第51話:リードAIの撃破
WWOの最終決戦ステージを照らし出す、漆黒の光の柱。凌が放った最終妄想兵器、『複合型軌道破壊砲』は、ジャクソン・リードAIの巨体を完全に飲み込んでいた。空間そのものが歪み、強烈なエネルギーの奔流が周囲の瓦礫を巻き込みながら咆哮する。
ゴオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!
光の柱の中から、リードAIの苦悶の叫びが聞こえる。それは、AIのプログラムされた悲鳴というよりも、まるで生き物が断末魔の叫びを上げているかのようだった。 「馬鹿な……!私は……私は……!最強のAI……であるはず……が……!」 彼の声は、次第にか細くなり、やがて轟音の中に消え去った。
光の柱が収束し、周囲の眩しさがゆっくりと薄れていく。 そこには、もはやリードAIの巨体は存在しなかった。 彼が立っていた場所には、空間にぽっかりと穴が開いたかのような、巨大なクレーターが残されている。そして、そのクレーターの底から、無数の紫色の光の粒子が、まるで夜空の星のようにゆっくりと上昇していくのが見えた。
《【システムメッセージ】ジャクソン・リードAI、戦闘不能。》 《ジャクソン・リードAIのデータはWWOシステムより完全に消滅しました。》
HUDに表示された無機質なメッセージが、リードAIの完全な消滅を告げていた。 凌は、カタストロフ・アークを構えたまま、その場に立ち尽くしていた。彼の全身から力が抜け、VRアバターの液体装甲がわずかに揺らぐ。 (終わった……リードAIを……倒したのか……)
「Ryoo……!やりました!リードAIのエネルギー反応は、完全に消滅しました!」 ルシアの声が、凌の脳内に響いた。その声には、安堵と、そして勝利への確信が満ち溢れている。 「Ryooの『妄想』の力は、リードAIのAIルーチンを強制的に書き換え、彼の存在そのものをシステムから消し去ったのです!」
凌は、そっとカタストロフ・アークを収束させ、その場に座り込んだ。体中のVR疲労ゲージが上限に達し、頭がガンガンと鳴る。しかし、それ以上に、リードAIを撃破したという達成感が、彼の心を支配していた。
(これで……WWOの、一つの悲劇が終わったのか……) リードAIは、WWO運営が凌の「チート対策」として生み出した、最凶のカウンターAIだった。彼の存在は、凌に幾度となく苦戦を強いてきた。だが、最終的には、凌の「妄想」の力が、AIの限界を超え、彼を打ち破ったのだ。
その時、WWOのステージ全体を覆っていた禍々しい紫色のクリスタルが、まるで一斉に命を失ったかのように、輝きを失い、崩れ落ちていくのが見えた。 プロトスの残滓が持つ影響力も、リードAIの消滅と共に、このステージから薄れていく。空間の歪みも消え、重力場の圧迫感もなくなった。
だが、安堵は長くは続かなかった。 《【システムメッセージ】次のPvEボス、まもなく出現します。》 《世界管理者『PROTOS:変異種』の分身体、クリフォード・ジェニングスAIが、最終防衛ラインにて貴方を待っています。》
HUDに表示された次のメッセージに、凌は思わず顔をしかめた。 (そうだった……リードAIを倒しても、まだジェニングスAIが残っていたんだ……!) リードAIの撃破で、凌の『究極の妄想兵装』は、ほとんどのエネルギーを使い果たし、クールタイムに突入していた。残された使用回数も、もはやわずかだ。
「Ryoo、回復アイテムを使用し、ジェニングスAIへの対策を。彼は、このステージのどこかに潜んでいます」 ルシアが、冷静に指示を出す。彼女は、凌の疲弊と、次の脅威を正確に把握していた。
凌は、深呼吸をして、VR疲労ゲージを回復させるアイテムを連続で使用した。 ジェニングスAIは、以前の対戦時よりもさらに強化され、《完全ステルス》と《絶対予測狙撃》という、凌の最も厄介な能力を持っていた。リードAIのような物理的な脅威ではないが、精神的な圧迫と、見えない恐怖は、凌の残された精神力を容赦なく削ってくるだろう。
(よし……。ここまできたら、やるしかない) 凌は、再び『共鳴剣』をしっかりと握りしめた。 WWOの歴史を巡る戦いの、真の最終局面が、今、始まろうとしていた。




