寂しいお茶会
ジュリア視点です
今日は週末。
ノエルの花嫁教育もお休みで、学園にいた頃の友人を呼んでお茶会です。
本来なら私は参加しないのですが、今日はクロエちゃんの事を話さなければいけないので、飛び入り参加です。
今日集まったメンバーは恋が実ったり婚約している方ばかり。
私の縁結びお茶会に参加した子もいますが、別に私の力ではないですからね?
むしろ、百戦錬磨のマリアンヌ様のおかげです。
「このメンバーで集まるときは、いつもはクロエ様もいらっしゃったのに、何だか寂しいですわね」
「最近の学園でのお茶会なんて、ノエル様もいらっしゃらないから、本当に寂しいですのよ?」
「まぁまぁ。皆さまが卒業して結婚なさったら、またどなたかの家でお茶会を開けば、みんな集まりますわ」
「クロエ様もその頃にはお元気になっているといいですわね」
お茶会が始まってすぐに、クロエちゃんのことを話すタイミングが訪れました。
本当はノエルから言わせるつもりでしたが、ノエルも詳しいことは知らず、うまく説明できなさそうだったので、私が説明することにしたのです
「あのね………クロエちゃんは、精神を病んでしまって、隔離施設から逃走、その後罪を犯そうとしたので、今は中央広場で石化しているの。
アルフォンスとの婚約も、白紙に戻したわ」
「クロエ様が、石像に?」
ノエルも含めた全員が驚いた顔をします。
隠していても、中央広場のそばを通れば分かってしまうことですし、他の方の口から罪をおかして石像になったことだけ伝えられるのは、クロエちゃんが可哀想です。
アリアちゃんは、何もかも悟ったように目線を下に向けました。
「今はまだ石化しているけど、もしも何年かして石化が解けたら、その時はみなさんでお茶会を開くといいわ」
「そうですわね」
沈んだ空気になってしまった雰囲気を変えるべく、私はそれぞれに恋の話を振りました。
アリアちゃんは、ヨハン王子ととても順調なようで、カルーア国王から結婚の許可が出て、1年後には学園を退学して結婚することに決まったそうです。
本来なら、身分差もありますし、王子妃教育も受けなければいけないのですが、ヨハン王子は離宮に軟禁されている身。
淑女として最低限のマナーさえ学べばそれで構わないと、カルーア国王より言われたそうです。
なので、学園での残りの1年は、主に淑女としての嗜みやマナーを勉強する期間ですね。
シエルちゃんも先に外堀を埋めたことが功を奏して、1年後には結婚するそうです。
ゼル団長は家督を弟君に譲って、独り暮らしをしているので、こちらも花嫁教育はなし。
ただ、ゼル団長の年齢の事もあり、早めに結婚することにしたようです。
ルディちゃんは、婚約こそしていませんが、マイク王子と順調に交際しているようで、次のパーティーではエスコートさせて欲しいと言われているそうです。
もしかすると、そのパーティーで結婚を申し込むおつもりかもしれませんわね。
ティアちゃんとマリーちゃんは、当初の予定通り、学園卒業と同時に結婚されるそうです。
「シエル様もアリア様も来年には退学なさるのですね。
お茶会やランチのメンバーがまた減って、どんどん寂しくなりますわ」
ティアちゃんが寂しそうに言いました。
何とか、この子達の友情が壊れないようにしたいですわね。
ああ、そうですわ。
「それなら皆さん、交換日記をしてみるのはいかが?」
「交換日記?」
「ええ。お一人ずつ順に、その日あったことや感じたことなどを書いて、次の人に回します。次の人は自分の分を書き終えたら次の人へ。順々に回していくのです」
令嬢たちの顔が明るくなりました。
「素敵ですわ。早速始めましょう?どなたからにします?」
「私、先日新しいノートを買ったばかりなので、私から書きますわ。次はどなたにしましょう」
ティアちゃんの言葉に、ルディちゃんが手を上げました。
「次は、私にいたしますわ。もし学園で渡せなくても、屋敷が近いですし」
「なら、その後は私ですわね。ルディア様のお屋敷に近いですから」
マリーちゃんも言います。
「私は一番最後でいいですわ。平民街に住んでいて、距離がありますので。
あ、そうなると私の前はノエル様ですわね。私はマリアンヌ様からマナーや勉強を教わりによく伺いますし、ノエル様は花嫁教育で通ってらっしゃるでしょう?」
「そうなると、ノエル様の前は私ですわね。
毎週騎士団の訓練を見に王城に通ってますので、そのタイミングでノエル様にお渡し出来ますし」
どうやら、交換日記の順番は決まったようですね。
「それから、皆さんお忙しいとは思いますけれど、月に一度はこうしてお茶会をしませんか?
