ドキドキの新婚旅行【後編】
ノエル視点です
「夕食までの2時間、どうしようか」
微笑むアイン様のフェロモンが凄いことになっています。
お父様には絶対に秘密ですが、結婚前既にキスより先に少しだけ進んでいる私たち。
そして今日は新婚旅行1日目。
これはやはりアレでしょうか。
これからそういう事をするのでしょうか。
混乱している間に、アイン様の顔が近づいてきていました。
「ノエルがこんなに可愛いのが悪い」
え、私のせいですか?
違いますよね。
フェロモンダダ漏れのアイン様のせいですよね?
最初は優しく唇を重ねられていたのが、徐々に深くなっていき……
服の上から私の身体を撫でていたはずのアイン様の手は、気がついたら服の中に入り込んでいます。
一応、お義母様から話も聞いていますし、アリアちゃんから借りた本でも勉強していますが、実際に自分が経験するとなると、とてもじゃないですが、冷静ではいられません。
「ノエル。可愛い。心から愛しているよ」
「んっ、わた………」
私もです、と答えたいのですが、アイン様がその猶予をくれません。
もう、気絶寸前です。
いつもなら、私がクラクラしてきたら許してくれるアイン様ですが、今日は手を緩めてくれません。
それからどれくらい時間がたったのか。
アイン様に翻弄されていた身体が不意に自由になりました。
自由とはいっても、余韻がすごくて一人では座っている事もできない状態ですが。
とりあえず、最後まではしておりません。
その、ほんの一歩手前でアイン様が開放してくださったのです。
でも、どうして急に止めたのでしょうか。
何か、私の身体におかしなところがあったのでしょうか。
それとも、反応がおかしかったのでしょうか。
不安になってアイン様を見上げると、顔を真っ赤にして目を逸らしました。
「そろそろ夕食の時間だから必死に止めたのに、そんな顔で見てくるのは卑怯だよ。
私を誘惑しているの?」
「ゆっ……!ち、違います。私に何かおかしなところがあったのではないかと思って」
「それは……私も初めてだからよくわからないけれど、教わった限りではノエルは普通の反応だったと思うよ?」
よかった。
私が変だったわけではないようです。
「ノエル。もうすぐ夕食が運ばれてくるから、その可愛い顔をなんとかして?
そんな顔をしていたら、今まで何をしていたのか、従業員に知られてしまうよ?」
そんな顔、と言われても、自分ではどんな顔をしているのか分かりません。
鏡を見に行こうにも、アイン様にガッチリホールドされているので見ることもできません。
とりあえず、両手でグニグニと顔を揉みました。
「残念、それだけじゃ直らないね」
そういう、アイン様のフェロモンも相変わらずダダ漏れています。
「あと10分もしたら夕食の時間だから、最後に所有痕だけ付けておこうかな」
そう言うと、アイン様は私の首筋に唇を押し付けました。
チクン、とするような痛みがあって、アイン様は私から離れ、首筋を見て満足そうにしています。
所有痕については、噂でしか聞いたことがないので、どんなふうに残るのか、どうやって残すのかはわかりません。
ノエル様が私を膝の上から下ろして下さったので、私はフラフラしながら鏡を見に行きました。
首筋の一箇所が、赤く内出血しています。
ちょっと見、虫さされのようにも見えます。
いつまで残るのかわかりませんが、この程度なら、そんなに恥ずかしくはないですね。
それから夕食が届いて、私たちはロングアイランドの郷土料理をメインとしたお料理を美味しくいただきました。
郷土料理を目の前にして、嬉しいような寂しいような表情をしたアイン様が印象的でした。
夕食を終えると、二人でお茶を淹れてバルコニーへ出ました。
さすが、王都中心部にあるホテルの最上階。
見晴らしがとてもいいです。
ポツポツと見える民家の灯りに、すぐそばで明るく松明で照らされているのは、おそらく王城でしょう。
星空もとてもきれいです。
「ノエル。そのまま空を見ていてご覧?」
執事時代に使っていた懐中時計で時間を確認したアイン様が言いました。
夜空を見上げる私を、冷えるといけないから、と後ろから抱きしめていてくださいます。
アイン様は体温が高めなので、とても温かいし、幸せな気分になれます。
と、その時。
一筋の光が空から降ってきました。
その後も、いくつもいくつも、流れ星が流れていきます。
「本当に運が良かったんだけど、今日は年に一度の流星群の夜なんだ」
「すごい!素敵ですわ」
ああもう。
自分の語彙力の低さが嫌になります。
「そう言えば、お母様も初めてトリスへ向かう時に流星群を見たと言っていましたわ。
なんでもお母様の話だと、流れ星を見たら願い事をすると叶うのですって」
「流れ星に願いを?初めて聞いたな」
「お母様は時々不思議なことを知っているのです。マリアンヌ義母様もお祖母様も、お母様の言うことはたいてい知っているみたいですけれど、男性陣はどなたも知らないのです」
「秘密のお茶会に、何かあるのかもね。何しろ、使用人まで中に入れない徹底ぶりだろう?秘密のお茶会メンバーしか知らない魔術的な情報があるのかもね」
今までそんなに気にしていなかった秘密のお茶会ですが、そう言われると妙に気になってきます。
そういえば、クロちゃんとアリアちゃんも秘密のお茶会に呼ばれているのですよね。
秘密のお茶会、中では一体どんな話が繰り広げられているのでしょう。
「ノエル。私と二人の時は私の事だけ考えて?」
アイン様が私を包む手に少し力を込めました。
確かに、私も二人でいる時にアイン様が他のことを考えていたら、と想像すると、嫌です。
心が狭いと言われようと、嫌なのだから仕方ありません。
「私、お父様に似たのかもしれませんわ。こんなにアイン様を好きで仕方ないのですもの。結婚したなんて、まだ夢の中にいるみたいですわ」
「いや、ノエルは王妃様によく似ていると思うよ?
