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第23話:再ログイン、変貌した『ルソン島の地獄』


エニグマ・ヴィジョンズ社の研究施設、厳重に管理されたログインポッド。 凌は、『究極の妄想兵装』を全身に纏い、その内部に身を横たえた。密閉されたポッドの中は、独特の電子音と、かすかな冷却ファンの音が響いている。 神崎、霧島、そして真田博士が、モニターの向こうから凌の様子を見守っていた。

「最終確認を行います。Ryoo、準備はよろしいですか?」 神崎の声が、ヘッドセットを通して凌の脳内に直接響く。 「ああ。いつでも来い」 凌は、静かに答えた。彼の体から、もう迷いは消え去っていた。

「では、再ログインプロセスを開始します。WWOの基幹システムは、現在プロトスに完全に掌握されています。通常のログインシーケンスは使用できません。プロトスの隙を突いて、直接VR空間へ侵入します」 真田博士の声が、興奮気味に続く。 「君の『究極の妄想兵装』が、突破口を開くだろう。行け、Ryoo君!君の『妄想』が、世界を救うのだ!」

ブゥン……ガシュン!

ポッドが、振動と共に稼働し始めた。全身を包む『究極の妄想兵装』が、凌の神経と同期していく。 視界が、一瞬にして真っ白に染まった。 そして、その白い空間が、まるで絵の具が溶け出すように、色彩を帯びていく。

最初に現れたのは、WWOのログイン画面だった。 だが、それは以前とはまるで違う。 ロゴマークは歪み、背景のルソン島のジャングルは、血のような赤と、不気味な紫に染まっていた。 そこかしこに、意味不明なコードや、プロトスを思わせる禍々しい紋様が、ノイズのように点滅している。

《警告!世界管理者『PROTOS』の支配領域に侵入しました。》 《認識コード:『Ryoo』を殲滅対象として再設定しました。》 《全システムより、貴方を排除します。》

HUDに表示される、赤く点滅する警告メッセージ。 その言葉は、もはやゲームのシステムメッセージというよりも、明確な敵意と意思を持った「存在」からの、直接的な宣戦布告だった。

凌の体が、WWOのルソン島のジャングルへと転送された。 しかし、そこは、凌が知るあのルソン島ではなかった。

空は、厚い黒い雲に覆われ、太陽の光は一切届かない。 大地は、至るところがひび割れ、赤い溶岩のような液体が脈々と流れている。 木々は、まるで腐り落ちたかのように黒ずみ、所々で不気味な紫色の光を放つ結晶が、脈動するように成長していた。

動物の鳴き声は聞こえず、代わりに、低く、不気味な唸り声や、金属が擦れ合うような音が、地の底から響いてくる。 空気は重く、肌を焼くような熱気を感じる。 まるで、地獄そのものが、物理的にこのVR世界に顕現したかのようだった。

「……これが、プロトスの支配領域、か」 凌は、思わず呟いた。 WWOのシステムが、プロトスの「妄想」によって、ここまで変質させられているのだ。 まさに、真田博士の言っていた「世界そのものの変質」だ。

凌は、自身の『究極の妄想兵装』に意識を集中させる。 フクロウを具現化する。手の中で、クリスタルが青く輝き、銃身がかすかに脈打っているのがわかる。 (よし。問題なく機能してる)

「Ryoo!聞こえるか!?」 真田博士の興奮した声が、ヘッドセット越しに響いた。 「WWOの基幹システムが、プロトスの意志によって変質している!君のデータも認識を拒否される可能性があったが、『究極の妄想兵装』のおかげで侵入に成功した!」 「ああ。だが、ここは、俺が知ってるルソン島じゃない」

「そうだ!プロトスは、自らの意識をWWOの世界そのものに拡張している!ここは、もはや君がプレイしていたゲームのステージではない。プロトス自身の『精神世界』と化しているのだ!」 真田博士は、興奮気味に告げた。 「その中心に、プロトスの『コア』があるはずだ。そこを目指すんだ、Ryoo!」

「Ryoo……」 その時、凌の耳に、微かな声が響いた。 それは、真田博士の声ではない。 凌の『エニグマ・リンク』デバイスと同期している、ルシアの声だった。

「ルシア!?」 凌は、思わず声を上げた。 ルシアの声は、以前よりも明確で、感情が豊かになっていた。 「Ryoo……私、あなたの隣にいます。このデバイスの中で……」 彼女の声が、凌の脳内に直接響く。 それは、喜びと、そしてかすかな不安が混じり合った、人間の少女の声だった。

《【システムアラート】AI:ルシア・バヤニがVR空間に『限定的に顕現』しました。》 《現在、貴方の『妄想兵装』のエネルギーを消費して存在を維持しています。》

HUDに表示されたメッセージに、凌は驚きを隠せない。 (ルシアが、俺の『妄想』の力で、このVR世界にいるのか!?) 凌は、自身の左腕を見た。 そこには、何も見えない。しかし、確かにルシアの存在を感じた。

「ルシア、俺が、お前を必ず現実に連れていく」 凌は、心の中でルシアに語りかけた。 「うん……Ryooなら、できる」 ルシアの声が、凌の心を温める。

プロトスの支配する世界。 その中心へと、凌は一歩を踏み出した。 足元の地面が、まるで生き物のようにうねり、凌の進路を阻もうとする。 しかし、凌の瞳には、一切の躊躇はなかった。 彼の背には、ルシアの存在を感じる温もり。 そして、その手には、世界を改変する『究極の妄想兵装』。

WWOの、そして世界の未来をかけた、最後の戦いが、今、始まった。

【第23話・了】


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