自業自得
ジュリア視点です
「それでは、おやすみなさいませ」
ティレーズとマルコが部屋を出ていき、私とノア様も寝ようとしていたまさにその時、静まり返った廊下に、メリーの焦った声が聞こえてきました。
「誰か!ノエル様のお部屋に侵入しようとしている者がいます!」
聞こえてきた言葉に、私とノア様は慌てて起き上がりました。
また、バースでしょうか。
それにしても、バースがノエルを誘拐しようとして以来、王城の警備は厳重にしていたはずですのに。
私とノア様がガウンを羽織ってノエルの部屋へ行くと、既に護衛騎士たちとアインやポアロがいました。
背の高い彼らが前に立っているので、ノエルの状況がわかりません。
「少し話がしたいだけなんだ。決して触れたり傷つけたりしないと誓う」
バトンくんの声が聞こえました。
罪の意識がないから石化しなかったのでしょうが、私に言わせれば、バトンくんの存在自体が罪です。
「お願いだ、ノエル。私とアリスの為に、なんとか父上に……」
今、何とおっしゃいました?
勝手に心変わりしておきながら、その相手と一緒になる為にノエルに協力しろと言っているのですか?
ここまで来ると図々しいとか厚かましいという問題ではありません。
「随分と都合のいい話ですわね」
アインがノエルとバトンくんの間に割って入るのと同時に、私は前に進み出ました。
「『無音のカーテン』」
アインは気が利きますね。
これで、バトンくんの言葉でノエルが傷つくこともなく、私達の言い争いを耳にしてノエルが心を痛めることもありません。
「王妃様!お願いです!どうか勘当だけは取り消すように父に言ってください」
「ノエルを傷つけたあなたを、私たちが赦すとでも思っているの?」
「執事ごときが私とノエルの間に割って入るな!そこをどけ!
王妃様、ノエル様ならきっと天使のような慈愛で私を助けてくれるはずです」
確かにノエルは天使のように優しいですが、ノエルの優しさをこんなことに利用しようなんて許せません。
「アインはノエルの専属執事です。主を守るのは当然のこと。
あなたこそ、誰の許しを得てここにいるのです?
バトンくん、天使は優しいだけじゃない。努力しない者には厳しいのですよ?」
そこまで言うと、ノア様とエドワードも前に出てきました。
「アイン。『無音のカーテン』はまだ張ってあるな?」
アインが頷くと、ノア様も小さく頷きました。
「君は、何故自分が勘当になったのかわかっているのか?
それに、話し合いでアーノルド侯爵が勘当するといった時も、君は清々しい顔をしていただろう。
これからは自分の好きに生きる、と言ったそうだな。
ならば親に頼らず自分の力で自分のやりたいようにすればいいだろう。
困ったときだけ擦り寄ってきて、ましてやまだノエルの傷は癒えていないというのに、そのノエルに君は何をしてくれたんだ!」
ノア様の怒鳴り声など普通に生きていたら聞くことなどまずありません。
護衛騎士たちも、あまりの迫力に思わず一歩下がってしまっています。
「私は何度も忠告をしたよね?でも君は、私の言葉よりアリス嬢の言葉を常に信じた。
今更、私との友情を裏切り、ノエルを裏切り傷つけた君を誰が庇うと思うんだい?
良かったじゃないか。勘当されれば平民同士誰に恋をしようと何も咎められない。
君は最初、アインとノエルの仲を心配していたけれど、今の君を見ていると、君よりアインの方がよほどノエルにはお似合いだよ、性格がね」
バトンくんが悔しそうに唇を噛みます。
そこへ、足音もさせずにティーダ様がやって来られました。
ティーダ様のことまで起こしてしまったようで申し訳ありません、
ティーダ様が来たということは、私たちの言い争いも終わりということ。
私が目配せすると、アインがノエルの消音魔法を解除しました。
ティーダ様はとても怒っているのでしょう。無表情で言い放ちました。
「今後二度と、君とアリス嬢は王族の誰にも接触できない」
ティーダ様の言葉で、バトンくんが二度とノエルやエドワードに近寄れないことが決まりました。
しかも、今回は「どの国の王族」と指定していませんので、他国の王族にも接触できないということです。
とりあえず、アーノルド侯爵に連絡し、返事が来るまでバトンくんは王城の一室に監禁していましたが、アーノルド侯爵家からはすぐに返事が来て、「当家とはすでに無関係の人間なので、投獄するなり国外追放するなり、陛下の気の済むようになさってください」と既に見放した一文が届きました。
勘当されたバトンくんは、もうアーノルド侯爵家を名乗ることはできません。
平民です。
ノア様はそれも踏まえた上で、従属国も含めたトリス王国の全てから半永久的国外追放に処しました。
そして、バトンくんが護衛騎士によって城から出される直前、私はいい知らせを教えてあげました。
「ミモザのビスマルク子爵家令嬢、アリス・ビスマルクも、勘当されたそうよ。先日ビスマルク子爵家から連絡が来たわ。
二人で平民として仲良く暮らすことね」
王族の婚約者を略奪するなど言語道断。
ましてや、宗主国の王女の婚約者です。
私からの抗議文を受け取ってすぐに、ビスマルク子爵は裏を取ったようで、早々に勘当を決められたそうです。
これで二人仲良く平民の身。
貴族など、平民に落ちてしまえばできる仕事などほとんどありません。
魔法が得意ならば魔法師に、学業が優秀なら教師になる道もありますが、バトンくんは平平凡凡、お相手のアリス嬢は、男性をモノにするテクニックはあるみたいですが、自分で働く、ということは嫌いそうです。
そうですわ。
ロングアイランドのヘンリー陛下に、今回のことを知らせて国へは入れないようにしてもらいましょう。何かでご迷惑をかけるといけませんものね。
二人が路頭に迷う?
そんなこと、散々に傷つけられたノエルの前では塵芥も同然です。
ノエルは、今回のことで何か思うことがあったようで、私たちが部屋を出るまで、無表情でした。
そしてそれは、数日続きました。
きっと自分の中で必死に整理をして、過去のことにしようと頑張っているのでしょう。
私達家族はそれを見守ることしかできません。
ただ、ティーダ様だけが、妙に確信を持った口調でノエルに言いました。
「心配しなくても、近い将来なにもかもうまく行くから大丈夫」
もしかしてティーダ様は、私とマリアンヌ様が、アインをマリアンヌ様の養子にしようとしていることに気が付いているのでしょうか。
アインからの返事はまだのようですが、アインがマリアンヌ様の養子になって、ノエルと結婚してくれたら、みんながハッピーです。
私はそんな未来が来ることを願うしかできませんでした。




