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第6話 巨大な魔物!ジャイアントキャタピラー

 木々の間から姿を現した巨大な魔物を前に、わたくしは息を呑みました。

 大きい。

 依頼書に書かれていたジャイアントキャタピラーの大きさとは、明らかに違います。


「……これ、本当にジャイアントキャタピラー?」


 少女も驚いたように呟きました。


「聞いていたものより、ずっと大きいです」


 ジャイアントキャタピラーは、こちらを見つめると、大きな身体を揺らしました。

 ズズズ……。


「来ます!」


「分かってる!」


 少女が剣を構え、前へ飛び出します。


「インフェルノブレイズ!」


 炎をまとった剣が、ジャイアントキャタピラーの身体を斬りつけました。

 けれど――。


「……え?」


 ほとんど傷がついていません。


「硬い……!」


 ジャイアントキャタピラーが身体を大きく振りました。


「危ない!」


 少女が咄嗟に飛び退きます。

 地面が大きく揺れました。


「リーネ!」


「はい!」


 わたくしは杖を構えます。


「グラキエス・ブレス!」


 冷気がジャイアントキャタピラーへ向かって放たれます。

 しかし。


「……効いていない?」


 冷気に包まれたはずなのに、ジャイアントキャタピラーは止まりません。


「なら、こっち!」


 少女が再び斬りかかります。


「インフェルノブレイズ!」


 炎が大きく燃え上がります。

 それでも、ジャイアントキャタピラーは怯みません。


「そんな……!」


 少女が悔しそうに声を上げました。


「下がってください!」


 わたくしが叫んだ瞬間、ジャイアントキャタピラーが身体を丸めました。


「何を――」


 次の瞬間。

 巨大な身体が、こちらへ勢いよく転がってきます。


「逃げて!」


 少女の声。

 わたくしたちは左右へ飛び退きました。

 けれど。

 ズガンッ!


「きゃっ!」


 地面が大きく揺れ、わたくしは足を取られました。

 少女がこちらへ駆け寄ります。


「大丈夫です!」


 立ち上がろうとした、そのとき。

 目の前に巨大な影が迫っていました。


「――っ!」


 少女がわたくしの腕を掴み、無理やり引き寄せます。

 その直後、ジャイアントキャタピラーの身体が目の前を通り過ぎました。


「危なかった……」


「ありがとうございます」


「ううん。こっちこそ、助けてもらってばっかりだし」


 少女は剣を握り直しました。


「でも、これ……」


「はい」


 わたくしもジャイアントキャタピラーを見つめます。


「わたくしたちだけでは、厳しいかもしれません」


「……だよね」


 少女が悔しそうに唇を噛みました。

 そのときでした。

 ジャイアントキャタピラーの身体から、黒っぽい魔力が一瞬だけ滲み出しました。


「……今の、見ましたか?」


「うん」


「何でしょう……」


 魔力はすぐに消えてしまいました。

 けれど。

 ただの魔物とは思えない。


「一度、離れましょう!」


「分かった!」


 わたくしたちは森の奥へ走りました。

 ジャイアントキャタピラーは、しばらく追ってきましたが、やがて姿が見えなくなりました。

 



「……はぁ、はぁ……」


 木の陰に身を隠し、わたくしたちは息を整えました。


「逃げ切れたかな」


「おそらく……」


 わたくしは周囲を見回します。


「ですが、依頼はまだ終わっていません」


「うん」


 少女が剣を見つめました。


「私の攻撃、ほとんど効かなかった」


「わたくしの魔法もです」


「普通のジャイアントキャタピラーなら、あんなに硬くないよね」


「……そう聞いています」


 そこで、わたくしはふと気づきました。


「先ほどの魔力……」


「黒いやつ?」


「はい」


「何か分かる?」


「まだ、何とも言えませんが……あれが関係してるかもしれませんね」


「確かに……。でもとりあえず、魔法の攻撃は効かなそうだよね」


「では、慎重に様子を見ながら――」

 

