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銛、 広大無辺の大地より  作者: あま
間幕
48/49

密輸

 想定した1.6倍くらい長くなってしまった…

 何事も無く休憩を取り、移動を再開した討伐隊。順調に階層を下っていく。戦闘は片手で数えることができるほどしかしていない。想定よりも速く、下層にたどり着きそうだ。しかし、それに討伐隊全体が違和感を感じている。


 口に出したのはミルだった。

「敵が少なすぎませんか?」

続いてバリスも同じ疑問を挙げる。

「普通、強力な魔物が湧いたらほかの階層に逃げるモンスターでこのあたりの階層は、溢れかえってるはずだ。上の階層は接敵数が多めだったが、下層で数回は少なすぎる。」

エリルが自身の見解を述べる。

「想定よりも隻腕が強大で、付近の魔物が狩り尽くされたのかしら。」

 エリルの言葉にパーティ全体の顔が険しくなる。

「──今、深刻に考えてもそう意味はありません。進みましょう。」

 そうして討伐隊は更に迷宮の奥へと進む。


───────────────────────


 先行していた討伐パーティはカオスな状況に直面していた。リーダーであるドールはパーティ全員が混乱している中で指示を出す。

「バリスは記録パーティに討伐パーティに追いつくように通達して下さい。ミルは推定隻腕と思われる個体を確認して下さい。エリルは周囲の警戒をお願いします。あとミルはそこに倒れている男の身柄を確保するためのロープを出して下さい。」

 指示を受けて混乱しながらも、全員が動き出す。ドールは少し離れた位置にある宝箱に歩いて近づき、観察を始める。

「吹き飛んでいますが、ただの宝箱でしょうか。偶々近くにあった宝箱が何らかの攻撃によって壊れた?」

 ドールはボロボロの宝箱の中身を少し覗く。そうして、この宝箱の元々の正体に気づく。

「──ピンク色の粘液。まさか、偽宝箱(ミミック)。危険度で言えば、イオニア迷宮の難易度の数段上でようやく相手になる魔物。」


「リーダーさん。ロープ出しましたよ。」

 ミルが後ろから話しかけてくる。

「そちらに行きますので置いておいてください。」


 歩いてロープを取りに行き、そのまま倒れている男のところまでいく。

「タグは─無いですね。」

 男の姿を観察してみる。よく見てみると赤黒く染まった服は、そのような配色で作られた服ではなく、酸化して黒くなった血で染められた服だった。しかも服の一部は引き裂かれたような跡があった。

「これは───隻腕から攻撃を受けた痕跡でしょうか?しかし、攻撃を受けたであろう部位にはダメージを受けた跡すらないというのは─。」

 観察しながらも手を止めず、手早く足を縛った後、両手を後ろに回して縛ろうと、仰向けに倒れた身体をうつ伏せにさせる。

「!」

 背中全体が血に漬けこんだけように真っ赤になっている。返り血ではこうはならない。


 そうしているうちに、走る音が聞こえてくる。足音は3人。姿を見せたのはバリスと記録チームの中年の男2人。記録パーティの一人が質問する。

「これは、発見時のままの状況ですか?」

正体不明の男の手足を縛ったドールは立ち上がりながら回答する。

「ええ、あそこにいる男の手足を縛った以外のところは動かしていません。ミルが───推定隻腕と思われる個体の横に立っている彼です───個体の識別をしているので、記録パーティの方はそちらに合流してください。」

「分かりました」


 ドールは男の観察に戻る。倒れた男の近くに落ちていた武器を拾いあげる。

(ランス)でしょうか。後でバリスやエリルあたりに聞けばわかることです。回収しておきましょう。」

 鉄の塊である武器を平然と持ち上げる。


「ドール。確認終わったみたいよ。」

 見張りをしていたエリルが肩に手を置く。

「分かりました、すぐ行きます。」


───────────────────────

 「確認したところ隻腕で間違いありません。死因は失血死です。」

「失血死?」

「ええ、足に刺さった石の棘からの長期的な出血が確認されました。止血されなかったのは食事に問題があり、胃袋の内容物に少量の老齢個体亡者喰らい(レッドローチ)が確認されました。」

 亡者喰らい(レッドローチ)は雑食性で尚且つ強力な耐毒性をもっている。そのため身体に様々な毒を溜め込み、食性によって蓄積毒となる。特に老齢個体は様々な毒性を持ち、麻痺毒や神経毒などの症状を同時に発症することもある。隻腕は運悪く止血を抑制する毒を持った個体を食べてしまったのだろう。

「なるほど、運が悪かったってことか。」

 話を聞いていたバリスが総括して言う。


 ここまでは大きな問題はない。しかしここからが面倒な問題なのだ。ドールが話始める。

「恐らく隻腕の討伐者である彼ですが、タグがありませんでした。」

 討伐隊全体に衝撃が走る。タグとは探索者を識別する文字の書かれた金属の板のことだ。タグを持っていないということはギルドに加入していないということで、イオニア迷宮の入場にはギルドタグがいる。これが示すのは、正体不明の男が不法侵入か、はたまた伝説的な存在の迷宮出身の人間であるかになる。

