執事候補を拾いました
ノエル視点続きます
季節は移り変わり冬になり、馬車の中でもしっかりとコートを着ていないと寒い季節になりました。
今年の冬は特に寒さが厳しく、街を歩く人々もまばらです。
そんな中、私は学園からの帰り道、地面に蹲るように倒れている子供を見つけました。
子供と言っても、私と同じ歳くらいでしょうか。
慌てて馬車を止めてもらい、その子の元へ駆け寄ります。
「お嬢様、危ないです!」
メリーの声が聞こえましたが、こんな寒い中、外で倒れていたら死んでしまいます。
「大丈夫ですか?私の声が聞こえますか?」
私が助け起こした少年は、ぽそりと答えました。
ロングアイランド語です。
「体一つでロングアイランドから一人で来たの?いつから路上暮らしを?最後に食事をしたのは?」
ロングアイランド語で質問を投げかけると、少年はポツポツと答えました。
ロングアイランドで暮らしていたけれどご両親が亡くなり、孤児に優しいトリスに移住しに来たこと。
途中で荷物を奪われ、身元を保証するものがなくなった為、移住出来なくなったこと。
路上暮らしになったのは1週間前。
最後に物を口にしたのは3日前。
「とりあえず、馬車に乗って?こんなところで死んではだめよ」
メリーと御者が両側から担ぐようにして少年を支え、なんとか馬車に乗せることに成功しました。
「お嬢様。犬や猫とは訳が違います。連れ帰ってどうなさるおつもりですか?」
メリーが怒ってます。
でも、放っておいたら明日には死んでいたかもしれません。
「マルコが執事見習いを探していたでしょう?」
「この方を、執事見習いに?」
あからさまに嫌そうな顔をするメリー。
「メリー。身分で差別してはいけないわ。
しっかり教育すれば、この子だって立派な執事になれるかもしれないでしょう?」
「ですが、城内のものを盗んで逃げ出すかもしれません」
「この国の石化の罰は有名だし、そんなことをしようとしたらすぐに広場で石化よ?
悪いことはできないから大丈夫。
それに、きっとそんなに悪い子じゃないわ」
呆れ顔のメリーと共に王城へ帰ると、マルコに少年をお風呂に入れて、着替えさせて食事を与えるようにお願いしました。
マルコはいつもの無表情で黙って少年をお風呂へ連れていきました。
「王女様。あの者をどうするつもりです?」
「執事見習いとして、躾けてほしいの」
「ふむ。素性も知らぬものをですか。とりあえず、お着替えなさいませ。
その後、陛下と王妃様に相談いたしましょう」
私は言われた通り楽な服装に着替えると、少年の様子を見に行きました。
綺麗に身体を洗った少年はなかなかの美形です。
「王女様。犬や猫とは違うのですよ?人間を拾ってくるとはどういうことです」
さすが親子。
マルコにまで叱られました。
「でも、放っておくわけには行かないでしょう?」
「あの、俺……」
「ああ、気にしないで?それよりあなた、トリス語も話せるのね。よかったわ。マルコ、お父様とお母様には私からお話しますから、この子をエリクの所へ連れて行って何か食べさせてあげてくださいな」
「……かしこまりました」
こういう時まず味方をしてくれるのはお母様です。
まずはお母様の執務室へ行き、私は事情を説明しました。
お母様はワクワクした顔で厨房へ様子を見に行きます。
厨房ではすごい勢いで食事をする少年と、それを見守るエリクとマリアンヌおばさまがいました。
「ノエルはこの子を執事見習いにしたいようなのですけれど、マリアンヌ様の見立ては?」
「食前の挨拶もきちんとできるし、素直ないい子よ。まだ子供だし、これからの教育次第で立派な執事になれると思うわ」
「そう。ありがとう。この子が食べ終わったら、陛下の執務室へ連れてきて」
お母様はメイドに命じて、私と一緒にお父様の執務室へ行きました。
「マルコから話を聞いたけど、ノエル。犬や猫とは違うんだよ?」
「あら、ですけどポアロとマルコが執事見習いを探していたのは確かですし、マリアンヌ様も、教育次第で立派な執事になれるとおっしゃっていましたわ」
「しかし…」
「何か問題が?」
「素性のわからない者を王城で働かせるのもな」
「何かあれば石化の罰が待っていますから、きっと真面目に働いてくれますわ。
それとも、身分で差別いたしますの?」
「そういう訳じゃない」
その時、トントントン、とノックの音がしました。
「入れ」
「少年を連れて参りました」
入り口から、少年がオズオズと入ってきます。
「あの、この度は王女様の温情をいただき、本当にありがとうございました。
このご恩は一生忘れません」
私を見るなり、そう言って深く頭を下げます。
「ほらね?いい子でしょう?」
お母様、すごいドヤ顔です。
「あなた、読み書きは出来るの?」
「はい。読み書きと計算は両親から教わっています」
「道で倒れていたそうだが、この子を見たときどう思った?」
お父様が聞きます。
「天使が……天使が迎えに来たんだと。笑われても構いません。あのとき俺の目には、本当に天使に見えたんです」
「………いいだろう。君の名は?」
「アインと申します」
「アイン。君は今日からこの城の執事見習いだ。しっかり学んで、ゆくゆくは息子たちを助けるように」
「え?あの……」
「不満か?」
「いえ!そうではなく……俺のような素性のわからない人間を住まわせてもよろしいのですか?」
「君が悪事を働こうとすれば、中央広場で石像になるだけだ。
それに、娘のノエルと妻が君を執事見習いに、ととても推薦しているからね。
詳しい契約書は今日中に用意しよう。
今は疲れているだろうから、少し休むといい。
部屋まで案内させよう」
お父様がチリンチリンとベルを鳴らすと、すぐにポアロが来ました。
「ポアロ。彼はアインと言う。読み書きと計算は出来るらしいから、明日から執事見習いとしてしっかり教育してくれ」
ポアロはアインをじっと見て、それからニコリと笑いました。
「王女様がとんでもない拾い物をしたと、マルコとメリーが騒ぎ立てておりましたが、さすがは王女様。とても見どころのある少年ではないですか」
「でしょう?」
ドヤ顔のお母様にポアロは頷きます。
「芯の強そうな目、しっかりとした立ち姿。
申し分ございません。メリーはともかく、マルコはまだまだ見る目がございません。
アイン、君にも失礼なことを言ったのではないですか?だとしたら申し訳ない。子の不始末は親の不始末。私からお詫びします」
「いえ。大丈夫です、心配されるのも当然ですし」
「ありがとう。ティレーズ?」
「はい、ここに」
ドアからすぐにティレーズが入ってきます。
ティレーズはいつからいたのでしょう。
最近、ティレーズは気配の消し方がとてもうまいです。
「話は聞いていましたね?明日から彼を執事見習いとして私が直接指導します。
とりあえず、空いている使用人部屋の一室を彼に与えてください」
「かしこまりました」
ティレーズに連れられて、アインは出ていきました。
「契約書はお前から渡してくれ。それと、身なりを整えるよう、見習い服一式の用意を。あとは頼んだぞ」
「おまかせ下さい」
ポアロはとても厳しい方です。
執事教育中、心が折れないように、さり気なくフォローしておきましょう。
「いい事をしたわね、ノエル」
「そうだな。さすが私達の天使だ」
お父様、先程まで渋っていらしたのが嘘のようですね。
何がお父様のスイッチだったのでしょうか。
とりあえず、アインの仕事と住むところが決まってよかったです。
娘を天使と言われてコロッと態度を軟化させたノア様、チョロすぎる気がします




