第十四章 チェリードレス
リサはシャワーを終えてメインルームに向かった。ビ・ニャイが誰かのためにお茶を準備しているのが見えた。
「ビ・ニャイ、温湿布をもらえますか? 生理中で、まだお腹が痛くて」
「はい、お嬢」ビ・ニャイはすぐに台所へ向かった。
リサは濡れた顔を拭き、頭にタオルをぐるぐると巻いた。向かいに座っている人を見ると、チー・ロクがいた。チー・ロクはぎこちなく笑って手を振った。
「おはようございます、リサ先輩……」チー・ロクがぎこちなく挨拶した。
「チ、チー・ロク……いつの間に?」
リサは椅子の背もたれを手で払ってから座った。抱き枕を取ってお腹に押し当てた。
「あ……さっき着いたばかりです……」
しんと静まり返った。リサの視線がテーブルに向いた。アセプの席が空だ。口を開こうとした。
「あ」「あ」
「どうぞ」「どうぞ」
「ぷっ」「ぷっ」
二人の笑いが弾けて部屋に広がった。アセプが廊下から入ってきた。
「あ、リサもういたか。お前に会いに来た人がいるって探してんだ」
「はい、ボス。もう会えました」
リサは目の端に滲んだ涙を拭いた。アセプは微笑んで、二人を残してまた部屋を出ていった。
「それで、チー・ロク」
「ロクでいいですよ、先輩。その方が言いやすいし」
「あ、わかった。ロク、それでどういう経緯でここに来たの?」
「えと……えへん。私、今日はルンと一緒にHQに報告書を出しに行ってて。そこでアセプさんに会ったんです」
ビ・ニャイが部屋に入ってきた。
「失礼します」とゆっくり歩いてリサに湿布を渡した。リサは受け取り、枕を傾けてお腹に湿布を挟み込んだ。
「アセプさんに『今日休み?』って聞かれて」
「なんか馴れ馴れしいな」
「まあそういう方なんですよ、アセプさんは。休みって答えたら、リサ先輩と遊んできなよ~って言われて。最初はルンも一緒だからって断ったんですけど、ルンも行ってきなよって言って」
チー・ロクはグラスを手に取り、少し吹いてから一口飲んだ。
「遊ぶって言っても、ここには遊べるものが何もないし」
「だったら私と一緒に来ませんか? 昨日、パサール・スネン・カミスの近くに新しいカフェがオープンしてたんです」
リサはその名前を聞いてしばらく止まった。チー・ロクが首を傾げた。
「リサ先輩」
「あ……うん、何?」
「嫌だったら別のとこでも全然いいですよ」
「ああ、大丈夫。カフェに行こう。本物のカフェってどんなとこか私も見てみたかったし」
「本物のカフェ?」
「あははっ……なんでもない、忘れて。ここにちょっと待ってて、着替えてくるから」
***
自分の部屋で、リサは服選びに迷っていた。
「どれにしよう……外出用の服がない」
リサはハンガーをずらしていった。黒か灰色しかない。唯一違うのはパジャマだけだった。リサは一歩下がった。すると何かプラスチックの袋が当たる音がした。振り返ると、テーブルの上に服が入ったビニール袋があった。
「誰のだろ?」
部屋を見渡した。確かに自分の部屋だ。リサはその袋の中の服に着替えてみた。白いアクセントが入った赤いドレスだった。体にぴったり合っていた。上の部分がきれいに包み込んで、スカートも歩くのに十分なゆとりがある。
しばらく鏡で自分を見てから、急いでメインルームに向かった。廊下を歩きながら心臓がどきどきした。突然、ヘアゴムが引っ張られた。
「髪きれいじゃん、たまには下ろしてみれば」ザヒラが言った。「あとプロフィールのオンライン表示、消しておきな」
「うん、ありがとう、ザヒラ先輩」
リサが向きを変えて歩こうとすると、お腹の部分を後ろに引っ張られた。
「ドレス着てるのになんでまだウエストベルト?」
「え……何かあった時のために早く……」
「今すぐ外す!」
「わ、わかった、外します」
リサはウエストベルトを外して廊下の机の上に置いた。軽く跳ねながらチー・ロクのところへ向かった。チー・ロクが微笑んで立ち上がった。
「わあ~すごくきれいですよ、リサ先輩」
「そんなことないよ、服が違うだけだって」
「本当のことですよ」
リサが満面の笑みを浮かべてスカートを少し引っ張った。
「そ、そうかな?」
チー・ロクが素早く頷いた。
「リサ」後ろからアセプが呼んだ。
「何ですか、ボス?」
アセプがサイ・ホルスターを投げてきて、自分の太ももを指差した。リサはそれを太ももに巻きつけた。ダガーを一本差し込んだ。アセプの視線が下に向いてからゆっくり上に戻った。
