、聞こえていると思うから言うけど、ティアが断ったら諦めてね。無理矢理はしないよ」


「——ああ、それなら仕方ない。それと『桃瀬紅葉』だ。間違えると怒られるぞ」


 ティアの中に入り、ティアがいる所を探し始めた所で王の声が聞こえた……一方通行かと思ったのに会話できるのかい! 何でもありだなもう。


 桃瀬紅葉は直ぐに見つかった。それは、まあいい、そんなことより僕にとっての最後の問題も、あっさりクリアーして驚きを隠せなかった。


(人が……人が平気だと……)


 あの部屋と同じ構造なのかな? 記憶の世界だからか? 人だと僕は認識してるぞ? 桃瀬紅葉が一人になるのを待とうと思ったが、これなら大丈夫かもしれない。


 可能性として、最悪、桃瀬紅葉はティアだから大人の姿でも大丈夫だと思った。一度、精神体で入った時に人間のティアを見て何とも思わなかったし、依代を使い王の部屋から出ても大丈夫かを試してみたが、平気だったので問題ないだろうと、たかを括って来たが杞憂だったね。


 もし、この結果が記憶世界のおかげなら、将来、王に頼んで誰かの記憶の世界に移住するのも良いかもしれない。


 僕は街に降り立ち、賑やかな人混みを歩きながら今まで感じることの出来なかった世界に酔いしれた。ほんの数分くらいの事だったが痺れを切らした王に怒られた……


 今回はマジでごめんなさい。


 人混みに普通に入れるなんて二度となさそうだし、桃瀬紅葉の所に向かうついででも、そりゃ怒るよね。アメリアは知らずに、この世界にまだ閉じ込められているわけだし……


 仕方ない、商店街みたいな賑やかな大通りを通り、桃瀬紅葉の反応がある建物の前に来ると、男の怒鳴り声が聞こえてきた。


「有名な退魔師だと聞いたのにとんだ役立たずだ! 出てけ!」


 女性が怒られて文句を言いながら、お店みたいなとこから出て来る。


「なんじゃ、退魔師を人殺しかなんかじゃと思っとる奴の仕事など、受けるわけも無かろう……」


 ガッカリした表情で僕の横を、横切って行ったのがティアの半身の桃瀬紅葉か……

 さて、いざ目の当たりにすると、どうしたらいいのか分からない。考えあぐねていると、まさかの桃瀬紅葉がこっちに戻ってきて、僕の前に立ち塞がった。


「お主、先程からなんじゃ? 妾の事を見ておったが、何かようか?」


 おー、さすが退魔師? 僕が見ていたのバレてたんだね。


「よく分かったね。凄い」


「……阿保か? 意識も隠さず見られたら、誰でもわかるぞ!」


 ……知らないよ。人を見るのに意識とか……普段は全部隠してるから、そんなルールがあるなんて聞いた事もなかったよ。


「はい、阿保です。ちょっと話があるんだけど、何処か人気のないとこ行かない?」


 鬼ヶ島に飛んで、アメリアたちと合流するのもありなんだけど……まぁ、最悪そうしよう。


「……お主……まぁよい、ついてこい」


 含みがあるよね。僕はただ、話があるだけなのになぁ。歩き出す桃瀬紅葉の後を追う——



——結構歩いたけど。本当に人気のない……どころか、人っ子一人居ない荒野に辿り着いた。アメリアの世界も街の外は人がいなく僕にとっては素晴らしい場所だったが、この世界はなんか寂しい……手入れも何にもされてない場所だった。


 まぁ、これ以上歩いてもしょうがなそうだし、そろそろ話をつけようと思い切り出す。


「この辺でいいよ」


「そうじゃな。さて……お主、何者じゃ?」


 と、言って刀を抜く桃瀬紅葉……これは、あれだね、『勘違い』してるね。正直、めんどくさい……何がいけなかったんだろう。


 一応弁解をしてみようか……


「あの、桃瀬紅葉さん。何か勘違いを——」


 僕の言葉で殺気が増す……(えー、どうすればいいの)これはもう、殺るのね……でもなぁ、どこまでやって大丈夫なのかな、仕方ない、少し様子を見ようか。


「……ほう、見た目に反して、妾の殺気に動じぬのは流石と言うべきか。じゃが、腕の二、三本は覚悟せよ——」


 そう言って、僕に向かって刀を振り抜いて来た。なんだ、二、三本で良いならお安い御用だ……そう思い、先ずは両手を差し出す。


 僕は特に防御もせず、桃瀬紅葉の攻撃を受け入れた。すれ違いざまに右腕をまず切られた——通常、人の腕は二本しかないので切られた右腕を念糸で引き寄せくっ付ける。


(よし、これで後二本だね)


