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乙女ゲーのモブキャラに転生したら王子にプロポーズされました  作者: いち
第2部 ノエル編 第四章 ヒロインのジンクス
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恋文

アイン視点です

「アイン様、お手紙が届いております」


「ああ、ありがとう」



いくつかの封書を手にとって差出人を改めていた俺は、一つの封書を見てため息をついた。



「またか……」




1ヶ月ほど前、クロエ嬢とアルフォンス殿下は、将来に向けての教育の為、急遽ミモザに留学に旅立った。


ノエルは別れを惜しんでいたけれど、正直俺は助かったと思っていた。

何しろ、日を追うごとにクロエ嬢は大胆にアプローチしてくるようになっていたからだ。

それは、ノエルが一緒でも変わらない。

友人に窘められても気にもしない。

ベタベタと体に触れられ、休みの日には突然家に押しかけて来られ、正直参っていた。

自惚れでないなら、クロエ嬢は俺に気がある。

アルフォンス殿下のご婚約者だというのに、一体どういうつもりなのか。

それに、俺もノエルと婚約を済ませている。

クロエ嬢とノエルは親友だった筈なのに、親友の婚約者を奪うつもりなのか?

自分の婚約者を放っておいて。


だが、事が公になれば大問題になる。

だから俺は、いつもさり気なくクロエ嬢のアプローチを躱していた。

ときには不安げなノエルを膝にのせて髪を撫でていた。



その、クロエ嬢がミモザに留学してすぐ、俺の元へクロエ嬢から手紙が届くようになった。


最初は知らない国へ行くことの不安だったり、友人と離れたことの寂しさなどが書かれていて、俺も仕方なく無難な返事を送っていたが………

手紙はどんどん内容が変わってきて、今では、俺に会いたいとか恋しいとか、もうどこから見ても恋文にしか見えない。

さり気なくノエルとそのご友人たちに聞いたが、手紙はこの1ヶ月で1通届いただけだと言う。


本当に、クロエ嬢の考えていることが理解できない。

でも、誰に相談したものか……

ポアロ様のお手を煩わせるわけにはいかないし、ポアロ様も王城の筆頭執事とはいえ、貴族間の恋愛沙汰に口を挟めるお立場ではない。


悩みに悩んで、俺は昼休みをご一緒しているエドワード殿下に相談した。



「君のもとに、そんな手紙が?」


「回を増す毎に内容が濃くなってきていて、私にはノエルもいますし、困っているのです」


「その手紙は今持ってる?」



エドワード殿下に相談する為、ここ何回かの手紙を持ってきている。


俺がエドワード殿下に手紙を渡すと、一通一通読んでいたエドワード殿下は頭を抱えた。



「完全に恋文だな」


「やはり、そう思われますか?」


「しかし彼女にはアルがいるだろうに、なぜ君にまで……」


「まったく心当たりがないのです。最近では手紙の返事も送っていませんし」


「君がノエルを溺愛していることは有名だし、見ていてもわかるからな。君のことは疑っていないよ。アルからは何も言ってきていないから、二人が喧嘩しているわけでもないだろう。

となると、完全にクロエ嬢の一人相撲だが……」



エドワード殿下は少し考えて、それから口を開いた。



「この手紙を預からせてもらってもいいかい?

少し、父上と母上に相談してみるよ」


「ご面倒をおかけし、申し訳ございません」


「気にしないでくれ。これは、アルにも関わってくる問題だからね」



エドワード殿下は手紙を懐にしまうと、また食事を再開させた。



「今後、またクロエ嬢から手紙が来たら、開封しないでそのまま私に渡してくれるかい?」


「かしこまりました」


「実は、今回の急な留学に関しても、不審に思っていたんだ。留学の件を言い出したのはお祖母様と母上だ。

お二人なら、何か知っているのかもしれない」


「こちらにいる頃から、互いに婚約者がいるとは思えないような距離で話しかけられたり、気軽に触れられたりということがありましたので、その件も関係しているのかもしれません」



