予想外の転入生
クロエ視点です
パーティー後の学園は、私とアルフォンス様の話題で賑わっていました。
なんだか恥ずかしいです。
前世では年上の方が好みでしたし、つい先日まではバース先輩に恋をしていた私。
それがいつの間にかアルフォンス様の優しさと色気にやられて、年下だというのに恋をしたと思ったら、気がつけば婚約者です。
爵位の低い令嬢が王家に嫁ぐにはかなりの努力が必要と聞いていますので、学園での勉強を頑張りたいと思います。
義理とはいえ、ノエル様と姉妹になれるのもとても嬉しいですし、前王妃様も王妃様も、王妃様のご友人のマリアンヌ様も転生者なので、お話がとても楽しみです。
HRが始まるまでは遠巻きに私を見てひそひそ賑わっていた教室も、先生が来られるとあっという間に静まりました。
そして、私は驚きすぎて固まりました。
「今日からこのクラスで一緒に勉強するアリアさんです。アリアさんは平民ですが、とても魔力が高いので転入してきました。本当は皆さんより上の14歳ですが、学力やその他の教育をこれまで受けてきていないので、このクラスへの編入となりました。皆さん、アリアさんに色々と教えてあげるように」
黒髪に黒い瞳。
生徒の中にはメリッサ様を思い出した方もいるようです。
でも私はそれ以上に、アリア様の顔から目が話せませんでした。
「みゆちゃん……」
アリア様の見た目は、前世の親友、みゆちゃんそっくりだったのです。
アリア様は私を見つけるとニコニコしながら近寄ってきました。
「はじめまして。クロエ様」
「みゆちゃん、みゆちゃんだよね?」
「え?もしかして……ゆいちゃん?」
コクコクと頷くと、アリア様はニッコリ笑いました。
「久しぶり、ゆいちゃん」
耳元で囁かれます。
「やっぱり、みゆちゃんなの?どうして?」
「んー、この世界に転移したみたい」
転移!
そういえば、王妃様からメリッサ様も転移者だったと聞いたことがあります。
「私が悪役令嬢からちゃんと守ってあげるから、安心してね」
みゆちゃんは誤解しているようです。
ゲームでは悪役令嬢だったノエル様は、この世界では天使です。
嫌がらせなんて受けたこともないですし、むしろ幼い頃から仲良くしていただいています。
早く、誤解を解かなければ。
「違うの、みゆちゃん。この世界には悪役令嬢なんていないの!」
私がみゆちゃんに囁いた時、ちょうどノエル様たちがやってきました。
「クロちゃん、もしかしてお知り合いなの?」
「ノエル様。ええ、あの……昔の知り合いで」
「あなたがノエル王女?私のクロエ様になんのご用?」
「え?用というより、お話をしに来たのですが」
「クロエ様が子爵令嬢という爵位の低さを笑いに来ましたの?」
「み、アリア様。ノエル様に失礼です。
まず、王族の方に初めてお会いするときは膝をついて最上級の礼をしなければなりませんし、それに私達はいつも授業以外では仲良くお話していますの。ノエル様に爵位の低さをバカにされたことなどありませんわ」
私が必死で言うと、みゆちゃんはガバッと私に抱きつきました。
「そう言うように強制されているのね。でも、私が来たからには大丈夫」
「アリア様、本当に違うのです。ノエル様もルディちゃんもティアちゃんも幼馴染ですし、ノエル様は将来私の義理のお姉様になるのよ?」
「アルフォンスルート!」
みゆちゃんの言動に、ノエル様を始めとした私のお友達は皆さん困った顔をされています。
私は念話プレートで、王妃様に助けを求めました。
『転移者?!転移者はこの世界がゲーム通りに進むと信じ込むところがあるから、少し面倒なことになるかもしれないわね。
放課後、その方と一緒に私のお茶会にいらっしゃい』
『ありがとうございます、王妃様』
すぐに授業が始まり、皆さん椅子に腰掛けましたが、アリア様は私の横にピッタリとひっついて、ノエル様を睨んでいます。
ああ、もう。
本当に違うのに。
お昼休み、いつものようにノエル様とお昼を頂こうとしましたが、アリア様に止められました。
「クロエ様?私、ここではクロエ様しか知り合いがいませんので、ご一緒してくれませんか?」
「まぁ、それなら今日はアリア様もご一緒にランチにしましょう」
ノエル様が優しく言いましたが、アリア様はきっぱりと首を振りました。
「お断りしますわ。これ以上、クロエ様を傷つけるような真似は、私がさせませんわ」
「アリア様……?」
ノエル様も他の皆さんも困り顔です。
「アリア様。ノエル様や皆さんは私の親しい友人ですの。あまり失礼なことは……」
「気にしなくても大丈夫ですわ。行きましょう」
私はアリア様に引っ張られるように裏庭へ連れて行かれました。
「それで?ゆいちゃん。アルフォンスルートに突入するにはまだ時期が早いと思うのだけど、どうしてアルフォンスと婚約を?」
「王子殿下を呼び捨てにするなんて、不敬ですよ?
