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第11話 死者たちの夜・前編

 カタカタ、カタカタ……。

 不気味な音とともに、森の闇から骸骨の魔物が姿を現しました。


「スケルトン……!」


 エドガーさんが声を上げます。


「下級のアンデッドだ! 数が多いぞ!」


 月明かりに照らされた骨の身体が、こちらへ向かって迫ってきます。


「全員、戦闘態勢!」


 グラントさんの号令が響きました。


「マルセルたち商人は馬車の陰へ! 絶対に前へ出るなよ!」


「分かった! みんな、こっちだ!」


 マルセルさんが商人たちを連れて、馬車の陰へと退避します。

 それを見届けると、グラントさんは剣を構えました。


「ノア、右を頼む! エドガーは後衛の援護だ!」


「了解!」


「分かった!」


 わたくしも魔力を集中させます。

 初めて見るアンデッドの群れ。

 不安はありましたが、今は目の前の敵に集中するしかありません。


「行きます……!」


 わたくしは両手を前にかざしました。


「アイシクルレイン!」


 頭上に氷の槍がいくつも生まれ、スケルトンたちへと降り注ぎます。

 氷の槍は骨の身体を次々と砕き、三体のスケルトンが地面に崩れ落ちました。


「やるじゃないか!」


ノアさんが弓を引き絞ります。


「ライジングアロー!」


 放たれた矢が鋭く飛び、スケルトンの頭蓋骨を貫きました。

 頭を失った身体が、その場に崩れ落ちます。


「この程度なら、問題ないな!」


 グラントさんも剣を振るい、迫ってきたスケルトンを斬り伏せました。エドガーさんは後方から風魔法を放ち、敵の動きを妨げています。わたくしたちは、それぞれの力を生かして戦っていました。

 ところが


「……ん?」


 ノアさんが、ふと足を止めました。

 彼の視線の先で、先ほど頭を砕かれたスケルトンの骨が、カタカタと音を立てています。散らばった骨が、まるで見えない糸に引かれるように動き始めました。


「おい、嘘だろ……!」


 ノアさんが慌てて後ずさります。

 次の瞬間、地面に転がっていた頭蓋骨が跳ね上がり、胴体へと戻りました。そして、スケルトンは何事もなかったかのように立ち上がったのです。


「なっ……! こいつ、復活しやがった!」


 ノアさんはすぐさま弓を構え直しました。


「倒したはずなのに、どうして……!?」


 わたくしも思わず目を見開きました。確かに、今の一撃で頭蓋骨は砕けていたはずです。それなのに、目の前のスケルトンは再び動き出してしまいました。


「おい、何をぼさっとしてる! 来るぞ!」


 グラントさんの声で、わたくしは我に返りました。復活したスケルトンが、ノアさんへ向かって走り出します。


「くそっ!」


 ノアさんは矢を放ち、再び頭蓋骨を砕きました。スケルトンは崩れ落ちます。しかし、今度はノアさんも油断しませんでした。弓を構えたまま、地面に散らばった骨を警戒しています。


「……また動くのか?」


 しばらくの間、骨は動きませんでした。


「……動かない?」


 ノアさんが小さく呟いた、そのとき。

 カタッ。

 骨の一つが、かすかに跳ねました。


「うわっ!」


 ノアさんが飛び退きます。

 散らばっていた骨が、再び集まり始めました。


「やっぱり復活するのかよ!」


「倒しても、また動き出す……?」


 わたくしは、目の前の光景を見つめました。普通の魔物なら、身体を砕けば動けなくなるはずです。けれど、この魔物は違います。骨を壊すだけでは、倒したことにならないのでしょうか。


