第十二章 暗く、血に染まり、心が痛む
リサは強く両ダガーを押し返した。手が後ろへ弾かれた。マンティスが後ろへ跳び、暗闇に溶けていった。リサは目を閉じ、耳を研ぎ澄ませた。左からざわざわとした音が聞こえた。さっきより静かだ。
リサは体を後ろへ引いた。マンティスが飛び出してすり抜けた。リサは目を開けた。右の脚節が弱く向かってくる。右のダガーで受け止めた。マンティスが左の脚節を頭の上から高く引き上げ、素早くリサへと振り下ろした。
リサは後ろへ跳び、両肘を大きく後ろへ振った。マンティスが跳び上がりリサを右足で踏みつけようとした。リサは素早く両ダガーをクロスさせてマンティスの足を挟み込んだ。歯を食いしばり、両手を力の限り押し出した。
「ラアァァッ!!」
マンティスの叫びにざわざわという音が混じり、それが小さくなって固い物が落ちる音がした。液体の音はしなかった。リサは前に踏み出した。固い物がゆっくりと消えていった。
リサが突進した。体を低くして右のダガーを斜めに引いた。マンティスは左へ体を傾け、左のダガーを右の脚節で受け止めた。左の脚節の振りを右のダガーが弱く押し返した。リサの頭上をかすめて通り過ぎる。マンティスは右の脚節を引き戻し、リサの後頭部を挟もうとした。
リサはしゃがんだ。目の前にマンティスの右足が向かってくるのが見えた。リサは両手をクロスさせた。腕に鋭い痛みが走ると同時に押し返した。
ダガーを地面に刺して滑りを止め、すぐに引き抜いた。ざわざわした音が上から来た。
リサは左へ強く打った。力の限り。
横の壁を強く蹴って右へ転がった。地面が激しく揺れた。リサは立ち上がり、前へ思い切り蹴った。左足がマンティスの左足に直撃し、すぐに引いた。左から脚節が振ってきた。左のダガーで受け止める。右足がしっかりと地面を踏みしめた。右のダガーを上向きに回して刃が上になるよう構え、素早く下へ振り下ろしてマンティスの肩口を切り裂いた。
金色の光が走った。すぐに右のダガーを返した。引いてそのまま突き刺した。それが砕けた。左肩に鋭い痛みが走った。左の脚節が肩に突き刺さっていた。リサは左足でマンティスを蹴り飛ばした。脚節が抜けた。続いて背中が熱く擦れた。ぶつかる音が響いた。
「ラアァァッ!!!」
突然、素早い羽ばたきの音が聞こえた。どんどん大きくなっていく。リサは左へ転がった。後ろで地面が激しく揺れた。リサは膝をついたまま後退した。激しい羽ばたき音が響き渡った。脚節が腹と腰を挟み込んで宙に持ち上げた。先端の鋭い部分が皮膚を貫き、熱い液体がにじみ出た。左のダガーを高く上げ、力強く振り下ろしてマンティスの肩を根元から切り離した。マンティスが激しく叫んだ。強い風がリサの顔を叩き、羽ばたき音が遠ざかっていった。
左のダガーで脚節を腹から引き抜き、後退し続けた。背中が何かに当たった。また激しい羽ばたき音が迫ってくる。リサはすぐにかがんで前へ転がった。衝突音が響いた。リサが振り返ってマンティスの体を壁へと押し込んだ。激しく羽ばたき続ける翼を何度も刺し続けた。ついに金色の光が見えて砕けた。
「ラアァァッ!!」
マンティスが自ら壁から体を押し出してリサを地面に引き倒した。体が回転してリサの上に乗った。両の脚節がリサの両肩を挟み込んだ。口が開いていく。リサは頭を引いて頭突きをした。二人とも弾かれた。
頭がくらくらする中、リサはすぐに後ろへ這った。そしてマンティスの頭を思い切り蹴って転がした。リサはその上に乗り、高く右手を上げ、下向きにダガーを構えた。しかし握力が足りなかった。ダガーが落ちた。その隙にマンティスがリサの右腿に噛みついた。リサは左手でマンティスの頭を力の限り殴った。痛みが走ると共に、マンティスの頭に亀裂が入り、裂け目から眩い金色の光が溢れ出した。
地面を引っかく音が激しく響いた。マンティスが自ら体を弾き飛ばしてリサを地面に叩きつけた。リサはそのまま動かなかった。マンティスが近づいてきた。また両肩を脚節で挟み込んだ。口が開いて顔に近づいてくる。
「全力起動」
左のダガーをマンティスの顎から突き上げた。口の中の血が電流の引き金になった。溢れるほどの電流がそのまま頭の中に閉じ込められた。リサは右手で顔を覆った。マンティスの頭が爆発して内部のコアを粉々に砕いた。
光がゆっくりと目に入ってきた。体中の痛みが突然消えた。
「ここ、どこ?」
