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第24話 出立の準備

 ギルドを出たわたくしたちは、宿へ戻る前に、帝都までの旅について情報を集めることにしました。


 受験を認められたとはいえ、帝都までの行き方も、どれほどの日数がかかるのかも、まだ詳しく分かっていません。このまま何も知らずに出発するわけにはいかないでしょう。


「まずは、移動手段を探さないとね!」


 アネットさんは、さっそく近くを歩いていた商人らしき男性に声をかけました。


「すみません! 帝都まで行きたいんですけど、ここからだとどうやって行くのがいいですか?」


「帝都かい? それなら、東門の近くにある馬車の発着場を訪ねるといい。帝都へ向かう商人や旅人のために、乗合馬車が出ているはずだ」


「乗合馬車、ですか?」


「ああ。荷物を運ぶ荷馬車に、旅人も一緒に乗せてくれるんだ。乗せてもらう人数や荷物の量にもよるが、歩いていくよりはずっと楽だろうな。ただし、乗せてもらえる日や出発時刻は、御者に確認したほうがいい」


「ありがとうございます!」


 アネットさんは元気よくお礼を言いました。


 男性に教えていただいた場所へ向かうと、街の東門に近い広場に、何台もの馬車が並んでいました。


 大きな木箱や麻袋を積み込んでいる馬車もあれば、商人たちが御者と話し込んでいる馬車もあります。その中に、荷台の上に木の板を敷いただけの、屋根のない荷馬車がありました。


 荷台には、旅の荷物を抱えた人々が何人か座っています。どうやら、あれが乗合馬車のようです。


「わあ、あれに乗って帝都まで行けるんだね!」


「ええ。ですが、まずは御者の方に詳しいお話を伺いましょう」


 わたくしたちは荷馬車のそばにいた男性に声をかけました。


「すみません。こちらの馬車は帝都へ向かうのでしょうか?」


「おう、そうだ。帝都へ荷を届けに行くところだが、旅人も乗せていけるぞ」


「出発はいつになりますか?」


「明後日の朝だな。途中でいくつかの街に立ち寄るから、帝都に着くまでには数日かかる。乗りたいなら、明日までに申し込んでおいてくれ」


「分かりました。ありがとうございます」


 御者の男性は、荷台に積まれた木箱を確認しながら答えてくれました。


 明後日の朝に出発し、帝都までは数日。


 思っていたよりも時間がかかりそうです。けれど、道中で立ち寄る街があるのなら、旅に必要な品を補充することもできるでしょう。


「明後日かぁ。じゃあ、それまでに準備を終わらせないとね!」


 アネットさんは、もう帝都へ向かう自分たちの姿を想像しているのか、楽しそうに笑いました。


「そうですね。食料やポーションも、必要な分をそろえておきましょう。それから、乗合馬車を利用するのであれば、荷物もできるだけまとめておいたほうがよさそうです」


「うん! よーし、準備を頑張ろう!」


アネットさんが伸びをしながら言いました。


「道中にどんな街があるのかも気になるなぁ。せっかくなら、いろんなところを見てみたいし!」


「旅の途中で立ち寄れる場所があるなら、わたくしも興味があります。ですが、今回は試験が目的ですから、寄り道ばかりしてはいられませんよ」


「分かってるって! ちょっとくらいならいいでしょ?」


「そうですね」


 そんなやり取りをしながら歩いていると、通りに面した商店の前で、旅支度を整えた冒険者たちの姿が目に入りました。

 大きな荷物を背負った者もいれば、武器の手入れをしながら仲間と話している者もいます。街の外へ向かう準備をしているのでしょう。


「そういえば、帝都って、どんな場所なんだろうね」


 アネットさんが、通りを眺めながら言いました。


「総合本部があるくらいですから、各地から多くの冒険者が集まる街なのではないでしょうか」


「やっぱり、強い人もいっぱいいるのかな?」


「おそらく。わたくしたちよりも経験豊富な方々も、たくさんいらっしゃるでしょうね」


「うわぁ……! 会ってみたいなぁ。どんな戦い方をするんだろう」


 アネットさんは、想像するだけで楽しいといった様子でした。わたくしも、帝都という場所に興味がないわけではありません。冒険者として活動する中で、知らない土地を訪れることは、自分の世界を広げることにもつながると感じるようになりました。

 今まで知らなかった魔物の生態や、土地ごとに異なる文化。そこに暮らす人々の考え方。そして、自分とは違う道を歩んできた冒険者たち。

 きっと、帝都にも多くの出会いが待っているのでしょう。


「それにしても、Bランクの冒険者って、どれくらい強いんだろうね」


「わたくしたちが想像している以上かもしれませんね」


「うーん……。だったら、なおさら楽しみ!」


「楽しみ、ですか?」


「だって、自分より強い人がいるなら、その人から学べることもいっぱいあるでしょ?」


 アネットさんは、少しも気後れする様子を見せずに言いました。


「もちろん、試験には合格したいよ。でも、それだけじゃなくて、いろんな人と出会って、いろんなことを知って、もっと強くなりたいんだ」


 その言葉を聞いて、わたくしは改めて思いました。アネットさんは、ただ強さだけを求めているわけではないのです。強くなりたいという願いの先には、守りたい人たちがいて、見てみたい世界があって、かなえたい夢がある。

