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乙女ゲーのモブキャラに転生したら王子にプロポーズされました  作者: いち
第2部 ノエル編 第四章 ヒロインのジンクス
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消された記憶と磨かれる石像

ジュリア視点です

翌日、専門家の方が登城されました。

お義母様よりも年上の、かなり年配の女性です。

噂では、今の時代に細かな記憶操作を行える方は、この女性以外いないのだとか。



「はじめまして。ようこそおいでくださいました」


「お初にお目にかかります、王妃様。アンと申します」


「早速なのだけど、息子のアルフォンスの治療をお願いしたいの」



私はアン様にクロエちゃんのしたこと、白百合の塔でのこと、今のアルの状態を掻い摘んでお伝えしました。



「かしこまりました。治療は、アルフォンス殿下のお部屋で行いますか?」


「その方がいいのなら、それでお願いします」


「カウチソファーやベッドで行うのが理想的なので、ご本人様のお部屋が望ましいです」


「分かりました。ではご案内致しますわ」



本来なら侍女やメイドが案内するのですが、今日は特別なお客様なので、私がご案内します。



トントントン、とノックをしてアルに声をかけます。



「アル?専門家の方がお見えになったの。入ってもいいかしら」


「はい、どうぞ」



部屋を開けると、アルはきちんと着替えを済ませてソファーに座っていました。

アン様を見ると立ち上がって一礼します。



「アンと申します。今日は気楽なご気分で治療致しましょう」



アン様は気のいいおばあちゃんそのものです。



「治療が終わりましたらお声掛けいたしますので、二人だけにしていただけますか?」


「分かりました」



私は部屋を出て戸を閉めました。

ここから先、何が行われるのかはわかりません。

痛みは伴わないと聞いていますので、そこだけは安心です。


私が廊下で立っていると、ティレーズが小さめの椅子を運んできてくれました。

ありがたくその椅子に座って、どれくらい待ったでしょう。

午前中にお越しいただいて、昼食も取らず、3時のお茶の時間も終わろうかという頃、アン様が部屋から出てこられました。



「アン様、アルフォンスは……」


「今は眠っていらっしゃいます。記憶を夢として脳から放つのです。目が覚めたときには、ご婚約者様のことは王女様の元クラスメイトとしての記憶しか残りません。

二度と婚約者様にお会いしなければ、気持ちも揺るがないでしょう。

ご家族や親しいご友人に、真実は永遠に伏せるよう、お願いしてくださいませ。記憶が蘇ることはありませんが、ご本人が混乱なさるでしょうから」


「分かりました」



そこまで話して、私はふとあることを思いつきました。



「婚約者の女性は気が触れてしまって今は石化しているのだけど、その方の記憶を操作して、アルフォンスや他の方に恋をしたことを忘れさせることは出来るかしら」


「記憶を消去することは簡単ですが、また同じ方に好意を寄せる可能性はあります。アルフォンス様の記憶をのぞかせて頂きましたが、婚約者様は今お好きな方を妄執的に慕っておられるようですから、記憶を消してもすぐに元通り、という可能性が高いですね」


