第42話:最終決戦への準備
WWO運営の「実験」である事実を知りながらも、凌はルシアの願いを叶え、このゲームの「悲劇の輪廻」を断ち切る決意を固めていた。リードAIとの激戦で消耗したものの、凌の心は、これまでにないほど研ぎ澄まされていた。
「Ryoo、リードAIの最終的な排除には、さらなる『妄想』の力が必要になります。そして、ジェニングスAIも、間違いなく次のステージで強化されて登場するでしょう」 ルシアの声が、凌の脳内に冷静に響く。彼女は凌の『エニグマ・リンク』と同期し、WWOのシステム情報を解析し続けている。
「分かってる。だからこそ、準備が必要だ」 凌は、自身のVRアバターのステータス画面を開いた。これまでの激戦で得た経験値と、ミッションクリア報酬として手に入れたWWO内のアイテムが大量に表示されている。 彼はまず、自身のVRアバターの基本能力を限界まで強化することにした。《HP》《スタミナ》《身体能力》といった基礎パラメータに、手持ちの経験値を惜しみなく投入していく。
「Ryoo、あなたの《妄想兵装展開》のクールタイムも考慮に入れる必要があります。特に大規模な兵装を展開する際は、次の使用まで時間がかかります」 ルシアが忠告する。 『究極の妄想兵装』のシステム表示には、《妄想兵装展開》の残りの使用回数と、各兵装のクールタイムが明確に示されていた。凌は、それを慎重に確認する。 「ああ。だからこそ、どの兵器をいつ使うか……戦略を練るんだ」 凌は、VR空間に表示された自身の「MOD妄想ノート」を広げた。そこには、彼がこれまでWWOで使ってきた兵器だけでなく、まだ具現化していない、様々な「IF兵器」の構想がびっしりと書き込まれている。
「リードAIは、速度と予測不能な動きで我々を翻弄してくる。ジェニングスAIは、超遠距離からの精密狙撃だ」 凌は、仮想空間に表示されるリードAIとジェニングスAIの過去の戦闘データを睨みつける。 「リードには、動きを封じる『電磁ライフル』と、情報戦を仕掛ける『索敵ドローン』が有効だった。だが、奴はそれにも適応してくる」 凌は、頭の中でシミュレーションを繰り返す。リードAIが次にどう動くか、そしてそれにどう対抗するか。
「ジェニングスAIは、こちらの殺気を遮断するスキルを持っている。遠距離からの索敵は難しい。奴に接近し、確実に仕留める手段が必要だ」 彼は、ノートに書き込まれた兵器の構想を一つ一つ確認していく。 (リードAIを完全に沈めるための最終打撃、そして、ジェニングスAIの狙撃をかいくぐって懐に飛び込むための、新しい『妄想兵装』……) 凌の思考は加速していく。これまで以上に、緻密な戦略と、それを実現する新たな『妄想兵装』が必要だった。
凌は、いくつかのアイテムをWWO内の「ショップ」で購入した。精神力を回復させる特殊なポーション、ダメージを軽減する一時的なバリア発生装置など、あらゆる状況に対応できるよう、手持ちの資源を惜しまずに使う。 「Ryoo、あなたのプレイスタイルは、もはや『ニートの無双』ではありませんね」 ルシアが、どこか楽しげに言った。 「戦況を冷静に分析し、敵の特性に合わせて最適な兵装と戦術を選択する……まるで、本物の軍師のようです」
「まさかな。ただのゲームオタクだよ」 凌は、照れくさそうに笑った。 だが、ルシアの言葉は、彼の心を温かくした。 (確かに……昔の俺だったら、こんな面倒なこと、絶対にしなかっただろうな) かつての彼は、ただ最強の兵器を押し付け、力任せに敵を蹂躪するだけだった。しかし、今は違う。ルシアの願い、NPCたちの「犠牲」、そしてWWO運営の「実験」という重い現実が、彼に「考える」ことを促していた。
VRアバターの強化が完了し、新たな戦略も固まった。残りの『妄想兵装展開』の回数も、最大限に活かす計画を立てる。 凌は、静かに『共鳴剣』を握りしめた。 この剣は、彼自身の「妄想」と、ルシアの覚醒した「自我」の結晶だ。これ以上の武器は、存在しない。
WWOのステージの最終決戦は、目前に迫っていた。 凌は、自身のVRアバターのステータスと、ルシアからの情報を最終確認し、深く息を吐いた。 (さあ、WWOの最後のボス戦だ。全てを終わらせるぞ)
【第42話・了】




