出産
ノエル視点です
「じゃあ、このブレスレットは俺が預かるから、ノエルは新しいのをつけてて」
魔力を吸い上げたブレスレットをアイン様が自分の腕につけて、代わりのブレスレットを私の手首につけてくれます。
これは、お腹の赤ちゃんの魔力によって魔力過多症になった私にとっては大事なこと。
常時魔力を吸収させていないと、私の身体が壊れてしまうから。
最初にマリアンヌお義母様から魔力過多症について話を聞いたときには、出産まで私の身体がもたないから、最悪の場合お腹の赤ちゃんを諦めることになるかもしれないと聞かされました。
私のお腹に宿っている命。
それを奪ってしまうのはどうしても嫌で、アイン様の胸の中で何日も泣きました。
それなら、いっそお腹の赤ちゃんを優先してほしいと思いました。
アイン様は、それだけは許さない、と仰って、「きっと何か手段があるはずだから」と慰めてくださいました。
お母様とお祖父様の共同作品である魔力吸収ブレスレットが出来たときには、本当に嬉しくて涙が止まらなかったことを覚えています。
ブレスレットのおかげで、無事、産み月まで後1月というところまで来ました。
産み月に入ったら、ブレスレットは外すそうです。
何でも、赤ちゃんが生まれてくる時に魔力を吸収している状態だと魔力不足になるからだとか。
レモーネの実でどうにかなるものでもないそうです。
赤ちゃん用の産着に刺繍を刺したりしているうちに、気がついたら産み月に入っていました。
先に出産を終えたシエルちゃんとアリアちゃんとは手紙でやり取りしていますが、出産は確かに痛かったけど、耐えられないほどじゃない、というか覚悟していたよりも楽だった、と聞いています。
安産か難産かは、その時になってみないとわからないので、今からドキドキしています。
「ノエルの出産の時は、ジュリアにも付いていてほしいかい?」
「いえ。産婆さんもマリアンヌお義母様もいますから。アイン様にも別室で待っていてもらうようにお願いしているんです。
お母様には、出来ればアイン様の話し相手になって欲しいなって」
夕食の時にお父様に聞かれて答えていると、お母様の顔が強ばりました。
「ノア様!ノア様がそういう事を仰ると、必ずその日のうちに産気づくんです」
「え?そんなこと無いだろう?」
「子どもたち三人が生まれたときもそうだったではないですか」
初耳です。
ということは、もしかしたら今夜半あたりに陣痛が始まるのかもしれません。
私は食事を終えて部屋へ戻ると、いつ陣痛がきてもいいようにベッドに横たわりました。
あら?
アイン様が何か不安そうですわね。
「アイン様。どうかなさいましたの?」
「いや、急に横になるから、どこか具合でも悪いのかと……」
「具合が悪いわけではないですわ。これは陣痛にむけて……」
私がそういった途端、お腹がシクシク痛み始めました。
お父様のジンクス怖い!それにしても早すぎませんか?!
私は手元の置き時計を見ながら、陣痛の感覚を測り始めました。
「ノエル?」
「アイン様。陣痛が始まったようです」
「え!じゃあすぐにお義母様を……」
「そんなに急がなくてもまだ余裕があるから大丈夫ですわ。
落ち着いて?アイン様」
波が寄せては返すように痛みが訪れますが、まだこの間隔なら余裕があります。
「アイン様。マリアンヌお義母様を」
「わかった。メリー、ノエルを頼む」
「かしこまりました」
そろそろかな、という頃合いでマリアンヌお義母様を呼んでもらいます。産婆さんも一緒に来る予定です。
マリアンヌお義母様と産婆さんは私から陣痛の間隔を聞いて、袖をめくりあげました。
「さあ、始めましょうか。アインは隣の部屋へ。すぐにジュリア様が来るはずだから、とにかく落ち着いてお茶でも飲んでなさい」
なかば追い出されるようにアイン様が部屋を出て、私は痛みを逃しながら子供が降りてくるのを待ちます。
そして始まった出産。
確かに痛いは痛いですけど、何とかなる痛さです。
徐々に痛みが強くなってきて、必死にいきんでいると、ブワッと部屋の中を風が舞いました。
「赤ちゃんの魔力ね。生まれるときから魔法を放つなんて、とんでもない子だわ」
部屋の中の風は段々酷くなり、それにつれて私の痛みも強くなります。
「頭見えた!はい、あと一息!」
そこから先は、なんだか頭がボンヤリしています。
赤ちゃんの泣き声は確かに聞こえて、部屋の中を風が舞って。
「お疲れ様。元気な男の子よ」
マリアンヌお義母様に赤ちゃんを胸の上にのせてもらって、ようやく産まれたんだ、と実感しました。
アイン様とお母様も部屋に入ってきて、私の頭をなでてくださいました。
「ありがとう、ノエル。頑張ったね」
アイン様の優しい声を聞いた途端、なぜだか涙が溢れてきました。
「あらあら。泣き虫なお母さんね」
お母様が優しく微笑みます。
「名付けはどうするの?くじ引き?」
お母様……それは王家の中だけにしましょうよ……
「私が命名することになっています」
アイン様は優しく赤ちゃんの頭を撫でて、言いました。
「この子の名前は、アンジェロ。私の天使が産んだ、可愛い天使だから」
事あるごとに私を天使、と言ってくれるアイン様ですが、さすが、ブレませんね。
お父様やエリクお義父様、お祖父様とお祖母様は私の身体が落ち着いてからお見舞いに来てくださるそうです。
エリザベス様の産んだ赤ちゃんとは1歳違いくらいですから、将来一緒に遊べそうですね。
そして、それから数日後。
お兄様達やお祖父様達がお見舞いに来てくださいました。
エドワードお兄様は自分の子供がいるからか、慣れた手つきで抱っこしてほっぺにキスをしただけでしたが、アルは、感動のあまり顔を真っ赤にして、涙ぐんでいました。
それから一年の間、毎日アルがアンジェロに会いに来ることになるのですが、この時はそんなこと思いもしていませんでした。
魔力過多症も出産によって無事治り、アイン様と2人、睡眠不足になりながらそれから数ヶ月を過ごし、アンジェロはスクスクと大きくなっていきました。
髪の色は私似。瞳の色はアイン様似です。
身体は大きすぎず小さすぎず。
「ああもう。こんなに可愛いならもう一人いてもいいね」
「そうですわね。兄弟がいたほうがこの子もいいでしょうし」
そんな先の話をしながら、私達家族は今日も幸せいっぱいです。




