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現実と魔法の交差点

月を背に浮かぶその姿は俺のイメージ通りだ。


先程の恐怖とは別に心臓の鼓動が早くなるのが分かる。


「っく……拡散しちゃった」


言葉の主が吹き飛ばしたはずの化け物はゆっくりと体を起こした。


まだ倒せてはいない。


「あの化け物、まだ……」


再びこちらへと睨みつける顔を前に俺の心臓はまた恐怖で動き出した。


「――下がってて」


ゆっくりと高度を落とし、俺の前に降り立った魔法使いは化け物と睨み合う。


唸る声はこちらまで届いていた。


対して魔法使いの手は……震えていた。


「あ、あの大丈夫?」


「は、はぁ!?ノクスに心配される筋合いなんて――」


心配したつもりだったが、帰って来たのは訳の分からない単語と、


「これ!集中せんか!」


謎の声。


老婆の様な声が聞こえた気がしたが、依然俺の視界には顔の見えない三角帽の魔法使いと化け物のみ。


「今の声、どこから?」


首を左右に動かしても誰もいない。


居るのはこちらに素早く向かって来る

化け物――


化け物!?


「なっ!!?」


「くっ、掴まって!!」


再び箒に跨った魔法使いは、俺の腕を掴み急上昇。


振り被る化け物の拳は俺達の居た場所に振り下ろされた。


「あ、危ねぇ……」


まさに間一髪。


激しく砕け、陥没したアスファルトと化け物を見下ろした。


「ど、どうすんだ?アイツピンピンしてんぞ」


「も、もう一回魔法を打ち込めば……きっと」


「よし、ならこのまま打ち下ろし続ければ――」


「簡単に言わないで、箒操作と同時に攻撃なんて……」


次第に声が……自信が無くなった様になっていく魔法使い。


「それにさっきから、なんだか体が……」


「お、おい大丈夫――」


そう言えば先程から魔法使いの肩に手を置いている俺の指先から腕を通り、体に入って来ている様な……?


「何だ?この変な感覚……っ!?」


瞬間、箒が揺れ始めた。


夜風ではない。


うねる様に揺れ、次第に高度は落ち始める。


「あ、アレ?なんで……」


「萌花、何をしとる!」


「ち、違うんです。何だか……力が抜けて……」


放物線の落下するようにゆっくりと地面へ向かう。

眼下には俺達を見上げながら走り付いて来る化け物。


「お、おいおいおい!!!」


絶望的な状況に声を上げたが、当然状況は変わらない。


そして。


俺達は転がりながら地面に落ちた。


「痛って……」


運よく落ちた先は河川敷の草原。


「お、おい無事か!」


共に落下した魔法使いの元へ駆け寄ったが――


「じ、じっとしてて!」


既に魔法使いは立ち上がり、片手を広げ、俺を制止する。


視線の先には。


「もう追いついてきやがった!」


唸りを上げながら四足歩行で、先程より素早くこちらへ。

いや、魔法使い目掛けてその足は止まらない。


「くっ!」


魔法使いは杖を両手で握り、化け物に構える。


集光。


激しい光が杖先に集まり始めたのだが。


「圧縮が足りとらん!そのままでは、また拡散するぞ!」


「分かって……ます……」


杖先に集まった光は、水が沸騰したかのようにボコボコと膨れ、落ち着く気配がない。


一般人の俺にだって分かる。


制御できていない――


「どうして上手くできないの……」


呟いた言葉も震えていた。


魔法使いが俯いた瞬間を狙ったかのように化け物は跳躍!


その勢いのまま巨腕を振り被った!!


「萌花!ぼさっとするな!!」


「うっ!」


足は動かせた。


助けを求めて逃げ回っていた俺でも。


化け物より速く、魔法使いの元に辿りつける!!


「うぉらぁぁ!!!」


気合だけは十分入った声を出しながら、間一髪。

魔法使いの体ごと抱きしめ巨腕を回避した。


「な、何して……助けてなんて言って無い!」

「じっとしててって言ったでしょ!」


「アホか!あのままだったらお前、死ぬだろ!!」


「ノクスは黙ってて!」


俺の腕を払い、再び意味の分からない言葉を吐きながら杖を構えた。


「強くなるんだ……」

「私も……私にだって……」


杖先の光はまたしても膨張と縮小を繰り返している。


「どうして……できないの……」


ギロリとこちらを三度睨みつける化け物は体も方向転換させた。


一歩、こちらへ距離を詰める。


杖を握る両手。


腕、肩、それに足までも小刻みに震えている。


だから俺は、駆け寄った。


この状況を打破できる力をもっているのは、妄想の中の俺じゃない。


この本物の魔法使いだけなのだから!


