妊娠ラッシュとそれぞれの家族
ノエル視点です
シエルちゃんとアリアちゃんの結婚式が無事終わり、早いものでもう1年が経ちました。
今日は学園もお休みの日。
普段はアリアちゃんが冬の離宮にいてなかなか会えないのですが、久しぶりにみんなでお茶をしようということになり、我が家の庭園でお茶をしています。
その中で……シエルちゃんとアリアちゃんのお腹はすこぅしだけ膨らんでいます。
そう、妊娠したのです!
「お二人とも、妊娠おめでとうございます。それにしても、早いですわね」
そういうルディちゃんの左手薬指にはマイク王子から贈られた婚約指輪。
「それはほら、ねぇ……」
アリアちゃんがシエルちゃんに言います。
「私たちは夫が随分歳上でしょう?だから、少しでも早く子供を、と望まれて……」
途端にボボっとみんなの顔が赤くなります。
子供はコウノトリが運んでくるわけでも、りんごの木の枝にできるものでもないということは、流石に知っています。
つまり、その……夜の生活を頑張った、ということですわね。
みんな恥ずかしくて口には出しませんけれど、考えていることは同じです。
「ノエル様のところは、まだ……?」
私はその言葉に頬を染めました。
「あら?」
「あらあら?」
そう。
私もつい最近妊娠がわかったのです。
「おめでとうございます、ノエル様」
「ありがとうございます」
みんなに笑顔でお祝いされて、なんだか少し照れくさいです。
ちなみに、お父様とお母様に報告した時は、お父様は真っ青になったり真っ赤になったり忙しく、キッとアイン様を睨みつけました。
「アイン、私との約束はどうなった」
お父様の低い声にアイン様が謝ろうとする前に、お母様がケロッとした顔で言いました。
「私が許可を出しました」
「私もですよ」
お祖母様も続けます。
とどめを刺すように、マリアンヌ様が言いました。
「私ども夫婦も、早く孫の顔を、と伝えましたわ。ノア陛下は孫の顔を見たくないのですか?
ノエル様が妊娠できない身体だと噂を立てられてもいいと?」
「ぐっ……」
お父様は女性陣に言い負かされて、完全に言葉を失いました。
それでも、最後の悪あがきのようにアイン様の肩を掴みました。
「アイン、よくやった」
言葉とは裏腹に手にはかなりの力が込められているようで、指先は真っ白になっていますし、アイン様の顔も強張っています。
「………っ、ありがとうございます」
アイン様が言葉を返すと、お母様がニコニコと言いました。
「男の子と女の子、どちらかしらねぇ。きっとノエルとアインくんの子供なら可愛いこと間違いないけれど、どちらに似るのかも楽しみね。ノア様、私達の孫ですわよ?」
「孫………」
途端にお父様の顔が崩壊しました。
こんなにユルユルに緩みきった顔は、お母様とイチャついている時くらいしか見たことありません。
エリクお義父様もマリアンヌお義母様もとても喜んでくださいましたし、みんなに祝福されて、とても嬉しいです。
「ノエル。あなたの子供は、私が責任を持って取り上げてあげるから、安心してね?」
マリアンヌお義母様が笑顔でいいます。
思えば、私達を取り上げてくださったのもマリアンヌお義母様でしたわね。
そう思うとなんだか感慨深いです。
「……様?ノエル様?」
シエル様が私を呼ぶ声に、ハッと我に返りました。
「ごめんなさい。ちょっと、お父様に報告したときのことを思い出していて」
シエルちゃんとアリアちゃんが、ああ、と複雑な顔をします。
「やっぱり、お二人も?」
「ええ。お父様がショックを受けたり喜んだり、大騒ぎでしたわ」
「私の実家もです。でも、ヨハン様は離宮に家族が増えるととても喜んでくださって、カルーア国のルカ国王からもお祝いが届きましたわ」
カルーア国は1年ほど前に国王が代替わりをして、ヨハン殿下の双子の兄のルカ様が国王に就任したのです。
「私のところも、クラウディウス本家からお祝いが届きましたわ」
赤ちゃんというのは、こうして周囲に祝福されながら生まれてくるのですね。
自分が生まれたときのことはさすがに記憶にありませんが、お兄様がとても喜んでくださったと聞いたことがあります。
アルが生まれてきたときのことがあまり記憶にないのが残念です。
アルと言えば……
「今、アルはルディちゃんとティアちゃんと同じクラスなのですよね?」
「ええ。アルフォンス様は飛び級で進級されましたから。さすが、アルフォンス様ですわ。主席で卒業するのでは、と今から噂になっていますわ」
アルは私との約束通り勉強に精を出して、女の子とのデートもピッタリやめてくれました。
それにしても、どうしてそんなに早く卒業したいのかは分かりませんけれど。
順調に飛び級するなら、来年度にはもう最高学年です。
我が国開闢以来の天才と呼び声高いアルの目的が分かりません。
ただ、とても努力していることだけはわかります。
「アルはどう?クラスで浮いたりしていない?」
