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車内の会敵

車内に響いた咆哮。

次の瞬間、汽車は大きく減速を始めた。


やがて、草原の中で停止した。


「魔物だ!」


「早く奥に行けよ!」


「魔除けのランタンは!?積んで無いの!?」


細い通路を、乗客たちが我先にと押しのけ合いながら奥の車両へと逃げていく。


背中に、嫌な汗が伝う。


「何で魔物が!?」


悲鳴が飛び交う中、樋川は立ち上がり声を上げた。


「何故かは、後じゃ」


カバンから姿を現したババ様は告げた。


「敵は目の前。アラートは鳴っておるじゃろうが、魔法少女が駆けつけるまで数分。

このままでは被害が出るぞ」


「分かっています」


樋川は右足のホルスターから杖を取り出し。


頭と体にトントンっと、1回ずつ杖を当てた。


すると瞬間――


先程まで来ていた服の上にはローブが、頭には三角帽が現れた。


「魔法少女だ!」


「た、助かった……」


逃げる人達の中で安堵の声が響く。


そして魔法少女の戦闘服に身を包んだ樋川は杖を魔物に構える――


が。


その手は、わずかに震えていた。


「くっ……」


「何をしておる。早よ撃たんか」


敵を前に静止してしまった樋川に注意したババ様だったが。


「で、でももしここで暴発してしまったら……」


片手で構えた杖ごと震える手と声。


しかしババ様からの言葉はただ現実を伝えるものだった。


「……魔物は待ってはくれぬぞ」


「うっ……」


ババ様の言う通り、魔物はこちらへと体を向け、一歩ずつ獲物を逃がさないかの様に近づいてくる。


いつまで経っても攻撃を仕掛けないと樋川に不審がる乗客。


先程までの安堵の声や表情も次第に曇り始めていた。


「なんかよくわかんないけど、俺が手を握れば良いんだったよな!?」


見かねた俺は樋川の手を取ろうと一歩近付いたのだが。


「要らない……私だけで低位の魔物くらい倒せる!」


「状況見て強がれよ!」


そう言いながら俺は樋川の手を掴んだのだが。


瞬間、まるでせきを切ったかの様に、何かが流れ込む感覚が手のひらを通して伝わった。


「うわっ!」


俺は反射的に樋川から手を離したが――


次の瞬間には樋川はその場に崩れ落ちた。


「コントロールできてないのに……何も考えずに吸わないで……ちょっとずつ……調整してよ!」


「俺はガスコンロか!」


ゆっくりと立ち上がる樋川に思わずツッコミを入れたが、事態は何も前に進んではいない。


むしろ、最悪だった。


唸る魔物はピタリと足を止め、すぐ側にいた逃げ遅れたスーツ姿の男に狙いを定めた。


「ひっ!!く、来るなぁ!!」


手を必死に振り、魔物を追い払う素振りを見せるが怯むわけも無い。


次第にその鋭利な爪が男性に向け振り上げられ、男は必死に頭を両手で包む。


すぐ側に迫った死を受け入れないかの様に必死に叫ぶ。


「うわぁぁぁぁ!!!」


「ダメー!!」


樋川までもが、そのどうしようもない状況に叫んでいた。


――その時だった。


「やれやれ、見ていられんのぉ……」


背後から低い声が聞こえた。


その言葉を合図にしたかの様に、振り下ろされるはずだった爪が――


空中で、ぴたりと止まった。


咄嗟に俺は振り返る。


そこには――右前足を魔物に向け突き出したババ様がいた。


「民間人がいる場で何をしておる」


続いて魔物に向けた前足を窓側に向け、横一線に振り払った次の瞬間――


バキィィィン!!