「だったら、何度でも叩き潰すまでだ!」


 グラントさんが剣を振り抜きます。


「インテンススラッシュ!」


 鋭い斬撃がスケルトンを切り裂き、骨が地面へと散らばりました。


「よし!」


 しかし、安堵したのも束の間。

 またしても、骨が動き始めます。

「どうなってやがる……! いくらアンデッドの一種とはいえ、スケルトンは下級アンデッドだろう!」」


 グラントさんが舌打ちしました。

 その間にも、別のスケルトンたちが迫ってきます。


「リーネ、左!」


「はい!」


 アネットの声に反応し、わたくしは身をひるがえしました。迫る敵の足元へ氷を走らせ、動きを止めます。


「今だよ!」


「ええ!」


 アネットが炎を纏った剣を振るいました。


「インフェルノブレイズ!」


 燃え盛る剣が弧を描き、スケルトンたちをまとめて薙ぎ払います。炎に包まれた骨が音を立てて崩れ、地面に散らばりました。その光景を見て、わたくしは一瞬だけ目を留めました。氷で砕いた骨と、炎に包まれた骨。どちらも地面に崩れ落ちたように見えます。けれど、先ほどから復活しているのは、氷や剣で砕かれたものばかりです。

 まさか……


「リーネ! 考え事してる場合じゃないよ!」


「……っ、すみません!」


 アネットの声に、わたくしは慌てて意識を戦闘へと戻しました。今は、確かめている余裕などありません。わたくしは魔力を練り直し、次の魔法を放ちます。


「アイシクルレイン!」


 氷の槍が降り注ぎ、迫っていたスケルトンたちを砕きました。しかし、敵は減りません。砕けた骨が動き出すたびに、わたくしたちは再び戦わなければならないのです。


「くそっ、きりがないぞ!」


 グラントさんが苛立った声を上げました。


「ノア、そっちはどうだ!」


「次から次へと来る! このままじゃ矢ももたないぞ!」


 ノアさんは新たな矢をつがえながら答えました。エドガーさんも、わたくしたちの後方から風魔法を放ちます。


「エアリアル・バースト!」


 強い風が吹き抜け、迫っていたスケルトンたちを押し戻しました。


「今のうちに、陣形を立て直してください!」


 その声に従い、わたくしたちは一度距離を取りました。わたくしは荒い息を整えながら、周囲を見回します。氷で砕いても、剣で斬っても、また復活する。それならば、復活できない状態にするしかありません。どうすれば、それができるのでしょう。

 そのとき、わたくしの視界に、先ほどアネットさんが炎で倒したスケルトンが入りました。地面に散らばった骨は、ぴくりとも動いていません。対して、わたくしが氷で砕いた骨は、すでに動き始めていました。


