世界で一番愛おしいもの
アイン視点です
今、俺の目の前ではノエルがくぅくぅと可愛い寝息を立てて眠っている。
ランチのあと、ノエルの口数が少ないな、と思って見ていたら、眠そうな目をこすりながら必死に目を開けていた。
お腹がふくれて、眠くなったのだろう。
だから俺はあえてノエルに話しかけずにいたら、そのうちノエルは完全に眠ってしまった。
ノエルの寝顔を見るのは初めて。
それだけ気を許してくれているのだろうけど、どうしよう、すごく可愛い。
隣に座って肩を貸してあげたいけど、そうするとノエルの寝顔を見れなくなってしまう。
ノエルは初めて会った時から天使だったけど、寝顔なんてもう、本当に天使そのものだ。
じっと見ていると、そのうちフニャリとノエルが笑った。
なにこれ。何この可愛い生き物。
「アイン様……お似合いです………」
寝ぼけた口調でノエルが言う。
どうやら、私の夢を見ているようだ。
起こさないようにクスクス笑って、俺はそっとノエルの髪を撫でた。
またノエルの頬が緩む。
ずっと見ていたいような、でも現実の俺を見てほしいような。
悩ましい気持ちでいるうちに、夏の離宮に着いた。
ノエルを起こして、夢の中で私にどんな服を着せていたのか聞くと、ノエルは真っ赤になって、新しい盛装、と答えた。
でも、目が泳いでいる。
きっと嘘だ。
ノエルは嘘をつくのが壊滅的に下手くそなのだ。
可愛いからあえて深くは追求しないで、夏の離宮の中へ入っていった。
簡単に荷解きをしてリビングへ行くと、既にお茶の用意がされていた。
気の利く使用人だな、と思っていたら、夕食の時間には、夕食ができていると書かれたメッセージカードがドアにはさまっていた。
これは、アレか。
以前先輩執事が話していた、王族の新婚旅行中は使用人が極力姿を見せず、二人きりの気分を味わえるという、おいしい状態か。
まだ婚約しただけで、結婚していないのにいいのだろうか。
二人きりになんてされたら、理性を保てるか自信がないのだけど。
でも、思う存分にノエルを甘やかすことができるし、陛下には手を出すなと言われているけど、王妃様からはちょっとくらいキスより先に進んでも構わないと言われているし、俺にとってはありがたい。
さっそく、ノエルを膝の上に横抱きにして、夕食を食べさせてあげる。
ノエルはすごく恥ずかしがっていたけれど、こんな状況でもなければこんな事できないから、存分に楽しませてもらった。
夏の離宮と言えば、失恋を嘆くノエルとダンスをしたことが思い出される。
どうやらノエルも同じだったみたいで、また二人で踊ることになった。
あの時を思い出して、ちょっと執事に戻ってみる。
ノエルにダンスの上達を褒められて、その流れで、今回の定期テストの結果が上位10名の中に入っていたら、プレゼントを貰えることになった。
俺の好きなものをくれるらしい。
俺の好きなものなんて、1番はノエルなんだけど、ノエルを欲しいといったら、どうするんだろう。
危うくイケナイ想像をしそうになって、ダンスをやめてノエルを温泉に行かせた。
俺はポアロ様の姿を思い出して、暴走しそうな思考を無理矢理平静に戻した。
なのに。
「気持ちよかったですわ。アイン様もどうぞ」
お風呂上がりのノエルは、フェロモンが凄かった。
上気した頬に、濡れた髪、見慣れているはずの夜着でさえいかがわしい。
それに、石鹸の香り。
これ以上ノエルを見ていたら危険だ。
俺はできるだけノエルを視界に入れないように、温泉に向かった。
今更だけど、バトン様が心変わりしてくれて本当に良かった。
その分ノエルは苦しんで可哀想だったけど、二人の婚約が破断になってくれたおかげで、俺はあの色っぽいノエルの姿を見ることができた。
絶対、他の男になんて見せられないし、見せたくない。
風呂から出ると、リビングのドアが開いていて、明かりが漏れている。
まさかと思って中へ入ると、ノエルが湿った髪のまま俺を待っていた。
俺のことを待っててくれたなんて、可愛すぎるだろう。
思わずキツく抱きしめて、唇を重ねる。
聞きかじった知識で舌を絡めて、ノエルをしっかり味わう。
理性が飛びそうになって、俺は唇を離した。
ノエルがおやすみを言うために待っていてくれたのは嬉しいけど、風邪を引いたら大変だ。
俺は魔法で温風を出して、ノエルの髪を乾かした。
つやつやでサラサラでフワフワの、薄茶の髪。
乾かしている間も良い匂いがして、俺の理性が試される。
これ以上は無理だ。
俺のベッドルームに連れ込みそうになる。
急いで乾かすと、ノエルを抱き上げてベッドルームに運び、ベッドに横たえた。
「おやすみ」
「おやすみなさい」
部屋を出た俺はため息をついた。
残り6日間、キスより少し先に進んでしまいそうだな、と思いながら、自分の髪も乾かしてベッドにもぐりこんだ。
そして、翌朝起きると。
何故か俺の横でノエルが眠っていた。
え?
なにこれ。
何が起こったの?
