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14 あなたの無事を願うもの

翌朝、目を覚ました私は、いつものように窓から差し込む朝の光を眺めながら、昨夜のことを思い出していた。


『明日も、あなたに会えることが嬉しい』


「……」


駄目だ……朝一番から思い出す言葉じゃない。

私は枕へ顔を埋めた。


「もう……何なのよぉ」


どうしてあの人は、あんなことをさらっと言えるのだろう。いや、さらっとではなかった気もする。言う前に少し間があったし、よく見ればレオンハルト様だって照れていた。


でも…それでも言ってくれた。

私と同じように、明日会えることを嬉しいと思ってくれている。それだけで、胸の奥がじんわり温かくなる。


「……好きだなぁ」


ぽつりと呟いてから、私は固まった。

昨日より簡単に言えた。誰もいない部屋だからだけど…それでも、認めてしまえば、不思議なものだ。

もう「違うかもしれない」と必死に言い訳する必要がなくなった。


私は、レオンハルト様が好き。


その事実は少し恥ずかしくて、ものすごくドキドキするけれど、嫌ではなかった。むしろ……


「……嬉しいかも」


誰かを好きになることが…

また、こんなふうに胸が高鳴ることが…

五十五歳だった私に、もう一度訪れるなんて思ってもみなかった。


そんなことを考えていると、ふと昨夜のもう一つの出来事を思い出した。


黒い紙


赤い文字


『守り人を渡せ』


浮かれてばかりはいられない。

私を狙っている何かがいる。


そして、それと戦うことになれば、レオンハルト様はきっと私を守ろうとする。


騎士だから…


護衛だから…


それだけじゃないと言ってくれたからこそ、余計に無茶をしそうな気もする。


「……だから」


私はベッドから降り、机の引き出しを開けた。

そこには、昨日完成させた小さな袋が入っている。

生成り色の毛糸に、端だけ深い蒼色を編み込んだもの。まだ中身はない。守護紋も入っていない。


「今日、完成させよう」


守ってもらうだけじゃない。私も……あの人の無事を願いたい。


*


「守護紋を教えてほしい?」


朝食のあと、私のお願いを聞いたマルガレーテさんは、ほんの少しだけ目を細めた。


「はい。この間、リゼットさんから聞いたんです。大切な人が騎士へ渡したりするって」


言ってから…大切な人……という言葉に自分で反応してしまう。


「……その、家族とか友人とかが!」


慌てて付け足すと、エミリアさんが横を向いた。


「今、笑った?」

「いいえ」

「絶対笑ったでしょう」

「気のせいでございます」


もう!この人たちは…


「それで、守護紋ってどんなものなんです?」


マルガレーテさんは少し考えると、リゼットさんへ声をかけた。


「リゼット」

「はい」


リゼットさんが一度部屋を出て、しばらくして小さな箱を持って戻ってきた。

箱の中には、刺繍された布が何枚か入っている。


「こちらが、一般的な守護紋でございます」


見せてもらう。円の中に、葉のような形と小さな星が組み合わさった模様。


「綺麗……」


「円は『帰る場所』、葉は『生命』、中央の星は『導き』を表しております」


「帰る場所……」


その言葉に、ふとレオンハルト様との「お帰りなさい」「ただいま」のやり取りを思い出した。


胸が、きゅっとなる。


「この模様を入れればいいんですか?」


「はい。ただし――」


リゼットさんが言葉を止めた。


「何?」


なぜか、エミリアさんとニーナちゃんまで、こちらを見ている。


「……何ですか、その顔」

「ミキ様」


マルガレーテさんが、ものすごく落ち着いた声で言った。


「守護紋には、贈る相手との関係によって少し意味が異なるものがございます」

「関係?」

「はい。今ご覧になっているものは、家族や友人、親しい者へ贈る一般的な形でございます」

「なるほど」


それなら問題ない。


「では、それを――」

「ですが」


また止められた。


「まだあるんですか?」

「恋人や、生涯を共にしたいと願う相手へ贈る場合には」


嫌な予感……いや、嫌じゃない。

恥ずかしい予感…


「中央の星を、贈り主の色で囲みます」