俺の言葉に、エドワード殿下はまた頭を抱えた。



「クロエ嬢は、幼い頃からのノエルの親友なのに、なぜこんな事に……アルとの婚約もあんなに喜んでいたというのに」



結局、俺とエドワード殿下は食事を半分以上残したままナイフとフォークを置いた。



「このことを知っている者は?」


「殿下だけでございます。他の方には気軽に相談できる内容でもありませんし、ノエルにはとてもじゃないですが話せませんし」


「ノエルに気を遣ってくれてありがとう。

母上と相談したら、また君に結果を伝えるよ」



エドワード殿下は、眉間にシワを寄せて食堂を出ていった。




エドワード殿下から紙鷹が届いたのは、その日の週末。

至急、王城へ来てほしいと書いてあったので、俺は急いで身支度を済ませて王城へ向かった。


義母様も朝からいないから、もしかしたら王城にいるのかもしれない。


王城に着いて、応接室で待っていると、ポアロ様が迎えに来てくださった。



「ポアロ様、ご無沙汰しております」


「お元気そうですね。侯爵家の後継として頑張っているという噂は聞き及んでおります。

あなたは、昔から努力家でしたからね」


「恐縮です」


「では、参りましょうか。陛下と王妃様、リリー様にマリアンヌ様がお待ちです」



やはり、義母様もこちらに来ていたのか。


前国王のマーク様とリリー様がお住いになられている離れに案内される。

人の多い、陛下や王妃様の自室では話せない内容、ということか。


ココン、とポアロ様がノックする。

そのノックの鳴らし方は、特別な客人をお連れしたときのもの。

他の用件で部屋を訪れる侍女などと間違わないように使い分けられているのだ。



「アイン様をお連れいたしました」


「アイン・ハンバード、ただいま参りました」


「久しぶりだな、アイン。楽にしてくれ」


「ありがとうございます」



陛下の許可を得て、ソファに座る。



「もうわかっていると思うが、今日来てもらったのは、クロエ嬢のことだ」


「はい」


「手紙はまだ届いているかい?」


「今朝一番で届いた手紙を持参いたしました」



未開封の手紙を、陛下にお渡しする。


封を開けて中身を確認した陛下は、額に手を当てて、手紙を王妃様に渡した。

王妃様の次はリリー様。

最後が義母様だ。



「あの娘は、どういうつもりだ」



陛下の声が震えていて、怒りを抑えているのだと分かる。


義母様から手紙を渡されて目を通してみる。



『愛しいあなたからはお返事もなく、寂しい毎日を送っています。

お忙しいのでしょうね。

ミモザの空気は私には合わなくて、卒業までここにいることに耐えられません。

アルフォンス様のお気持ちも今の私には重いばかり。

どうかお願いです。私をここからさらってください。

窓には鍵をかけずにおきます。

あなたの少しでも早い訪れをお待ちしています』



なぜ、ノエルの婚約者である私が、興味もないクロエ嬢を攫わなくてはいけないのだ。

あまりの思い込みの激しさに嫌悪すら覚える。



「これまで届いていた手紙も読ませてもらった。

君に非がないことはわかっている。

だが、アルフォンスにそれとなく様子を訪ねてみたが、クロエ嬢と仲良くしていると言う。

アルがクロエ嬢の心変わりに気が付いていないだけなのかもしれないが。

とりあえず王命として、クロエ嬢にはアル以外の男性に連絡を取ることは許可しないと伝えた。

オブライエン子爵家にも、このようなことが続くなら、婚約は破棄し、本人に相応の処分をくだすことも伝えてある。

しかし、万が一ということもある。

…………非常に不本意だが、君とノエルの結婚を早めることも視野に入れている。

まずは今月末に開く予定だった君とノエルの婚約披露パーティーへのクロエ嬢の出席は許可しない。アルフォンスのみの出席とすることを、アルフォンスには伝えた。

だいぶ渋っていたが、ノエルの婚約披露パーティーでおかしな態度をとられても困るからな」



確かに陛下の言うとおり、せっかくのパーティーをブチ壊されてはたまらない。



「クロエ嬢はもう少しミモザに留めおいて、それでも態度が改善されないようなら、アルフォンスの婚約者として不適当として婚約破棄を考えていますが、アルフォンスが手放したがらないでしょうから、その時は第二王子の妻としてふさわしい令嬢になってもらう為に、性格の矯正を行うつもりです」



