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5万円の侍ドリーム

放課後。良太は高橋に連れられ、駅から少し離れた雑居ビルの地下にある「中古・ジャンク武具専門店『錆びた歯車』」を訪れていた。

階段を降りるたびに、地上とは明らかに異なる湿った鉄の匂いと、機械油の香りが鼻を突く。ここは役所が提携している小綺麗なショップとは違い、ベテラン探索者や、金のない駆け出しが夜な夜な集まるマニアックな場所だった。

「四条氏、役所提携の新品ショップはおすすめしません。あそこは保証が手厚い分、中間マージンが酷いですからね。今のあなたに必要なのは、ブランド名ではなく、実戦で『枯れた』一品。使い込まれた武器には、新品にはない信頼性があります」

「なるほどな……。でも、ジャンク品ってすぐ壊れたりしないのか?」

「それを見極めるための『目』ですよ。まあ、僕のデータがあれば外れは引きません」

重い鉄の扉を押し開けると、そこにはカオスな光景が広がっていた。

壁一面に乱雑に掛けられた剣、槍、盾。ドロップ品や中には正体不明の魔物の骨で作られた棍棒まである。店主はカウンターの奥で、無造作に魔石を磨きながら、煙草の煙を燻らせていた。

「いらっしゃい。……坊主、そのツヤツヤの髪でここに来るのは場違いじゃないか?」

店主の野太い声に、良太は思わずキャップを深く被り直した。

(店主さん、そこは触れないでくれ。俺だって昨日からこのツヤと格闘してるんだから……)

「……武器を探しに来ました。昨日、ショートソードが折れたんです」

「スライムか? 初心者がよくやるな。剣は消耗品だが、安物は特に脆いからな」

良太は店内の棚を巡り始めた。まずは使い慣れたショートソードのコーナーを見たが、どうにも手が伸びない。一週間、一層を回り続けてレベル15、筋力25に達した今の自分には、これまでの武器があまりに「棒」に感じられていたのだ。

「ショートソードを買い直すのもいいけど……なんだか、しっくり来ないんだよ」

「それは当然の感覚ですよ、四条氏」

高橋が横から口を挟む。

「あなたは九年間、剣道を叩き込んできた。西洋剣の『重さで叩き斬る』バランスよりも、日本刀のような『軌道で断つ』バランスの方が、今のあなたのステータス、特に俊敏21という数値を最大限に活かせるはずです」

高橋が指差したのは、数振りの「刀」だった。

(刀か……。侍! 抜刀術! 主人公の定番じゃん! これを腰に下げて歩く俺、絶対かっこよくね!?)

 承認欲求が爆発しかけたが、タグの数字を見て一瞬で現実に引き戻された。

「二十万、三十五万……。あ、無理。さよなら、俺の侍ドリーム」

「刀は製造工程に手間がかかりますからね。ダンジョン素材を用いた現代刀は、探索者にとっての憧れですから」

予算は五万円。やはり無謀だったか、と諦めかけたその時。

カウンターの隅、がらくた同然に積まれた錆びた斧の山の下に、一本の刀の柄が突き出しているのが見えた。

良太は吸い寄せられるようにその山へ歩み寄り、埃を払ってそれを引き抜いた。

鞘は傷だらけで、所々塗装が剥げている。

「……おっ、お兄さん。そいつを選ぶのかい?」

店主が煙草を灰皿に押し付け、面白そうに身を乗り出してきた。

「それは『無銘の同田貫どうたぬき』の模造品だ。古い探索者が使っていた代物でね。魔物の骨を混ぜて鍛えてあるんだが、重心が極端に先にある『先重心』の悪癖がある。筋力と技術が両立していない奴が振れば、一発で手首をいわす呪いの剣だよ。だからずっと売れ残ってるんだ」

良太は慎重に刀を抜き放った。

鈍く光る刀身は、標準的な刀よりも心持ち厚く、そして重い。

レベル15。筋力25。俊敏21。

一週間前の自分なら、この重さに振り回されて体勢を崩していただかっただろう。だが、今の良太には、この武骨な重量感が恐ろしいほどしっくりときた。

(……これなら、スライムの爆発でも折れない。俺の今の力……この『積み上げ』たステータスを、全力で受け止めてくれる)

良太は正眼の構えを取る。

店内の空気が一変した。ただの高校生だと思っていた店主の目が、鋭く細められる。

「……ほう。重心を完全に殺しているな。坊主、九年やったっていう剣道、嘘じゃないらしい」

「店主さん。これ、五万円で売ってくれないですか?」

「鞘の修理代を引いて……そうだな。その目利きに免じて、五万ポッキリでいいぞ」

良太は震える手で、財布の中の五万円をカウンターに置いた。一週間、ネズミとスライムを泥臭く狩り続けて得た結晶だ。財布は空になったが、不思議と喪失感はなかった。

店を出ると、街はすっかり夕闇に包まれていた。

高橋が横で、タブレットを操作しながらニヤリと笑う。

「刀、ですか。赤木氏が見たら『時代遅れだ』『そんなのはマンガの読みすぎだ』と鼻で笑うでしょうね。今の主流は、魔力を込めやすい高価なファンタジー武器ですから」

「笑わせておけばいいよ。……あいつが五月に『想像上のステータス』でデビューする頃には、この刀を体の一部にしておきたいんだ」

良太は脇に抱えた刀の重みを噛みしめた。

地味で、古臭くて、誰も見向きもしないジャンク品。

けれど、自分と同じように「積み重ね」と「技術」を必要とするその武器が、今の自分には最高の相棒に思えた。

(よし。……明日は、こいつの初陣だ。楽しみすぎて夜しか眠れん!)

折れた剣の悔しさを塗り替えるような、確かな鋼の重量感。

良太は、明日の一層攻略が待ちきれない自分に気づき、深くキャップを被り直し歩き出した

みんなに読んでもらえるように頑張るぞおお!

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