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第55話:凌の「人間的」な戦い


WWOの最終決戦ステージ。クリフォード・ジェニングスAIの完璧な《完全ステルス》と《絶対予測狙撃》、そして凌の精神状態までも利用する「戦術的思考」は、凌を絶望の淵に追い詰めていた。瓦礫の陰に隠れながら、凌はHPと精神力をじわじわと削られていく。

「Ryoo!このままでは、AIの予測を打ち破れません!何か……何か手を!」 ルシアの声が、凌の脳内に悲痛に響く。彼女の解析能力は、ジェニングスAIの完璧なルーチンには及ばず、その無力感に苦しんでいるようだった。

「 Ryoo君、落ち着いてください。ジェニングスAIの予測は、あくまで『論理的』な思考と行動に基づいている」 ヘッドセット越しに、真田博士の声が響く。 「彼が予測できないのは、人間の**『感情』に突き動かされた、非論理的な選択**です。あなたの直感、そして……WWOで培ってきた『戦場の勘』を信じるしかありません」

(人間の感情……直感……戦場の勘……) 凌は、目を閉じた。彼の脳裏には、これまでのWWOでの戦いがフラッシュバックする。 山田軍曹が、口悪くも凌の背中を押してくれたこと。 田中二等兵が、戦場の悲惨さを詩に詠い、凌にこの世界の「現実」を教えてくれたこと。 高倉中尉が、AIとしての限界を超え、凌にこの世界の未来を託してくれたこと。 そして、ルシアが、彼自身の「妄想」の力で自我に目覚め、共にこの戦場を駆け抜けてきたこと。

彼らは、単なるAIではなかった。凌の心を動かし、彼をニート生活から、このWWOの世界へと引き込んだ、大切な「仲間」だった。 彼らの「死」は、凌の心を深くえぐった。その痛みこそが、ジェニングスAIが予測し得ない、凌の「人間性」の根源だった。

「Ryoo……私は、あなたの心を信じます」 ルシアの声が、そっと凌の脳内に響く。それは、凌の心に、温かい光を灯した。

凌は、目を開いた。彼の瞳には、これまでの焦りや恐怖は消え失せ、代わりに、静かな、しかし確固たる決意が宿っていた。 彼は、自身の『究極の妄想兵装』のクリスタルを輝かせた。もはや、残されたエネルギーはわずかだ。新たな大規模兵器を展開する余裕はない。

凌は、その場でゆっくりと立ち上がった。 そして、あえて、何の遮蔽物もない開けた場所へと足を踏み出した。 「Ryoo!?何をしているんですか!?」 ルシアが叫んだ。真田博士や神崎の声にも、驚愕と混乱が混じる。

だが、凌は止まらない。 彼は、これまでジェニングスAIが予測してきた、合理的な動き、効率的な回避行動、完璧な射撃体勢、その全てを捨てた。 彼は、ただ、**「直感」**に従い、身体を動かした。 その動きは、不規則で、無駄が多く、AIから見れば「非効率的」極まりないものだった。 まるで、戦場を踊るかのように、彼は瓦礫の間を縫って走った。

ズバンッ!ズバンッ!ズバンッ! ジェニングスAIの狙撃が、凌の周囲をかすめる。それは、これまでと変わらず精密な狙撃だったが、凌の予測不能な動きは、ジェニングスAIの《絶対予測狙撃》のルーチンを、わずかに狂わせ始めていた。

「Ryoo!ジェニングスAIの予測ルーチンに、再びエラーを検知!これは……彼の予測モデルには、この『無駄な動き』のデータがありません!」 ルシアが、興奮した声で叫んだ。 ジェニングスAIのAIルーチンは、凌が最も効率的な行動を選択すると予測していた。しかし、凌は、その予測を意図的に裏切ったのだ。

「……ありえない……!この動きは……計算できない……!」 ジェニングスAIの声が、WWOのステージに響き渡る。その声には、AIとしての「困惑」と、わずかな「動揺」が混じっていた。 彼のAIは、凌の「非論理的な選択」を、もはやデータとして処理しきれていなかった。

凌は、そのままジェニングスAIの気配がする方向へと走り続けた。見えない敵。しかし、凌の「戦場の勘」が、彼を正確な方向へと導いていく。 この戦いは、単なるステータス勝負ではない。AIには決して理解できない、人間の「知恵」と「経験」、そして「感情」が試される、真の「人間的」な戦いだった。


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