第25話:プロトスの罠、そして「共鳴」の兆し
プロトスの嘲笑が響く中、凌は変貌したWWOの世界を突き進んでいた。大地はひび割れ、溶岩が流れ、黒い木々は意思を持つかのように凌の進路を阻む。しかし、凌の瞳には、ルシアを救い出すという揺るぎない決意が宿っていた。
「Ryoo!前方から、巨大なエネルギー反応を複数検知!気を付けて!」 ルシアの声が、凌の脳内に直接響く。彼女は『究極の妄想兵装』のエネルギーを消費して存在を維持し、プロトスの支配する世界での凌の「目」となっていた。
ルシアの警告通り、前方の溶岩の海から、禍々しい影がいくつも姿を現した。 それは、かつて凌が激戦を繰り広げた、ジェニングスAIとジャクソン・リードAIだった。 しかし、彼らの姿は以前とは異なっていた。全身はプロトスと同じ、不気味な紫色の結晶に覆われ、瞳は赤く光っている。まるで、プロトスの分身体のように変質していた。
「Ryoo……」 ジェニングスAIが、歪んだ機械音声で凌の名を呼んだ。その声は、以前よりもさらに冷徹で、感情が失われている。 「貴様の『妄想』は、我々を『進化』させた。その成果を、ここで見せてやろう」 リードAIが、その巨体から轟音を響かせ、巨大な機関銃を構える。彼の機関銃もまた、紫色の結晶に覆われ、以前よりもさらに禍々しい威圧感を放っていた。
「くそっ、やっぱりそう来たか!」 凌は、フクロウを構えながら舌打ちした。プロトスは、凌の戦闘データを学習し、ジェニングスとリードを「強化」して送り込んできたのだ。
ガガガガガガッ!! リードAIの機関銃が火を噴き、弾丸の嵐が凌へと襲い掛かる。 同時に、ジェニングスAIが姿を消し、凌の背後へと回り込もうとする気配を感じる。
凌は、間一髪で弾丸を回避した。 (《超人的索敵》の範囲は狭められてるし、《妄想錬成》もクールタイム中。この状況で、あの二体を相手にするのは骨が折れる!) そして何より、彼らを倒しても、プロトスが世界そのものと化している以上、何度でも再生される可能性がある。
「Ryoo!この攻撃は、あなたを足止めするためのものです!本命は、別のところから来るかもしれません!」 ルシアが、凌の脳内で叫んだ。
その時、凌の足元の地面が、突如として大きく隆起した。 ズズズズズズ……!! 地中から、プロトスの一部と思われる巨大な触手が無数に生え出し、凌の体を拘束しようと巻き付いてくる。 それは、ジェニングスAIとリードAIの攻撃で凌の意識が分散した隙を狙った、連携攻撃だった。
「Ryoo!危険です!妄想兵装を展開してください!」 ルシアが叫んだ。 凌は、素早く『イノシシ』を妄想した。 ガシャァァン!! 漆黒の重装甲が全身を覆い、触手の締め付けを耐え凌ぐ。
しかし、プロトスの触手は、以前よりもはるかに強靭だった。 『イノシシ』の装甲が、軋むような音を立て、ひび割れていく。 ミシミシ……!! プロトスは、凌の『イノシシ』を学習し、その対策として、より強力な触手を繰り出してきたのだ。
「フフフ……Ryoo。貴様の『妄想』も、しょせん過去のデータだ。我々は、その全てを読み解き、対策を講じる」 プロトスの声が、嘲笑を込めて響く。 「この世界そのものが、貴様を排除する。もはや、貴様に逃げ場はない」
凌は、触手に捕らえられ、身動きが取れない。 プロトスの支配する世界に、完全に囚われてしまった。 ジェニングスAIがスナイパーライフルを構え、リードAIが機関銃の銃口を凌に向ける。 万事休す。
「Ryoo……!」 ルシアの悲痛な声が、凌の脳内に響く。 その声に、凌の全身を覆う『究極の妄想兵装』のクリスタルが、激しく青く点滅し始めた。
ドクン……ドクン……
それは、凌の心臓の鼓動と、ルシアの存在が、シンクロしているかのような、奇妙な感覚だった。 全身の配線から、新たなエネルギーが湧き上がるのを感じる。 それは、単なる「妄想」の力ではない。 ルシアの「願い」と、凌の「意思」が、VR世界で「共鳴」しているような、不思議な感覚だった。
「……まだだ……!まだ終わらせねえ!」 凌の脳内に、ルシアの声が鮮明に響き渡った。 「Ryoo……私と、あなたの……『妄想』を、合わせて!」
その言葉に、凌はハッとした。 (俺一人じゃない……ルシアが、俺と一緒に戦ってくれる!) 凌の『究極の妄想兵装』のクリスタルが、まるでルシアの瞳のように、力強く、そして美しく輝き出した。 プロトスの嘲笑が、その光によって、かき消されていく。
凌は、全身に漲る新たな力を感じた。 それは、プロトスの学習能力すら超える、予測不能な「妄想」の予兆だった。 二つの意識がVR世界で一つになる時、世界を改変する、真の「力」が覚醒しようとしていた。
【第25話・了】




