憧れの人
ノエル視点です
「若奥様、アルフォンス殿下がいらっしゃいました」
「ありがとう。私の部屋に通してちょうだい」
「かしこまりました」
今日はアルをお茶に誘っています。
学園もお休みの日ですし、ちょっと女誑しみたいになっているアルと話をしてみようと思います。
アイン様はお義母様と一緒に王城へ行っています。
姉弟二人きりなら、何か悩みなどあっても話してくれるかもしれません。
「ご機嫌いかがですか?お姉様」
「おかげさまで元気よ。あなたも元気そうね」
「そうですね」
侍女がお茶の用意をして部屋を出ていくのを見届けて、私は話し始めました。
「今日は、デートの予定は入っていなかったの?」
「入っていましたけど、お姉様とのお茶の方が優先順位が高いですから」
可愛いことを言ってくれますね。
こんなに可愛いのに、女誑し………
クロエちゃんと付き合ってた時は邪魔者扱いだったわね。
お姉様、喜んでいいのか複雑よ?
「アル。あなた、いつまで今のような生活を続けるつもり?」
「運命の相手に出会えるまでですよ」
割とロマンチストさんなのね、アル。
お父様みたいです。
「でも、いろんな女の子とデートする必要はないんじゃないの?
それに、あなたまたボタンが外れてるわよ」
私の言葉にアルはクスっと笑いました。
「ボタンは敢えて外してるんですよ。その方が色気が出ますからね。
女の子とデートをするのは、誘ってきた女の子に恥をかかせたくないからですよ」
「あなた、色気なんて出す必要ないじゃない。
とても見目麗しいのだから。
それに、あなたがホイホイとデートのお誘いを受けるから、みんな期待してしまうのよ。
自分を見てもらえるかと思ってデートをしたのにそれきりなんて、かえってお相手に失礼じゃない?」
アルはソファーの肘置きに肘を置いて、微かに顔をかしげました。
「お姉様はそういう真面目なタイプですからね。私とデートをしたいと誘ってくる令嬢方はみんな、一度きりの思い出でもいいからデートをしたい、自分を売り込みたい、そんな令嬢ばかりですよ」
「それじゃあ、あなたが楽しくないじゃない」
「そうですね……」
それからしばらく黙っていたかと思うと、アルは、ポツリと漏らしました。
「お姉様がもう一人いたら良かったのに」
他にも姉妹が欲しかったのでしょうか。
私では相談役にもなれないということかしら。
しょんぼりした気分が顔に出てしまったのでしょうか。
アルはにこやかに言いました。
「ああ、伝え方が悪かったですね。
ノエル姉様が二人いればよかったのに、という意味です」
私が二人?
そのことが、アルの行動に何か変化をもたらすのでしょうか。
「私の理想は、お姉様ですから。
小さな頃は本気でお姉様と結婚するつもりでした。
でも、エドワード兄様に姉弟では結婚できないのだと教わって、とてもショックを受けたことを覚えています。
それでも、やはりお姉様は私の憧れです」
こんなに慕ってもらえるのは嬉しいですけれど、姉弟では結婚できませんからね。
それは禁忌よ、アル。
まぁ、結婚したいと思っていたのは小さな頃だったみたいなのでいいのですけれど。
「ちなみに、お兄様も小さい頃はお姉様と結婚したいと思っていたそうです」
お兄様、幼い頃から婚約者のエリザベス様がいらしたのに。
まぁ、これも昔の話だからいいでしょう。
「それはともかく、お姉様がお嫁に行ってしまって、私の心の中に、何かポカンと穴が空いたようで」
まさかの姉ロスでした。
確かにうちは、仲の良い姉弟ですけれど、まさか私の結婚がきっかけで女誑しになるなんて。
「その穴を埋めるために、いろんな女の子と遊んでいるの?」
「というより、お姉様に似た令嬢を探しているんですよ。
天使のように愛らしく、誰にでも優しく、努力家で頭もいい。少し鈍くてドジなところもまた愛らしい」
これは、褒められているのでしょうか……
「でも、なかなかそんな令嬢はいなくて。
愛らしい見た目をしているかと思えば肉食獣のように積極的だったり、誰にでも優しいと思っていたら陰口を叩いていたり。頭の良さを過信して努力しない方や、努力家だけど要領の悪い方。
ただ単にドジなだけの方。
私の理想であり憧れでもあるお姉様のような令嬢を、私は今まで見たことがありませんね」
「見る目を養われるのは結構なことだけれど、これからはあまり女の子と遊びに行くのは控えた方がいいわ。あなたの名前に傷がついてしまうのよ?
今のあなたなら、少し話をしただけで相手がどんな女性か判別できるでしょう?」
学園でアルが「遊び人王子」などといった呼び名をつけられたらと思うとゾッとします。
あんなに頑張って勉強して、スキップ制度で入学しましたのに。
「アル。私を理想と言ってくれるのは嬉しいけれど、私思うのよ。
あなたには、あなたにピッタリ合う、私とは違うタイプの令嬢がいるんじゃないかって。
そしてね、そんな方が現れたら、きっとあなたにもすぐにわかると思うの。
しばらく女の子と遊ぶのを控えて、今は勉強に力を入れてみたら?
スキップ制度でまた上の学年にスキップしてもいいわけだし。
学園を卒業したら年齢にかかわらずもう大人ですもの。
きっといろいろな出会いがあると思うの」
「確かに、お姉様の言うとおり、学園内は狭いコミュニティですからね。
卒業してからの方が、相手が見つけやすい、か……」
アルはしばらく考えていましたけれど、何かを思いついたらしく、急に笑顔になりました。
「そうだ。そうだよ、お姉様。学園を早く卒業すればいいんだ」
何について納得したのかはよく分かりませんが、アルの中では答えが出たようです。
「それなら、今後は不特定多数の女の子とデートするのは止めると約束できる?」
「はい。私は学生の間は勉強に本腰を入れます。女の子の相手はもうしません」
「そう、良かったわ。
私もお母様も、心配していたのよ?」
アルは聞いているのかいないのか、頭の中で何かの構想を練っているようです。
思えば、この子はまだ13歳。
男女の恋愛に関してはまだまだお子様思考だったのかもしれません。
それから私達は、家族の話や新婚旅行の話など、他愛もないことを話しながらお茶を飲んで、夕刻にはアルは王城へ帰っていきました。
私は考えが足りなかったのです。
まさか、この時の会話が、アルに伴侶探しの旅に出る決意をさせていたなんて。
私は何も気づかず、ルンルンとアイン様のお帰りを待っていたのです。
後日、突然アルが真面目になったけど、どんなマジックを使ったのか、とお母様が冗談ぽく聞いてこられましたが、私はただ、アルの名前に傷がつくこと、アルにはアルと相性のいい女性がきっと見つかること、学園を卒業してからの方が出会いがあるのではないかと言っただけです。
お母様にもそうお伝えすると、お母様は首を傾げていました。
おそらく、これまでも似たようなやり取りはしてきたのでしょう。
なぜ、私と話して急に態度が改まったのかは、私にもお母様にも分かりませんでした。




