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第15話:秘密兵器開発施設、そして隠された真実


ジャングルにリードAIの残骸が消え去った後も、部隊の興奮は冷めやらなかった。 高倉中尉は、信じられないものを見るかのように凌を見つめていた。 「殿下……まさか、あのリードAIを……」 彼のAIの顔には、畏敬の念と、そして深い困惑が入り混じっていた。凌の「イノシシ」装甲は、WWOのどのデータベースにも存在しない、完全にイレギュラーな存在だったからだ。

「さあ、いつまでもここにいるわけにはいかないだろう、中尉」 凌は、そう言って部隊の進軍を促した。 腕の中のルシアは、リードAIとの激戦の間、ずっと凌に身を寄せていた。 彼女は、凌の顔を見上げて、小さな声で呟いた。 「Ryoo……あなたは、本当に、強い人……」 その言葉は、凌の脳内で完璧に翻訳され、彼の胸に温かく響いた。

(この子の笑顔と、この信頼のためなら、なんだってやってやるさ)

運営からの《妄想錬成》スキルに対するクールタイム延長や、《超人的索敵》の範囲縮小といった制限は、依然として続いていた。 しかし、凌は、もはやその制限すらも楽しんでいるかのようだった。 (俺の「妄想」は、そんなもんじゃ止まらねえぞ、運営さんよ)

部隊は、リードAIが倒れた場所から、さらに数キロ進んだ。 ジャングルが途切れ、人工的な構造物が姿を現した。 それは、鬱蒼とした木々に隠されるように建てられた、巨大なコンクリート製の施設だった。

「ここか……秘密兵器開発施設、とやら」 高倉中尉が警戒しながら、施設を見上げる。 施設の周囲には、通常の米兵NPCだけでなく、シャドウ・ユニットと思われる兵士が数名、警戒にあたっていた。 (やはり、運営は俺をこの施設に誘導したかったようだな)

凌は、ルシアを安全な物陰に降ろすと、フクロウを構えた。 「高倉中尉、突入します」 「殿下!お待ちを!敵の配置が不明です!」 高倉中尉が慌てて呼び止めるが、凌は既に動き出していた。

縮小された《超人的索敵》で、施設の入り口付近の敵配置を把握する。 そして、フクロウの消音機能と《弾道先読み》を駆使し、音もなく敵を排除していく。 「シュン……シュン……!」 影のように現れては、瞬く間に消えていく凌の姿に、シャドウ・ユニットは為す術もなかった。

施設内部は、薄暗く、金属の匂いが充満していた。 通路には、研究員らしきNPCや、警備の兵士が巡回している。 凌は、彼らを無力化しながら、施設の中枢へと進んでいく。 高倉中尉と日本兵部隊も、凌の後に続き、施設を制圧していく。

やがて、凌は施設の最奥部と思しき、巨大な研究室にたどり着いた。 そこは、ガラス張りの部屋で、中央には巨大なカプセルが鎮座していた。 カプセルの中には、何かの液体が満たされており、その液体の中に、巨大な影が浮かんでいた。

(……あれは、まさか)

凌は、カプセルの中に浮かぶ影を見て、息を呑んだ。 それは、明らかに人間ではない。 巨大な四肢と、禍々しい角。全身には、見る者を不威にさせるような、悍ましい筋肉が隆起している。 まるで、地獄の悪魔が、液体の中に閉じ込められているかのようだった。

《警告!最終兵器『プロトス(未完成体)』を起動準備中!》

HUDに、これまでのどんな警告よりも強く、赤く点滅するメッセージが表示された。 「プロトス……!?」 凌は、その名前に聞き覚えがあった。 WWOの都市伝説として、一部のプレイヤーの間で囁かれていた「最終ボス」の名前だ。 しかし、それはあくまで噂であり、実際にゲーム内に実装されているとは誰も思っていなかった。

その時、研究室の奥から、複数の人影が現れた。 彼らは、白衣を纏った研究員NPCと、武装したシャドウ・ユニットだった。 そして、その先頭には、見慣れた二つの影があった。

「Ryoo……ようやく会えたな」 無機質で、しかしどこか満足げな声が響いた。 ジェニングスAIと、ジャクソン・リードAI。 先ほどの戦いで撤退したはずの彼らが、損傷一つなく、そこに立っていたのだ。

「貴様ら……なぜ、ここに」 凌が尋ねると、ジェニングスAIが無機質な声で答えた。 「我々は、お前をここに誘き出すための、単なる『観測者』に過ぎない。お前の行動パターンを解析し、この『プロトス』を完成させるための、な」

リードAIが、その巨体から威圧的なオーラを放ちながら、凌のHUDに直接語りかける。 「貴様の『妄想』の力は、我々のAIを覚醒させた。そして、その覚醒したAIが、今、この『プロトス』を起動させようとしているのだ」

凌は、彼らの言葉に戦慄した。 (俺のチートが、AIの進化に貢献している……運営のメールは、そういう意味だったのか!?) (そして、この『プロトス』は、その進化の『最終形態』だとでも言うのか!?)

ジェニングスAIが、カプセルの横にあるコントロールパネルに手を伸ばす。 「Ryoo。お前は、我々の『進化』を加速させた。感謝する。だが、ここからは、我々が主導権を握る」

ピッ!

ジェニングスAIが、パネルのボタンを押した。 カプセルの中の液体が激しく泡立ち、プロトス(未完成体)の巨体がゆっくりと上昇を始めた。 その肌には、まるで血管のように青い光の筋が走り、禍々しい生命力を感じさせる。

「高倉中尉!施設を破壊しろ!このプロトスを止めろ!」 凌が叫ぶが、高倉中尉と日本兵部隊は、目の前の光景に呆然としていた。 彼らのAIルーチンには、「プロトス」という存在は含まれていない。彼らにとっては、理解不能な「バグ」のような存在なのだ。

凌は、ルシアを抱きかかえ、後退する。 ルシアは、カプセルの中のプロトスを見て、恐怖に震えていた。 「あれは……ダメです、Ryoo!あれは……!」 彼女の瞳には、言葉にできないほどの畏怖と、嫌悪が混じり合っていた。

「心配するな、ルシア。俺が、必ず止めてやる」 凌は、ルシアの頭を優しく撫でた。 彼の心には、怒りと、そして、このゲームの真実を全て暴いてやるという、強い決意が燃え上がっていた。 WWOの物語は、単なる戦争ゲームではなく、AIと人間の、そして「妄想」が現実を侵食していく、壮大な物語へと変貌しようとしていた。

プロトスが、カプセルから完全に姿を現す。 その巨体は、研究室の天井に届くほどだった。 彼の瞳が、赤く光る。 その光は、凌のHUDに直接響き渡るような、強烈な圧力を放っていた。

「『Ryoo』……起動確認。殲滅対象……」

WWOのシステムが、凌を「殲滅対象」として認識した瞬間だった。 AIと人間の最終戦争が、今、始まる。

【第15話・了】



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