「……」


私は、ゆっくり手元を見る。

生成り色の小さな袋…その端には……


深い蒼色


「……ちなみに」


声がちょっと上ずった。


「相手をイメージした色を使うことにも、何か意味が?」


部屋が静かになった。

エミリアさんの口元が完全に上がっている。


「ございます」


リゼットさんが答える。


「相手の瞳や髪の色を用いることは、『どこにいてもあなたを想う』という意味になります」

「…………」


聞かなきゃよかった。いや、聞いてよかった。

でも……恥ずかしい。


私は小さな袋をそっと手で隠した。


「ミキ様」


エミリアさんの声。


「何ですか」

「その深い蒼色は――」

「何でもありません!」

「まだ何も聞いておりませんが」

「絶対分かってるでしょう!」


ニーナちゃんが両手で口を押さえている。


「ニーナちゃんまで!」

「す、すみません!」

「笑ってるじゃない」

「だって……」

「ニーナ」


マルガレーテさんに呼ばれ、ニーナちゃんは慌てて口を閉じた。でも、マルガレーテさん自身もいつもより少しだけ楽しそうに見える。


(もうーー!)


*


ひとしきりからかわれたあと、私は守護紋の図案を見ながら考えていた。


一般的な形にするなら簡単だ。


そうすれば…これは「護衛してくれているお礼です」と渡せる。


友人として


大切な人として


別に、嘘ではない。でも、中央の星を囲む、もう一つの模様。


恋人や生涯を共にしたい相手


そこまで言われるとさすがに重い。まだ付き合ってもいない。告白すらしてない。


「……これは無理よね」


小さく呟く。


「そうでしょうか」


リゼットさんの声。


「え?」

「お選びになるのはミキ様です」


彼女はそれ以上何も言わなかった。


私はもう一度、図案を見る。

生涯を共にしたい。

そこまでの覚悟があるのかと聞かれれば、まだ分からない。私はこの世界へ来たばかりだ。

レオンハルト様のことだって、まだ知らないことがたくさんある。


だから、恋人用の紋様をそのまま使うのは違う気がする。でも…彼の無事を願う気持ちは本物だ。


「じゃあ……」


私は少し考えた。


「普通の守護紋にします」


エミリアさんが少しだけ残念そうな顔をする。


「何ですか、その顔!」

「何も」

「絶対何かある!」


笑いながら、私は編み針を持った。

でも…一つだけ決めたことがある。


深い蒼色は、ほどかない…


『どこにいてもあなたを想う』


その意味を知ってしまった。

それでもこの色を使いたいと思った。

だったらそれくらいは、今の私の気持ちとして入れてもいいよね…


*


昼前には、守護紋が完成した。

生成り色の中央に、小さな円

その中には生命を表す葉と、導きを意味する星

そして…

その周りをほんの少しだけ深い蒼色で縁取った。

恋人用の正式な紋様とは違う。

でも、私だけが知っている。


この蒼色に込めた意味…


「……できた」


手のひらへ乗せる。

小さい。

特別すごいものではない。魔法がかかっているわけでもない。ただ、私が一目ずつ編んだだけ…でも


「無事でいてね」


小さく呟きながらそっと両手で包んだ。

その瞬間だった。


――ふわっ。


「え?」


指の隙間から白い光が漏れた。


「ミキ様!」


エミリアさんの声。


「何!?」


慌てて手を開く。小さなお守りが淡い白色に光っている。


「……また?」


女神様じゃない。

今回は、私…何もしてない。いや、願った。

ただ…レオンハルト様が無事でいてほしいとそれだけ……

白い光はゆっくりと消えた。

でも、編み目の中にほんの少しだけ銀色の光が残っている。


「……これ」


リゼットさんが驚いたように覗き込む。


「魔力が宿っています」

「魔力?」

「はい」

「私、魔法使ってないですよ?」

「ですが……」


マルガレーテさんも近づいてくる。


「守護の魔力のようですね」

「守護……」


胸の奥が少し温かくなる。


「これ……渡しても大丈夫?」

「おそらく」


マルガレーテさんが答える。


「害のあるものではございません」

「良かった……」


でもまた、女神様のおまけ?

