転生者と転移者と
クロエ視点続きます
「オブライエン子爵家のクロエ・オブライエンです。王妃様のお茶会にお招きいただき登城致しました」
門兵に声をかけると、承っております、と簡単に通されました。
パーティーまでのダンスレッスンで王城へ通っている間に、門兵の方ともすっかり顔見知りになっています。
「ここがトリス王城……本当に白亜のお城なのね」
アリア様の言葉を聞き流して、侍女に案内されて王妃様の自室へ向かう途中、本を抱えたアルフォンス様にバッタリお会いしました。
昨夜のパーティーのことを思い出して、顔が赤くなります。
ハッ、それよりアリア様にご挨拶させないと!
「アリア様、礼を」
アルフォンス様に見惚れていたアリア様が、慌てて膝をついて礼をします。
「クロエ、この方は?」
「私の昔の知り合いで……アリア様です。平民なのでファミリーネームはございません。
魔力が高いので、本日から学園に転入してこられました」
「あ、アリアと申します」
「はじめまして、アリア嬢」
「アルフォンス様は、お勉強の途中ですか?」
「そう。早く君と結婚したくて、スキップ制度を利用することにしたんだ。
来年度の入学にはまにあわせるつもりだから、楽しみにしてて?」
私の為に、スキップ制度を……
思わず知らず顔が赤くなります。
「可愛い、クロエ。じゃ、またね」
私の頭をクシャッと撫でると、アルフォンス様は行ってしまいました。
「はー、すごい。生のアルフォンス様ってあんなに素敵なのね」
「私の婚約者ですから、手を出さないでくださいね?」
「分かってるわよ」
王妃様の自室へついて、トントントン、とノックをすると中からドアが開きました。
「いらっしゃい、クロエちゃん。その方が例の方ね?さ、中へ入って」
思った通り、中には前王妃様とマリアンヌ様もいらっしゃいました。
ですが……
なぜでしょう。皆さんどこか険しい顔をしてらっしゃいます。
「アリア様、ご挨拶を」
「アリアと申します」
きちんと膝をついて頭を深く下げるアリア様。
王妃様方は見定めるような目でそれを見ています。
「楽にしてくれて大丈夫よ。さ、お二人ともお座りになって」
王妃様手ずから、紅茶を入れてくださいます。
「面倒だから率直に聞くけど、あなたは転移者で間違いないのね?」
「え……」
「心配しなくても、ここにいるのはみんな転生者よ。前世のこともセブプリことも知っているから大丈夫よ」
「なんだ、そうなんですか。たしかに私は、ヒロインの親友役として転移しました」
「高校生の割には背が低いのね。まぁ、いいわ。
アリアという親友は、第3部に登場するの?」
「はい。私が率先して嫌がらせの証拠を集めて、断罪イベントを起こします」
自信満々なアリア様の言葉に、皆様ため息をつかれました。
お気持ち、お察しします。
「ごめんなさいね。私達はみんな、転移者にはあまりいい思い出がなくて」
「どういう事ですか?」
「第1部ヒロインのリリアンに王妃様が命を狙われて、助かったと思ったら第2部で聖女の奇跡によって蘇った第1部ヒロインのリリアン、第2部ではメリッサという名前だったけれど、とにかくその方にまた命を狙われてね。
彼女が、転移者だったのよ。
ゲームのシナリオ通りにことが進まない事に苛立って、その原因が王妃様にあると思いこんで……この世界はセブプリが舞台なだけで、ゲームのシナリオ通りには進まないということを理解していただけなくて、本当に困ったのよ」
マリアンヌ様がまたため息をつきます。
「あなたは間違えていない?」
「え、でも。ここはセブプリの世界でしょう?」
王妃様方は目を見合わせました。
「なら、どこかでセーブは出来た?どこでロードした?ゲームの世界なら、死んでもやり直せるはずよね?」
前王妃様の目が怖いです。
アリア様をなんとか庇いたいですが、身体が竦んで声が出せません。
「現に、王妃を務めているのは第2部ヒロインのイザベル様ではなくモブキャラの私だし、第1部ヒロインは永遠石化の罰を受けています。
一歩間違えば、戦争が勃発してもおかしくない状況でしたからね」
「せ、戦争って……」
「国同士が衝突したり、他国の王族を暗殺しようとしたりすれば、そうなってもおかしくないでしょう?」
「ここは、『現実』なの。ゲーム通りには物事は進まないし、悪役令嬢も存在しない。