「アルフォンス様は元々ガッシリした体型の方ですから、年下という感じもなく、クラスの男性とも違和感なく話されていますわ」
その言葉を聞いて安心しました。
「でも、ノエル様がこんな風にアルフォンス様を心配されるのもきっと今だけですわ。自分の子供が生まれたら、それどころじゃなくなるでしょうから」
言われてみれば、確かにそうかもしれません。
でも、私が嫁いでも子供を産んでも、アルは私の可愛い弟には違いありません。
きっと、アルが大人になっても、こうして心配してしまうでしょう。
「ヨハン様も今はルカ陛下のことを心配されて、手紙でやり取りをしていますけれど、子供が生まれたらやはり子供優先になるのかしら」
「男親は少し違いますからね。授乳期間も関係ないですし」
シエルちゃんが飄々と言います。
「シエルちゃんのところは、ゼル団長がお忙しい方ですから大変ですわね」
「それが……ゼル様は自分も仕事を休んで積極的に子育てをすると言ってくださるのですが、騎士団長がそれでは示しがつかないでしょう?」
私は少し考えました。
今の世は、女性がほとんど一人で子育てをして、男親が関わるようになるのは子供が物心ついた頃からです。
ですが、ゼル団長のように子供が生まれたときから自分も子育てをしたいと考える男性も少なくはないのではないでしょうか。
ただ、仕事があって子育てになかなか参加できないだけで。
マリアンヌお義母様のお話では、生まれてから半年ほどは日夜問わず3時間おきにミルクを上げ、襁褓を取り替えなければならないのだとか。
正直、上級貴族は乳母がいるからいいでしょうが、そうでない貴族や一般家庭では母親一人で面倒を見るのはとても大変そうです。
ならば、父親にも育児の為の休暇を与えてはどうでしょう。
その間、収入がなくなる庶民の家庭には、休暇の間だけ補助金を出すとか……
今夜早速、アイン様に相談して、賛成いただけるようならお母様に提案してみましょう。
「ティアちゃん?ゼル団長のお話、少し私に預からせて頂けないかしら」
「どうかなさいましたの?」
「もしかしたら、いい法案が生まれるかもしれませんわ」
皆さんは首を傾げていました。
アリアちゃんを除いて。
もしかしたらアリアちゃんには、私の考えていることが何となく分かっているのかもしれません。
「それより、悪阻はどうですの?皆さん」
ルディちゃんが興味津々に聞いてきます。
「私は焼き上がりのパンの匂いが駄目で……あと何故か無性に甘いものが食べたくなりましたわ」
「私は食べ物全般が駄目で。お茶なら平気なんですけれど、食べてもすぐに吐いてしまって」
「ああ。私と同じですわね。マリアンヌお義母様が言うには、塩分を制限して、食べられる時に食べられるものを食べるだけでもいいと。食事を三回ではなくて数回に分けて、少しずつ食べるのもいいらしいですわ。ただ、栄養が偏ることはないように、と」
「なるほど。普通の量の食事は無理ですけれど、一回一回が少しの量なら食べられるかもしれませんわ」
「お母様が妊娠した時にマリアンヌお義母様がエリクお義父様に指示したというレシピの写しがありますから、お二人とも持って帰られては?」
私と問いにシエルちゃんとアリアちゃんの目が輝きました。
「よろしいんですの?とても助かりますわ」
シエルちゃんはゼル団長とふたり暮らしの予定でしたが、シエルちゃんとの結婚を機にコックとメイドを一人雇ったそうですから、コックにレシピを渡せば、妊娠中の栄養に気を配ることができます。
アリアちゃんも離宮のコックに渡せばいいですしね。
二人にノートを渡すと、レシピの写しをしっかり書き写していました。
ちなみにうちは、すべてお義父様の手作り料理です。
朝早くから夜遅くまでお城にかかりきりなのですが、忙しい時間を割いて、私の為に料理を作りに帰ってきて下さるようになりました。
「お三方が羨ましいですわ。私も早く結婚して子供を授かりたいですわ」
「結婚まではまだ数年ありますものね。
でも、子供だけは授かりものですから焦らない方がいいですわ」
「ええ。焦るとかえってよくないと言いますものね」
私たちは穏やかにお茶を飲みながら、他にも他愛もない話をして、夕刻前にはアリアちゃんを離宮まで転移させて、お別れしました。
その日の晩、王城での仕事から帰ってきたアイン様に、今日思いついた父親の育児休暇について話すと、嬉しそうに賛成してくださって、明日にでもお母様に提案しに行くことになりました。
まだ妊娠初期の私が馬車に乗ることが、アイン様はとても不安そうでしたが、短い距離ですし、昔に比べてクッションも良いものに変わって衝撃をだいふ吸収してくれるので、たぶん大丈夫でしょう。
私が明日のことを考えてベッドに潜り込むと、アイン様は横に寝そべって私のお腹に触れながら色々とお腹の子供に話しかけていました。
これは、私の妊娠がわかってから毎日のことです。
いいお父様ですね。
私はアイン様の声を子守唄に、そのまま眠りに落ちました。