ちょっと食いしん坊な所も、少しどんくさい所も、人に優しいところも」
なんだか今、褒め言葉の中にさり気なく落とす発言も混ざっていた気もしますが、気にしないでおきましょう。
「身体が冷えてきたね。風呂に入ったほうがいい」
その言葉に、私はハッとあることを思い出しました。
「どうぞ、アイン様から先にお入りになって?」
「そうは行かないよ。レディファーストだよ」
「お願いですわ。アイン様が先に……」
「無理。そんなに言うなら、一緒に入る?」
私はううう、と考えて、仕方なく先に入ることにしました。
夜着を持って、バスルームへ向かいます。
体をきれいに清めて、髪も洗って、湯船に使ってこれからの事を考えていたら、あやうく逆上せそうになりました。
新婚旅行初日からお風呂でのぼせるなんて情けない真似は出来ません。
私は身体を拭いて夜着に着替えると、バスルームを出ました。
「お待たせしました」
「おいで、ノエル。髪の毛を乾かしてあげる」
アイン様の乾かし方はとても気持ちいいので大好きです。
素直にアイン様の脚の間に座ると、優しく乾かしてもらいました。
「じゃあ、次は私も入ってくるよ」
「はい。ごゆっくりどうぞ」
アイン様の姿がバスルームに消えたのを確認すると、私は荷物の中からあるものを取り出しました。
お母様からの特別なプレゼントです。
夜着を脱いでそれに着替えますが………とても恥ずかしいです。
何しろスケスケで、肌の露出も多い、特別な夜着ですから。
「私もお祖母様からプレゼントされたのよ?これでお父様にドーンと迫っちゃいなさいって。
ノエルはスタイルがいいから、きっと似合うわ。
アインくんにドーンと迫っちゃいなさい。
ふふっ、アインくんが気絶しないといいけど」
そう言って渡されたのがこの夜着です。
アイン様は喜んてくださるでしょうか。
というより、ドーンと迫るのはいいのですが、その後は?
その後も私から積極的に事を進めたほうがいいのでしょうか。
アリアちゃんに貰った小説を読み返します。
確か物語の最後の方に、女性から迫るときの描写があったはず。
でもそれを確認するより先に、アイン様がバスルームから出てくる気配がしました。
慌てて本をカバンに戻します。
「おまたせ、ノエル」
タオルで髪を拭きながら、腰にタオルを巻き付けただけのアイン様がリビングに戻ってきました。
どうしましょう。
フェロモン全開!なのですが。
アイン様はアイン様で私の姿を見てピキリと固まっています。
「ノエル。その姿は………私を誘惑していると考えていいのかな」
「アイン様こそ、夜着も着ないでそんな格好を………」
「もちろん、私はノエルをその気にさせるつもりだからね」
誰か!
うちの旦那様のフェロモンが大変なことになってます!
「ノエル。その格好すごくよく似合ってる。可愛いし、綺麗だし、色っぽい」
「アイン様だって、筋肉質で素敵ですわ」
「ありがとう。じゃあ早速、ノエルを頂こうかな」
そう言うと、アイン様は私を軽々と抱きかかえてベッドルームへ移動しました。
ベッドに寝かされて、部屋のランプの明かりを調整するアイン様の後ろ姿を見て、私は思わず手を伸ばしました。
「ノエル?」
「傷跡、残ってしまいましたのね」
アイン様の肩から背中にかけて、剣で斬られた傷跡が残っています。
「私のせいで………」
「これは、私にとって名誉の負傷だよ。ノエルは、この傷跡が気持ち悪い?」
「そんなはずないです!私はアイン様の髪の毛一本から指先まで愛していますわ」
「そんなこと言って………どうなっても知らないからね?」
そう言ってアイン様に抱きしめられて、私たちは名実ともに夫婦になったのです。
ちなみに、アイン様の愛し方は優しいのに激しすぎて、翌日の昼まで私は起き上がれませんでした。
みんなこんなものなのでしょうか。
ただ一つだけ。
この日を境にアイン様は隙あらば私を求めるようになりました。
これも、みんなそんなものでしょうか。
新婚さんて、こんな感じなの?
私の戸惑いをよそに、ロングアイランド王城へお邪魔する時間が近づいてきたので、私は何とか準備を整えました。
アイン様だけツヤツヤのお肌で余裕綽々なのが納得できませんが、いつか仕返ししてやろうと思います。
私はホテルの女性従業員の方を呼んで、盛装用のドレスを着るのを手伝ってもらいました。
「よろしければ、髪のセットとお化粧もお手伝いさせていただきますが、いかが致しましょう」
「まぁ!是非お願いするわ」
私は従業員の方に美しく着飾られ、待っていたアイン様と一緒に王城へと向かいました。