何なんだろう。

私の力、魔物を消したり、古代語を読んだり…

今度は、編んだものに魔力まで?


「ローグ様に報告した方がいいですよね」

「さようでございますね」

「……やっぱり」


絶対、また色々調べられる。

でも、今回は取り上げられたくない。


「あの」


私はお守りを握った。


「これ、レオンハルト様に渡してからでもいい?」


四人が一斉に、私を見る。


「何ですか!」

「いえ」


マルガレーテさんは、とても優しく笑った。


「もちろんでございます」


その笑顔…何か全部分かっている気がする。


*


午後になっても、レオンハルト様は戻らなかった。

北の森の件、昨日の黒い紙、王城内の警備。

全部が重なって、かなり忙しいらしい。


「……まだかな」


気づけば、何度も扉を見ている。


「ミキ様」

「何?」

「先ほどから、何度扉をご覧になりました?」


エミリアさん。余計なこと数えなくていいです。


「別に」

「そうでございますか」

「……何回?」

「十一回ほど」

「数えてたの!?」

「たまたまでございます」


絶対嘘だ!


「もう」


私はソファへ座り直した。膝の上には完成したお守り…渡したい。でも、いざ会ったら何て言えばいい?


『はい、お守りです』


……普通。


『あなたの無事を願って作りました』


……恥ずかしい。


『深い蒼色はあなたの瞳をイメージしました』


……絶対無理。


「……どうしよう」


今日だけで、何回この言葉を言ってるんだろう。


*


夕暮れ近くになった頃、ようやく扉の外から聞き慣れた声がした。


「戻りました」


身体が勝手に動いた。


「お帰りなさい!」


立ち上がってから、自分の反応の速さに驚く。

扉から入ってきたレオンハルト様も、少し驚いた顔。

でもすぐに、柔らかく笑った。


「……ただいま戻りました」


その言葉にほっとする。

本当に帰ってきた。


「今日は遅かったですね」

「申し訳ありません」

「謝らなくていいですよ。忙しかったんでしょう?」

「はい。警備体制の変更と、北の森へ向かう部隊の編成がありまして」


北の森…

その言葉に胸が少し緊張する。


「レオンハルト様も……行くんですか?」

「今のところ、その予定はありません」

「本当?」

「はい。私はミキ様の護衛を命じられています」

「……良かった」


心からそう思った。すると、レオンハルト様が少し黙った。


「何?」

「いえ」

「また?」

「……最近」


少し困ったように彼が笑う。


「ミキ様が私を心配してくださるのが、嬉しくて」

「……」


また…さらっと、それだ。


「心配くらいしますよ」


私は、目を逸らしそうになって、でもやめた。


「大切な人なんだから」


言った。


「……」


え?……今………私…………何て?


レオンハルト様も完全に固まっている。


(ちょっと待ってーー!)


口が!勝手に!


「いや! その、大切っていうのは!」

「ミキ様」

「はい!」


低い声で名前を呼ばれ、思わず止まる。

レオンハルト様が私を見ていた。

深い蒼色の瞳が、いつもよりずっと真剣で


「……ありがとうございます」


それだけ…でも声が、すごく優しかった。

もう誤魔化さなくてもいいのかもしれない。


「……あの」


私は、テーブルの上のお守りを手に取った。


「これ」

「何でしょう?」

「レオンハルト様に」

「私に?」


差し出す。手が、ちょっと震える。


「お守りです」


彼の目が、手のひらの小さな袋へ落ちた。


「ミキ様が……?」

「はい」

「作られたのですか?」

「はい」

「私のために?」

「……はい」


三回目。

声がものすごく小さくなった。

レオンハルト様は、しばらく受け取らなかった。


「……いらなかった?」


不安になって、手を引こうとした瞬間…

大きな手が、私の手ごとお守りを包んだ。


「違います」

「……」


……近い、手を握られてる。


「嬉しくて」


レオンハルト様がゆっくりお守りを受け取る。

壊れ物でも扱うみたいに、大切そうに…


「何と言えばいいのか……」

「そんな大したものじゃないですよ」

「私にとっては大したものです」

「……」


……だから、そういうの反則だよー。

彼は、お守りをじっと見つめている。

そして、深い蒼色の編み目に気づいた。

指先でそっと触れる。


「……この色」

「あ」

「ミキ様」

「はい」

「以前、図書室へ向かう途中に」

「……はい」

「私の瞳の色を、綺麗だと仰いましたね」


覚えてるの!?


