定期テスト
アイン視点です
クロエ嬢の件が一段落した。
ノエルには、王妃様方と相談した通り、クロエ嬢は重い感染症を患って、付き添いのアルフォンス様と共に遠い地に隔離されたと伝えてある。
まさか本当にアルフォンス様が付いていくとは思わなかったけれど。
どういうわけか、今回の真実はアリア嬢も知っている。
どうやら、アリア嬢はアリア嬢で、クロエ嬢の俺に対する態度が怪しいと、前々から王妃様に伝えてくれていたようだ。
アリア嬢はクロエ嬢の昔の友達ということなので、今回のことは辛いと思うが、表向きは元気に明るく過ごしている。
一度二人きりになった時、それとなく聞いてみたが、
「運命みたいなものだから、仕方ないわ。
あの子は、他の道も選べたのに、自分であの道を選んだのよ。私がもっと話をするべきだったと反省してるわ」
と、なんとも言えない表情で言っていた。
他の道、と言うのが何を指しているのかは分からないが、人生の岐路において、選択するのは常に自分だ。
クロエ嬢は、選択を間違えたと、そういう事なのだろう。
ノエル様はとても心配されて、止められていなかったらすぐにでもお見舞いに行こうとする勢いだったが、どこに隔離されているのかも教えられていないので、せめてもと、時折手紙を書いて紙鷹で飛ばしているようだ。
紙鷹は、指定した相手がどこにいるのかわからなくてもちゃんと届くので、とても便利なのだ。
一度も返事が来ないから、きっと相当重症なのだろうと心配されている。
他のご友人は、何か違和感を感じてはいるようだが、特に何も言いはしない。
編入して半年、定期テストの時期がやってきた。
ノエルは既に花嫁修業の為に退学しているが、いつもダントツで首位を独占していたらしい。
もちろん幼い頃からの教育もあるだろうが、陰でものすごく努力をなさっていたことを、俺は知っている。
俺も、ノエルの婚約者として恥じない成績を残さなければ。
俺の成績が悪くて恥をかくのは私ではなくノエルだ。
何がなんでも、上位に食い込まなければ。
講義を真面目に聞き、ノートをまとめ、家に帰ってからはノエルや義母様にわからない所を教えてもらった。
義母様やノエルの教え方はとてもわかりやすい。
ノエルはお父上であるノア陛下が元々講師をしてらっしゃったから、その血筋もあるのかもしれないが、義母様は根っからの勉強家だからだろう。
今だって、新薬開発や難病治療について、例の小部屋で日々研究している。
ノエルのいない学園は結構寂しいが、その分勉強に集中できるし、昼休みはいつも通りエドワード様がご一緒してくださる。
そういう意味では、不便もないし恵まれた環境だ。
そして定期テストの週。
魔法学については、実技は得意だし、筆記試験もノエルからしっかり教わったので出来は上々。
歴史や地理については執事見習いの頃にしっかり叩き込まれている。
ダンスやマナーについても同じく。
多国語はノエルに教えてもらったから、たぶんそんなに悪い出来ではないと思う。
ノエルは、王妃様から多国語を叩き込まれたらしい。
主だった教科はそんなところだ。
残りの数学なんかに関しては、簡単に感じたくらいだから、問題ないと思う。
定期テストの次の週は一週間休みで、休み明けに結果が発表される。
「あなた達、せっかくだから夏の離宮にでも遊びに行ってきたら?」
義母様と一緒に登城して、ノエルと王妃様、陛下とお茶をしていたら、突然王妃様に言われた。
ガチャっ、と陛下がカップを置く。
普段は優雅なのに、音を立てるなんて珍しい。
「そうね。ノエル様も花嫁修業を毎日頑張っているし、たまには息抜きも必要だわ」
義母様も賛成する。
「あの……ノエルと二人で、ですか?」
「当たり前じゃない。誰だって婚約者同士の邪魔なんてしたくないでしょう?」
「ノエル。またお母様と一緒にお菓子を作って持っていくといいわ」
「はい、お母様。前回も、使用人の方がとても喜んで下さったんです」
そういえば、涙を浮かべて喜んでいた記憶がある。
「私達のときも喜んでくださったわね、ノア様」
「ああ、そうだな」
「ノエルを授かったのも、あそこでしたわね」
夏の離宮で王妃様がノエルを妊娠した直後、3人目の天使様から加護を受けたのは有名な話だ。
天使様の加護なんて、普通に生きてたら受けられるものじゃない。
それが3人もだなんて、王妃様は規格外だ。
ノエルはそんな王妃様のことをとても尊敬している。
いつかは、王妃様のように天使様の加護を頂くのが夢なのだそうだ。
「アイン、ちょっといいかな?」
席を立った陛下について陛下の自室へ入ると、陛下は俺の肩をガシッとすごい力で掴んだ。
結構痛い。
「わかっていると思うが、君たちはまだ結婚前だ。それに、ノエルも君も大人とは言い難い。不埒な真似は、絶対しないように。せめて結婚して、ノエルが16歳になるまでは手を出さないように」
「かしこまりました」
「約束だからな」
ノエルが16歳になるまで、あと2年?
