帰国とジュリアの悩み
ジュリア視点です
移動期間も含めての1週間の新婚旅行から、ノエルとアインくんが帰国しました。
私たちにお土産を買ってきてくれたそうで、天使様のご加護のこともあり、帰国した翌日に王城に招きました。
ノエルとアインくんを一目見て、二人が大人の階段を上ったのだな、と分かりました。
ノア様はそう言うところは鈍いので、きっと気付いていないでしょう。
「おかえりなさい。ノエル、アインくん」
「ただ今戻りました。紙鷹は無事届きましたか?」
「ええ。小鳥の姿に出来るようになったなんて凄いわね、ノエル」
ノエルは褒められて少し恥ずかしそうです。
「それに、天使様からご加護を頂いたのですって?良かったわね」
「はい。またお母様に1歩近づけたみたいです嬉しいです」
ノエルは、私にとても憧れてくれています。
どうせ憧れるならモブの私じゃなくて、せめてマリアンヌ様に憧れれば良いと思うのですが。
他に憧れるのにふさわしいモブがいるとしたら、お義母様ですわね。
でも、娘に憧れられるのは嬉しいです。
「新婚旅行はどうだった?」
「とても楽しかったです。アリエル様の神殿に行ったら………」
思い出したのか、ノエルがププッと吹き出します。
代わりにアインくんが話してくれました。
「アリエル様の像の隣に、王妃様の肖像画があり、ロングアイランドの国民に祈りを捧げられていました」
え?
ちょっと意味がわかりません。
アリエル様の像に祈りを捧げるのは当然ですが、なぜ私まで祈りを捧げられているのでしょう。
ただの、隣国の王妃ですよ?
「お母様はロングアイランドでは信仰の対象らしいですわ」
わかりません。
どうしてそうなったのでしょうか。
私がした事は、天使様にお慈悲を頂けるようお願いしただけです。
ああ、ヘンリー陛下の即位式では蝶を飛ばしましたね。
でもそれだけです。
ヘンリー陛下も、生身の人間を信仰しないように止めてくださればいいのに。
これじゃ、生き神様じゃないですか。
次にロングアイランドに行くのが怖いです。
「手紙にも書きましたけれど、ロングアイランドでも孤児や貧困家庭への援助を始めるそうですわ。詳しくお話したので、ちゃんと『貸一つ』と言っておきました」
ふふっ。
頭を抱えるヘンリー陛下の姿が目に浮かびますわ。
私にとってヘンリー陛下は、失礼に当たるかもしれませんが、手のかかる弟のような存在なのです。
あまり構いすぎるとナンシー王妃に悪いので、普段は関わりを持たないようにしていますけど。
「マイク殿下は、ルディちゃんと婚約するつもりらしいですわ」
「まぁ。ルディアちゃん、上手くいったのね」
これで、あのときお茶会に参加した子はみんな恋が成就したことになります。
また、縁結びの力がどうのと噂になってしまいそうですわね。
「王妃様。こちらは私どもからのお土産でございます」
アインくんが渡してくれたのは、細かな彫り細工が見事なアクセサリーケース。
「こちらは陛下に」
ノア様には美しいペンスタンド。
エドワードとアルには、繊細な銀細工で作られた栞を。
「ありがとう、大事にするよ」
ノア様もご機嫌です。
「ロングアイランドの王城の中は、とてもきらびやかで職人の粋が詰まっていて、綺麗でしたわ。王城の内装を担当した職人たちは、今ではそれぞれ商売をしているそうです」
「確かに、外観に反して派手な内装の城だったな」
ノア様がしみじみと言います。
お二人の王女様は、もういい年齢のはずですが、未だに、天使様に追放されたままのようです。
長年染み付いた傲慢で贅沢好きな性格は、なかなか直らないみたいですね。
そこへ、トントン、とドアがノックされ、アルが入ってきました。
「お母様。私はこれからバイエルン伯爵家のご令嬢と出かけてまいります」
「あなた、ついこの間まで別の令嬢とお付き合いしていなかったかしら」
「エルザとはもう終わりましたよ。自己主張が強すぎて、私には合わないと思いましたので」
「………そう」
「アルフォンス。お前は仮にも王子なのだから、あまり浮ついた噂を立てられないように気をつけなさい」
「分かっていますが……なかなかぴったり来る女性に出会えないものですから。
お付き合いしてみないと、本性もわかりませんしね」
ノア様の言葉に軽く答えると、アルは部屋を出ていきました。
「お母様……アルは、女誑しになってしまいましたの?」
「女誑しと言うか……まぁ、女性関係が派手になったのは確かね」
「アル………ボタンもいくつか外れて胸元がはだけていましたし、少しだらしない子になってしまったのかしら」
ノエル。
アルはボタンが外れていたわけではなくて、わざと外して胸元を出していたのだと思いますよ?