冷淡な顔でリリー様が仰った。

性格の矯正というのが、どんなことをするのかはわからないが、ただの教育と違うことだけは雰囲気で察した。



「君には迷惑をかけたね。

王命は紙鷹で飛ばしたから、今日の朝には着いている筈だ。

彼女が紙鷹を受け取るまでに出した手紙は何通か君のもとに届くかもしれないが、すべてエドワードに渡してくれ」


「かしこまりました」


「もし、不審な荷物や手紙が届いたら、それは悪いがここまで持ってきてくれ」


「仰せのままに」



陛下はふぅっとため息をつくと、表情を緩めた。



「今日は君が来るというので、ノエルが随分はしゃいでいるんだ。

よかったら、相手をしてやってくれないか?」


「喜んで」



とは答えたものの、外はあいにくの雨。

中庭でお茶をするわけには行かないし、婚約者とはいえ、王女のお部屋にお邪魔するのも気が引ける。


そんな俺の気持ちを見抜いたのか、王妃様がニッコリと笑った。



「王太子妃教育の時に私やお義母様が滞在した部屋にご案内するのはどうでしょう」


「あら!それはいい考えね。あそこならバルコニーにソファーセットが置いてあるから、屋根の下だし濡れずに外でお茶を楽しむことができるわ」



そんな部屋があったのか。

執事時代は基本的に陛下の執務室、王妃様の執務室、義母様の小部屋、ノエルの部屋、王子殿下方の部屋と応接室しか行き来しなかったので、全く知らなかった。


義母様は扉をあけて、控えていたティレーズ様を呼んだ。



「私が王太子妃教育を受けていたときに滞在していた部屋、わかるわよね?

そちらにノエルとアインくんをお連れして?」


「かしこまりました」




「ティレーズ様、ご無沙汰しております」


「本当にお久しぶりね、アイン様。すっかり立派な貴族のご子息になられて」


「まだまだ勉強することばかりです」


「あなたのそういう性格好きよ?今日のお部屋デートにはメリーは付けないから、2人でゆっくりなさってくださいね?

あ、節度はわきまえてくださいませ」


「わっ、わかっております」



クスクス笑うティレーズ様について、俺は部屋に案内された。

既に部屋に来ていたノエルを見て、自然と頬が緩む。


どうしよう。

俺の天使が可愛すぎて困るんだが。



「アイン様!」


「ノエル。会いたかった」



つい一昨日会ったばかりなのに、そんなセリフが口をつく。




「お父様から聞きまして?もしかしたら私たちの結婚が早まるかもって」


「そうみたいだね。でも、早く結婚したい気持ちはあるけど、もう少し恋人期間を楽しみたい気持ちもあるかな」


「それもそうですわね」



メイドの置いていったワゴンを押して、バルコニーへ続く窓を開けて左右を見ると、確かに隣の部屋との境目あたりにソファーセットが置いてあった。



「今日はここでお茶にしないかい?」


「まぁ!こんな場所があったなんて」



ノエルをエスコートしてソファーに座らせると、俺はお茶を入れた。

ノエルはこの時期にはミルクティーにする。

砂糖の代わりに入れるのは蜂蜜だ。



「おいしい。アイン様、まだ私の好みを覚えていてくださったんですね」


「もちろん。あなたのことならなんでも」



頬が赤らんでいる姿がなんとも言えず可愛い。


部屋の中からは見えないのをいいことに、俺は疲弊した精神を癒やすべく、ノエルを膝の上にのせて、お茶の時間を楽しんだ。



クロエちゃんが壊れ始めました……

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