魔物は体ごと窓ガラスと共に車外に吹き飛ばされた。


「え?」


「は?」


一同、誰1人として状況が理解できていない中、ババ様は淡々と樋川に言葉を告げた。


「民間人がいる場で魔物に会敵した際、最も素早く行うべきことは?」


背もたれに手をついたままの樋川は答える。


「民間人から魔物を引き剥がす事です……」


「分かっとるなら良い、さっさと追うとしよう」


ピョンピョンっと座席から樋川の肩を経由したババ様は俺の方へ体を向け。


「ボサッとしとらんと、遥も早く来い」


「お、俺もか?」


「うむ、丁度良い相手じゃ。少しレクチャーといこうか」


その言葉と共に列車から飛び降りた樋川とババ様に俺も続いた。



草原に出た瞬間、足元で短い草がざわりと揺れた。


車外に吹き飛ばされた魔物は、既に起き上がっていた。


「ガァァァ!!」


こちらを認識した瞬間、耳をつんざくような咆哮が、空気を震わせる。


次の瞬間――


魔物は地面を蹴った。


鋭い爪が草を刈り裂きながら、一気に距離を詰めて来る。


「危ない!」


「っ――!?」


樋川に肩を押され、俺の体は横へ弾かれた。


そのまま二人で草の上を転がる様にして、間一髪で回避する。


「なっ……!?」


すぐ横を、風を切る音と共に魔物の爪が通り抜け。


その通過後は、草ごと土が抉れ、一直線に深い傷跡が走っていた。


もしアレをまともに食らっていたら……


考えるまでもない。


俺の魔法世界は初日で幕を閉じていた所だった。


頬を汗が伝い、俺は息を飲んだ。


そんな俺とは違い、樋川はこちらに手を突き出し。


「とりあえず魔力、返して」


「いや、そのやり方がわかんねぇんだよ!」


叫ぶ俺の隣。

樋川の肩の上で小さなため息が落ちた。


「やれやれ……イチイチ喧嘩しよって……」


呆れたババ様は俺の方へ頭を向けたまま言った。


「遥、魔法に必要なのは”イメージ”じゃ」


「イメージ?」


「お主が言っておった”ガスコンロ”――アレはあながち間違いではない」


ババ様は続けた。


「魔法とはイメージの先に発現する物――」


俺の体の部位を指さししながらババ様は言う。


「腹、肩、腕……そして手のひらと水を流すイメージでやってみろ」


そして。


「吸収も排出も一気にではなく、火力を調節するように、強火から弱火へ……どうじゃ?」


ババ様の言葉を聞いて、俺の腹辺りで何かを感じ取った。


得体のしれないソレは熱くはないが炎の様であり、水の様でもある。


形が定まらない魂の様な物だった。


「……流す、か」


意識を集中させた。


腹から、肩へ。


肩から、腕へ。


そして――手のひらへ。


「っ……!」


何かがイメージ通りに、確かに動いた。


「どうだ……?」


「ちょっと多いけど、来てるよ」


俺が少し力みながら一気に力を流し込むと、樋川は杖を魔物に突き出した。


その杖先にはあの夜と同じ光が集まっていた。


「グガァァァ!!」


再び地面を蹴った魔物。

今度は爪を一塊に集めての突進だった。


だが――


こちらの魔力返還も完了した。


「よっしゃ、いけぇ!」


俺の合図で樋川は杖先から光を放った。


放たれた魔法は、一直線に飛び。


向かって来る魔物は回避をする為か、その場で急ブレーキをかけたが、時すでに遅し。


――当たる!


そう思った瞬間。


光は魔物の目前で真横に大きく逸れ、着弾した。


ドンッ、と鈍い音と共に土煙が上がる。


「……は?」


「やっぱり……元の魔力量だとコントロールが……」


魔物は一瞬、動きを止めた。


まるで「当たる」と思っていた攻撃が外れた事を理解できていないかのように。


「……ガァ?」


間の抜けたような声。


だが次の瞬間――


「ガァァァァッ!!」


怒りを爆発させるような咆哮が、草原に響き渡った。


「くそっ……!」


俺は舌打ちしながら叫ぶ。


「もう一回だ!」


「今度は――樋川が制御できる量まで吸収してみる!」


樋川の手を、もう一度掴む。


今度は先程とは違う。


――イメージだ。


俺はババ様の言葉を思い出しながら、実践した。


(強火で一気に吸って……)


一瞬で流れ込んでくる魔力。


だが――


(そのあと弱火で、絞る……!)


今度は“流しすぎないように”抑える。


さっきよりもはっきりと、魔力の流れが理解できる。


「……っ!」


その時、樋川の握る手が、先程よりも強くなった事を感じた。


「これなら……!」


横で樋川が短く呟く――それが合図だった。


「よっしゃぁ、行け!」


すぐ側まで迫る魔物。


地面を抉りながら一直線に突っ込んでくる。


だが、今度は違う。


樋川は真正面から杖を構えた。


「はぁぁぁっ!!」


樋川の意気込みも込めた声と共に放たれた光は、今度は逸れない。


真っ直ぐに走り――


「ガァァァッ!?」


魔物の体に直撃した。


衝撃と共に、その体が後方へ吹き飛ぶ。


草をなぎ倒しながら転がり――


やがて、地面に叩きつけられた。


「やった……」


思わずフラグめいた事を呟いたてしまったその時。


土煙の中で、影が揺れる。


「……っ、やっぱりあの魔力量じゃ、コントロールできても倒しきれない……」


ゆっくりと――


魔物は、再び立ち上がり。


受けた傷故か、こちらへゆっくりと狙いを定めて歩いてきている。


「樋川、もう一発……いけるか?」


俺は再び手を繋ぎ、樋川にそう尋ねる。


さっきの一発で少しコツは掴めた。


それに、魔物のあの傷だ。


後一発打込めば、倒せる――


樋川は返事と共に、既に杖を構えていた。


「当たり前でしょ!」


三度の集光。


「グガァ!?」


魔物も自身の状況を感じ取ったのか、慌てたような動きを止めたが。


俺達の準備は終わっている。


「行けぇ!!」


その言葉と共に魔法を放とうとした。


その時だった。


ヒュン――と、空気を裂く音。


一瞬聞こえたその音と共に、二本の光の槍が、魔物の両翼を貫いた。


「ギィッ!?」


魔物の体が大きく揺れた。


地面に縫い付けられた様に、その場から動けない。


何が起きたのか分からないまま、魔物は左右の羽を交互に見た。


そして――


上空には、光が。


遅れてやって来たその光は、先程の槍の数倍は有ろう事が目視でも確認できる程の、太い光の奔流。


「――――」


一直線に、魔物を光が包み込んだ。


響く光の着地音と共に吹き荒れる風圧。


砂埃が消えた頃には、全てが終っていた。


光の消えた後。


抉れた地面。


そこに残っていたのは――


小さな、青い石だけだった。


「……は?」


俺は呆然とその光景を見つめた。


その横に居る樋川の上で。


「――」


ババ様は何も言わず、ひょいっと樋川の帽子の中へと姿を隠した。


――そして、影が差す。


見上げると、そこには。


箒に跨った一人の少女が、ゆっくりと降下してきていた。


風に揺れる金髪。


こちらを見下ろす視線。


静かに地面へと降り立ったその姿を見て、樋川が小さく呟いた。


「……アルヴェインさん」


そう放つ樋川の頬には一粒の汗が伝っていた。

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