そのとき。

 森の奥から、再び音が聞こえました。

 ズ……ズズ……。


「……!」


「戻ってきた!」


 少女が剣を抜きます。

 わたくしも杖を構えました。

 逃げることも考えました。

 けれど。


「……まだ、戦えます」


「私も!」


 少女が笑いました。


「今度は、もっと上手くやろう!」


「はい!」


 ジャイアントキャタピラーが姿を現します。

 先ほどよりも、さらに速い。


「来ます!」


 少女が走り出します。


「私が引きつける!」


「分かりました!」


 少女が剣を振り、ジャイアントキャタピラーの注意を引きつけます。

 けれど、やはり攻撃はほとんど通りません。

 わたくしは杖を地面へ向けました。

 直接攻撃が効かないのなら。

 動きを止めるのではなく、動きを乱せばいい。


「フローズン・アレイ!」


 冷気が地面を走り、ジャイアントキャタピラーの周囲を凍らせていきます。

 巨体の動きが、ほんの一瞬だけ鈍りました。


「今!」


「任せて!」


 少女が駆け出します。


「はぁぁぁぁぁ!」


 剣が振り下ろされました。

 今度は、先ほどよりも深く身体へ食い込みます。


「効いた!」


 ジャイアントキャタピラーが大きく身体を揺らします。


「もう一度!」


「はい!」


 少女が再び踏み込みます。

 わたくしも、ジャイアントキャタピラーの動きを見つめます。

 正面からでは駄目。

 なら――。


「右です!」


 ジャイアントキャタピラーが身体を振ります。


「分かってる!」


 少女が横へ回り込みます。


「今度は左!」


「了解!」


 わたくしは地面へ冷気を放ち、ジャイアントキャタピラーの進む方向を変えました。

 少女はその隙を逃しません。


「ここだ!」


 剣が、再び振り抜かれます。

 ジャイアントキャタピラーが大きくよろめきました。


「もう少しです!」


「うん!」


 わたくしは魔力を集中させます。

 直接倒すことはできなくても、動きを作ることはできる。

 なら、最後まで支えればいい。


「次で決める!」


「分かりました!」


 ジャイアントキャタピラーがこちらへ向き直ります。

 わたくしは、その進路へ冷気を放ちました。


「フローズン・アレイ!」


 地面が凍り、巨大な身体がわずかに傾きます。


「今です!」


「これで、終わり!」


 少女が一気に駆け込みます。

 炎をまとわせるのではなく、純粋な剣技で。


「バーティカル・セバー!」


 勢いよく剣が振り抜かれました。

 ジャイアントキャタピラーが大きく揺れ、そのまま地面へ倒れ込みます。

 しばらくして、動かなくなりました。


「……倒した?」


「そのようです」


「やった!」


 少女が剣を掲げます。

 わたくしも、思わず息を吐きました。


「……本当に、倒せたのですね」


「うん!」


 少女は嬉しそうに笑いました。

 けれど。

 わたくしは、倒れたジャイアントキャタピラーを見つめました。

 やはり、何かがおかしい。

 身体の一部に、先ほど見た黒い魔力が残っています。


「……これ」


「どうしたの?」


「少しだけ、見ていてください」


 わたくしが近づくと、黒い魔力はゆっくりと地面へ流れていきました。

 そして、その先に。


「……この黒い魔力はなんだろう? なんか知ってる?」


「いえ……一度、ヴェロニカさんに報告したほうがよさそうです」


「うん。私もそう思う」


 それ以上は、何も分かりませんでした。

 ただ。

 この魔物が、ただ強かっただけではないこと。

 それだけは、確かな気がしました。

 ジャイアントキャタピラーを倒した頃には、すっかり日が暮れていました。

 わたくしたちは先ほどの場所へ戻り、もう一度火を起こしました。

 焚き火の前に座ると、昼間の戦いが嘘のように静かです。


「……疲れたね」


「はい」


 少女は干し肉を手に取り、しばらく眺めていました。


「ねえ」


「はい?」


「そういえば、私たちって、お互いの名前知らないよね」


「……そういえば、そうですね」


「私はアネット」


