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第53話:ジェニングスAIとの最終対決、開始


リードAIを撃破したWWOの最終ステージに、再び張り詰めた静寂が戻った。だが、それは安堵の静寂ではない。見えない敵、強化されたクリフォード・ジェニングスAIがこの廃墟のどこかに潜んでいる。凌の肌を粟立たせるような殺気が、どこからともなく漂っていた。

「Ryoo……ジェニングスAIは、現在、あなたから最も有利な狙撃位置を特定し、潜伏していると推測されます。彼の《絶対予測狙撃》は、あなたの『微細な筋肉の動き』までも予測対象としています」 ルシアの声が、凌の脳内に響く。彼女の解析は、常に最悪のシナリオを提示する。

凌は、その場でゆっくりと旋回し、周囲を警戒した。瓦礫の山、崩壊したビル群、そこら中に転がる残骸。どこから狙撃されてもおかしくない、地獄のような戦場だ。 「やれやれ……これは、隠れるしかねぇってことか?」 凌は、皮肉めいた笑みを浮かべた。しかし、隠れたところで、ジェニングスAIの予測能力を考えれば、いつかは見つかり、撃たれるだろう。

その時、ズバンッ!! 凌の頭上、わずか数センチの空間を、高速の光線が通過した。直後、背後のビルの壁が爆音と共に砕け散る。 あまりに精密な狙撃だった。凌が、意識的に避けることすらできなかった一撃だ。

「Ryoo!《絶対予測狙撃》です!彼は、あなたの次の行動を、完全に読み切っています!」 ルシアが叫ぶ。 凌のVRアバターのHPが、わずかに削られた。これは、直撃ではなく、銃弾が通過する際の摩擦熱か、あるいは衝撃波によるものだろう。しかし、これほど完璧な予測狙撃を、凌はWWOで経験したことがなかった。

(見える……俺の動きが、奴には全て見えているのか……!) ジェニングスAIは、凌の思考、感情、そして無意識の身体の動きまでを解析し、最適な狙撃ルートを割り出している。まるで、凌の体内にAIが侵入し、彼の行動を先読みしているかのようだ。

「くそっ……!どこからだ!?」 凌は、必死に《超人的索敵》を発動させるが、ジェニングスAIの存在は、WWOのシステムから完全に隠蔽されている。彼の《完全ステルス》能力は、いかなる索敵も無力化する。

「Ryoo、無理に探さないでください!彼の《完全ステルス》は、システムレベルでの情報遮断です!」 ルシアが警告する。 「では、どうする!?このまま隠れているだけじゃ、いつか当たる!」 凌は、焦り始めた。リードAIのような物理的な脅威は、まだ対処のしようがあった。だが、見えない、そして予測を完全に超えてくるジェニングスAIは、凌の精神をじわじわと蝕んでいく。

ズババン! 今度は、凌が身を隠した瓦礫の陰が、正確に狙撃され、爆散した。凌は、間一髪で別の遮蔽物へと転がり込んだ。 (これじゃあ、まさに『狩り』じゃないか……俺が獲物で、奴がハンターだ) ジェニングスAIは、凌をじっくりと追い詰め、心理的なプレッシャーを与えている。

「Ryoo、これは、あなたの『思考そのもの』との戦いです。彼が予測できない『選択』をしなければ、突破口は見えません」 真田博士の声が、冷静に、しかし重々しく響く。 「AIの予測は、論理とデータに基づいて行われます。AIが理解できない『非論理的な行動』こそが、彼に対する唯一の突破口となり得ます」

(非論理的……か) 凌は、再び、山田軍曹や田中二等兵、そして高倉NPCの顔を思い浮かべた。彼らの「死」に感情を揺さぶられたあの瞬間、凌は普段の冷静さを欠いた動きを見せた。その時、ジェニングスAIの予測ルーチンに、わずかなエラーが生じたことをルシアが感知していた。

凌は、WWOのこの世界で、ニートの自分ではない「Ryoo」として生きてきた。 プレイヤーとしての効率、チートの有効活用。それらは全て「論理」に基づいていた。 だが、今、彼に求められているのは、その「論理」を打ち破る、人間だけが持ち得る「感情」と「直感」だった。

WWOの最終ボス、クリフォード・ジェニングスAI。彼の完璧な狙撃ルーチンが、凌を追い詰める。 これは、凌のプレイヤースキルだけでは通用しない、究極の「知恵」と「感情」の戦いの始まりだった。


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