実際に会ってお話するのはまた別ですもの」
アリアちゃんの言葉に、みんな頷きました。
嫁ぐ喜びがある一方で、やはりみんな寂しいのですね。
私はモブとして6年間学園に通いましたが、何しろモブなので、そこまで親しいお友達はいませんでした。
そう思うと、ノエルが少し羨ましいです。
まぁ、今はマリアンヌ様が毎日のように王城へいらっしゃいますし、マキナ王妃やイザベル様とは文通をする仲です。
お二人とも、トリスから離れて暮らしていらっしゃり、私もミモザから離れて暮らしているので、お互い、故郷の話を聞きたいのです。
「あなた達の友情が永く続くことを願っているわ」
「ありがとうございます。いつかは……クロエ様もまた一緒に遊べるといいですわね」
「私、しばらく中央広場には近づかないようにしますわ。
だって、石化している間も意識はあるのでしょう?
友人に石化している姿を見られるのは、やはり嫌でしょうから」
ティアちゃんの言葉に、みんな頷きました。
アリアちゃんだけはチラっとこちらを見たので、おそらく様子を見に行くつもりでしょう。
アリアちゃんはほとんど真相を知っているので、別に見られても構いませんし、クロエちゃんもアリアちゃんに会えば、もしかしたら少しは正気を取り戻すかもしれません。
こうして、ノエルとその友人たちの間では交換日記が始められ、月に一度のお茶会が行われるようになりました。
日が経つにつれ、みんなクロエちゃんのいないお茶会に慣れていきました。
それは寂しいことですが、人は順応する生き物なので仕方ないことでしょう。
たまに、王城の中庭でお茶会をしているとアルが通りかかることがありますが、アルはニコニコと年相応の笑顔で皆さんに挨拶をして通り過ぎていきます。
クロエちゃんがいないことにも気付いているでしょうが、仲が悪くなったのかな?としか思っていない様子です。
なんとなく、ノエルの友人がクロエちゃんのいないお茶会に慣れていくことも、アルがクロエちゃんがいないことを気にしないことも、私には切なく感じますが、この道を選んだのは私です。
せめてもの償いに、私は月に一度、中央広場のクロエちゃんの石像に会いに行っています。
いつか、クロエちゃんが正気を取り戻してくれることを信じて。
「でもジュリア。クロエ嬢が正気を取り戻しても、石化していたら分からないんじゃないかい?」
ノア様にはこう言われました。
確かに、石化している間は動くことも話すことも出来ないので、正気を取り戻したとしても分からないでしょう。
でも、もし正気を取り戻したら、きっと何かが起こるはずだと、元プレーヤーの私は信じているのです。
私が望むのはみんなの幸せ。
バースくんやバトンくんも、それなりに幸せになればいいなと思っています。
バースくんは王城の地下牢にいるので難しいかもしれませんが。
モブだった私が幸せになれたように、イザベル様が幸せを掴んだように、きっと、何らかの方法でみんな幸せになれると信じているのですが、私の考えは甘いのでしょうか。
ノア様は苦笑いして私の頭を撫でてくださいました。




