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完璧超人・樋川さん

樋川萌花といかわもかは完璧超人

—―らしい。


少なくともクラスの連中はそう言っている。


「昨日さ、体育の授業でさ」

「見た見た!あの跳躍力!」

「しかも、トリプルアクセルしながらダンクシュート決められるらしいぞ?」


いや、それ本当に人間か?


俺、赤城遥あかぎはるかは教室の隅の席で一人頬杖を突きながら、そのBGM代わりにしていた話に心の中でツッコミを入れていた。


視線の先、文字通りクラスの中心にいる本人は――


「そ、そんなことないよ。普通にしかできないよ?」


と、セミロングの銀髪を揺らしながら、首を横に振っていた。


容姿端麗、成績優秀、運動神経も抜群。


まさに高嶺の花って言葉がお似合いだ。


俺みたいな陰キャよりのオタクが関わる余地なんてあるわけがない。


……まぁ別に、関わりたいと思ってないけどさ。


……ん?


「またまたぁ!」

「謙遜しなくてもいいのに!」


否定する彼女を持ち上げる様にクラスの連中は話を続ける中。


一瞬……ほんの一瞬だけ彼女の表情が曇った様な気がした。


……あぁそう言う感じね。


俺は小さく息を吐いた。


別に同情とかじゃない。


俺が同じ立場になる事なんて、あるわけがないのだから。


でも。


あぁ言うの、(疲れるんだろうな)と思っただけだ。


「まぁ俺には関係ないけどね」


・・・そう思っていた。


夜中になるまでは。



「やっと見つけたぜ……」

「しかもラスイチ!!」


授業が終わり、俺は本屋で満足感に包まれていた。

お目当ては今日発売の魔法少女系漫画の新刊。

しかも限定版!!


最寄りから三駅先まで本屋をはしごし、ようやく手に入れたソレを手に、俺はガッツポーズを決め込んだ。


やっぱりいいよな魔法って。


詠唱して、光を集めて、ズドン!


あぁ言うの、最高だ。


時刻は十八時、門限の十九時には余裕で間に合う計算だ。


今からページを捲るのが楽しみでならない。


レジを抜け、財布を閉じる。


このままスキップでもしながら駅まで向かおうか?

なんて考えた瞬間、俺は思い出した。


「やべ……帰りの電車賃、残ってない……」


財布をひっくり返しても出てくるのは先ほど買った漫画のレシートのみ。


母さんに電話して迎えに来てもらうか?

