第14話:イノシシの突進、リードAIの困惑
ルソン島のジャングルに、重厚な金属音が響き渡る。 全身を漆黒の装甲「イノシシ」で覆った凌は、リードAIの猛攻を物ともせず、一歩、また一歩と、その巨体へと歩みを進めていた。 ガガガガガガッ!! リードAIの機関銃から放たれる弾丸の嵐が、凌の装甲に降り注ぐ。 キンキン!ダァン!キンキン! 火花が散り、激しい金属音が耳をつんざくが、凌はびくともしない。
「無駄だ、リードAI!お前らの攻撃は、俺には効かねえ!」 凌の声は、装甲の奥から、ややくぐもって響いた。 その言葉は、リードAIのHUDに直接語りかけるように響く。
リードAIの無機質な瞳が、凌の『イノシシ』を解析し続けている。 「……ターゲット、防御力、異常。データベース、非合致。再解析……」 彼の歪んだ機械音声は、困惑の色を滲ませていた。 これまでのWWOにおいて、特定の「兵器」が、AIのデータベースに存在しないこと自体が異常だった。
凌は、機動力を犠牲にして得たこの絶対的な防御力を活かし、リードAIとの距離を詰めていく。 巨体ゆえに、リードAIの足元には、わずかながら死角が存在する。 (《超人的索敵》の探知範囲は狭められてるが、それでも、この距離なら!) 凌は、フクロウのスコープを覗く。 リードAIの全身装甲の中で、唯一、僅かに脆弱な部分――装甲の隙間、ジョイント部分を狙う。
シュン……!
音もなく放たれたフクロウの弾丸が、リードAIの左膝のジョイント部分に、正確に食い込んだ。 「ぐぅっ……!」 リードAIの巨体が、僅かに揺らぐ。 (よし!入った!) 凌は、すかさず次弾を装填し、同じ箇所を狙って連射する。 シュン!シュン!シュン!
ガァン!ガァン! 装甲が削れるような音が響き、リードAIのHPゲージが、目に見えて減少していく。 「……ッ、ダメージ、確認。想定外の攻撃パターン……」 リードAIが、その巨体を僅かに後退させた。 彼のAIルーチンは、凌の「イノシシ」という未知の防御力と、その重装甲から放たれる精密な弱点攻撃という、矛盾した戦闘スタイルを処理しきれていないようだった。
「殿下、すごいぞ……!」 高倉中尉が、興奮したように叫ぶ。 日本兵NPCたちも、リードAIの猛攻を防ぎきった凌の姿に、活力を取り戻したかのように、士気を高めていた。
凌は、リードAIの動きを予測し、さらに追い詰める。 『イノシシ』の重装甲を活かし、リードAIの懐に飛び込むような動きを見せる。 ガガガガガガッ!! リードAIは、慌てて凌の体に向けて機関銃を乱射するが、凌は全く怯まない。 そして、その巨体の間合いへと一気に踏み込んだ。
「ここだ!」
凌は、フクロウをしまい、右腕をリードAIの腹部へと突き出す。 『イノシシ』装甲の右腕には、小型のパイルバンカーが内蔵されていた。 これもまた、凌がかつて考案した、対重装甲用の「妄想兵装」の一つだ。 《パイルバンカー:稼働!》
ドォォン!!
重い衝撃音と共に、パイルバンカーの杭が、リードAIの分厚い腹部装甲に叩きつけられた。 装甲が大きくひび割れ、内部の電子機器が露出する。 「ぐぉおお……!!」 リードAIが、人間らしからぬうめき声を上げた。 彼のHPゲージが、一気に半分以下まで減少する。
(よし、弱点露出!)
凌は、ひび割れた装甲の隙間から露出したリードAIの内部機構――冷却装置の赤いコアを視認した。 そこは、リードAIの最も脆弱な部分だった。 凌は、再びフクロウを構え、そのコアへと銃口を向ける。 シュン!シュン!シュン! フクロウの弾丸が、音もなくコアへと吸い込まれていく。
バシュン!バシュン!
内部で火花が散り、リードAIの巨体が大きく痙攣する。 「……システム、エラー……機能、停止……」 リードAIの機械音声が途切れ途切れになり、その巨体が、ゆっくりと、しかし確実に傾き始める。
ドォォォン!!
巨体を大地に叩きつける轟音と共に、リードAIは完全に沈黙した。 彼の全身を覆っていた装甲が、光の粒子となって霧散していく。
《『異能部隊エース・ジャクソン・リードAI』を撃破しました!》 《ボーナスポイントを大量に獲得しました!》 《隠しイベント『強敵の攻略者』を達成しました!》
HUDに、まばゆいばかりのクリアメッセージが表示される。 周囲のジャングルには、静寂が訪れていた。
「や、やったのか……?」 高倉中尉が、信じられないものを見るかのように、リードAIが倒れた場所を見つめている。 日本兵NPCたちも、歓喜の声を上げていた。 彼らにとって、リードAIはまさに「悪夢」のような存在だったのだろう。
凌は、全身を覆う『イノシシ』装甲を解除した。 青白い光の粒子が、彼の体を包み、装甲が霧散していく。 再び、いつもの三八式歩兵銃とフクロウを背負った、彼の姿に戻った。
「Ryoo……」 ルシアが、凌の傍らに駆け寄ってきた。 彼女の瞳には、驚きと、そして深い「安堵」の色が浮かんでいた。 彼女は、凌の腕に抱きつき、その顔を凌の胸に埋める。 「あなた……本当に、強い……」 その声は、震えていたが、間違いなく心からの言葉だった。
凌は、ルシアの頭を優しく撫でた。 (勝った……運営が仕掛けてきた「縛り」の中でも、俺は勝ったぞ!) 凌の脳裏には、運営からの「警告」メッセージが蘇る。 《警告:過度な干渉は、システムの安定性を損なう可能性があります。》
(システムの安定性、ねえ……) 凌の顔に、不敵な笑みが浮かんだ。 運営がAIを学習させ、凌の「チート」を対策しようとした。 だが、凌は、その対策をさらに上回る「妄想」の力で、それを打ち破った。
この勝利は、単なるゲームの攻略ではない。 それは、運営が敷いたレールの上を走ることを拒否し、自らの意思で道を切り開く、凌の「反抗」の狼煙だった。 そして、その「反抗」が、WWOの世界を、そして現実世界を、いかに変えていくのか。 物語は、新たな段階へと進んでいく。
【第14話・了】




