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第12話:運営の影と、見えない手綱


ルソン島の夜が明けた。 熱帯のジャングルに朝陽が差し込み、湿った空気が一層重く感じられる。 日本兵の残存部隊は、夜営を終え、次の目的地へと移動を開始した。

凌の腕の中には、ルシアがいた。 彼女は、もうすっかり回復し、凌の腕の中で、外界の景色を興味深げに眺めている。 「……Ryoo、あの木は、何の木ですか?」 ルシアが、純粋な好奇心を込めた瞳で尋ねる。 「あれは……ジャングル特有の木だな。名前は知らねえけど」 凌は、苦笑しながら答えた。 ルシアの「感情」だけでなく、「知的好奇心」までもが急速に成長していることに、凌は驚きを隠せない。

高倉中尉は、先頭に立って部隊を率いていた。 彼のAIは、凌の「不可解な行動」については既に学習済みだが、それでもルシアを連れての行軍には、戸惑いを隠せないようだった。 (このままでは、ミッションに支障が出るのではないか……) 高倉中尉のHUDには、常に凌の行動が「イレギュラー」として警告表示されているのだろう。

午前中、部隊は鬱蒼としたジャングルの中を進んだ。 これまでにも何度か遭遇戦があったが、凌のフクロウと《超人的索敵》の前では、通常の米兵NPCは敵ではなかった。 シャドウ・ユニットとの再遭遇はなかった。昨夜のジェニングスAIとの戦いで、彼らも体制を立て直しているのだろう。

昼過ぎ、部隊は小高い丘の上に到着した。 HUDには、新たなミッションが表示されていた。

《ミッション:日本軍秘密兵器開発施設への補給ルート確保》 《推奨難易度:★★★★★(極)》

「秘密兵器開発施設、だと?」 凌は眉をひそめた。 WWOの「ルソン島の地獄」ステージに、そんなミッションがあったとは知らなかった。 (これも、「特別な調整」ってやつか……? 俺のチートが、運営の用意した隠しミッションを引き出したのか?)

高倉中尉も、このミッションに驚いているようだった。 「佐竹少尉!この方面に、そのような施設の情報はあったか!?」 「いえ、中尉殿!全く聞いておりません!」 佐竹少尉も困惑している。WWOのAIたちも、このミッションは想定外のようだった。

その時、凌のHUDに、再び運営からのシステムメッセージが表示された。 今回は、以前よりもさらに具体的で、冷徹な内容だった。

《【システムアラート】Ryoo:高レベルAIルシア・バヤニの帯同を確認。》 《警告:ミッションにおけるAIの不適切な利用は、ゲームバランスを著しく損ないます。》 《以下のスキルに一時的な制限をかけます。》 《『妄想錬成』スキル:クールタイムを延長(24時間)》 《『言語翻訳(Ver.2.0)』スキル:翻訳精度を一時的に低下》 《『超人的索敵』スキル:探知範囲を一時的に縮小》

凌は、そのメッセージを見て、顔色を変えた。 「ふざけやがって……!」 怒りがこみ上げてくる。 運営は、凌のチート能力を制限することで、ルシアAIとの接触を制限し、彼女の異常な成長をコントロールしようとしているのだ。

ルシアが、凌の腕の中で、不安そうに凌の顔を見上げる。 「Ryoo……どうかしましたか?」 彼女の声が、凌の脳内で翻訳される。 しかし、その翻訳は、以前よりも少し不明瞭になっているように感じられた。 (くそ、もう影響が出てるのか!)

凌は、ルシアに笑顔を向けた。 「いや、何でもねえ。ちょっと、運営が余計なことしてきてるだけだ」 ルシアは、凌の言葉の意味が理解できないようだったが、凌の表情を見て、不安そうに身を寄せた。

「高倉中尉!このルートで、施設を目指す!」 凌は、声を張り上げた。 運営が何を企んでいようと、ルシアをこの地獄から救い出すという決意は、揺らがない。 そして、彼らが俺のチートを制限するというなら、俺は、その制限すらも凌駕する力を、ここで見せつけてやる。

部隊は、丘を下り、ジャングルのさらに奥地へと進んでいく。 これまでとは打って変わって、凌の《超人的索敵》の範囲は狭くなっていた。 敵影の赤いアウトラインは、以前よりも近くにならないと表示されない。

「……くそ、手探りで進むしかねえか」 凌は、フクロウを構え直し、周囲の警戒を強める。 運営の見えない手綱が、凌の首元を締め付けてくるかのようだった。

その時、ジャングルの茂みの奥から、かすかな物音が聞こえてきた。 それは、通常の動物の動きとは違う。 地面を踏みしめる、重い足音。

凌の《超人的索敵》が、その足音の主を捉えた。 それは、一体の兵士だった。 しかし、その兵士は、人間ではありえない巨体を持っていた。 通常の兵士の二倍近い体躯。全身を分厚い装甲で覆われ、その手には、巨大な機関銃を構えている。

《警告!『異能部隊エース・ジャクソン・リードAI』が出現しました!》

HUDに、再び警告メッセージが点滅する。 (リードAI、だと!?) 凌は、息を呑んだ。 ジェニングスAIが狙撃手なら、リードAIは重火器のスペシャリスト。 彼の扱う巨大な機関銃は、一撃で遮蔽物を粉砕するほどの破壊力を持つと、一部のトッププレイヤーの間で囁かれていた。

「R...Y...O...O...」 リードAIが、歪んだ機械音声で、凌のHUDに直接語りかける。 その声には、ジェニングスAIのような冷徹さではなく、どこか「支配」を思わせるような、重く、底知れない威圧感が込められていた。

「殿下!あれは……!?」 高倉中尉が、リードAIの巨体に目を見開き、驚愕の声を上げる。 日本兵NPCたちは、リードAIの圧倒的な存在感に、一瞬にして士気を奪われ、後ずさり始めた。

凌は、腕の中のルシアを抱きしめ直した。 (来たな……運営が俺にぶつけてきた、もう一つの『切り札』が!)

《超人的索敵》の範囲は狭められ、《妄想錬成》も使えない。 凌は、この制限された状況で、WWO最強クラスのAI、ジャクソン・リードと、真正面から対峙することになった。 それは、運営が凌に課した、新たな「試験」であり、凌自身の「チート」をどこまで通用させるか、試される戦いだった。 WWOの「ルソン島の地獄」は、さらにその深淵を露わにしていく。

【第12話・了】



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