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14.真実と機関

「亡骸って……死体ってことか?」

「はい。といってもおそらく……“向こう側”の方々だとは推定されていますが」


 以前まで、ダンジョンと言われて思い浮かぶのは金銀財宝の眠る遺跡のようなイメージで、俺もその例に漏れずにダンジョンに対しては何かこう……夢のある場所だと思っていた……が。


 ヤマネコの話によると……どうやらそうでもないらしい。


「“機関”が対策するよりも早くそうした噂が出てしまい……かなり後手に回った対応を強いられました。各地の支部から直接侵入した方を助ける……ある意味で強攻策でしたが」

「……ニュースで死人が出たのを見たんだが……」

「あれは嘘です。、いわば……苦肉の策です……が、それでもダンジョンへ侵入する人々は減らないまま。実働部隊である私はいろいろな所へ駆り出されている……と、少し話が脱線しましたね」

「……いや、ごめん。俺が変な質問をしたせいだ」


 気を取り直して……というのも変な話だが、俺は少し深呼吸をして……再度ヤマネコの方へ向き直る。


「ダンジョンの中の亡骸……おそらく、彼らに手をかけたのは……ヴィオレッタだと思います」

「……? なぜ、そうだと?」


 確かに、“王女”からは冷酷そうな印象を受けたが。


「あの世界が仮に──プログラムというデータで構成されていると仮定しますね。だとすれば……データの絶対的な“量”は……上限が必ずあるはずなんです」

「……上限、か」


 ヤマネコの話を上手く咀嚼できないが、おそらく……スマートフォンの容量のような感じだろうか? アプリケーションを大量に入れすぎてストレージがパンクしそうになっている、みたいな。


「ストレージというよりは……メモリに近いでしょうね。あの世界はおそらく……かなり“ギリギリ”の状態で動き続けているのだと思います。だからこそ──」

「……“不要なデータ”を処分しないと、世界そのものが崩壊する、と」


 しかし、仮にそうだとすれば……ヴィオレッタはどのようにして世界が“作り物”であると気づいたのだろうか? 彼女からすれば、プログラムやら何やらは、未知どころか“外なる世界”の代物だ。

 そういえば……あの世界でエーテル技術をもたらしたのがヴィオレッタとか言ってたな。ますますきな臭くなってきた。一体……彼女は何者なんだろうか。


「それは、まだ。いずれにせよ──既に“あちら側”と“こちら側”は繋がってしまっている状態です。その状態で“異世界”が崩壊すれば……現実の世界にどんな影響があるかまでは分からない」

「……“機関”はどう予測しているんだ?」


 俺の言葉に対して、ヤマネコは少し言い淀む様子を見せる……が。すぐにこちらに対して“答え”を話してくれた。


「……機関は……ダンジョンという“トンネル”を通じて、こちら側の世界まで崩壊してしまうのでは無いか……という最悪の想定のもと、動いています」

「……おいおい、それは……」


 考えすぎだ、なんて言えないだろう。既にダンジョンは世界中に現れており……“エーテル”とやらが変な影響を与えていないだけまだマシだ。 それだけで、こちら側の世界に何も影響が無いと結論づけるには早すぎるのだろう。


「だからこそ──機関の主目的は“向こう側の調査”なんです。あちら側……九重(ここのえ)さん、あなたの作った世界を、私たちは刺激したくない。それに……」


 ヤマネコは言葉に詰まりつつも……真剣な眼差しで俺の方を見て言う。


「……あの世界にあるのはデータじゃなく……確かに、“人”が生きている。組織の意見とは……真逆ですが」


 ヤマネコは、苦笑いしつつも、そう告げた。



 休息。“機関”とやらが俺に命じたのは……とにかく休めということだった。ヤマネコも一度“極東”の支部の方へと戻るらしく……俺は久々に一人きりの時間を堪能している。

 ……いや、堪能していると言っても……ただただぼうっとしているだけだ。その原因は……俺の目の前の机の上に開かれた、ある“ノート”にある。


 下手くそな汚い字で書かれているのは……“設定”という二文字。


「……ずっと、見ないつもりだったんだがな」


 俺は……あの“痛々しい”記憶を消し去るためにこのノートを引き出しの奥底へと封印していた。だが……それでも、このノートのことを忘れたことは一度たりとも無い。


 嫌いな記憶でも、忘れられない。頭の片隅にいつもある“空想”を初めて形に変えた思い出は……俺の脳内で常に輝きを放ち続けている。


 直視できないほどに眩しく、直視したくないほどに嫌いな思い出。俺は愛憎入り交じった思いを抱えつつも……少しずつノートのページをめくっていく。


「……懐かしいな」


 “設定”と表現するにはあまりにも大雑把すぎる言葉の羅列が見開きの一面を占拠している。後から見返すことを何も考えていない、猪突猛進のごとき書き方だ。いやはや、過去の自分を怒鳴ってやりたいね。


「……ん?」


 俺は、まさに“書き殴られた”ノートをひもとく中で……ある文言を見つけた。無意味な文字の濁流の中にあるそれは──。


『ヴィオレッタ。敵。ラスボス。人に悪いことをして主人公に倒される。強い。でも、弱い』


 ……過去の自分を殴りたい気持ちが更に強まってきた。もはや文章にもなってないぞ、これ。


 そのまま、紙の上で指を動かしながら……更に別の“設定”を見つけた。


「……恨むぞ、昔の俺」


 できれば、見なかったことにしたい。だが、一度脳内に刻まれた記憶を消す事なんてほぼ不可能だ。俺の脳のシナプスに強く刻まれたのは──。


『ミーシャ。エルフ。主人公。優しくて強い。ラスボスを倒す』


 そんな、文言だった。

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