婚約したのに2年も俺は我慢しなきゃならないのか?
好きな女性と二人きりでいて、何もしないなんてその方が問題だと思うんだけど。
でも、陛下は涙目だし、肩を掴む力はすごいし、とりあえず頷いておいた。
「あんまり君を私のそばに置いておくと、ノエルが寂しがるからな。そろそろ戻ろうか」
そう言われて、お茶をしていた中庭に戻ったのだけど………
「アインくん、ちょっと二人で話しましょう?」
今度は王妃様に拉致された。
「ノア様のことだから、結婚してもノエルが16歳になるまでは手を出すなとか言ったのでしょう?
でもね、そんなこと気にしなくていいから。
婚約期間中はちょっと我慢してもらわないといけないけれど。
婚約期間中だって、キスよりちょっとくらいなら先に進んでも私が許します。
あ、あなた変な性癖とかないわよね?」
王妃様の言葉にぎょっとする。
「その……経験がないからわかりませんが、特別な趣味は持っていないつもりです」
「そう。ならいいの。結婚する前に、エリクにでも女性の扱い方を聞いておくといいわ。
男性がどうやって女性の扱い方を学ぶのかはよくわからないけど、どうも経験者から教わっているみたいだから。
怪しげな本の内容を鵜呑みにしちゃだめよ」
「………はい」
普通、こういうのって婚約者の母親から言われることじゃないんじゃないかな。
自分の父親とかからさり気なく伝えられるものじゃないのか?
「普通」が分からないから何とも言えないけど。
「話はそれだけよ。それじゃあ戻りましょうか」
中庭に戻ると、義母様がノエルに何かを教えていた。
「いい?まずは目潰し、相手が痛みでかがんだところで、顎を下から思い切り打ち上げる。がら空きになった急所に躊躇いなく一撃を与えるのよ」
義母様、何を教えてるんですか?
急所を一撃とか、想像するだけで痛いからやめてください。
それより、誰を攻撃する想定なんですか?
俺?
え?婚約者を攻撃させるつもりですか?
「あら、アイン。戻ってきてたのね。今ね、ノエルちゃんに、もし男性から意にそまぬことをされそうになった場合の撃退方法を教えていたのよ。これから先、あなたのいない所で誰が寄ってくるか分からないでしょう?」
ああ。
相手の想定は俺じゃなかったんですね。
安心しました。
「アイン様。夏の離宮、楽しみですわね」
椅子に座って落ち着いてお茶を飲みながら、ノエルがニコニコと言う。
話の流れ的に、俺が無理矢理ノエルに手を出してそれを撃退するのが楽しみだと言っているように聞こえてしまう。
ノエルはフワフワしたところがあるから、まさかそんなことは考えてないだろうけど。
「また、ダンスをしましょうね?」
「ええ」
ほらね?
ノエルは、俺がちょっとキスより先に進みたいな、なんて思ってることを、きっと想像もしていない。
「『また』?あなた達、前に行ったときもダンスをしたの?」
「ええ。寝付けなかったノエルに、私がダンスのレッスンをしてもらったのです」
「あら、いいわねぇ。そうだわ、ノア様。私たちもこの一週間お休みを頂いて、春の離宮にでも行きましょう?
マルコもティレーズも置いて。
ノエル、あなた達もメリーは置いていくのよ?」
「春の離宮か。少し旬は過ぎているけれど、まだ咲いている花もあるだろうし、いいね。早速母上に話を通すよ」
陛下の機嫌が急激に良くなった。
陛下、王妃様のこと好き過ぎでしょう。
「あなた達も私も明日出発。それぞれの離宮には私が紙鷹を飛ばしておくから、あなた達は旅行の準備をしてしまいなさい」
ノエルにどこまで手を出していいものか、まだ測りかねてるけど、とりあえず二人きりの旅行は嬉しい。
俺は急いで屋敷に戻って、1週間分の旅行の準備をした。