「そうですか……分かりましたわ。

アルフォンスの事はありがとうございます。

失礼ながら、謝礼の相場がわからなかったのでこちらで勝手にご用意させて頂きました」



封筒を渡すと、アン様は目を見開きました。



「恐れながら、王妃様。これは相場の3倍はございます。

こんなに頂くわけには参りません」


「いいのよ。仮にも一国の王子の治療だし、口止め料も入っていると考えてくださいな」


「どんな患者様であれ、守秘義務は徹底しておりますが、ご家族の皆様のお気持ちとして、ありがたく頂きます」



そうして、アン様を城門までお見送りすると、私はアルの部屋へ行き、枕元の椅子に腰掛けました。

アルは、とても穏やかな表情で眠っています。


私は一旦席を外して、お義母様に今回の結果をお伝えし、他の家族やマリアンヌ様ご一家、フランソワ公爵に話を合わせてもらうようにお願いしました。

あわせて、アルとクロエちゃんの婚約解消を公に発表してもらいました。

アルのクラスメイトも、さすがに元婚約者の話題を出す方はいないでしょう。

パーティーでも同様です。



少しして、花嫁教育を終えて帰ってきたノエルがそっと部屋に入ってきました。



「お母様。アルは寝ているだけなのよね?」


「ええ。でもお祖母様から聞いたと思うけど、目が覚めてからのアルはクロエちゃんを好きだったことは覚えていないの。

婚約していたことも、一緒にミモザや白百合の塔へ行ったことも。だから、あなたも出来るだけクロエちゃんの話題は出さないであげてね。ご友人にもそう伝えて?」


「分かりました」



ノエルはアルの頭を優しくなでました。



「アルは身体は標準より大きいけれど、わが家の天使ですね」


「そうね。でも、あなたやエドワードも私達にとっては天使よ?」



写真やカメラがあれば、幼い頃の天使っぷりを本人に見せられますのに。

とても残念です。



「それよりあなた、今日はアインくんとデートに行くのではなかった?」


「そうでした!アルに何かあったらすぐに教えてくださいね?」


「ええ。約束するわ」



ノエルがそっと部屋を出ていき、部屋の中はまた私とアルの二人だけになりました。



「不甲斐ないお母さまを許してね、アル」



当然返事はありませんが、アルの指が微かに動いたことに、私は気が付きませんでした。



アルはそれからもコンコンと眠り続け、翌朝、ようやく目覚めました。



私とノア様が朝食を取っているところに現れて、ニコニコと微笑みます。



「おはようございます。なんだかすごくお腹が空いているのですが」


「あら。じゃあエリクに沢山朝ごはんを作ってもらわないとね。あなたは充分大きいけれど、まだ育ち盛りですものね」



まる一日寝ていたアルは、上品でありながらも豪快に朝食を平らげました。



「アル。あなた学校はどうするの?留学はやめて、こちらの学園へ戻ってくる?」


「そうですね………ミモザよりこちらの方が学ぶことは多いので、こちらの学園に復学します」


「分かったわ。それなら手続きをしておくわね」



アルはスッキリした顔で頷きました。


アルが食堂を出て行ったあと、ノア様は複雑そうな表情で言いました。



「アルが悩まなくて良くなったのは安心したが、一部とはいえ記憶を操作してしまったことは、親として辛いな」


「そうですわね」


「まぁ、まだアルは子供だし、その内新しい恋に出会えるだろう」


「ええ、きっと」



私も祈るように答えました。



そのアルが、半年後には新しい恋人を紹介してくれるのですが、それはまた別の話。


エドワードとノエルは、アルに会えなかったことを残念がっていましたが、それぞれ学園とハンバード侯爵家へと出発しました。


私は城外公務のかたわら、中央広場へ行ってみました。

石化すると、大抵は動物のふん尿で汚れたり、子どもたちの落書きの対象にされるのですが、クロエちゃんの石像はキレイなままでした。

これも、ゲーム補正………なのでしょうか?


最初はそう思っていたのですが、いつ見てもキレイなままの石像。

誰かが磨いているとしか思えません。


オブライエン子爵でしょうか。

ありえなくはない話です。


でもある時、私は馬車から見てしまったのです。

おそらく平民の男性が、熱心にクロエちゃんの石像を磨いているところを。


その日はそのまま通り過ぎましたが、ある時、意を決してその青年に声をかけてみました。



「あなた、なぜその方の石像だけ熱心に磨いているの?」


「王妃様!?も、申し訳ありません。重罪人の石像を磨くなど、してはならないと思ってはいたのですが、この方の美しさに目を奪われ、半永久的に石化するのなら、せめて私が生きている間だけでも美しさを保ちたくなったのです」



よく見ると、石像の足元には花も添えられています。



「そう。あなたのお名前を聞いても?」


「ユリウスと申します。家は土産物屋で、主に王妃様の肖像画やお守りを作って売っています」



思い出したくないワードが出てきました。

私のお守りなんて、まだ売っているのですね。



「うちのは俺が肖像画を描いてお守りに入れているのですが、他の店に比べて効果が高いと評判なんです」



とても自慢げに言う。

それはもう、私の肖像画がどうとか言うより、ユリウスくんのパワーなのではないでしょうか。


私はちょっと考えてて提案してみました。



「ユリウスくん。国王陛下が昔伴侶探しの旅に出ていたことは知っているわよね?私のお守りだけじゃなくて、旅の安全を祈願する陛下の肖像画を入れたお守りも作ってみたらどうかしら」



ユリウスくんはハッと目を見開きました。



「盲点でした。確かに、陛下は無事に旅を終えられ、しかも王妃様という素晴らしい伴侶も得ています。

行商人や旅人向けに、一度作ってみます」


「是非やってみて?それから、この石像のことだけど、気にせずこれからも磨いてあげて?意識はあるはずだから、きっと喜んでいると思うわ」


「意識はあるんですか?それは知りませんでした。では、これからは時折話しかけたりもしてみます」



真っ直ぐで、素直ないい青年ですね。

私は微笑むと彼に別れを告げて王城へと戻りました。

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