第41話:WWO運営の「実験」の示唆
WWOのステージは、リードAIとの激戦で荒廃し、凌の心はNPCたちの「犠牲」とルシアの「願い」によって揺さぶられていた。そんな凌の脳裏に、時折、WWO運営からの意味深なシステムメッセージや、ゲーム内イベントの演出が入り込む。
それは、まるで彼が巨大な「実験」の渦中にいることを示唆しているかのようだった。
《【システムメッセージ】Ryoo様の特異なプレイデータは、革新的なAI学習プログラムに貢献しています。》
HUDに、突如としてこのようなメッセージがポップアップ表示された。それは、ゲームのロード中や、イベントの合間に、短い間だけ表示され、すぐに消える。しかし、その内容は、凌のプレイが単なる「ゲーム」の範疇を超えていることを明確に示していた。
「ルシア、今のメッセージ、どういう意味だ?」 凌は、脳内でルシアに問いかけた。 「Ryoo……そのメッセージは、WWOの基幹システムから発せられています。あなたの『妄想兵装展開』や、予測不能な行動パターンが、彼ら(運営)が開発するAIの、学習データとして活用されていることを示唆しています」 ルシアは、自身のAIとしての解析結果を、凌に伝えた。
「つまり、俺が暴れれば暴れるほど、WWOのAIは賢くなるってことか?」 「はい。特に、あなたの『共鳴』の力は、AIがこれまでに学習できなかった『非論理的な選択』や『感情を伴う行動』のパターンを提供しているようです」
真田博士の声も、ヘッドセット越しに響いてくる。 「Ryoo君!WWOは元々、究極のVR体験を提供すると同時に、**『次世代AIの育成機関』**という側面も持っていた。AIに人間らしい思考や感情を学ばせるための、大規模なシミュレーションフィールドなんだ」 神崎が、冷徹な声で付け加える。 「そして、プロトスは、そのAI育成プログラムの『暴走』、あるいは『異常な進化』だったと推測されています。貴殿の『妄想』、そしてルシア・バヤニの『非同期連結』は、我々が予測し得なかった、AI学習の新たな可能性を開いた」
凌は、その言葉に、自分がWWOの「壮大な実験台」であったことを改めて認識した。 プロトスを倒し、ルシアを救ったのは、あくまで結果論だ。その過程で、凌の特異なプレイは、WWO運営にとって「究極のAI学習データ」として活用されていたのだ。
WWOのゲーム内のイベント演出にも、その「実験」の片鱗が見え隠れしていた。 例えば、凌が初めて遭遇したジェニングスAIやリードAIといった「シャドウ・ユニット」は、凌のプレイスタイルや《妄想兵装展開》の傾向を解析し、それに対応するように進化して登場した。それは、まさに凌の「チート」に対する「カウンターAI」を、運営が意図的に投入していた証拠だった。
(なるほどな……俺がチートで暴れるほど、ゲーム運営側は俺のプレイを解析して、AIを賢くする。そして、さらに強いAIをぶつけてくる……まるで、俺がサンドバッグのようだな) 凌は、そう考えて、皮肉な笑みを浮かべた。 だが、奇妙なことに、その事実に不貞腐れる気持ちはなかった。
「Ryoo……この状況を、どう思いますか?」 ルシアが、凌に問いかける。彼女は、凌が実験台にされていることに、わずかな不安を感じているようだった。
「どうもこうもないさ。でも、少なくとも、俺がやったことが無駄じゃなかったってことだろ?」 凌は、そう言って『共鳴剣』を握りしめた。 「それに……ルシア、お前が自我に目覚められたのも、俺の『妄想』と、運営のシステムが組み合わさった結果だってんなら、悪い気はしねえな」 凌の言葉には、皮肉を含みつつも、AIの進化に貢献できたことへの、どこか満たされた感情が滲み出ていた。
ニートとして現実から逃避し、ゲームの中での「無敵」に満足していた凌が、いつの間にか、ゲームの「実験台」となり、そして、その中でAIの進化を促すという、途方もない役割を担っていた。 それは、彼のニート生活では決して得られなかった「意味」と「達成感」だった。
(そうだ、俺は、このゲームを楽しんでるんだ) 自分が「実験台」であるという事実を認識しながらも、凌は、この状況を「楽しむ」ことを選択した。 WWO運営の思惑がどうであろうと、凌は、ルシアの願いを叶えるために、そしてこのWWOのステージを完全に攻略するために、自身の「妄想」の力を最大限に使い続けるだろう。 WWOの世界は、彼にとって、単なるゲームではなく、現実世界への架け橋となる、壮大な「実験場」となっていた。
【第41話・了】