 少女は、にっと笑いました。


「アネット・グレイス。よろしく!」


「……」


 わたくしは少し迷いました。

 本当の名前を名乗るわけにはいきません。


「わたくしは、リーネです」


「リーネ!」


 アネットさんは嬉しそうに名前を呼びました。


「うん。よろしくね、リーネ!」


「……はい。よろしくお願いします、アネットさん」


 名前を呼んだだけなのに。

 不思議と、今までより少しだけ近くなったような気がしました。


「そういえばさ」


「はい?」


「リーネって、髪きれいだよね」


「……え?」


 突然言われて、わたくしは少し戸惑いました。


「銀色っていうのかな。焚き火の光で、ちょっとキラキラしてる」


「そう……でしょうか?」


「うん。それに、目も」


 アネットさんが、じっとわたくしの顔を見ます。


「すごくきれいな色」


「目、ですか?」


「うん。水色に近い青っていうのかな。透き通ってて、なんか印象に残る」


「……ありがとうございます」


 自分の容姿について、改めて言われることなんて、久しぶりでした。


「前も言ったかもしれないけど、私、最初に会ったときから思ってたんだ」


「最初……?」


「ほら、街で荷馬車が暴走したとき」


「ああ……」


 あのときのことを思い出します。


「そのとき、リーネが魔法で荷馬車を止めたでしょ?」


「はい」


「すごいなって思った」


 アネットさんは、少し照れくさそうに笑いました。


「魔法だけじゃなくて、あんな状況でも全然慌ててなかったし」


「……あのときは、必死だっただけです」


「それでもだよ」


 アネットさんは即答しました。


「それに、森で会ったときもすごかった」


「ゴブリンのときですか?」


「うん。あんなに広い範囲に魔法を使える人、私は初めて見た」


「……ありがとうございます」


「だから、また会えたとき、ちょっと嬉しかったんだ」


「……そうだったのですか?」


「うん」


 アネットさんは干し肉を一口かじりました。


「でも、あのときは断られちゃったけどね」


「……申し訳ありません」


「いいって、いいって!」


 アネットさんは笑って手を振ります。


「今なら、断った理由も分かるし」


「……」


「まだ会ったばっかりだったもんね」


「はい」


「でも、今日一緒に戦ってみて、やっぱり思ったんだ」


「何をですか?」


「リーネといると、すごく戦いやすい」


「……そうでしょうか?」


「うん」


 アネットさんは焚き火を見つめました。


「私、世界一の冒険者になりたいんだ」


「前、ギルドで他の方とお話しているのをお聞きしました。」


「ああ!あのときね。その時もそうだったけどさ、そんなこと言うと、笑われるんだ。そんなの無理だって。」


 アネットさんは少しだけ笑いました。


「まあ、そりゃそうだよね。世界一なんて、簡単になれるものじゃないし。まだDランクだし。そもそも何をもって世界一なのか、自分でもわからないし」


「……」


「でもさ」


 アネットさんは顔を上げました。


「例え馬鹿にされたって、そんなの夢物語だって言われたって、そんなのどうでもいいって言えるくらい、私は夢みちゃってるんだ。たぶん」


 その言葉には、昼間までとは違う強さがありました。


「でも、リーネと一緒なら叶えられる気がするんだ」


「……わたくしと?」


「うん」


 アネットさんは笑いました。


「この依頼をこなしていく中で思った」


 そして、アネットさんは急に真顔になりました。


「ねえ、パーティ、組もう?」


 静かな森の中。

 焚き火の音だけが、ぱちりと響きました。

 第6話を読んでいただき、ありがとうございました!

 今回は、リーネとアネットが力を合わせて、巨大なジャイアントキャタピラーを倒しました。そして、お互いの名前を知り、少しずつ二人の距離も近づいてきました。

 次回は、「未来へ続く道」お楽しみに!

 これからもよろしくお願いします


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