目の前は空でも森でもなく、広い花畑だった。リサは前に進んで横を覗いた。男と女が話しているのが見えた。胸が締め付けられて熱くなった。
「この人たちは誰?」
「覚えておけ、アリヤ。あいつに近づき続けるなら絶対殺す!」男が低く呟いた。
「誰?」
リサの視界が夜空に変わった。またすぐに変わった。誰かの家の中だった。リサは家の中を歩いた。右手が重い。自分の手を見た。マチェットを持っていた。手が違う。もっと筋張っていた。
「これ、男の体?」
歩くほどに胸が締め付けられていく。ドアを開けた。タオルだけを巻いた男がタバコを吸っていた。リサの顔が熱くなった。頭が沸き立つようだった。
「ウィス? なんでマチェットなんか持って――」アリヤが慌てて立ち上がった。
間に合わなかった。リサはマチェットをアリヤの首へと振り下ろした。血が視界を真っ赤に染めた。二度、三度。リサは咳き込み、視界が空へと戻った。
「これが輸血?」
リサはゆっくりとダガーを持ち上げた。
視界がアリヤの横たわる体に戻った。
「いやああああっ!!!」
女の甲高い悲鳴が部屋に響き渡った。
女はタオルだけを身につけていた。
「リナ、お前はアリヤと浮気をした。しかも俺のべっどで」
リサはリナに向かってマチェットを突きつけた。
「ウィスヌ、マチェットを下ろして。わ、私たちには何もなかった」
リナは両手を上げてウィスヌとの距離を保ちながら後退した。
頭に熱が満ちていく。リサはリナを蹴りつけてマチェットを振り上げた。また視界が空に戻った。
「うっ……い、嫌だ、もう見たくない!!」
リサが歯を食いしばった。唇が濡れてべたついていた。目が腫れていた。リサは電流がまだ走るダガーを引き抜いた。
「戻るな⁉」
リサは強く歯を食いしばった。ダガーを自分の喉に当てて切りつけた。電流が全身を駆け抜けた。体が激しく震えて跳ね上がった。首にダガーが感じられなくなった。視界が歪んで空が消えていった。暗闇が全身を包んだ。
暗い空がまばゆい白い光に変わった。清潔な白い天井だった。
***
「知ってる天井だ」
リサは横を見ると、インフィニット・ファミリー全員が待っていた。
「リサ!」「リサ姉!」ザヒラとコイが同時に言った。
「リサ、大丈夫?」「お姉ちゃん大丈夫?」
リサはまだ力が入らなかった。二人の顔を交互に見た。
アセプの手が二つの頭を掴んで後ろへ引いた。
「休ませな、起きたばかりんだよ」
「ボ、ボス? ここ、病院?」
「そう。退院したばかりなのにまた入院。保険があってよかった」
リサは力なくため息をついて、枕に頭を戻した。
「でも本当に、くるってるだね、お前」アセプがくすくす笑った。
「え? どういう意味ですか、ボス?」
「普通の人なら死んだはず。あんな強い電流を喉に当たったら」
デニスが椅子からぼそっと言った。リサのダガーを丁寧に拭いていた。
「し、死ぬ?」
リサは喉をさすった。鋭い痛みに手が止まった。
「そりゃ常識だ!」
「ウス、ここは病院だよ。大声出さないように」ベータがデニスの肩をぽんと叩いた。
「だってこいつがば――」
「新人が一人で変態種を倒すなんて、しかもマンティスだなんてさ。こんな奇跡、最後に聞いたのはいつだったかな、ベータ?」口元に小さな笑みが浮かんでいた。
「いつだろうな。ベータも忘れたよ」ベータも微笑んだ。
コイが自分の胸をぽんぽんと叩いた。
「僕、僕も一人で戦って勝ったことある」
コイが空中にパンチを繰り出した。
アセプはコイの頭をなでた。
「そうだな、コイもマンティスに一人で勝てるよ」
コイの頭がアセプの手の動きに合わせてゆらゆらした。
「えへへ」
「マンティスって本当に強かったんですか、ボス? へ、へんたいしゅ……変態種?」
「まあ、デニスが捕まってたら確実に死ぬ。はははっ」
デニスがアセプの背中を足で蹴った。アセプが少し前に押された。
「変態種の中では、マンティスが一番弱い部類だよ」
「一番弱い?」
読んでいて息ができましたか?
戦闘から輸血まで……書いてる私も少し疲れました。リサ、本当によく頑張った。
拙い部分もあると思いますが、「面白かった」「ここが気になった」「このキャラ好き/嫌い」など、なんでもいいのでコメントもらえると泣いて喜びます。感想が励みになるので、ぜひ気軽に残していってください!
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また次話でお会いしましょう~!