「ちゃんと合ってるじゃねか。スカートも引っかかってない」
「引っかかる? これ、ボスのドレスですか?」
「俺が背が低いからって馬鹿にするな。レイヴンが前に買ったやつだけど、スカートが長すぎて似合わなかったんだよ」
リサはスカートを横に引っ張った。
「レイヴンの服……」
「レイヴン先輩ってドレス着るんですか?」
「ああ、見た目は怖いけど。一人でいる時は普通の女の子だ、あいつは」
リサはチー・ロクとアセプを交互に見た。その会話はそこで終わった。アセプがさっさとチー・ロクとリサを外に追い出したからだ。
***
チー・ロクとリサは街の外れを並んで歩いた。
「ロクはレイヴンを知ってるの?」
「はい、レイヴン先輩はすごく目立つ人ですから。私たちと似た白い髪で、でも私たちのは生まれつきで、実験によるものなんです。レイヴン先輩のはアルビ? アルボ? アルビノ、そうアルビノだと思います」
「アルビノ?」リサは確認のためではなく、本当に知らなかった。
「はい。私たちは生まれつきの実験によるものですけど、レイヴン先輩のは自然なんです。両親がアルビノでなくても」
リサは頭をかいて、まっすぐ前を見た。前方にパサール・スネン・カミスの入口が見えた。リサは少し足を止めて中を覗いた。竹が整然と立ち並び、人々が復元作業をしていた。それでも市場はまだ賑わっていた。
「先輩、もう着きましたよ」
チー・ロクがずっと前に進んでいた。リサは歩きながらまだ市場の中をちらちら見ていた。
カンッ!!
頭に響く音と共に目眩がした。額がずきずきと痛んだ。前を見ると、電柱にぶつかっていたことに気がついた。
「だ、大丈夫ですか、先輩?」
「大丈夫だよ、ロク」
リサは周りを確認した。頭の痛みは引いたが、胸がぎゅっとして、道行く人々の視線が自分に集まっているのを感じた。
***
ドアベルが鳴り、甘い香りがすぐにリサの鼻をくすぐった。リサは店内を見渡した。かわいいコンセプトのカフェだった。ピンク系の色調に、あちこちにキャラクターの飾り。ショーケースにはいろんなケーキが並んでいてリサの目を引きつけた。チー・ロクがリサの手を引いてショーケースの前へ連れていった。
「リサ先輩、ケーキ買いますか?」
「いらっしゃいませ。本日はいちごチーズケーキの新メニューがございます。ブラックチョコケーキは本日プロモ中で……」
レジ係が次々とメニューを読み上げた。リサの耳には呪文のように聞こえた。リサはただ黙ってレジ係に頷き続けた。
チー・ロクが一歩下がってリサに囁いた。
「リサ先輩、どのケーキが好みですか?」
「え……わからない、種類が多すぎて」
「お好みに合わせてご提案もできますよ。甘いのがお好みでしたら……」
レジ係がまた口を開いた。リサは視線を逸らした。左耳から入って右耳にそのまま抜けていった。
リサは首を振って、ショーケースに集中した。黒いスポンジに小さな穴が開いていてチェリーが乗っているケーキを指差した。
「こ、これだけください」
「ブラック・ソフトフォレストですね。一つでよろしいですか?」
リサが頷いた。頭が重くなっていた。
「私はストロベリークリームチーズを一つ」チー・ロクが割り込んだ。
「かしこまりました。ブラック・ソフトフォレスト一つとストロベリークリームチーズ一つですね。他にはよろしいですか?」
「以上です」
チー・ロクは手を返して腕時計をスキャナーにかざした。「ピッ」という音が鳴った。レジ係が頷いた。
「チー・ロク様のお名前で承りました。どうぞお座りください。お持ちします。少々お待ちくださいませ」レジ係はレシートをチー・ロクに渡して、両手を合わせた。
「ありがとうございます」チー・ロクはまだレジのコンピューターをぼんやり見ているリサの手を引いた。
窓際の席に座った。チー・ロクがリサの向かいに腰を下ろした。
「ふう……ロクって頭いいね。レジの人が言ってること全部わかったの?」
「全然です。聞かずに自分が食べたいのを選んで、後は言い終わるまで待っただけです」
「あ、なるほど……」
リサとロク、仲良くなれそうですね。
これからしばらくは、少し違う雰囲気でお届けします。お楽しみに!
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また次話でお会いしましょう~!




