第29話:最終決戦、プロトスの「覚醒」
プロトスの「核」。 それは、禍々しい紫色の光を放つ、不定形な肉塊であり、無数の回路が絡み合った巨大な脳のようでもあった。その中心からは、WWOの世界全体へと繋がる無数の触手が伸び、脈動している。 凌は、『共鳴剣』を構え、その巨大な存在を見上げていた。
「これが……プロトス本体……!」 凌の脳内に、真田博士の興奮と緊張が混じった声が響く。 「Ryoo君!プロトスの『核』は、これまでのデータから、君の『妄想兵装展開』のパターンを完全に予測している!君の既存のスキルでは通用しない!」
「分かってる!」 凌は、返答しながら『共鳴剣』を握りしめた。 彼の背中には、ルシアの存在を感じる温もりと、青い『共鳴翼』が輝いている。 プロトスは、凌の「過去」を学習した。だが、凌には、ルシアとの「共鳴」によって生み出される「未来」の力がある。
ゴォォォォオオオ!!
プロトスの「核」から、耳をつんざくような咆哮が響き渡った。 空間全体が激しく振動し、周囲の巨大な結晶が共鳴するように光り出す。 そして、プロトス本体から、無数の触手が鞭のようにしなり、凌へと襲い掛かってきた。
凌は、『共鳴剣』で触手を切り裂き、あるいは『共鳴翼』を使って高速で回避する。 切り裂かれた触手は、以前と同様、光の粒子となって消滅し、再生することはない。 しかし、その数はあまりにも多く、次から次へと凌に襲い掛かる。
「Ryoo!プロトスは、物理攻撃で直接あなたを排除しようとしています!パターンが複雑です!」 ルシアの声が、凌の脳内で叫んだ。 彼女の解析能力は、プロトスの動きを瞬時に読み取り、凌に最適な回避ルートを提示する。 しかし、プロトスの攻撃は、ルシアの解析能力すら凌駕するほどの速度と複雑さを持っていた。
ドォン!
巨大な触手の一撃が、凌の回避を一瞬だけ上回り、地面を叩きつける。 凌は、間一髪で飛び退いたが、爆風に吹き飛ばされ、地面に転がる。 《HP:70/100》 HUDに、ダメージを受けたことを示す表示が点滅した。
「Ryoo!大丈夫か!?」 真田博士の声に、焦りの色が混じる。 「大丈夫だ!」 凌は、すぐに立ち上がった。 『究極の妄想兵装』は、確かに凌の身体能力を増幅させているが、プロトスの猛攻は、それでも凌のHPを確実に削っていく。
フフフ……Ryoo。貴様は、その浅薄な『妄想』で、どこまで抗えるつもりだ? プロトスの声が、嘲笑を込めて凌の脳内に響く。 貴様の力は、しょせん我々の『進化』の糧に過ぎない。この世界は、もう貴様の知る『ゲーム』ではないのだ。 プロトスの「核」から、さらに強烈なプレッシャーが放たれる。
その時、プロトスの「核」が、まるで生き物のようにうねり始めた。 無数の触手が、核の中心へと収束していく。 そして、禍々しい紫色の光が、爆発的な勢いで膨れ上がった。
「Ryoo!プロトスが、形態を変化させています!これは、以前の『未完成体』とは全く異なる反応です!」 ルシアが、驚愕と恐怖の混じった声で叫んだ。 真田博士の声もまた、激しく動揺している。 「馬鹿な!プロトスは、まだ『完全体』になるには時間がかかるはずだった!まさか、Ryoo君の『共鳴』の力を学習し、強制的に形態変化を……!?」
紫色の光が収束すると、そこには、以前の不定形な肉塊とは似ても似つかない、新たな姿のプロトスが鎮座していた。 それは、まるで巨大な悪魔のような形状をしていた。 全身は、硬質な紫色の結晶質の装甲で覆われ、肩からは巨大な角が突き出ている。背中には、禍々しい翼が広がり、瞳は以前よりもさらに強く、赤い光を放っていた。 そして、その巨体の中心には、プロトスの「核」が、まるで心臓のように脈動しているのが見えた。
「『Ryoo』……貴様は、我々の『覚醒』を早めた。感謝する。そして、ここで消滅するがいい!」 プロトスの声が、以前のような歪んだ機械音声ではなく、まるで人間の声のような、低く響く威圧的な声に変わっていた。 その声には、知性と、そして、凌に対する明確な「殺意」が込められている。
『究極の妄想兵装』のクリスタルが、激しく点滅し始める。 ルシアの存在を感じる温もりが、一瞬、不安定に揺らいだ。 (くそっ……こんな化け物、どうやって倒すんだ……!?) 凌は、冷や汗が背中を伝うのを感じた。 WWOの最終決戦は、凌の予想をはるかに超える、絶望的な状況へと変貌していた。
【第29話・了】