「ノエル?」
「ん………アイン様。おはようございます。起こしに来たんですけど、アイン様があまりにも気持ちよさそうに眠ってらっしゃったので、見つめていたら私も眠くなってしまって……」
「はぁ。ノエル、男のベッドに潜り込むなんてしちゃ駄目だよ。
何をされても文句言えないよ?」
「え?でも昔はお兄様のベッドによく潜り込んでいましたけど、誰も何も言いませんでしたわ」
「ノエルとエドワード様は兄妹だし、昔の話だろう?
俺たちは婚約者で、小さな子供でもない。
分からないなら、教えてあげる」
俺はノエルの唇を塞いで、ノエルがくったりしたところで、瞼、頬、首筋と順にキスを落とした。
その他にも、ちょっと色々しちゃったけど、ノエルはちゃんと分かってくれたようだ。
そう。
ノエルはちゃんと危険だと分かってくれたけど、俺はこの朝のことがきっかけで箍が外れてしまった。
残りの5日間。
俺は隙さえあれば、ところ構わずノエルを構い倒した。
あちらこちらにキスを落としたし、ノエルの体の柔らかい部分はほとんど触った。
大抵は、ノエルが立っていられなくなって終了。
こんな事してるって陛下に知られたら、多分俺消されるな。
「可愛い、ノエル。でも、陛下には内緒だよ?」
一応念の為ノエルに言っておいた。
バレないとは思うけど、一応ね?
……………………………………………………………………
俺にとって実に充実した1週間が過ぎ、いよいよ今日は定期テストの結果発表の日。
廊下に張り出された順位表を見て、俺は目を疑った。
(1位?)
念の為名前を確認するけど、間違いなくアイン・ハンバードと書いてある。
ちなみに2位はシエル嬢だ。
「養子って聞いてたから大したことないと思ってたのに」
「でもさすが、王女様が婚約者に選ぶだけあるよな」
「カンニングでもしたんじゃ……」
「いや、カンニングは絶対できないように魔法がかけられているからそれは無理だろう」
そんなヒソヒソ声が聞こえる。
上位10名の中に入れればいいと思っていたけれど、まさかトップを取れるなんて。
ふと、ノエルがプレゼントしてくれると言っていたことを思い出す。
何を貰おうか。
俺はノエルさえ隣りに居てくれれば、他には何もいらないんだけど。
昼休み、食堂でエドワード様にそんな話をする。
「君がトップを取ったのは、他学年でも話題になってるよ。
それにしてもノエルからのプレゼントか。
何を貰うか、悩みどころだね」
そう言うエドワード様もテスト結果はトップだ。
「君が本当にほしいものは分かっているけれど、まだ婚約中だし、父上が許さないだろうからな」
遠回しに欲しいものを言い当てられて思わず赤くなる。
「そうだな。それなら、ノエルの1日を貰ったらどうだい?
それとも、形に残るものの方がいい?」
「1日を?」
「そう。まぁ、デートの申し込みだね」
それもありだけど、つい昨日までノエルを堪能していたからな。
「折角ですから、形に残るものがいいですね」
「うーん、やっぱりそうか。
ああ!じゃあノエルからのラブレター10枚っていうのは?」
「ラブレター10枚?」
「昔、お祖父様とお祖母様が賭けをして、お祖母様が勝ったんだけど、賭けの代償に口下手なお祖父様にラブレター10枚を書かせたんだよ。
ノエルもこの話は知っているし、10枚なんてなかなか書けないからね、面白いんじゃないか?」
「そうですね。それにします」
ご褒美も決まって、ウキウキと家に帰ると、俺は義母様とノエルにトップだったことを伝えた。
「すごいじゃない、アイン」
「ええ。編入して間もないのにトップなんて凄いですわ。
せっかくだから、ご褒美は2つ差し上げますわ」
折角ご褒美を何にするか決めたのに、もう一つ考えないといけなくなってしまった。
「あら、ご褒美をあげる約束をしていたのね?それなら私は、ノエル様がお帰りになるまで席を外すから、ゆっくりどうぞ」
ゆっくりどうぞって、義母様……
出ていく義母様の背中を見送って、俺は呆然とする。
「アイン様?ほしいものは決まりまして?」
「1つは決まったよ。私へのラブレター10枚」
「まぁ!お兄様に相談なさいましたわね?」
「書いてくれる?10枚」
「か、書きますわ……」
真っ赤になったノエルを見ていて、俺は2つ目のご褒美を思いついた。
「2つ目も今決めた」
「なんですの?」
「ノエルからのキス」
「え!?」
「ちゃんと、私がいつもやるようなキスをするんだよ」
ノエルが、完熟トマトみたいに真っ赤になっている。
「それは、その……」
「なんでもいいって言ったのはノエルだよね?」
グッ、と詰まったノエルを向かい合わせに抱き上げて椅子に座る。
「ほら、早く」
急かすと、ノエルはギュッと目を閉じて、チュッと唇を一瞬重ねるだけのキスをした。
「全然だめ。やり直し」
「ううう……」
結局ノエルは、5回のダメ出しを食らって、6回目でようやく俺の満足するキスをしてくれた。
クッタリしたノエルを抱きしめて、俺は耳元で囁いた。
「私が本当にほしいのは、世界で一番愛おしい、君だよ」
真っ赤になったままのノエルは、恥ずかしいらしく顔をグリグリと俺の胸に押し付けてきた。
もうホント、なんでこんなに可愛いんだろう。
俺は柔らかな髪を撫でながらノエルを堪能した。