断罪イベントも発生しない」
「そんなはずない!だって現に、ノエルは存在してるじゃない!」
「今日一日見ていて、ノエルは悪役らしい行動をした?」
「それは……」
「私たちは、ノエルが悪役令嬢にならないように、徹底して育ててきたの。
ヒロインですらルートを間違えると死が待つゲーム。悪役令嬢になんてなったら、何が待ち受けているかわかりませんからね」
「この世界は……ゲームじゃない、の?」
「違うわよ。だから、アルフォンスとクロエちゃんの婚約も早かったし、ノエルには大切な婚約者がいる」
突き放すような王妃様の言葉。
「一度死んでみればわかるわよ。痛みも苦しみもなく死ねる薬を開発したばかりだから、試してみるといいわ」
マリアンヌ様の恐ろしい言葉に、アリア様がカタカタ震えはじめました。
「あの、どうかこれ以上は……」
やっと何とか言葉を捻り出すと、フワッと王妃様が微笑みました。
「ちょっと脅かしすぎちゃったかしら。
でもね、アリア様。この世界に来たからには、ゲームのことはゲームとして割り切って、ここは現実世界だと認識して生きていくしかないのよ」
「エドワードもノエルもアルフォンスも、どこに出しても恥ずかしくない人間に育てたつもりよ。それでももしも、この先ノエルが悪役令嬢として目覚めるようなことがあったら、その時は私に言ってちょうだい。再教育をするから」
「わかりました。
本当は今日一日クロエ様のそばにいて、ノエル様は悪役令嬢なんかじゃないって分かっていたんです。でも、そうすると私の立ち位置がなくなると思って……」
アリア様は泣き始めました。
「そうね。クロエちゃんの親友で断罪イベントを起こすキーキャラなら、悪役令嬢がいない世界では何をしたらいいのか分からなくなって、不安になるわよね。
でもね、心配しなくても大丈夫よ。
あなたはノエルとお友達になって、ゲーム通りに嫌がらせをしてくる人からクロエちゃんを守ってくれればいいの。
もちろん、あちらの世界での親友としてね」
「王妃様………」
「さ、泣くのはもうやめて、セブプリ第3部の話を聞かせてちょうだい?
私達、みんな第1部プレイ中に死んでるから、第2部や第3部がどんな話なのか、詳しくは知らないのよ」
王妃様の穏やかな笑みに、アリア様は涙を拭って頷きました。
前王妃様もマリアンヌ様も笑顔です。
このときは誰も知らなかったのですが、もしもここでアリア様がこの世界を現実世界だと認識しないと、アリア様は無理矢理ノエル様を悪役令嬢にする為に色々と画策し、そのことが原因で私はバッドエンドに、アリア様は不敬罪で断罪される未来が待っていたのです。
ただ、リリアンことメリッサのように、気が触れたり強引にゲームどおりに進めようとして断罪される可能性があることだけは、王妃様方には分かっていたそうです。
だから、あんな風に脅したり、厳しい言葉を向けたのですね。
「アリアちゃん?これからもノエルとクロエちゃんをよろしくね?
特に、ノエルはちょっとおっちょこちょいなところがあるから。
それに、今回のアルとクロエちゃんの婚約を面白く思わない貴族は多いでしょうから、クロエちゃんを守ってあげて?」
「はい!お約束します」
「お茶が冷めちゃったわね。
ゲームの話はまた今度聞くことにして、せっかくだからノエルもたまには呼んであげましょうか。秘密のお茶会は転生者と転移者しか出席できないし、ここで話した内容は他言無用だから、クロエちゃんだけ参加できる事にあの子もそろそろ寂しがっているでしょうから」
王妃様がベルを鳴らすと、見慣れた侍女の方…ノエル様の侍女のお母様が来られて、お茶を淹れ直して下さいました。
ノエル様が来るまでの間、王妃様がマリアンヌ様にクスクス笑って言いました。
「あなた、まさに悪役令嬢だったわよ」
「あら、ジュリア様こそなかなか鬼気迫る演技だったけれど」
「一番怖かったのは、お義母様かしら」
くすくす笑う大人の方々を見て、私とアリア様は、自分たちがまだまだ子供だと思い知らされました。
王妃様のお茶会に呼ばれたノエル様はとてもご機嫌で、すっかりアリア様とも打ち解けました。
今回、私はほとんど空気でしたが、アリア様がここを現実世界だと認識してくれて、ノエル様とも仲良くなったので、良しとしましょう。




