冬の離宮へ
ノエル視点です
クロちゃんとアリア様がお母様のお茶会に呼ばれ、私も秘密のお茶会に参加したいのに……
と、寂しく思っていましたら、メリーからお母様の自室へ行くように言われました。
お茶会に参加です!
でも、アリア様には私は嫌われているようですが、大丈夫でしょうか。
クロちゃんの昔のお友達なら、私も仲良くしたいのですけれど。
そんなことを考えながらお母様の自室へ行くと、いつもの秘密のお茶会メンバーが揃っていました。
アリア様は泣いた跡が見られますけど、まさか、お母様方が何か酷いことを言ったのでしょうか。
「アリア様?涙の跡が……何かありましたの?」
「いいえ。今日一日の私の言動を反省していたのです。
勝手にノエル様がクロエ様を虐めていると勘違いして、酷い態度を取ってしまいました。
本当に申し訳ございません。
マナーも分からず、勉強にもついていくのがやっと。しかも一方的にノエル様を敵視した私ですけれど、お友達になって頂けますか?」
まさかのアリア様からのお友達申請です!
「もちろんですわ!私もアリア様と仲良くしたいと思っていましたの。
だって、クロちゃんのご友人なら悪い方のわけがありませんもの」
「くっ……天使!」
アリア様?
お母様達は苦笑いです。
「マナーについては、3時のお茶会の度に少しずつ覚えていきましょう?
でも最低限のマナー、例えば王族と会うとき、ナイフやフォークの使い方、ダンスなどは別で習った方が宜しいですわね。お勉強も。
とはいえ、アリア様は平民ですから、講師の先生にお願いするわけにもいきませんし……」
「あら、それならマリアンヌちゃんに教えてもらったら?
毎日学園が終わったらノエルと一緒にここへいらっしゃい。
空いている部屋で教えてもらうといいわ」
なんだかアリアちゃんが怯えてらっしゃるみたいですが、大丈夫でしょうか。
「そうね。ジュリアちゃんはちょっとスパルタだから、マリアンヌちゃんくらいが丁度いいわね」
どうやら決定したみたいです。
「そう言えば王妃様。ルカ王子とヨハン王子はどうなりましたの?」
「ルカ王子は2度目のお見合いパーティーで出会った公爵令嬢と結婚。もうじき第一子が生まれるはずですわ。
ヨハン王子は……カルーア国を属国とするにあたり、人質として冬の離宮でミモザのロード王子と軟禁されていますわ」
「あら、アリアちゃん、推しなの?」
「ええ」
「親子ほど歳が離れていてもいいなら、ご紹介するわよ?」
おし、というのが何か分かりませんが、さすがに親子ほど歳の離れたなんの権限もない王子では、アリア様も嫌がるのではないでしょうか。
と、思っていたのは私だけのようです。
「是非!是非ご紹介して下さい」
「いいわよ。その代わり、それまでに淑女の基本マナーを身につけること。出来る?」
「やります!やり遂げて見せます!」
「せっかくだから、期限を設けましょう。
今日から一ヶ月後の土曜日でいかが?」
「ジュリア様。さすがに1ヶ月はタイト過ぎるんじゃ」
「アリアちゃんならやれるわ」
私とクロちゃんを置き去りに話はどんどん進んでいき、アリアちゃんは1ヶ月後にヨハン王子に会うためにマリアンヌ様から淑女の基礎と勉強を教えてもらうことになったようです。
そして。
アリアちゃんには元から素質があったのか、そんなにもヨハン王子にお会いしたかったのか、アリアちゃんは見事に1ヶ月で最低限マナーの習得と勉強をやり遂げました。
ガタガタ、と馬車は冬の離宮へ向かっています。
馬車の中にはお母様と私、クロちゃんとアリアちゃん。
それに侍女のティレーズが乗っています。
「まもなく離宮に着くけれど、前にも言ったとおり、多分今日は泊まりになると思うけど、大丈夫?」
「はい。両親にも話してあります」
「そう?良かった」
そんな話をしている内に昼になり、冬の離宮に着きました。
「先にロード様にご挨拶しましょう。
あなた達には少し刺激が強いかもしれないけれど……」
刺激?
