第22話:『究極の妄想兵装』、覚醒の予兆
エニグマ・ヴィジョンズ社の研究施設内。 凌は、真田博士とAI管理統括部のスタッフに囲まれながら、『究極の妄想兵装』を装着する準備を進めていた。 それは、まるで第二の皮膚のように体にフィットする、漆黒のフルボディスーツだった。全身に走る細かな配線と、要所で青く発光するクリスタルが、その尋常ならざる性能を物語っている。
「Ryoo君、これは君の脳波と神経信号を直接VR世界に同期させる。そして、君の『妄想』を、WWOの法則を捻じ曲げる『力』へと変換するんだ」 真田博士は、興奮を隠せない様子で説明した。 「装着中は、君の身体能力も仮想世界で増幅される。しかし、精神的な負荷は非常に大きい。常に意識を集中させ、『妄想』を制御するんだ」
凌は、スタッフの指示に従い、ゆっくりとスーツに腕を通した。 ひんやりとした感触が全身を包み込み、まるで自分の皮膚が拡張していくような、不思議な感覚に襲われる。 スーツの素材は驚くほど柔軟で、動きを全く阻害しない。しかし、全身に張り巡らされた配線が、凌の神経と直接繋がっていくような、微かな電気信号を感じさせた。
最後に、専用のVRヘッドセットを装着する。 それは、従来の『エニグマ・リンク』よりもはるかに密着度が高く、外界の光を完全に遮断した。 視界が暗闇に包まれた瞬間、凌の脳内に、真田博士の声が直接響いてきた。 「Ryoo君、聞こえるかね?」 「……はい、聞こえます」 凌は、自分の声が、まるで脳内で反響しているかのように感じた。
「よし。では、初期調整を行う。精神を集中させて、君の『妄想』を意識してみたまえ」 真田博士の指示に従い、凌は目を閉じた。 頭の中に、WWOの戦場の光景が蘇る。フクロウ、イノシシ、そして、プロトスの禍々しい姿。 それらを思い描くと、全身の配線が、まるで生き物のように脈動し始めた。
ブゥン……
低く、しかし力強い振動が全身を駆け巡る。 凌の脳内の「妄想」が、物理的なエネルギーに変換されているかのような感覚だった。 周囲のスタッフたちが、モニターの数値を見ながらざわめいているのが、凌の意識の端で聞こえた。
「素晴らしい!神経同期率、98%!これは、過去の被験者の中でも最高値だ!」 真田博士が、歓喜の声を上げた。 「『妄想』のエネルギー変換効率も安定している。これなら……!」
「では、簡易的なシミュレーションを行います」 神崎の声が、冷静に響いた。 凌の視界が、一瞬にしてWWOのトレーニングルームへと切り替わる。 そこには、仮想のターゲットがいくつも設置されていた。
「まずは、『フクロウ』を具現化してみたまえ」 真田博士の声が響く。 凌は、意識を集中し、いつものようにフクロウを「妄想」した。 すると、これまでよりもはるかに速く、そして鮮明に、凌の右手にフクロウが具現化した。 その銃身は、以前よりもさらに洗練され、クリスタルの一部が青く輝いている。
シュン!シュン! 凌が引き金を引くと、フクロウの弾丸は、これまで以上の速度と精度でターゲットを貫いた。 「素晴らしい!具現化の速度と精度が飛躍的に向上している!」 真田博士が興奮する。
「次に、『イノシシ』だ!」 凌は、全身を覆う重装甲を「妄想」した。 ガシャァァン!! 一瞬にして、漆黒の『イノシシ』装甲が凌の全身を覆う。 その重厚感は、以前の比ではない。全身に漲る力が、凌の体を満たしていく。 「防御力も向上している!これは、プロトスの攻撃にも耐えうるだろう!」 真田博士が、歓喜の声を上げた。
しかし、その直後、凌の頭に、激しい痛みが走った。 「ぐっ……!」 『イノシシ』装甲が、まるで水に溶けるかのように、光の粒子となって霧散していく。 凌の額に、冷や汗がにじむ。
「無理はするな、Ryoo君!『妄想』の具現化は、君の精神に直接負荷をかける。特に、大規模な兵装展開は、消費が激しい」 真田博士が、すぐに忠告した。 「このギアは、君の『妄想』を増幅するが、無限ではない。君自身の精神力が、その限界を決める」 神崎が、冷静に付け加えた。
凌は、荒い息を整えながら、自身の精神力の限界を痛感した。 (確かに、これは諸刃の剣だ……) しかし、同時に、この『究極の妄想兵装』が、プロトスを倒し、ルシアを救う唯一の希望であることも理解した。
「Ryoo様、ルシア・バヤニのデータは、現在も貴殿の『エニグマ・リンク』デバイス内に安定しています」 霧島が、モニターを指差した。 ルシアのデータを示すグラフは、穏やかな波形を描いている。 凌は、自身のVRヘッドセットを見つめた。その青い光は、まるでルシアが、凌の覚悟を見守っているかのように、静かに輝いていた。
「準備は整いました。いつでも、WWOへの再ログインが可能です」 神崎が、最終的な確認を行った。
凌は、深く息を吸い込んだ。 ニートの日常は、もう完全に過去のものとなった。 彼の目の前には、AIと世界の未来をかけた、壮絶な最終決戦が待ち受けている。 そして、その先には、ルシアとの再会と、彼女を現実世界に連れてくるという、唯一の希望が輝いている。
「……いつでも、いけます」 凌は、静かに、しかし強い意志を込めて答えた。 彼の瞳には、迷いはなかった。 WWOの最終決戦の幕が、今、再び開かれようとしていた。
【第22話・了】