「……やはり」


 わたくしは小さく呟きました。

 偶然かもしれません。

 炎で倒したものも、時間が経てば復活する可能性はあります。

 けれど、今はそれに賭けるしかありません。


「アネットさん、少しだけ、時間を稼いでもらえますか!」


「えっ? いいけど、何をするの?」


「確かめたいことがあるのです!」


「分かった! 任せて!」


 アネットさんは剣を構え、わたくしの前へと躍り出ました。


「はあっ!」


 炎を纏った剣が、迫るスケルトンを押し返します。わたくしは地面に散らばった骨へと狙いを定めました。

 もし、考えが正しければ、


「フレイムランス!」


 わたくしの手から、炎の玉が放たれました。炎は骨の集まりを貫き、その周囲を赤く照らします。すると、骨の隙間から、黒い靄のようなものが一瞬だけ立ち上りました。


「……っ!」


 それは炎に触れた途端、揺らめきながら消えていきました。直後、動き始めていた骨が、ぴたりと止まります。

 わたくしは息を呑みました。

 先ほどまで、確かに動いていたのです。

 けれど今は、もう動きません。

 炎が消えたあとも、骨は地面に散らばったままでした。


「……やっぱり」


 まだ確信はありません。

 けれど、これで少なくとも一つ、分かったことがあります。

 骨を砕くだけでは駄目なのです。

 炎で焼くことで、何かが変わる。

 先ほど見えた黒い靄が関係しているのでしょうか。

 考えられることは、いくつもあります。

 それでも、今は一つの可能性を信じるしかありませんでした。


「皆さん! 炎です! 炎で焼けば、復活を防げる可能性があります!」


「炎だと!?」


 グラントさんが、驚いたようにこちらを振り返りました。


「くそっ、俺は炎魔法なんて使えないぞ!」


 ノアさんも、弓を構えたまま顔をしかめます。


「俺もだ! 炎を使えるやつがいるなら、そいつに任せるしかない!」


 彼らの攻撃は強力です。

 けれど、炎を使えなければ、倒したスケルトンを完全に止めることはできません。

 エドガーさんが、苦しそうに顔を上げました。


「僕も炎は得意じゃない……! 風で押し返すことはできるけど、焼き尽くすほどの火力は出せないよ!」


「……そうですか」


 やはり、炎を使える者が中心になって戦うしかないようです。

 わたくしは、自分の魔力が減ってきているのを感じました。

 得意な氷魔法と比べると、炎魔法は消耗が大きいのです。

 このまま一人で戦い続けるのは難しいでしょう。

 けれど、アネットさんがいます。


「アネットさん!」


「うん、分かってる!」


 アネットが再び剣に炎を纏わせます。


「インフェルノブレイズ!」


 炎を帯びた剣がスケルトンたちを薙ぎ払いました。

 わたくしも魔力を集中させます。


「フローズンアレイ!」


 氷の矢がスケルトンたちの足元へと降り注ぎ、動きを封じます。


「今です、アネット!」


「任せて!」


 アネットが炎の剣を振り抜きました。動けなくなったスケルトンたちが、次々と炎に包まれます。骨が崩れ、灰となって地面に散りました。

 エドガーさんも風魔法で敵の動きを妨げ、アネットさんが攻撃できる隙を作ってくれました。また、風魔法は炎を延焼させる役割も果たしました。


「こちらも援護します! 今のうちに、残りを!」


「助かります!」


 グラントさんとノアさんも、炎が届くように敵を引きつけます。わたくしは氷で動きを止め、アネットが炎で焼き尽くす。その連携を繰り返し、少しずつスケルトンの数を減らしていきました。やがて、最後の一体が灰となって崩れ落ちました。


「……終わった、のでしょうか」


 わたくしは荒い息を整えながら、周囲を見回しました。

 あれほど響いていた骨の音は、もう聞こえません。


「はあ……。なんとか片づいたな」


 グラントさんが剣を下ろしました。


「まったく、面倒な相手だったぜ」


 ノアさんも、ようやく弓を下ろします。けれど、わたくしは先ほど見た光景が気になっていました。炎に触れた瞬間、骨の隙間から現れた黒い靄。あれは、ただの煙ではありませんでした。

 まるで、骨を動かしていた何かが、炎によって消されたような


「……いったい、何だったのでしょう」


 小さく呟いた、そのときでした。


「……まだです」


 わたくしは顔を上げました。

 森の奥から、先ほどまでとは違う気配が近づいてきます。

 重い足音。

 鎧が擦れ合うような音。

 そして――

 カシャン。

 暗闇の中から、一体の魔物が姿を現しました。

 全身を古びた鎧で覆った、騎士のような姿。兜の奥には、赤い光が二つ浮かんでいます。


「……ゾンビナイト!」


 エドガーさんが、驚愕の声を上げました。


「中級アンデッドの中でも厄介な相手だ……!」


 グラントさんの顔から、余裕が消えました。ゾンビナイトは、ゆっくりと剣を持ち上げます。

 その鎧の隙間で、黒い何かが一瞬だけ揺らめきました。けれど、次の瞬間には消えてしまいます。


「……あれは……?」


 わたくしが呟いた直後、ゾンビナイトが大きく一歩踏み出しました。

 わたくしたちは、再び武器を構えます。スケルトンとの戦いは終わりました。

 けれど――

 本当の戦いは、ここから始まるのです。

 ここまで読んでくださり、ありがとうございます

 今回は、アイリーンたちがスケルトンの群れと戦いました。そしてようやくスケルトンを倒したと思った矢先、今度はゾンビナイトが出現!果たして、アイリーンたちはこの強敵を乗り越えられるのでしょうか?

次回もぜひ読んでいただけたら嬉しいです

これからもよろしくお願いします


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