よくわからないまま冬の離宮の東棟に行くと、ロード王子がこれ以上ないくらいに軟禁生活を満喫されていました。
メイドを膝の上に乗せて、優雅にお茶を飲んでいます。
「何かご不便はない?」
「大丈夫です。むしろこんなに幸せでいいのかと怖いくらいです」
「そ、そう……なら良かったわ。西棟のヨハン王子と親交は?」
「あまりないですね。私はここで食事をとりますし、ヨハン王子がこちらに来ることもほとんどありませんし」
「そう……何か必要なものがあれば連絡をちょうだい」
「ええ、王妃殿下。あなたも、すっかり貫禄を身につけましたね」
「そうかしら?女としては複雑な気分ね」
お母様は少し笑って、席を立ちました。
次は西棟のヨハン王子です。
ヨハン王子は先触れを受けていたようで、きちんとした服装できちんと礼をして私達を受け入れました。
「楽にしてちょうだい?ヨハン王子。
今日はあなたに会わせたい人を連れてきたのよ」
その言葉に顔を上げたヨハン王子は、雷に打たれたようにその場で固まりました。
視線の先にはアリアちゃん。
アリアちゃんも固まっています。
「イケおじ………!」
ああ。
意味はわかりませんけど、お母様がお父様を褒められるときによく使われる言葉ですわね。
「その黒檀のような黒髪に黒い瞳……もう一度見られるなんて……」
「気に入りまして?」
「気にいるも何も!私の好みのタイプは王妃様が1番ご存知でしょう」
「アリアちゃんは?」
「予想以上です……!」
ん?
これはもしかして恋の芽生えでしょうか。
「お母様。私たちは席を外したほうが?」
「そうね。10分ほど二人きりにしてあげましょう」
お母様の言葉に、私たちは一旦ゲストルームへ移動しました。
どんな会話が二人の間で為されたのかは分かりませんけれど、再び部屋をノックして入った時には、真っ赤な顔のアリアちゃんと、実に幸せそうなヨハン王子が出迎えてくれました。
「ジュリア王妃。どうか彼女、アリア嬢と結婚させてください」
え、まだ会って10分そこそこですわよ?
それなのにもう、結婚の話ですか?
お母様もちょっと、引いています。
「もう少し、会う回数を重ねてからでもいいのではないのかしら。アリアちゃんがあなたの好みド真ん中なのは存じてますけれど」
「会う機会を増やしたいのは山々ですが、彼女はまだ学園に通っていて時間もあまりなく、ここに来るとなると1日は潰れてしまいます。それに、アリア嬢だけをここに越させるわけにはいかないでしょう?」
「それは確かにそうだけれど……アリアちゃん、あなたはどう思っているの?ヨハン王子と結婚したい?
一生、この冬の離宮で軟禁生活になるけれど」
「私は、たまにクロエ様やノエル様に会えるなら、ここで軟禁生活になっても構いませんわ。平民ですから、王子の妻として相応しい教養を得るまで、時間がかかっても頑張ります!」
「そう……なら、とりあえずは婚約だけにしておいてはどう?
アリアちゃんはまだ学生だし、卒業するまであと数年あるから、その間にアリアちゃんは教養を身につければいいし、ヨハン王子も少し頭を冷やす時間が必要でしょう?」
「それは、確かに……ですが、まだ後数年も待つなんて……ただでさえ、私は軟禁中の身。認めてもらうのは難しいですのに」
「あら、たった数年が待てないほど好きなのはわかるけれど、その数年でアリアちゃんは立派な淑女になりますのよ?それとも、数年経ってしまったら、気持ちが薄れそうですの?」
「そういう訳では……!」
ヨハン王子、随分必死です。
アリアちゃんはハラハラしながらお二人のやり取りを見つめています。
「……分かりました。アリア嬢が卒業するまで待ちましょう」
「分かっていただけて良かったわ。婚約申込書は私がアリアちゃんのご両親に責任を持って届けますけれど、何しろ身分違いの上、あなたは軟禁中の身。ご両親を説得するのはアリアちゃんに頑張ってもらうしかないですわね。ヨハン王子。あなたからも手紙を書いて説得してはいかがかしら。誠意が伝われば、100回目には了承してもらえるかもしれないわ」
「そうですね。ですが、なぜ100回目なのです?」
それは私も不思議でした。
「僕は死にましぇん!ですか?」
アリアちゃんが不思議なことを言います。
お母様はクスクス笑って否定しました。
「99回の告白で諦めてしまった男性に、あと一回頑張れば報われたかもしれないのに、とお相手の女性が呟く話があるのよ。まぁ、昔の作り話ですけれどね?
要は、最後まで諦めずに頑張って、という話ね」
「なるほど。わかりました。アリア嬢のご両親に認められなくとも、認めていただけるまで誠意を込めた手紙を送り続けます」
「うふふ。頑張ってくださいね、応援していますわ」
その晩は私たちは中央棟で夜を過ごしました。
翌朝。
別れを惜しむヨハン王子とアリアちゃんをお母様が引っぺがして、馬車に押し込み、私達は王城へと帰りました。
アリアちゃんはマリアンヌおばさまに事情を話して家庭教師になってもらうようお願いをしました。
マリアンヌおばさまも何か思うところがあるのか、快くOKしてくださったようです。
アリアちゃんが結婚できるようになるまであと6年。
二人がうまく行くように祈りましょう。