 だからこそ、どんな困難にも前向きに立ち向かえるのでしょう。

 わたくしも、そんな彼女の隣で、少しずつ変わっていきたいと思いました。






 宿に戻ると、わたくしたちはさっそく旅の準備を始めました。

 まずは、それぞれの荷物を確認します。

 着替えや食料、必要な薬品。そして、冒険者として欠かせない装備の点検も必要です。


「リーネ、魔力回復のポーションって、あと何本あったっけ?」


「今、確認しますね」


 わたくしは荷物を開き、ポーションの本数を数えました。


「こちらが三本です。アネットさんの分も合わせれば、もう少し余裕がありますね」


「でも、旅の途中で何があるか分からないもんね。もう少し用意しておいたほうがいいかな?」


「そうですね。帝都までの道中で魔物に遭遇する可能性もありますし、予備を持っておくに越したことはありません」


「よし、じゃあ買い足そう!」


「その前に、ほかの道具も確認しましょう。必要なものを整理してから買いに行ったほうが、無駄がありませんから」


「はーい!」


 アネットさんは元気よく返事をしました。

 その後も、わたくしたちは荷物の中身を一つずつ確かめていきました。

 旅に必要なものをそろえるのは、思っていた以上に手間がかかります。けれど、こうして準備を整えていくと、いよいよ新しい旅が始まるのだという実感が湧いてきました。

 必要な道具を確認し終えたところで、わたくしは机の上に受験用紙を広げました。


「さて……。あとは、これに必要事項を記入しなければなりませんね」


「そうだった! 忘れないうちに書いちゃおう!」


 アネットさんも隣に座り、自分の受験用紙を広げました。

 名前や冒険者登録に関する事項など、記入すべき項目を一つずつ確認していきます。

 思い返せば、冒険者になったばかりの頃は、何をするにも初めてのことばかりで、戸惑うことも多かったものです。わたくしたちは少しは冒険者らしくなれたのかもしれません。


「よし、書けた!」


 アネットさんが、記入を終えた用紙を持ち上げました。


「リーネは?」


「わたくしも、あと少しです。……はい、こちらも終わりました」


 二人で記入漏れがないかを確認し、受験用紙を大切にしまいました。これで、試験を受けるための準備が一つ整いました。

 もちろん、まだ旅の準備は残っています。装備の点検も、道中の確認も必要です。それに、試験に向けて自分たちの戦い方を見直しておくことも大切でしょう。


「ねえ、リーネ」


 アネットさんが、机の上に両手を置いてこちらを見ました。


「帝都に着くまでに、二人で特訓しない?」


「特訓、ですか?」


「うん! せっかく試験を受けられるんだもん。今のうちにできることは、やっておきたいじゃん!」


 アネットさんらしい提案でした。

 わたくしも、同じことを考えていました。


「そうですね。わたくしたちの戦い方を振り返って、改善できるところを探してみましょう」


「例えば?」


「まずは、魔法を使うタイミングでしょうか。わたくしは、状況に応じて適切な魔法を選べるよう、もっと判断力を磨きたいと思っています」


「じゃあ、私は剣の腕をもっと上げる! それから、魔物の動きもちゃんと見られるようになりたいな」


「ええ。お互いに課題を見つけて、少しずつ改善していきましょう」


「うん! 試験までに、今よりもっと強くなろうね!」


 アネットさんは、いつもの明るい笑顔を浮かべました。その笑顔を見ていると、わたくしも自然と前向きな気持ちになれます。

 以前のわたくしは、何かに挑戦する前から、失敗することを恐れていました。自分にできるはずがない。自分には向いていない。そんなふうに考えて、最初から可能性を狭めていたのです。

 けれど、今は違います。

 できるかどうか分からないからこそ、挑戦する意味がある。足りないものがあるのなら、それを知り、補っていけばいいのです。

 そして、わたくしは一人ではありません。

 困ったときには相談できる相棒がいて、互いに支え合いながら前へ進んでいける。それは、わたくしが冒険者になって初めて知った、大切なことでした。


「ねえ、リーネ」


「はい、アネットさん」


「私たち、絶対に合格しようね!」


 アネットさんは、まっすぐにわたくしを見つめました。


「世界一のパーティを目指すんだもん。Bランクくらいで満足してられないよね!」


 その言葉に、わたくしは微笑みました。

 世界一のパーティ。

 それは、アネットさんが自分の夢を語ったとき、わたくしにも一緒に目指そうと提案してくれた目標でした。

 以前のわたくしなら、そんな大きな夢を口にすることなど、きっとできなかったでしょう。

 けれど、今は違います。

 わたくしは自分で冒険者になることを選び、自分で決めた道を歩いています。そして、その隣には、一緒に夢を目指そうと言ってくれた相棒がいるのです。


「ええ。必ず合格しましょう」


「うん!」


 アネットさんは満面の笑みを浮かべました。

 わたくしたちは、帝都への旅立ちに向けて、残りの準備を進めることにしました。

 新たな土地で、どのような出会いが待っているのか。試験では、どのような課題がわたくしたちを待ち受けているのか。

 まだ分からないことばかりです。

 それでも、アネットさんとなら、きっと乗り越えていける。

 そう信じられることが、今のわたくしには何よりも心強く感じられました。

 いつか、本当に世界一のパーティになれたなら。

 そのとき、わたくしたちはどんな景色を見ているのでしょうか。

 まだ想像もつきません。

 けれど、その未来を自分たちの手でつかみ取るために、今できることを一つずつ積み重ねていこうと思います。

 わたくしたちの夢へ向かう、新たな一歩でした。

ここまで読んでいただきありがとうございます!

今回は、帝都への準備をしていましたね。これからまだまだ二人の冒険は続きます!

これからもよろしくお願いします

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