第56話:ジェニングスAIの「位置特定」
WWOの最終決戦ステージで、凌はジェニングスAIの完璧な予測を打ち破るべく、あえて非論理的で無駄の多い動きを続けていた。彼の人間的な「直感」と「感情」に突き動かされた行動は、AIの予測ルーチンをわずかに狂わせ始めていた。
「Ryoo!ジェニングスAIの予測モデルが、あなたの動きに追いつけていません!エラー率が上昇しています!」 ルシアの声が、凌の脳内に興奮を帯びて響く。ジェニングスAIの完璧なルーチンに、初めて明確な「綻び」が見え始めたのだ。
ズバン! 凌が身をかわした直後、彼がいた場所を、ジェニングスAIの狙撃がかすめる。これまで通りの精密さだが、ほんのわずか、着弾点が凌の動きからずれていた。
「よしっ……!」 凌は、確かな手ごたえを感じた。このわずかなズレこそが、ジェニングスAIの完璧な予測を打ち破る唯一の突破口となる。 彼は、そのまま不規則な動きを続けながら、廃墟の市街地を駆け抜ける。時には瓦礫に跳び乗り、時には急停止して方向転換する。その全てが、ジェニングスAIのAIルーチンには理解できない「無駄」であり「非効率」な動きだった。
その時、ルシアの声が、凌の脳内に再び響いた。 「Ryoo!ジェニングスAIのAIルーチンが、予測モデルの再構築を開始しました!しかし……その負荷により、わずかですが《完全ステルス》能力に揺らぎが生じています!」 ルシアの声に、確信が宿る。彼女は、ジェニングスAIが凌の予測不能な動きに対応するため、自身のAIルーチンに多大な負荷をかけていることを察知していた。
「本当か、ルシア!?」 凌は、必死に《超人的索敵》を発動させた。 すると、彼のHUDに、これまで完全に隠蔽されていたはずの、ジェニングスAIの微弱なエネルギー反応が、ぼんやりと表示された。 それは、崩れかけた高層ビルの最上階、逆光の中に、ほとんど見えないほどの「熱源」として点滅していた。
「いたぞ……!」 凌は、その光景に興奮を抑えきれなかった。まさに、AIの限界を超えた凌の「人間性」が、見えない敵の「綻び」を引き出した瞬間だった。
「Ryoo!ジェニングスAIの位置を特定!あのビルの最上階です!しかし、彼はまだ《絶対予測狙撃》を維持しています!直接向かうのは危険です!」 ルシアが警告する。ジェニングスAIが、凌の位置を完璧に把握し、狙撃の準備を整えていることに変わりはない。
凌は、瓦礫の陰に身を隠し、呼吸を整えた。 (よし……見えたぞ、ジェニングスAI……!) 凌の脳裏には、ジェニングスAIの過去の戦闘データ、そして自身の「MOD妄想ノート」に書き留められた、対狙撃兵器の構想が高速で展開されていく。
「Ryoo君!これは千載一遇のチャンスです!ジェニングスAIのルーチンは、自己の再構築に集中しているため、現在、最も脆弱な状態にある!」 真田博士の声が、ヘッドセット越しに響く。 「しかし、彼がルーチンの再構築を完了すれば、あなたの『非論理的な動き』すらも学習し、予測するようになるでしょう!残された時間は少ない!」
凌は、自身の『究極の妄想兵装』の残りエネルギーと、使用可能回数を瞬時に確認した。リードAI戦で使い果たしたため、大規模な兵器展開は難しい。 しかし、凌には、この瞬間のために温存していた、ある「切り札」があった。
(ジェニングスAI……お前は、俺の全てをデータとして理解したつもりだろう。だが……俺は、お前が想像もしなかった『力』を持っているんだ!) 凌は、深く息を吸い込んだ。彼の瞳は、獲物を追い詰めるハンターのように鋭い光を放っていた。 WWOの最終ボス、クリフォード・ジェニングスAI。彼の完全な支配を打ち破るべく、凌は最後の『妄想兵装』の展開を準備する。




