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ある令嬢の独白

長らくお休みをいただきました。

今日からまた、手隙のときに再開します。



何でこんなことになってしまったのかしら。


男爵家の狭い離れの、更に狭い部屋で考える。


本当なら、大国トリスの侯爵家嫡男の婚約者になっていたはずなのに。


あの時、ルシアンで「あの人」に出会ったことは、私にとってラッキーだったはずなのに。


「あの人」は言った。

対象は一人に絞らなければ無理だけど、私は魅了魔法が使えるから、トリスに編入したら王女殿下の婚約者だって奪えると。

王女殿下の婚約者が地位もあって見た目もいいことはミモザでも有名だったから、そんな素敵な人と恋をして将来は侯爵夫人になれるなんて、夢みたいだと思った。

王女殿下は、どうせ男性なんて選び放題なのだろうから、一人くらい奪ったってバチは当たらないと思った。


「あの人」に、なんでそんなことを教えてくれるのか聞いてみたら、自分は本来ならトリス国王の妃になれるはずだったのに、現王妃に邪魔をされて、母国を追放され、爵位も失ったから、その仕返しだと言ってた。

トリスの王妃様は人格者として有名だけど、そういう汚い部分は隠されるんだな、と思った。


そんな人の娘なら、別に婚約者を奪ったっていいよね?


私は自分の美貌には自信があったし、そこに魅了魔法までつくなら、きっと王女殿下の婚約者だって私を好きになるはず。


私は自信と略奪する気まんまんで、トリスに編入した。


王女殿下の婚約者は、バトン様といって、噂通りすごく素敵な人だった。

入学式が終わった翌日、少し元気のないバトン様に話しかけてからは、面白いくらいこっちの思い通りに話が進んだ。

最初は恋の相談をしていたはずのバトン様は、思春期特有の反抗期もあったのか、あっという間に自分の伴侶は自分で選びたい、と言い出して、みるみるうちに私と距離を縮めて恋人になった。


バトン様が、婚約を破談にすると言ってくれて、私はすごく嬉しかった。

これで、候爵家嫡男の婚約者の地位が手に入る、と。


でも、いざ話し合いが終わってみれば、バトン様は廃嫡・勘当されて平民に成り下がった。

バトン様はそれでも私と結婚するつもりだったみたいだけど、爵位もないような顔だけの男なんて願い下げ。

爵位がないなら結婚しない、とバトン様に伝えたら、王女殿下に頼んですぐに勘当を解いてもらうように頼むから、と言ったから、私はそれを信じて待つことにした。


でも、その後すぐ、私はミモザの実家に呼び戻された。

お母様は泣いていて、お父様は顔を真っ赤にして私の頬を叩いた。



「何をするんですか!」



キッとお父様を睨みつけると、襟首を掴みあげられた。



「お前は……自分が何をしたかわかっているのか!よりにもよってトリスの王女殿下から婚約者を略奪するなんて……!」


「私達はただお互いに恋におちただけです!」


「そんな言い訳が通用するか!本来なら婚約者のいる異性には不用意に近づかないのが礼儀だろう!そんなこともわからないのか!」



婚約者のいる異性には不用意に近付かず、ましてやスキンシップなどもってのほか。

そんなこと私だって知っている。

でも、結果としてバトン様だって好きになってくれたんだからいいじゃない。


そう思ったのは私だけみたいで、私は勘当されて、通っていた学園も知らない内に退学扱いになっていた。


すぐにミモザの貴族仲間に連絡をとったけど、殆ど返事はなくて、返ってきたものも殆どが今回の騒動を知っていて、二度と連絡をよこさないでほしい、と言うものだった。

後を追うようにバトン様から届いた手紙には、説得が失敗に終わったことが記されていた。


私はトランクに入るだけの荷物とアクセサリーを詰め込んで、お父様に言われるまま家を出た。


最初の数日は手持ちのお金で宿に泊まっていたけど、それもすぐに底をついた。


バトン様は私を追いかけてミモザまでやって来たけど、正直邪魔でしかなくて、おまけにここに来るまでにお金も使い果たしたらしく、本当にお荷物だった。

別れたいと言ってもついてくる。

学園にいた頃はそんな情熱的な所も好きだったけど、平民に落ちた今は話が別だ。


持ってきたドレスや貴金属を売って、日々の生活に充てる。

その頃には、私はどこかで働いて、次のターゲットを探すつもりでいた。


それに対して、バトン様は働くつもりなんてさらさらないらしい。

もっとも、その気があったとしても、バトン様にできる仕事なんてないだろうけど。


ちょっと高級なレストランで働き始めて、有望そうな貴族に粉をかけたりしたけど、どういうわけかみんな迷惑そうにするだけで相手にしてくれなかった。

きっと、トリスでのことが知れ渡ってるんだろう。

レストランのオーナーからも、「うちはそういう店じゃない」とクビにされた。


きっと、トリスの属国では私達の話は貴族たちに伝わっているに違いない。


私は決心を固めてルシアン王国に移動した。

バトン様も、着いてきたけど、魅了魔法が切れたからなのか、私にはもう恋愛感情がないらしく、別々に暮らし始めた。

だから、それ以降のバトン様がどうなったのかは知らない。知るつもりもない。


私は貴族がお忍びでやってくる酒場で働き始めた。

何人かの貴族に魅了魔法を使って近づいてみたけど殆ど相手にされず、唯一、ロンバード男爵がひっかかった。

ロンバード男爵はもう中年だったけど、贅沢は言ってられない。

男爵夫人だって、とりあえず社交界には出られる。


そう思っていたのに。


ロンバード男爵にはすでに奥様もお子様もいて、私は「囲われる」形になった。

本宅から遣わされた使用人達は皆愛想がなくて、私に与えられた離れも、日当たりが悪くて常にジメジメしている。

社交界になんて、当然返り咲けるはずもなかった。


今日も一人で粗末な食事を口に運びながら考える。


自分は、一体どこで道を間違えたのだろう、と。

出す予定のなかったアリスちゃん、ちょこっと復活。

裏で糸を引いていたのはあの人でした。

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