 そう、思って浮かれていると桃瀬紅葉の表情が曇りだし、すぐに高笑いと共に無茶苦茶言い出した。


「くはははは……まさか妖魔がこんな所に紛れ込んどるとはな! しかし、相手が悪かったな」


「相手って、桃瀬紅葉でしょ? さっき言ったじゃん。もうさ、勘違いするのやめてくれない?」


「ぐぬ、名を何故知っているかも、合点がいく——」


 長そうなので会話に被せる。


「まぁ、頼まれたからそりゃ知ってるよ」


「ほう、やはり誰かの手の者か!」


「そうだね。ドワーフ王さんのお願いだよ」


「ドワーフ王? 知らぬな……」


「そりゃ、僕もよく知らないし」


「……話にならぬな」


「僕も、君がそんなに話を聞かない人だとは思わなかったよ」


「馬鹿にしておるのか!」


「してないけど」


 顔を真っ赤にして怒り出したんだけど……なんでよ、何が悪いの? なんかもう、連れて行くのは無理かもしれない……


 諦めようか迷っていると、複数の人間に囲まれている事に桃瀬紅葉がやっと気付いたみたいだ。


 街からずっとつけて来ていたけど何なんだろ、とりあえず今は何も言わない方が正解かな……火に油だろうし……


「ほう、お主の時間稼ぎは成功じゃの」


 また……途方もない勘違いだね。一生、分かり合えないんじゃないだろうか……もう、ほんとめんどくさいから一言聞いて、答え次第で周りの人には退場願おう。


「違うと思うけど一応、周りの人達は知り合い?」


「ほう、白々しいのぅ……どう見ても妾を殺そうと殺気を放っておるではないか——」


「あ、なら良いね」


 パチンッ——指を鳴らすと目視出来る周りの数十人の人間が吹っ飛んだ。


ドゴーーーーーーン

 ふぅ、こんなのでスッキリするのも何だかなぁ……さて、ドワーフ王には謝って諦めよう。


「もう、無理そうだから帰るね」


 いきなりの状況に、顎外れるくらいビックリしている桃瀬紅葉は、何故か僕を止めてきた。


「待てーい! なんじゃ、仲間じゃないのか? お主は一体誰なんじゃ! 説明せい」


 えー……こっちがいくら話そうとしても、勘違いしてたのはそっちなのに……仕方ない、もう正直に話そう。


「僕はアメリアの師匠で、この世界から君を解放する為に来たんだよ」


 僕の説明の最初だけしか理解できなかった桃瀬紅葉はその後、散々僕に質問を繰り返して、やっと理解してくれたようだ……なんか、こんなに疲れるなら人と関われても良い事がないかもしれない。


「ほう、アメリアはこの世界の住人ではなく、外の世界へ解放されたら妾の存在が消えるから、妾も連れて行ってくれると?」


「そう、どっちでも良いから決めて。アメリアもいい加減、この世界から出してあげたいしさ」


 まぁ、これはゆっくり決めてよ。桃瀬紅葉……君の問題だしね。



桃瀬紅葉ももせくれは

──────────

 

 この状況は一体なんなんじゃ? 此奴がアメリアの師匠と言う事は、陰陽道に精通しておるのか? だから腕を斬っても無かった事に……なるほどのぅ、つまりこの世界も夢か何かで、鬼の話も妾の体験も何処かでまやかしに掛かったという事か……


(ずっとおかしいと思っておったのじゃ!)


 アメリアの存在自体が不可思議すぎた。だが、アメリアの師匠の話を聞いて合点がいった……いつからこんな事になったのか、わざわざ上のお方が妾を助けに来てくれたのなら有難い限りじゃ。


 今までの非礼を込めて、しっかり頭を下げぬとな。


「よろしく頼みます」


 深々と頭を下げた——


 

【カイル】

──────────


 なんか、全く分からないけど……来るらしい。正直なんで急に? って思うけど、もう別にいいや。あ……あれだけは伝えないとね。


「因みに、元の世界に身体が用意してあるので、好きなの選んでね。時間がないけど、一度しか選べないから慎重にね」


「ど、どういう事なのじゃ?」


「んー、まぁ、行ってみないと説明しずらいからとりあえず、それだけ忘れないでね」


 さて、なんだかんだ僕って凄いね! 王に話さないと。


(終わったよ。一緒に来るって)


(……結果だけは感謝する。お主に合わせるのでいつでもいいぞ)


(分かった)


「じゃあ、今から出るから受け入れて。少し痛いよ——」


 僕は桃瀬紅葉の腹に一撃食らわせた。


ドゴッ


 よし、帰ろう——






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