バース様に失恋して泣いていたところを、アルフォンス様に慰めて頂いて、昨日のパーティーで正式にプロポーズされたの」
「なんだか、ゲームの流れとは少し違うわね。
でも、パーティーでノエルに飲み物を引っ掛けられたりしたでしょう?」
「確かにお酒はかかったけど、それはノエル様が後ろからぶつかられたからで、」
「本当にゆいちゃんは人がいいんだから!そんなの嘘に決まってるじゃない」
「違うの!本当に後ろから押されたのよ。私も見ていたわ。
あのね、みゆちゃん。この世界はセブプリの第3部が舞台にはなっているけど、悪役令嬢なんていないし、みゆちゃんの知っている世界とは違うのよ。詳しいことは、今日の放課後に王妃様からお茶会にお誘いいただいているから、そこで話しましょう?」
「王妃様……イザベル王妃?」
「そこも違うのよ。王妃様のお名前はジュリア様。さっきも言ったけど、この世界は本当にゲームのセブプリとは違うの。今日のお茶会に出ればわかると思うから。とにかく、私とノエル様方の邪魔はしないで?」
「………わかったわ。その代わり、少しでも怪しい素振りがあったらすぐに遠ざけるから」
鼻息荒いアリア様に、私はため息をつくしかありませんでした。
アリア様は魔力量が多いという理由で転入してきたので、淑女の嗜みや歴史などについてはほとんど知りません。
授業中も眠そうにしているだけです。
そのうち叱られるのではないかとハラハラしているうちに3時のお茶会の時間になりました。
「クロちゃん、お茶にしましょう?アリア様もよろしければご一緒にいかがですか?」
「私は喜んで参加いたしますけれど、アリア様は平民ですので、お茶のマナーなどは知らないのではないかと……」
「ああ、心配ですわよね。でも大丈夫ですわ。
お茶は楽しく飲むのが1番、マナーはおいおい覚えていけばいいのですもの」
「そういうことなら、アリア様も参加させていただきましょう?」
「そうね」
お茶会の話題は、やはり昨日のパーティーのことです。
「昨夜のお二人はとてもお似合いでしたわね」
「アルフォンス殿下ったら、クロちゃんしか見ていませんでしたわね」
「あの子、クロちゃんにすごく執着しているから、昨夜も、他の男には見せたくないって、クロちゃんが着替えてる時に言っていたそうですわ」
「まぁ……」
ルディちゃんたちの顔が赤くなります。
「バース様のことは残念でしたけれど、かえって良かったですわね。
バース様よりアルフォンス殿下のほうが素敵ですわ」
「私は、エドワード様が素敵だと思いますけれど、ノエル様から見たらどちらが素敵ですの?」
「兄と弟を比べることはできませんわね。お兄様も素敵ですけれど、アルも子供だと思っていたのにいつの間にか立派な紳士になって……
でも、私の一番はバトン様ですから。
それより、クロちゃんが妹になるのが嬉しいですわ。私が降嫁しても、お茶会に誘ってね?」
「もちろんですわ!」
「それにしても、本当に王妃様の縁結びお茶会の威力は凄いですわね」
「縁結びお茶会?」
初めて、アリア様が口を開きました。
「あら、ご存知ない?王妃様には良縁を結ぶお力があって、王妃様主催のお茶会に招かれると、近いうちに婚期が訪れると有名なのですわ。
ドレスの裾に触れるだけでも効果があると言うお話は平民の方にも有名で、街の至るところに王妃様の肖像画の描かれたお守りや絵葉書が売っているでしょう?」
「ああ、そういえば見かけた気も……でも、私達にはまだ早い話でしょう?興味がなかったので、知りませんでしたわ」
「あら。卒業までの数年で、適齢期でしょう?今のうちから婚約されている方は多いですわ」
「え?10代半ばで適齢期?」
「え?ええ。殆どの方が卒業と同時に結婚されますけれど……」
シエル様が怪訝な顔をされます。
適齢期は基本的に平民も貴族も同じ。
アリア様が驚いたことに、逆に驚かれたのでしょう。
「アリア様の暮らしていたところは、もう少し適齢期が遅いので、驚かれたのではないかしら」
必死にフォローします。
ちなみにアリア様、さっきからお菓子を食べているだけで、打ち解けようとする素振りは見られません。
微妙な空気の中お茶会は終わり、午後の二時間の授業を終えると私は急いでアリア様を馬車に押し込みました。
「いい?アリア様。王妃様にお会いしたら、必ず膝をついて頭を深く下げるのよ?お許しが出たら頭を上げても大丈夫。
王妃様は……お会いしたらわかるけど、あまり細かなマナーを気にする方ではないけど、これだけはしなくては駄目ですからね」
「面倒くさいのね」
「面倒でも何でも、不敬をはたらけば処罰されるのよ?王族とはそういうものなの」
「なんだか、ゆいちゃんすっかり貴族のご令嬢ね。私の知ってるゆいちゃんじゃないみたい」
「当たり前よ。だって私は貧乏でも貴族の令嬢として10年以上生きてきたのだもの。
さっきも言ったけど、ゲームと現実の世界は違うの」
「現実の世界って言ったって、セブプリの世界じゃない」
「アリア様。アリア様にとってはゲームでも、この世界に生きる人にとっては現実の世界。
そのことだけは覚えておいて」
「はいはい」
やる気のなさそうなアリア様を連れて、私は王城へ向かったのです。
王妃様方にお会いして、少しでも考えを改めてくれるといいのですけれど。