いやいや、確実に怒られるな……


腕を組み、本屋の前で悩んだ末に出した答えは。


「……歩くか」


足の間を通過した風が、先程より冷たく感じる。


「瞬間移動、使えたらなぁ……」


一歩目を踏み出す前にくだらない妄想を呟いた。


そう、魔法だ。

魔法が使えればこんな距離でも門限までに余裕で間に合う。


最悪間に合わなくても、記憶操作の魔法で門限通りに帰って来た事にすればいい。


いや、止めよう。


現実逃避しても目の前に現れるのは空飛ぶ箒ではなく、線路沿いに続く道。


「はぁ……」

っとため息をつき、俺はようやく重たい一歩を踏み始めた。



一時間


ひたすら歩き続け、ようやく見覚えのある建物が見え始めた。


「ここ曲がった方が近道だったよな?」


住宅街へ続く細道へと足を向ける。


――その時だった。


「……なんか」


足を止めた。


「こんなに人、少なかったっけ?」


以前通った時、この時間なら、仕事帰りのサラリーマンと何人かはすれ違っていたはずだ。


それに、視界に移る家々から夕食の匂いはするが、どの家も明かりが漏れていない。


――まるで俺を避けているような。


「いやいや、何言ってんだ。馬鹿か俺は」


自分で自分にツッコミを入れた。


それは気を紛らわせる為でもあった。


辺りは暗く、俺が頼りにできるのはスマホの明かりと、空に浮かぶ満月だけ。


魔法少女が月を背に飛んでそうなくらいに立派な月だな、なんて。


「と、とりあえず気味悪いし、さっさと帰るか」


そう思い立ち足を速く回そうとしたその時だった。


ガッ、と足元で何かを踏み、小学生の様に前のめりで倒れこんだ。


「痛ってぇ……」

「なんだよもう!」


俺は足元に転がっている”元凶”を拾い上げた。


「うわっ、なんだこれ!」


手のひらには紫紺の石。


深い色合いの中に、星屑の様な光が瞬いている。


「……綺麗な石だな」


先程の焦りや怒りなど瞬間、忘れてしまう程に妙に惹かれる。


懐かしいような、胸の奥をくすぐられる感覚。


「……どこかで、見た事あるような、ないような……」


いや、ないか。


見てたとして、こんな洒落た石、普通忘れないだろ。


「いけねっ、早く帰んないと」


石をポケットに入れ、再び歩き始めようとした。


その瞬間。


空気は変わった。


心臓の鼓動が止まったように感じた。


背中には今まで感じた事の無い視線。


耳に聞こえるのは……聞き覚えの無い……声?


――人じゃない。


俺はゆっくりと振り返る。


それは、そこにいた。


電柱の様に太い腕。

四足で地面を踏みしめる黒い巨体。

それに牙。

赤い瞳。


「……は?」


鼓動は遅れて跳ね上がる。


夢……ではない事は、残念な事に、擦りむいた膝から滲み出る血の痛みが証明している。


その化け物と目が合う。


確実に、こちらを見ている。


そして――


動き出す。


「うわぁぁぁぁ!!?」

「嘘ウソうそ!!」


走る。


本気で走る。


歩き疲れた足を、全力で前に押し出す。


後ろでアスファルトが砕ける音は聞こえたが、振り返る余裕なんてない!


「だ、誰か!誰かぁ!!」


必死に走りながら、明かりの無い家に次々と声をかける。


誰も窓から顔を出す人はいない……と思ったが一軒だけ。


「こら、うるさいぞ!何時だと思ってるんだ!」


玄関で煙草を吸っていた中年のおじさんが怒号を飛ばす。


「ば、化け物!化け物が!!」


「はぁ!?どこに化け物がいんだ!からかってのか!?」


おじさんの言葉を信じ、背後を確認したいが、それが近づいてきている音は確かに聞こえている。


見えてない!?


こんな……五メートルはありそうな化け物が!?


「くそっ!」


おじさんの説教を無視するようにその場を駆ける。


横っ腹が痛い。


あ、足も……もう。


追いつかれる。


袋小路……


足は止まり、ようやく振り返ると、化け物は地面を揺らしながらこちらへと距離を縮める。


まるで獲物を追い詰める肉食動物の様に、ゆっくりと。


――これは違う。


俺が夢見ていた妄想は、こんなんじゃない。


高校を襲う侵入者を隠し持った魔法の力で撃退する自分。

出先で起きたテロを魔法で止める自分。

異世界からの刺客を魔法で食い止める自分。


妄想が現実になって欲しいと何度も願った。


確かに非現実を俺は求めた……

だが、自分がこんな化け物に、抵抗手段も無いままに襲われる妄想などする訳がない。


こんな……良くもわからない未知の化け物によって命の危機を感じ【俺強ぇー】以外の妄想が現実になっても嬉しいわけがない。


――俺……死ぬのかよ……


巨腕が振り上がる。


――終わった……


そう思った瞬間。


後方より聞こえた轟音が俺の頭上を通り過ぎる。


音と共にやって来たのは光の塊だった。


光は化け物を真正面から押し、衝撃で後方へと吹き飛ばした!


「な、何が!?」


目で追うように化け物から後方へと視線を移す。


ただ視線を背後に向けても見えるのは壁のみ。


しかし今飛んできた光はもう少し上からだった。


そう、上だ。


視線よりもさらに上。


上空を見上げるとそこにはいたんだ。


三角帽子。

ローブに杖。

銀髪を揺らし、月を背に、箒へ跨り浮遊する人が……


ひとまず危機は乗り切ったのか?

この人は味方なのか?


分からない事尽くしのこの状況下でも、唯一俺には分かる事があった。


「……魔法だ」


俺は思わず呟いた。

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