まだ13歳のアルがどこでそんな技を覚えてきたのかはわかりませんが。
エドワードの話では、アルは今、色気がだだ漏れてる、と年齢問わずとても人気があるそうです。
そうして近寄ってくる女の子をとっかえひっかえしてデートしているのです。
アリアちゃんに聞いてみたら、ゲームでのアルフォンスルートのアルは、身持ちの固い、しっかりした男性だったようなのですが………
クロエちゃんをヒロインのジンクスから守りきれなかったこと、アルをクロエちゃんに同行させたこと、それらすべて、今のアルを作り出したのですから、私の責任です。
私とノア様は、ハァッとため息をつきました。
「いくら年齢的にはまだ早いとは言っても、こうも令嬢をとっかえひっかえしていては、いい縁談なんて来ないんじゃないか?」
「女泣かせ、などと言われないといいのですけれど」
アルは髪色と瞳の色こそ私に似ていますが、顔立ちはノア様によく似た美形。
しかも第二王子。
そもそも令嬢が放っておくわけがないのです。
一応、どなたともデートをするだけの浅い関係のようなので、それだけは安心していますが。
「アルは、学園を卒業したら早々に政略結婚させた方がいいかもしれないな」
「そうですわね……」
私やノエルが恋愛結婚なのでつい忘れがちですが、この世界、王族や貴族は政略結婚が当たり前なのです。
親同士の決めた婚約者と結婚する。
それはこの世界ではもはや常識と言ってもいいでしょう。
エドワードとエリザベスちゃんも親同士の決めた婚約者ですし。
出来ればアルにも恋愛結婚をさせてあげたいですが、いつまでも今のようにフラフラしているのなら、それは難しいです。
「ノア様もお義父様も一途ですのに、誰に似たのでしょう」
「お祖父様だな。お祖父様も若い頃は浮き名が耐えなかったと聞いたことがある」
クロエちゃんに恋をしていた頃は一途でしたが、記憶を消したらお祖父様に似てしまったようです。
私が嫁いだ頃には他界していましたので、お祖父様がどういう性格だったのかは分かりませんが、一人の女の子を見つけるまで時間がかかるのは、トリス王族の男子には多いのかもしれません。
ノア様だって、女遊びこそしていませんでしたが、伴侶探しに放浪の旅に出ていたくらいですから。
そう考えると、エドワードはお義父様に似たのかもしれません。
ノエル達が屋敷に帰って、間もなく晩餐という頃、やっとアルが帰ってきました。
疚しいことはしていないはずですが、はだけた胸元に、微かに口紅がついています。
今日のお相手はどうやら肉食だった様子。
「アル。一応確認しておくけど、デートをしている令嬢とは、キスなどはしていないんだよな?」
「ええ。していませんよ。今日はちょっと襲われそうになりましたけどね」
クスクスとアルが笑います。
「何度も言っているけど、程々にしておけよ?」
「わかってますよ、お兄様」
アルはハァッとため息をつきました。
「どこかに、お姉様みたいな令嬢はいないものですかね」
「お前、ノエルみたいなのが好みなのか?」
「それはそうでしょう。お姉様は理想の令嬢ですから」
エドワードがシスコンなのは知っていましたが、まさかアルもシスコンだったなんて……!
「確かに、ノエルは可愛いしいい子だけどね」
「ノエルは私達の天使だからな」
男性陣の間でノエル上げが始まりました。
こうなるともう止まりません。
「相手がアインじゃなかったら、絶対嫁になんて出さなかったのに」
「お姉様が変な男にひっかかる前にアインが攫ってくれて良かったよ」
「いや、バトンの件があるだろう?ノエルはバトンにメロメロだったからな」
「アイツの話をしていると腹が立ってくる。ノエルの話に戻そう」
男性陣が、ノエルがいかに可愛く素敵な令嬢かを語り合うのを、私とお義母様は冷めた目でみていました。
私たちもノエルは可愛らしく素晴らしい令嬢だと思っていますが、家族内で誉めあっている姿に、ちょっと引いてしまったのです。
ちなみにお義父様は何も言いませんでしたが、ノエルを褒める言葉にいちいち頷いていたので、きっと同感なのでしょう。
アルの胸元の口紅の跡を見ながら、私はこれからのアルについて頭を悩ませました。