「一人でダメなら、二人でだ!!」


「なっ、こんな時に何して――」


俺は支える。


背後から、共に杖を握るその手を掴んだ。


瞬間――


「え……?」


ボコボコ波打っていた光は、すっと丸く集まり。

杖先で大きな光の玉となった。


「なんで……」


集光は今度こそ安定している。

震えも止まった。


「萌花!制御できておる!」

「今じゃ!」


いや、それ俺の決めセリ――


ツッコミを言い切る前に、魔法は放たれた。


瞬間、俺の視界は白く塗りつぶされ。

白光が夜を切り裂いた。


遅れて爆ぜた衝撃波が草原をなぎ倒す。


風圧と衝撃。


「おわぁぁぁぁ!」


俺の体は後方へ弾かれ――


足が浮き、情けなく尻餅をついた。


草が舞う。


魔法使いは杖を構えたまま立っており。


「うそ……」


呆然と、目の前の”ソレ”を見つめていた。


上半身が穴が空いたかのように吹き飛んだ化け物。


焦げた断面からは煙が立ち上り――

数秒遅れて、下半身が崩れ落ちる。


塵となり、夜風と共に消え去った。


「おーい、やったな!」


駆け寄った俺の方へ振り返った魔法使いはまだ実感を持てていない様子だった。


「倒せた……私が……」


「おいおい、聞こえてる……かっ!!?」


俺は目の前の”彼女”の顔を見て驚愕した。


だって。


先程まで影の様に顔が見えなかったはずの彼女は俺のクラスの完璧超人――


「樋……川!?」


「へっ!?」


樋川は顔をぺちぺちと触り、冷や汗をかき始めた。


「見えてるの……?私の顔……」


その声は先ほどまでの強気な声とは違っていた。


「うん……なんか見えるようになった?」


数秒の沈黙と共に二人の間を夜風が通り過ぎる。


月明りが照らした彼女の顔は――


「…………っ!!」


真っ赤に染まっていた。


「どうして……だってババ様のローブと帽子が……」


慌てる樋川の三角帽子から一匹の子猫が出てきたと思えば樋川のローブを触り始めた。


「おかしい……ワシの施した魔法が消えておる……」


なっ!?


言葉が流暢なんてものじゃない。


完全に人語を放つ――


「ね、猫!?猫が……喋っ……るよな、魔法だもんな」


「変わった子じゃな……」


子猫は不思議そうに首を傾げた。


「自分で言うのもなんじゃが、驚かんのか?」


「いやまぁビックリしたけど、魔法と猫はセットと言うか……」


そう、宅急便と猫。

クイズゲームと猫。


まさに魔法のイメージ通り!


「そそそそそんな事どうでも良いですよ!」


一人で納得している俺の前。

まだ顔を赤くしていた樋川が会話を遮る。


「なんなのあなた!どうして魔法が……魔物が見えるの!?」


「ちょっ、落ち着けよ」


余りにも慌てていたその様子を前に、俺は手で落ち着けとジェスチャー。


「俺にだって何が何だか……」


魔法を使いたいとは思っていたが、俺の妄想とはかなり違っていたし。


質問の答えを考えていた時。

樋川の肩に戻った子猫は俺をじっと見つめる。


「フム……」


「な、なんだよ……」


俺の足から頭までを順に、その細めた黄色い瞳で確認した猫は――

小さく、そして低く。


「こやつ……まさか……」


「え?」


「いや、何でもない」


気になる何かを呟いたかと思えば、勝手に会話は終了した。


「気になる事はお互いあるだろうが、ひとまず今日は解散にしよう」


「分かりました。街の復旧もありますしね……」


子猫からの一言で、俺を詰めに来ていた樋川も足を引いた。


俺もこの数分の体験に始めこそ興奮したが、終わったと理解した途端に疲れがどっと出て来た。


「赤城君……」


「ん?」


「今日見た事は他言しない様に」


俺に忠告する彼女の目は学校で見る優しい瞳ではなく、俺の知らない彼女の瞳だった。


「親にもか?」


「えぇ、その場合はあなたの記憶ごと消す事になるから」


「いや、おっかねぇな!!」


急な脅しを伝えた樋川はそのまま踵を返した。


そんな彼女の後姿を追いかける様に、俺は――


「ありがとな、助けてくれて」


助けに来てくれた感謝を告げた。


「……うん」


小さく背中で返事をした彼女は夜の空に消えていった。



その夜。


裂けた雲の隙間から月光が差し込む。


その遥か上空。


黒い影が一つ、浮かんでいた。


「フフ……」


微かな笑い声に、彼らは気付いてはいない。


影はゆっくりと月の裏へ溶け……


そして、消えた。

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