騎士団の見学
ノエル視点です
時は少し遡り。
「ノエル様。ご友人のシエル様が到着されました」
「ありがとう、すぐ行くわ」
今日は待ちに待った、騎士団の訓練を見学に行く日です。
私はあまり華美にならないワンピースを着て、エントランスでお待ちになっていたシエルちゃんの元へ行きました。
「ごきげんよう、シエルちゃん」
「ごきげんよう、ノエル様」
「いよいよですわね」
緊張した面持ちのシエルちゃんに比べ、私はワクワクが抑え切れません。
もしかしたら、シエルちゃんとゼルさんがうまく行くかもしれませんからね。
訓練場は王城の敷地内にあるのですが、少し距離があるので、馬車で移動します。
私たちが到着すると、すぐに騎士団長のゼルさんと副団長のエリックさんが駆けつけてきました。
「お久しぶりですね、ゼルさん、エリックさん」
「ご無沙汰しております、王女様」
「楽にしてくださいな。今日は突然見学に来たいなんてわがままを聞いてくださってありがとうございます。
護衛騎士の方々には二度も救われておりますので、是非今後の参考までに、どんな訓練をなさっているのか拝見したくて」
「王族の方々と国を守るのが我々の仕事ですから。
むさ苦しいところですが、どうぞゆっくりご覧になってください。私はここにおりますので、何か気になる点がございましたらお気軽にお聞きください」
「ありがとうございます。
あ、ご紹介が遅れましたわね。こちらは私の友人のシエル様です。シエル様も護衛騎士の方には興味がお有りのようでしたので、ご一緒することに致しましたの」
「さようでございますか。シエル嬢もごゆっくりなさってください」
「貴族の令嬢が護衛騎士に興味があるなんて、変わってますね」
サラッと失礼なことを言ったのはエリックです。
悪い方ではないのですが、ノリが軽いのです。
シエルちゃんは何も言わず、ただ微笑みました。
シエルちゃん、美人なので微笑むだけでも絵になります。
「そう言えば、急に私もご一緒させていただくことになりましたので、お礼にお菓子を作ってきましたの。あとで皆さんで召し上がって頂けますか?」
シエルちゃんがクッキーの入ったバスケットをゼルさんに手渡します。
騎士の方々はとても熱心に訓練されていて、剣術や体術で、模擬戦などを行っていらっしゃいます。
「さすが、皆さん国を護るというお仕事をされているだけあって、真剣なお姿がとても素敵ですわ。これも、ゼル団長が皆さんをまとめていらっしゃるからですわね」
シエルちゃんが言います。
そう言えば、マリアンヌおば様からアドバイスされていましたわね。
「騎士団が国を守るのも、それを纏めるのも私の仕事ですから、当然のことしかしておりません」
ゼルさん、噂通りのカタブツです。
ここまではマリアンヌおば様の読み通りですわね。
「命をかけるお仕事ですものね。尊敬いたしますわ。お仕事の邪魔はいたしませんので、また、見学に来てもよろしいですか?」
「ご令嬢がご覧になっても面白いものではないと思いますが……
皆の志気も上がりますので、いつでもお出で下さい。
シエル嬢が騎士団の訓練を見に来たと言えばここへ来れるように門兵に伝えておきますので」
シエルちゃんが約束を取り付けました!
マリアンヌおばさま、流石です。
休憩時間になり、騎士の皆様は差し入れのお菓子をおいしそうに食べていらっしゃいます。
「ゼルさんは、召し上がらないのですか?」
「………王女様のおそばを離れるわけには」
あら。
食べたいのに我慢させてしまっていたのですね。
「ここは安全ですし、私達のことは気になさらず、どうぞシエル様からの差し入れを食べてきてくださいな」
「ええ。私も是非ゼル団長にも食べて頂きたいですわ」
「そういう事でしたら、ほんの少し席を外させていただきます」
ゼル団長、甘いものがお好きなのでしょうか。
早足で差し入れをおいてある場所まで行ってしまいました。
「シエルちゃん。次に来るときも差し入れを持ってきたほうが良さそうですわね」
「ええ。次はマドレーヌでも作ってきますわ」
「次に来るときはお一人ですわよ。頑張ってくださいね」
「ええ!」
シエルちゃん、ゼルさんを熱く見つめています。
視線を感じたのでしょうか。
ゼル団長がこちらを見ました。
「シエルちゃん、笑顔ですわ!」
私とシエルちゃんはにっこり微笑み返しました。
休憩時間が終わり、訓練はまだ続きます。
「退屈ではございませんか?」
実は私は少し退屈になっていたのですが、シエルちゃんの為です。
「いいえ。とても興味深く拝見しておりますわ。
お邪魔でしたら、そろそろお暇いたしますけれど」
「いえ。決してそのような事は」
「あの……ゼル団長が訓練しているところも拝見したいですわ」
シエルちゃんのおねだりです!
「王女様方のお側を離れることになりますが……」
「いつもは一緒に訓練なさっているのでしょう?
私達のことは気にせず、訓練なさってください」
「お気遣い痛み入ります」
ゼルさんは頭を下げると、自分も訓練に加わりました。
団長を務めるだけあって、とてもお強いです。
模擬戦でゼルさんを追い詰められる方は一人もいらっしゃいません。
「素敵ですわ………」
「良かったですわね。シエルちゃん」
頬を赤らめているシエルちゃん、とても可愛いです。
少し模擬戦に参加したゼルさんは、汗を拭いてから私達のもとへ戻ってきました。
「訓練はまだ続きますが、お帰りがあまり遅くなってもいけませんので、そろそろ馬車までお送りいたします」
あまりお邪魔をしてもいけませんしね。
私達は素直に頷きました。
「本日はありがとうございました」
「いえ。こちらこそ騎士たちの志気も上がり、いつも以上に訓練に熱心に取り組んでおりましたので、感謝しております」
「そう言っていただけるとありがたいですわ」
「また、拝見しに参ります」
「ええ、シエル嬢。いつでもお待ちしております。
差し入れもありがとうございました」
「喜んでいただけたなら良かったですわ」
マリアンヌおば様の作戦では、ここから何度か見学に通って、好みのタイプを騎士の方に聞かれたらゼルさんだと答える予定です。
帰りの馬車の中で私はシエルちゃんに言いました。
「今日は有意義な1日でしたわね」
「ええ、本当に。ノエル様、ありがとうございます」
「お二人がうまく行くことを願っていますわ」
王城のエントランスに着いて、シエルちゃんは自分の家の馬車に乗り換えました。
「ノエル様も明日はデートなのでしょう?頑張ってくださいね」
ボボっと顔が熱を持ちます。
「ありがとうございます。頑張りますわ」
何を頑張るのかよくわからないまま、私は答えました。
シエルちゃんは、その後も何度か見学に行っているようで、だいぶ騎士の方とも打ち解けてきたそうです。
第二段階に入るのも、もうすぐですわね。
私は城内でゼルさんを見るたびに、内心クフフと笑っていました。




