初めてのデート
アイン視点です
学園に入学して一週間。
教室で見かけるノエル様は可愛いし、お昼はエドワード様とアルフォンス様が一緒に食べてくださるし、なんの問題もなく過ごしている。
ただ………少しクロエ嬢が馴れ馴れしいような気はしているけれど、ノエル様のご友人だし何よりアルフォンス様のご婚約者。
深い意味なんてないだろうと気にしないようにしている。
義母様にも相談済だが、あまり相手にしないように、と言われている。
そして今日はいよいよノエル様とのデートの日だ。
どんなところがいいのか、エドワード様に相談に乗っていただき、見晴らしのいい丘にピクニックに行くことにした。
ついこの間まで住んでいた王城に、ノエル様を迎えに行く。
外部の人間としてみる王城は、守りも堅固で、きらびやかでありながら華美すぎない。
使用人の動きにも無駄がない。
「アイン様。お待たせいたしました」
「ノエル様。今日も素敵ですね」
涼し気な水色のワンピースに、編み込まれた髪。
もう本当に可愛らしい。
「では、参りましょうか」
「ええ」
ノエル様をエスコートして馬車に乗り込むと、馬車は目的地に向かって進み始めた。
「今日はどちらへ?」
「ドレーヌの丘まで。ノエル様は自然がお好きですから」
「ありがとう!とても楽しみだわ」
王妃様が精霊の祝福を受けている事は有名だが、実はノエル様も精霊の祝福を受けている。
王妃様ほど強力ではないけれど、それでも自然の中にいると蝶や小鳥たちが集まってくる。
半刻ほど馬車を走らせて、ようやく目的地についた。
「どうぞ、ノエル様」
「まぁ!とても遠くまでよく見えるわ」
「今日は天気もよく、幸運でしたね」
丘の頂上の少し平らな場所にラグを敷いて、義父様特製のお弁当の準備をする。
「まぁ、エリクのお弁当?」
「ええ。とても張り切ってくれて……」
隣に座ったノエル様からフワリといい香りがして、思わず固まった。
「アイン様?」
「あ……いえ、何でもないのです。食べましょうか」
ノエル様がおいしそうに弁当を食べているのを見ながら、幸せな気分に浸る。
ノエル様はどうやらチキンのハーブ焼きがお気にめした様子。
俺はチキンを一口大に切って、そっとノエル様の口元に運ぶ。
ノエル様は真っ赤になりながらも、口を開けて俺の手からチキンを食べた。
これは、エドワード様から教わったことで、陛下がまだ王太子で伴侶探しの旅をなさっていた頃、偶然、学園で一人ランチをされていた王妃様を見つけて、毎日のようにおかずを一口貰っていたらしい。
そして初めてのデートで、逆にクッキーを食べさせてあげたという話。
ノエル様はご両親である国王夫妻の馴れ初めがとてもお好きらしく、憧れているのだと言う。
だから、デートでは必ず食べさせてあげるようにと、エドワード様からアドバイスを受けていたのだ。
恥ずかしいのか、顔を赤くして一生懸命に咀嚼している姿もこの上なく可愛い。
いや、ノエル様はもう何をしてても可愛い。
可愛いは正義!
「アイン様は、何を召し上がります?」
「では、ポテトサラダを」
ノエル様が口元に差し出してくださったポテトサラダをパクンと食べる。
俺はポテトサラダに付いていたミニトマトを指でつまむと、ノエル様の口に押し付けた。
反射的に口を開いたノエル様の舌が、一瞬指に触れた。
それだけで、鼓動が早くなって大変なことになっている。
ヤバイ。
このままだともっと先を望んでしまう。
エドワード様には、キスまでならしてもよし!となぜか許可を頂いているが、キスなんてしたら、俺の心臓が破裂するんじゃないだろうか。
「アイン様は………随分冷静ですのね」
拗ねたようにノエル様が仰っしゃる。
全然冷静じゃないのだけど、執事時代に培ったポーカーフェイスが役立っているみたいだ。
「そんなことはありませんよ?先程から胸がドキドキして、痛いくらいです。ほら」
ノエル様の手を取って胸に当ててみせる。
「本当……私と一緒ね?」
今度は俺の手が取られてノエル様の胸に。
柔らかな感触が危険だ。
ノエル様は少し無防備すぎるんじゃないだろうか。
そんなことを考えていたはずなのに、気がついたらノエル様の顔が目の前にあって、俺はそっと唇を重ねた。
柔らかい………
ペロリと唇を舐めると、分かりやすくノエル様がビクンと震えた。
このままだと俺の理性がもたない。
俺は唇を離して、ノエル様の頭を腕の中に抱き込んだ。
そのまま、何度も柔らかな髪を撫でる。
最近知ったことだが、ノエル様は髪を撫でられるのがお好きだ。
「アイン様……このままでは私、死んでしまいそうです」
「苦しかったですか?」
「そうではなくて……胸がドキドキしすぎて」
ああもう!
この方はなんでこんなに可愛いんだ。
「そんなことを言われると、離したくなくなりますね」
ギュッと抱きしめる腕に力を込めた。
「最近………クロちゃんと仲良くなさっているでしょう?」
「クロエ嬢はノエル様のご友人ですし、あちらから話しかけられるのでお答えしているだけで、私の目にはノエル様しか映っていませんよ」
顔を上げたノエル様の頬をそっと撫でる。
「私にとっては、ノエル様以外の女性は皆ジャガイモです」
「ジャガイモ?まぁ!ふふふっ」
本当のことを言っただけなんだが、ノエル様はとても楽しそうに笑ってらっしゃる。
「私にとっても、アイン様以外の男性は皆さんカボチャですわ」
その言葉を聞いて安心する。
何しろ、ノエル様はモテるのだ。
ノエル様は俺がモテると心配なさるが、俺なんて比べ物にならないくらいノエル様はモテる。
「ノエル様。ノエル、とお呼びしても?」
「ええ、もちろん」
俺は呼吸を整えると一気に言った。
「ノエル・トリス様。私、アイン・ハンバードと結婚していただけませんか?」
「はい。私などで良ければ」
「あなたでなければ、意味などないですよ」
ノエルは今でもバトン様に振られた傷をひきずっている。
あれはアイツがバカ男だっただけで、ノエルの魅力は日々増しているというのに。
「ノエル。とても嬉しいよ。帰ったらすぐに国王陛下に婚約申込書を送るから」
「はい」
食べ終わった弁当箱を片付けて、俺は立ち上がった。
「そろそろ、城に戻りましょうか」
「そうね。あまり遅くなるとお父様が心配なさるし」
俺の手に捕まって立ち上がったノエルの首筋に、俺はほんの一瞬だけ、キスを落とした。
「次のデートは、屋台の食べ歩きにしますか?」
「えっ、えっと……そ、そうですわね」
明らかに挙動不審になったノエルに満足して、俺は馬車の中までエスコートした。
帰り道でもノエルの頬は赤いままで、俺はちょっと苦笑した。
「ノエル。そんなに赤い顔をしていたら、何かあったのかと勘ぐられてしまいますよ?」
「だ、だってアイン様が急にあんな事を……」
「私には物足りないくらいでしたが」
シレッと言うとノエルはまた赤くなった。
その後、王城のエントランスまでエスコートして、私はノエルの手の甲にキスをすると家に帰った。
帰り際、エドワード様がサムズアップされていたので、今日のデートは成功だったんだろう。
その夜は、ノエルの色々な感触を思い出して、なかなか寝付けなかった。
これは俺が変態だからじゃないよな?
男ならみんなこうなるよな?
誰か、うんと言ってくれ………