「まあ……言った気が」

「それと同じ色に見えるのですが」

「……気のせいでは?」


ついに……使ってしまった。

レオンハルト様の口元が少し上がる。


「そうですか」

「はい」

「では」


お守りへ目を落とす。


「こちらの意味も、ご存じない?」

「……」


え??待って…


「意味?」

「この国では」


嫌な予感……


「贈る相手を想起させる色を守護紋に用いることは」


知ってる。知ってます。今日聞きましたよぉー。


「『どこにいてもあなたを想う』という意味があります」

「…………」

「ご存じで?」


レオンハルト様の声、ちょっと楽しそうじゃない?


「……今日知りました」


嘘は、つけなかった。


「今日?」

「作ってる途中で」

「では」


深い蒼色の瞳が、私を見る。


「意味を知った上で、その色を残されたのですか?」


逃げ道がない。

エミリアさんたちを見る。

全員!!いない。いつの間に!?


(逃げたーーー!)


「……はい」


消えそうな声。でも、言った。


「残しました」


レオンハルト様の目がほんの少し大きくなる。


「だって」


恥ずかしい。でも、ちゃんと言いたい。


「レオンハルト様に渡すものだから」


胸がうるさい。


「この色が……一番いいと思ったんです」

「……」

「それに」


もう、ここまで言ったなら少しくらい……


「どこにいても」


私は、彼の手の中のお守りを見る。


「無事でいてほしいって、思うから」


静かだった。

部屋がものすごく静か……


「……重かった?」


怖くなって聞く。

すると、レオンハルト様が首を横に振った。


「いいえ」


そして、胸元へお守りを当てた。


「生涯、大切にします」

「生涯!?」

「いやいやいや! 毛糸ですよ? そのうちボロボロになりますよ!」

「では、補修していただけますか」

「え?」

「その時も」

「……」


また?


その時?


つまり……


これからも?


