15.初めての食事
「こうやって食べるのよ」
魔法使いの背中に竜の爪を引っ掛けて、振り上げた。
人間は宙を舞い、その頭が地に向いた瞬間だった。
母竜は、首を長くして、大きく口を開き、人間を丸呑みにしたのだ。
元人間の私にはショッキングな出来事だ。
「人間はちょっと」
「そお?」
母竜の口には、人間の片足がブラーンと垂れていた。
母竜は首を縦にして、体を上下に揺さぶると、人間の片足は腹の中に納まった。
まるでペリカンの食事風景を見ているようだ。
「おいしいわよー」
いやいや、人間はマズイだろう。私は食べたことないけど味も、道徳的にも。
母竜は人間じゃないし、モラルは守られている?セーフなのかな。
人間だって、様々な生き物を食べるんだ。シイタケ、ブドウ、フグ、カブトムシ
中には、人肉を食べる風習がある民族もいるという。
日本付近の中華な国にも、人肉食の文化があったとか。
孔子は人肉を好んで食べていた、と聞いたことがある。
食べられないことはない。
それにモラルは元世界のものだし、ドラゴンは例外よね。
「私には早いかも」
元人間として遠慮しておいた。
「勇者もらうわね」
母竜は四足で歩き、勇者の前に立ち止まった。
『ドラゴン-パンチ』
『ドラゴン-パンチ』
一発目は多分、胸の左側に向けて。
二発目の後、私の方に何か投げられた。
「うわー」
目の前に片腕が転がった。
「狩りの練習よ。少しだけ噛んでみなさい」
そう言うと、母竜は勇者を振り上げ、ゴックンした。
「ちょっとだけなら」
ううー。私が元人間でなければ、普通の光景だったろうなぁ。
私は生まれ変わったんだ。竜だ。覚悟を決めよう。
メス竜は目を閉じて、首を地面に伸ばし、肉片に甘噛みした。
ゴムのような弾力がある。そして食いちぎった。
もしゃもしゃ。苦い豚肉の味だ。
私はそれを吐き出した。
「唇が赤く染まってるわ。口紅みたいね」
母竜は私のもとに歩み寄ってきた。
「人の肉は苦手かな」
私は、人として何かを失った気がした。
同時に、竜として生きることを再確認した。
「そういえば、まだ名付けてなかったわね」
「確かに」
吾輩は竜である。名前はまだにゃい。
「うーん、何にしよう」
母竜は頭を斜めに上げて、思案顔をした。その期間わずか1秒。
もうちと考えてーや
「そうだ。娘のドラゴン、略してムスードはどうかしら?」
「却下」
「ムスドラは?」
「だめ」
「メスドラは?」
「やだ」
「じゃあ、メドラは?」
「いいかも」
語源はともかく女っぽい名前!
メドラ、私はメドラ。うふふ
「愛しきメドラ、そろそろ帰りましょうか」
「恥ずかしいわ。愛しいなんて///」
私は照れた。デレデレだ。
「帰ったら父竜の使い方を教えるわ」
えーなにその、物みたいな言い方ー