 衝撃の情報を受け取った記録パーティの男の一人がおどおどしながらも話す。

「もし不法侵入ならばギルドの迷宮の管理方法に疑念が生まれます。発生(スポーン)ならば管理方法に問題はないですが、今度は希少な例として研究機関への引き渡しが必要になるでしょう。更にいえば討伐者がこの男だった場合、討伐依頼自体の問題もありますので、いかにしても面倒事が起きます。それはギルド側にとって好ましくないことです。」

 続けて彼は更に衝撃的な提案をする。

「ですので、この男を『居なかった人間』にするのはどうでしょうか。」

 瞬時に顔の見えないエリルを除いた討伐パーティの顔が険しくなる。不利を悟ったのか続けて、彼は討伐パーティへ「無かったこと」にするメリットを並べる。

「今回の討伐依頼はギルド側の招集ですので、評価値も非常に高いです!今回の一件だけでも4級探索者パーティ一歩手前!ここでこの男を生かしておいたら、面倒事で貴方たちの探索者稼業を停止せざる負えなくなります。」


 討伐パーティの顔は険しいままだ。リーダーとしてドールはそれを丁重に断る。

「その提案はお断りさせてもらいます。」

 明確な拒否を受けたが、記録パーティの男は尚も食い下がる。

「しかし、その男は明らかに邪魔です!今ここにいる誰にとっても、バレたら不都合な存在なのです!ここは迷宮です!殺しても証拠なんて一切残らない。」

 更にまくし立てて

「ここでこの男を生かしてもです!不法侵入ならば前科がつきます。迷宮のある都市では間違いなく住めなくなり、この年で犯罪者になれば生活も苦しいの一言では言い表せない苦難を背負うことになる。発生(スポーン)ならばどんな実験に使われるかも分かりません。この男は生きたところでここでの出来事が明るみに出たら生きたまま死ぬような苦しみを背負うことになる!だから───」


「落ち着いて下さい。私もそのような誰にとっても不幸な展開を作る気はありません。」

 凛とした態度でドールは言い放った。

「だったらどうやって───」

「明るみに出さなければ良いんですよ。」

「──え?」

「ギルド側からしても不都合な事実をバラす必要はありませんし、こちら側(討伐パーティとして)も同じです。」

「しかし、迷宮から出た際にバレる可能性は十分にあります。」

「背中の部分が血だらけですので、動けなくしておけば、近くで呼吸や体温を確認されない限り死体にしか見えません。死体に擬態させて運びだします。ミルさん、万が一起きた時のために消音の轡をしておいて下さい。」


 記録パーティの男は納得しきれてはいない様子だが、もう一人の方の男が条件をつけて受け入れた。

「分かりました。こちら側から情報を漏らすことはしないと誓います。ただし、もし男のことが露見しても、ギルドの関与を話さない。これで契約しましょう。契約の魔導紙(スクロール)を用意するので少しお待ち下さい。」

「分かりました。」


 待ち時間の間にミルは轡をつけて、縛りあげ、背負う。ドールはバリスとエリルに拾った武器について尋ねた。

「恐らく武器と思われる物を、先ほど男の側で拾いました。この武器について何かわかることはありますか?」


 近接使いの2人は話し合いながら考察していく。

「一見、(ランス)ぽいが、先端に返しがついてる。金属の製錬もそこまで上手くいってない。一般的な帝国製武器ではないな。」

「かといって神聖国とも違うわね。神聖国は魔法と剣の両立ができてるから長物で中距離戦に拘る必要がないし。」

「返しがある刺突武器といえばあそこあたりか?中央大陸の────」

「獣王国周辺ね」

「でも獣人が使うにしては()()がなさ過ぎる。しかもあの国は武器の輸出入が禁止されてる。」

「一応、外国に技術を持ち込んで作った模造品という可能性もないことは無いと思うけどね…」

「模造品にしては品質が高すぎるな。もっと違う文化圏の武器に感じる。」


 2人の議論を聞いていたドールは困惑した表情で聞く。

「その───結論は?」

それに対して2人は揃って

「分からん。」

「分かりません。」

と答える。

付け加えてバリスが言う。

「今知ってる文化圏では絞り込めないな。特徴から、肯定できる要素と否定できる要素で半々だ。」

「成る程、男が起きる前に出自は絞りこめそうにはありませんか。」


 「契約の用意ができました。皆さん集まって下さい。」

記録パーティの男が討伐隊全員に話しかけ、全員が集まる。

「契約の文面は既に記入しているので、パーティリーダーの方に確認して署名をいただいた後、契約の魔導紙(スクロール)に全員の魔素を流し込んでください。それで契約は結ばれます。」

 ドールが文面を確認して、署名した。その後、討伐隊のそれぞれが紙の上に手を置き、魔素を流し込んだ。全員が流し終わるとスクロールは形が崩れ、灰になり消えていった


 少しの沈黙が流れた。それを断ち切って、ドールは宣言する。

「帰路につきましょう。」



 この日、一人と一柱が帝国に入国した。


ようやっと次の章に入ります。2年間の迷宮編も終わりです。これからもよろしくお願いします。

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