「……はい」


笑って答えた。


「何度でも」


レオンハルト様の表情が今まで見た中で

一番……優しくなった。


*


「それから」


レオンハルト様が、お守りを見ながら少し眉を寄せた。


「はい?」

「魔力が宿っていますね」

「あ、やっぱり分かる?」

「かなり強い守護の魔力です」

「……ローグ様にも見てもらわないといけないよね」

「ええ」

「取り上げられないかな」


思わず言うと、レオンハルト様がお守りを胸元へしまった。


「渡しません」

「え?」

「解析が必要なら、このまま行います」

「でもローグ様が――」

「渡しません」

「……」


二回言った。


「そんなに?」

「当然です」


当たり前のように彼が言う。


「私が初めていただいた、大切なものですから」

「……」


駄目


……今日は


………もう限界。


「レオンハルト様」

「はい」

「ちょっとだけ黙っててもらえます?」

「なぜです?」

「心臓がもちません」

「……」


一瞬、きょとん。それからレオンハルト様が、声を出して笑った。


「笑わないでください!」

「申し訳ありません」

「全然思ってないでしょう!」

「少しだけ」

「もう!」


でも、私も笑っていた。


*


少し離れた廊下では


「……いかがでした?」


エミリアが小声で尋ねた。


「何がでしょう」


マルガレーテは、いつもの完璧な笑顔。

その横では、ニーナが両手を握りしめている。


「絶対、今いいところですよ!」

「ニーナ」

「はい」

「覗き見はいけません」

「でも!」

「いけません」

「……はい」


しょんぼりする。リゼットが、静かに扉を見る。


「ただ」

「はい?」

「ミキ様は、深い蒼色をほどかれませんでしたね」


エミリアの表情が、嬉しそうに緩む。


「意味をご説明したのに」

「はい」

「それでも」


マルガレーテもほんの少しだけ笑った。


「ようやく、ミキ様ご自身が望まれるものを選び始められたのでしょう」


誰かのために、ではなく自分の心で

好きな人を想いその人の無事を願う。


「……良かったですね」


エミリアの声に、マルガレーテは静かに頷いた。


*


その夜、近衛騎士団の詰所。


「……副団長」


カイルは、目の前の人物をじっと見ていた。


「何だ」

「先ほどから、そこを触りすぎでは?」

「何のことだ」

「胸元です」

「……」


レオンハルトの手が止まった。騎士服の内側、そこには、小さな編み物のお守りがある。


「何かいただいたんですか?」

「関係ない」

「ミキ様から?」

「……」

「分かりやすいですね」

「黙れ」


カイルは、にやにや笑う。


「しかも、その魔力、守護の加護がかかってますよね?」


レオンハルトが少しだけ目を細める。


「……ああ」

「相当強いですよ」

「分かっている」

「色は?」

「何?」

「何色なんです?」

「……深い蒼だ」


カイルが、止まった。


「……副団長」

「何だ」

「それ、意味をご存じですよね?」

「……」


もちろん知っている。


『どこにいてもあなたを想う』


思い出す。


『意味を知った上で、その色を残されたのですか?』

『……はい』


口元が勝手に緩みそうになる…


「……副団長」

「何だ」

「笑ってます?」

「笑っていない」

「いや、完全に」

「訓練を増やすぞ」

「横暴です!」


カイルの声を背に、レオンハルトは、もう一度胸元へ手を当てた。

温かい。魔力だけではない。あの人が一目ずつ自分のために編んだ。


『無事でいてほしい』


その言葉……


「……必ず」


小さく呟く。必ず、戻る。どこへ行ってもあの人のもとへ……


*


同じ頃、私はベッドの上で両手を顔に当てていた。


「……渡しちゃった」


しかも、意味バレた。


『どこにいてもあなたを想う』


「うわぁぁぁ……」


布団へ倒れ込む。


「恥ずかしーー!」


でも、後悔はしていない。不思議なくらい。全然…


「……喜んでくれた」


大切にするって。生涯……

そこまで言うとは思わなかったけど


「……ふふっ」


笑ってしまう。好きな人に自分で作ったものを渡して喜んでもらえた。

こんなことで、こんなに幸せになるんだ。


日本にいた頃、私はずっと誰かのために何かをすることが当たり前だった。


食事、家事、介護、仕事……


やって当然。そう思っていた。

でも、今日のお守りは違う。

私がしたかったから…

あの人にあげたかったから…作った。

そして、喜んでくれた。胸の奥がじんわり温かい。


「……今度の人生」


ぽつりと言葉が漏れた。

愛されたい……そう願った。でも、もしかしたら…

愛されるだけじゃなくこんなふうに、誰かを想うことも幸せなのかもしれない。

そう思った時だった。


窓の外で…


――ぱさっ


白い鳥

金色の瞳


今夜も静かにこちらを見つめている。


「こんばんは」


もう怖くない。声をかける。

白い鳥は、ゆっくり首を傾げた。

そして


『守れ』


「……え?」


胸が冷たくなる。今までとは違う声。


『守れ』


「誰を?」


白い鳥の金色の瞳が私を見る。

そして、頭の中に一つの光景が流れ込んだ。


銀色の髪


血に濡れた騎士服


地面に倒れる……深い蒼色の瞳


「……レオンハルト様?」


白い鳥が大きく翼を広げた。


「待って!」


私はベッドから飛び降りた。


『時は近い』


「何の!?」


白い光が、窓の外へ消えていく。


「待って!」


でも、もういない。

胸が嫌な音を立てていた。

さっきまであんなに温かかったのに。


「……嘘」


私は、両手を握りしめた。


「嫌よ」


ようやく好きだと気づいた。


ようやく大切にしたい人ができた。


なのに……


「絶対……嫌」


その瞬間!!胸の奥で白い光が強く脈打った。


遠く離れた北の森


古びた石碑にまた一つ大きな亀裂が走った。


そして闇の中で、低い声が笑った。


『見つけたぞ』


『守り人の――』


赤い瞳が、ゆっくり細められる。


『弱点を』





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